最近、「健康経営」が注目を集めています。
長時間労働による従業員のメンタルヘルス、過労死や過労自殺など、ブラック企業が社員の健康、生命を害した事件が社会問題化しています。
このような社内の健康、安全の問題を起こしてしまった会社、経営者が、「ブラック」というレッテルを貼られ、企業イメージの低下による悪影響を受ける一方、健康対策に力を入れることが、会社の評価につながります。
社員の健康、安全対策を徹底し、より強化することにより、企業イメージが向上し、ひいては、会社の経営、売上にも良い影響を与えるというわけです。
今回は、注目される「健康経営」を国が推進するために作られた、「健康経営優良法人認定制度」について、企業の労働問題を得意とする弁護士が解説します。
目次
1. 健康経営とは?
最近注目を集めている「健康経営」とは、「健康」を会社の「コスト」ではなく「投資」と考えて企業経営を行う考え方です。
会社経営において「従業員の健康」というと、長時間労働、メンタルヘルス、過労死などの問題が起こってしまうと、多額の慰謝料、損害賠償を請求されかねないリスクであるととらえ、対策を行うべきものとされてきました。
「健康経営」では、「従業員の健康」に投資をすることによって、企業イメージを向上させることから、経営に直結するものであると考えます。
健康管理、増進に取り組むことによって、従業員の士気向上、生産性のアップ、企業イメージ・プランド価値の向上につながります。
2. 健康経営を国が推進する制度
今回解説する「健康経営優良法人認定制度」は、以上で説明したような「健康経営」を積極的に進める会社を、国が応援するための制度です。
長時間労働や職場のストレスによって労働者の健康が害されている昨今において、国もまた、積極的に健康経営を推進していることは、次のような制度からも明らかです。
- 健康経営銘柄(経済産業省・東京証券取引所)
- 健康企業宣言(協会けんぽ東京支部)
- 安全衛生優良企業公表制度(厚生労働省)
そして、今回解説する「健康経営優良法人認定制度」も、このような「健康経営」を推進する取り組みの1つです。
3. 「健康経営優良法人認定制度」とは?
「健康経営優良法人認定制度」は、経済産業省が主導して、健康経営に積極的に取り組む大企業や中小企業などの法人を「優良法人」と認定し、表彰する制度です。
3.1. 制度の目的
「健康経営」に取り組むといっても、社内の取り組みは、なかなか社外には伝わらないものです。
そこで、積極的に「健康経営」を推進する優良な法人を表彰し、社会的な評価を向上させるための取り組みです。
社内外からの評価を向上させることで、大企業や中小企業に、「健康経営」に積極的に投資をしてもらいやすい流れをつくることができます。
3.2. 表彰されるメリット
「健康経営優良法人」という表彰を受け、「健康経営」を推進していることが評価されることによって、次のようなメリットがあります。
- 従業員に「健康経営」についての会社の方針が伝わり、士気、業務効率が向上する。
- 求職者に、従業員への会社の配慮が伝わり、有能な人材を採用することができる。
- 取引先などの関係企業に、「従業員の健康」についてのリスクの少ない会社であることが伝わる。
- 投資家、金融機関に「健康経営」についての会社の方針が伝わり、融資、出資を受けやすくなる。
- 国、公共団体に「健康経営」の施策が評価され、入札、指名を受けやすくなる。
大企業にかぎられず、中小企業も「健康経営優良法人」の認定の対象となっています。
平成29年2月21日には、平成29年度の認定法人として、大規模法人部門235法人、中小規模法人部門95法人が認定を受けました。
4. 制度認定の基準は?
中小企業に対する「健康経営優良法人制度」の認定基準は、次の事項を中心に、14の評価項目によって評価されています。
健康経営銘柄の評価基準など、類似の制度を参考にしてつくられています。
4.1. 経営理念
「経営理念」についての評価基準として、まずは会社のトップである経営者(社長)が、「健康経営」への意識を高め、自覚を持って行動をしなければなりません。
健康宣言の社内外への発信や、経営者自身の健康診断の受診などが、「健康経営」を推進する経営理念として評価されます。
4.2. 組織づくり
「健康経営」を会社一丸となって進めるためには、経営者だけが「健康経営」を叫ぶだけでは意味がありません。
組織として進めるためには、会社内の健康づくり担当者を設置し、「健康経営」についての組織作りを進めることが評価されます。
4.3. 制度・施策実行
経営者の理念と、その下に構築された組織によって、会社内に「健康経営」の制度を作り、施策を実行していくことが評価されます。
法律で義務化されている「定期健康診断」、「ストレスチェック」を、すべての労働者のきちんと受けてもらうことで、従業員の健康状態を、適切に把握する必要があります。
4.4. 評価・改善
「健康経営」を進めるためには、会社内の取り組みだけでは不十分といわざるをえません。
産業医、協力医など、社外の専門家とも連携し、健康診断やストレスチェックなどで把握した従業員の状態にあわせ、改善を進めていくことが評価されます。
4.5. 法令遵守
会社内で、労働者の健康、生命を侵害しないようにするためには、労働問題についての重要な法律、裁判例を守る必要があります。
特に、労働者の最低限度の労働条件を定める、労働基準法、労働安全衛生法などの強行法規を遵守できないようでは、「健康経営」はままなりません。
5. まとめ
今回は、最近注目を集める「健康経営」を進めるにあたって、積極的に取り組んでいきたい「健康経営優良法人認定制度」について、弁護士が解説しました。
会社内における、労働者の健康、生命の安全、労働環境の向上をお考えの経営者の方は、企業の労働問題を得意とする弁護士に、お気軽に法律相談ください。