個人事業の経営者の多くは、会社の「連帯保証人」になり、金融機関からお金を借ります。そのため、会社が「破産」してしまったとき、経営者も「連帯保証人」として重い責任を負うことがあります。
会社の連帯保証は、通常、個人では払いきれないほど高額で、経営者の方も何らかの債務整理を行う必要があります。会社と一緒に「破産」を選べば債務の負担を免れることが出来ますが、経営者が有するすべての財産を失うこととなります。
しかし、経営者の中には、「ローンはしっかり返すから、マイホームだけは手元に残したい」と考える方がいらっしゃるでしょう。
今回は、そのように考える経営者のために、マイホームを失わないで債務の整理をすることができる「個人再生」の手続きの流れを、企業法務を得意とする弁護士が解説します。
目次
1. 個人再生とは
個人再生とは、支払い不能またはその一歩手前の状況にある個人の負っている債務を、約5分の1程度まで減額してもらう一方で、残りの約5分の1を4年程度で弁済する計画を作成し、それに沿って弁済していくという制度です。
個人再生は、債務の一部を弁済することを前提とする手続きであるため、債務の額(住宅ローンの額は除く)が5000万円以下で、「継続的に又は反復して収入を得る見込みがある」場合にしか利用できません。
2. 個人再生のメリット・デメリット
会社が破産してしまうとき、経営者として「個人破産」を選択することが適切であるかどうかは、次に解説をする「個人破産」のメリット、デメリットを理解して判断しなければなりません。
とはいえ、個人再生のメリット、デメリットを踏まえ、個人再生と破産、任意整理のいずれの方法が適切であるかの判断は、ケースバイケースとなりますので、詳しくは弁護士にご相談ください。
2.1. 個人再生のメリット
破産と違って、債務がすべてなくなるのではなく一部を計画的に弁済しなくてはならない代わりに、自分の手元に財産を残したまま債務の整理を行うことが出来ます。
また、「住宅資金特別条項」という特約を定めることで、住宅ローンについて全額計画的に支払うことを条件に、マイホームを失わないで債務の整理を行うことが出来ます。
2.2. 個人再生のデメリット
個人再生は、債務整理手続きの一つであるため、官報への掲載や、いわゆるブラックリストへの掲載を避けられません。
また、破産と比べて、利用できる場合が限定されているうえに、返済しなくてはならない額が大きくなります。
3. 個人再生の種類
まず、個人再生の手続きを解説するにあたり、個人再生の種類について解説します。個人再生には、大きく分けて、次の2種類があります。
- 小規模個人再生
- 給与所得者等再生
小規模個人再生は、個人再生の原則的な形態で、再生計画を成立させるために、債権者と債権額の過半数の消極的な同意を得なければ行うことが出来ません。
給与所得者等再生は、債権者と債権額の過半数の消極的な同意を得る必要がない一方で、利用できる場合について厳しい制限があります。
給与所得者等再生を行うためには、定期的で、変動の幅が少ない給与を得ている必要があり、さらに可処分所得の2年分を最低でも弁済する必要があります。
4. 個人再生手続きの流れ
続いて、個人再生手続を行うにはどのような手続きをとる必要があるかを解説いたします。
個人再生手続を弁護士に依頼した場合には、ほとんどの手続きは、弁護士が行いますが、経営者の方が手続きを知ることで、よりスムーズに手続きが進めることが出来ます。
4.1. 申立準備
① 弁護士に依頼する
個人再生手続きは、破産よりもさらに複雑な手続きが必要であるため、弁護士に依頼する必要があります。
個人再生手続きを行う裁判所でも弁護士が代理人となることが前提となっています
② 受任通知・債権調査
弁護士が個人再生手続きの申立てを行う代理人に決まると、弁護士は債権者に対して、個人再生手続きの代理人となったことを通知します(これを専門用語で受任通知といいます)。
受任通知を行うと、経営者に対する支払い請求がとまります。
また、弁護士は、経営者の債権者の数やその額を調査します。一部の債権者に対して過払い金が発生している場合は、過払い金返還請求を行うこともあります。
弁護士は、調査結果として債権者一覧表を作成します。
③ 書類作成及び収集
個人再生申し立てを行うにあたり、弁護士は申立書などの必要な書類を作成します。
また、裁判所に個人再生を利用しなくてはならない財産状況か、個人再生を利用できる要件を備えているかを証明するための書類を用意する必要があります。
4.2. 個人再生申立て
弁護士は民事再生申立書、小規模個人再生又は給与所得者再生手続の申立書、住宅資金特別条項についての書類をはじめ、必要な書類を提出します。
裁判所は、個人再生の申立てがあると、個人再生委員を選任します。個人再生委員は、個人再生の進行が適切かを監督する、裁判所が選任する弁護士です。
個人再生委員は再生債権の評価をする場合を除いては、裁判所の裁量によって選任されるため、選任されない場合があります。もっとも東京地方裁判所では全件選任されるという運用が行われています。
4.3. 個人再生委員との面談
個人再生委員は、経営者に対し、個人再生の開始要件を満たしているかどうか確認するため、申立書や疎明資料について質問します。
代理人弁護士がついている場合、弁護士も面談に同席することになります。個人再生委員が選任されない場合は、この面接が行われず、個人再生委員の調査がない分手続きは早く終わることになります。
4.4. 個人再生手続開始決定
裁判所が、個人再生委員の意見などを参考にして、個人再生開始決定の要件が欠けていないと判断すると、開始決定がなされます。
4.5. 履行トレーニング
個人再生手続き開始決定の前後、債務者が計画的に本当に弁済することが出来るかという試験期間が与えられることがあります。
この期間中に履行をすることが出来ない場合は、計画的に弁済することはできないと判断され、個人再生は不認可又は廃止となります。
4.6. 債権届け出・債権調査
弁護士は、経営者自身の代わりに債権者からの債権の存在と額についての届出を管理します。
届けられた債権の存在及び額が実際と異なる場合は、経営者やほかの債権者は異議を申し立てることが出来ます。
4.7. 再生計画案作成・提出・決定
債権の額を明らかにし、減額した後の債権を原則4年で弁済する計画を作成します。
弁済する額は、最低弁済額を上回ると同時に、破産手続を行ったときに行われる配当よりも多くの弁済がなされる計画を立てる必要があります。
最低弁済額とは、個人再生を行う場合に最低限弁済しなくてはならないとされる額で、債務の額によって、その額が異なります。
- 債務の総額が100万円未満⇒全額弁済をする必要がある
- 債務の総額が100万円以上500万円以下⇒総額の5分の1を弁済する必要がある
- 債務の総額が500万円を超え1500万円以下⇒一律300万円弁済する必要がある
- 債務の総額が3000万円を超え5000万円以下⇒総額の10分の1を弁済する必要がある
※債務の総額に住宅ローンは含みません。
小規模個人再生では、作成された再生計画案は、決議に付されることになります。債権者の過半数と、債権者の有する債権の額の過半数が反対しなければ、再生計画案は可決されます。
一方で、給与所得者等再生では、可処分要件を満たした計画案と作成しなければなりませんが、それを満たせば決議を行わずに可決されます。
4.8. 再生計画認可決定
再生計画決定を受けた再生計画については、前に説明した、認可要件を満たしていれば、認可決定を受けることとなります。
4.9. 再生計画認可後の手続
再生計画認可後は、その計画に従って弁済することになります。計画通りに弁済が行わなければ、再生計画が取り消されることになります。
再生計画の変更は、やむを得ない事由がある場合にのみ、債務の期限を最小4年間延長する内容に限り、認められます。
5. まとめ
今回は、個人再生の手続きの流れについて、弁護士がまとめました。個人再生手続きは、複座かつ多量の書類を作成・準備する必要がありますが、弁護士に依頼すればそのほとんどを弁護士に任せることが出来ます。
個人再生は、債務の額が5000万円を超えると利用できなくなるため、早めに申立てる必要があります。
「弁護士に相談するのは最後の手段…」などと考えずに、「いくらの債務を負わなくてはならないのか?」「どういった手段をとることが出来るのか?」という点も含めて、早めに企業法務を得意とする弁護士にご相談ください。