平成29年度(2017年度)は、助成金の分野で、特に大きな改革がされ、新たな助成金の新設や、これまであった助成金の要件が改正されました。
これにより、助成金を受給するにあたって、注意しておかなければならないポイントが変化するとともに、会社の労働環境を良くしたいと考える会社にとっては、助成金利用によりますます多くの受給をすることが可能です。
そこで、平成29年度(2017年)に改革が行われた助成金の受給方法とポイントについて、企業法務を得意とする弁護士が解説します。
目次
1. 平成29年度雇用関係助成金のポイント
まず最初に、今年度に大改革が行われた、雇用関係助成金について、まとめておきます。その背景には、「同一労働同一賃金」、「残業代の上限規制」などを内容とする「働き方改革」の政策があります。
助成金の整理、統廃合が行われた上、新たな要件が追加されたことによって、助成金を申請し、受給を受けるためには、より慎重な対応が必要であり、社労士や弁護士などの協力が必要となります。
職場環境の改善、従業員の待遇の向上を狙う会社経営者は、ぜひ助成金の受給を検討してください。
1.1. 助成金の統廃合
これまで、厚生労働省の管轄する助成金は、36種類あり、更にその中でも、細分化されていました。
平成29年度の統廃合によって、16種類にまとめられ、似たような目的のものや、あまり活用されていなかった助成金がなくなり、より助成金を理解しやすくなりました。
1.2. 新たな要件の追加
平成29年度(2017年度)の助成金の改正では、「生産性要件」という新たな要件が追加されました。
これにより、会社経営者は、「生産性要件」を満たすことによって、助成金額、助成率を上げるかどうか、という新たな検討のポイントが生まれ、より戦略的に助成金を受給できるようになりました。
2. 「生産性要件」とは?
一部の助成金に「生産性要件」が設定され、この要件を満たす場合には、助成金が割増されることとなりました。
そこで、「生産性要件」を満たすことができるかが、助成金をより多く受給するポイントとなります。そこで、「生産性要件」についての基礎知識を、弁護士が解説します。
2.1. 生産性要件の具体的内容
「生産性要件」とは、直近の会計年度における「生産性」が伸びていることをいいます。具体的には、「生産性」は、次の計算方法で計算されます。
生産性=(営業利益∔人件費∔減価償却費∔動産・不動産賃借料∔租税公課)/雇用保険被保険者数
以上の計算式で計算された「生産性」について次の要件を満たすと、「生産性要件」を満たしたこととなり、助成金額が割増されます。
助成金の支給申請等を行う直近の会計年度における「生産性」が、
- その3年前に比べて6%以上伸びていること
- その3年前に比べて1%以上6%未満伸びていること(金融機関から一定の「事業性評価」を得ていること
または
2.2. 「事業性評価」とは?
以上のことから、「生産性要件」を満たすためには、「生産性」の伸びが6%未満であっても、「事業性評価」を得ればよいという別の要件があるということです。
「事業性評価」とは、都道府県労働局が、会社の事業の成長を、金融機関に照会して回答をもらい、その回答を参考にして「期待できるかどうか。」を判断するというものです。
「事業性評価」の要件を満たすためには、助成金申請の際に、「承諾書」を提出し、金融機関からの照会を受けることとなります。
なお、「生産性要件」の算定対象となる期間に、会社都合の退職者がいないことが必要です。
3. 平成29年度(2017年度)オススメ助成金まとめ
平成29年度(2017年度)に助成金についての大改革が行われたことを理解していただいた上で、今年度に受給をすることがオススメな助成金について、改正内容とともにまとめていきます。
3.1. キャリアアップ助成金
平成28年度(2016年度)にも存在した「キャリアアップ助成金」は、平成29年度(2017年度)も残っていますが、よりメニューが細分化され、コースが新設されました。
「キャリアアップ助成金」とは、有期契約社員を正社員にしたり、社員の待遇を向上したりすることによって受給することができる助成金で、メニューごとにその要件と受給額が異なります。
3.1.1. 正社員化コース
正社員化コースは、有期契約の社員を無期雇用としたり、派遣労働者を直接雇用したりする際に、支給される「キャリアアップ助成金」のコースです。
平成29年度(2017年度の改正では、多様な正社員への転換コースが廃止されました。
中小企業 | 母子・父子加算 | |
---|---|---|
有期雇用→正規雇用 | 57万円(生産性要件を満たすと72万円) | 9.5万円(生産性要件を満たすと12万円) |
有期雇用→無期雇用 | 28.5万円(生産性要件を満たすと36万円) | 14.75万円(生産性要件を満たすと6万円) |
無期雇用→正規雇用 | 28.5万円(生産性要件を満たすと36万円) | 14.75万円(生産性要件を満たすと6万円) |
3.1.2. 人材育成コース
「人材育成コース」とは、有期契約労働者等に対して職業訓練を行った会社に対して支給される「キャリアアップ助成金」のコースをいいます。
人材育成コースには、「一般職業訓練」「有期実習型訓練」「中長期キャリア形成訓練」の3つの分類があります。
また、OFF-JTについての賃金助成と、OJTの訓練実施助成にわかれ、それぞれ、1人1時間あたりの助成金額が定められています。
3.1.3. 健康診断制度コース
「健康診断制度コース」とは、有期契約労働者等を対象とする、法律に定められていない健康診断(いわゆる「法定外診断」)の制度を作り、のべ4人以上の労働者に実施したときに受給できる「キャリアアップ助成金」のコースをいいます。
労働者の健康管理を実現したこのコースの要件を満たしたとき、助成金額は次のとおりです。
- 1事業所当たり38万円(生産性要件を満たすと48万円)
3.1.4. 賃金規程等共通化コース
「賃金規程等共通化コース」とは、有期契約労働者に対して、正規労働者と共通の職務などに応じた賃金規程を新たに作成したときに受給することができる「キャリアアップ助成金」のコースをいいます。
有期契約労働者の処遇改善が目的であり、その助成金額は次のとおりです。「働き方改革」でいわれる「同一労働同一賃金」への布石となります。
- 1事業所当たり57万円(生産性要件を満たすと72万円)
3.1.5. 諸手当制度共通化コース
「諸手当制度共通化コース」とは、有期契約労働者に対して、正規労働者と共通の諸手当の制度を新設したときに支給される「キャリアアップ助成金」のコースをいいます。
有期契約労働者の処遇改善を目的として、「同一労働同一賃金」へ進むための助成金です。
- 1事業所当たり38万円(生産性要件を満たすと48万円)
3.2. 職場意識改善助成金
職場意識改善助成金は、平成28年度(2016年度)の補正予算によって、「働き方改革」の一環として新設された助成金で、今年度も申請することができる助成金です。
従業員(社員)のワークライフバランスを実現するために勤務間インターバルを導入することによって、取り組みを実施するのに要した経費のうち4分の3が助成金として支給されます。
職場意識改善助成金を受給するためには、「勤務官インターバル」を採用したことがわかるような就業規則を作成、変更する必要があります。
3.3. 人事評価改善等助成金
会社にしっかりとした人事制度がない会社では、人事評価制度を新設することで賃金アップ、離職率の低下を目指すことが考えられます。
このような、人材不足解消のための人事評価制度の新設の際に支給されるのが「人事評価改善等助成金」です。
人事評価改善等助成金で支給される金額は、「制度整備助成」と、さらにその目標を達成したときの「目標達成助成」に分かれています。
制度整備助成 | 50万円 |
目標達成助成 | 80万円 |
4. まとめ
今回は、平成29年度(2017年度)も多くの受給が期待できる、「雇用関係助成金」について、弁護士が解説しました。
助成金を有効に活用することによって、企業の成長に必要な人事制度、人材定着を実現するための資金を確保することができます。
助成金の申請をお考えの会社経営者の方は、企業法務を得意とする弁護士に、お気軽に法律相談ください。