近年、メンタルヘルス対策、残業代、過重労働などの問題が、ニュースを騒がせています。
会社の従業員が、メンタルヘルスにり患してしまったり、果ては、過労死、過労自殺などとなってしまえば、御社の企業イメージは大きく低下します。「ブラック企業」のレッテルを貼られてしまうことでしょう。
会社の経営者として、従業員の健康対策には、より一層気を遣わなければならない情勢となっています。労働者の健康確保の重要性は、ますます高まっています。
この状況を受け、厚生労働省では、「産業医の役割等に関する省令」を改正し、平成29年6月1日に施行されます。
今回は、会社経営に非常に大きな影響を与えうる、従業員の健康対策のうち、今回改正、施行される省令について、企業の労働問題を得意とする弁護士が解説します。
1. 産業医についての省令の経緯
近年、企業内で、労働者が長時間労働を原因として、健康を害する事件が相次いでいます。その中には、生命を失ってしまう重大なものもあります。
この状況を受け、平成28年12月に、「産業医制度の在り方に関する検討会報告書」がまとめられました。
更に、それを受けて、厚生労働省が、平成29年3月、産業医の役割等に関する省令の改正を行い、平成29年6月1日の施行が目前に迫っています。
2. 改正省令で変わる産業医の役割
この改正省令で、産業医の役割がどのように変わるのかについて、次に解説していきます。
改正省令で変わっていく産業医の役割は、会社における労働者の健康対策に、大きな影響を与えます。
直近に重大な改正のあったストレスチェック制度ともあわせて、改正省令への対応を必ず行うようにしましょう。
2.1. 会社から医師への情報提供
会社を経営していると、従業員に対して、一定の要件の下に、「健康診断」を実施しなければならないこととされています。
そして、健康診断は、行っただけではあまり意味がなく、健康診断の結果を、業務の割り振りや社員の配置に反映していくことが、会社の責任となります。
そのため、健康診断の結果、「異常所見」が見られる場合には、次のとおりに進めていきます。
- 医師に対して、意見聴取を行う。
- 医師の意見を参考に、就業上の措置を決める。
今回の改正内容の1つ目は、この医師への意見聴取の際に、医師が意見をいうために必要となる、労働者の業務についての情報を、会社が提供しなければならないこととするものです。
より適切な業務の変更を、医師が指導するためには、会社の業務を、医師がきちんと理解する必要があるためです。
2.2. 長時間労働者について、産業医へ情報提供
今回の改正内容の2つ目は、長時間の労働をしている従業員がいた場合には、その情報を速やかに産業医に提供しなければならないとするものです。
情報提供の対象となる「長時間労働者」は、次の条件にあてはまるものをいいます。
- 毎月1回以上、一定の期日を定めて、休憩時間を除き一週間あたり40時間を超えて労働させた時間が、1か月あたり100時間を超えた労働者
労働時間が長時間となり、いわゆる「残業時間」が100時間を超える場合には、社員本人が申出すれば、会社は、産業医に面談をさせる必要があります。
そのため、この面談のときに、より有効なアドバイスを産業医にしてもらい、労働者のメンタルヘルス、過労死などのトラブルを防ぐための重要な改正であり、対応が必須であると考えてください。
2.3. 産業医の定期巡視の頻度
最後に、今回の改正内容の3つ目は、産業医の定期巡視の頻度の見直しです。
「産業医の定期巡視」とは、少なくとも毎月1回行うこととされている、産業医による作業場等の巡視のことをいいます。
1つ目の改正内容との兼ね合いで、会社から産業医への情報提供がしっかりとされている場合には、巡視頻度を2か月に1回にすることができるというものです。
ただし、産業医が勝手に頻度を下げることはできず、会社の同意が条件となります。
「巡視すること」に意味があるのではなく、労働状況、仕事内容について正しい情報を得ることが目的であり、1つ目の改正の内容である義務によって、それが実現可能となるからです。
3. まとめ
ストレスチェック制度の導入によって、会社は早急な対応を迫られており、このとき力になってくれるのが「産業医」です。
従業員の健康を守ることは、ひいては、御社の経営の向上にもつながります。
そのため、メンタルヘルス、うつ病などの問題が社会問題化する現代、「産業医」の役割はますます重要となっています。
平成29年3月に公表された、「働き方改革実行計画」に盛り込まれた「病気の治療と仕事の両立」でも、「産業医の役割の重要性と機能強化」「産業医の効果的な活動を行いやすい環境整備」がうたわれています。
経営者として、今回の省令改正に適切に対応しましょう。従業員の健康対策にお悩みの経営者の方は、企業の労働問題に強い弁護士に、お気軽にご相談ください。