厚生労働省の発表によれば、障害者の職業紹介の状況は、前年に比べて上昇し、「就職率」、「就職件数」も、ともに上り調子です。
来年の平成30年(2018年)4月から、障害者の「法定雇用率」がさらに引き上げられますから、今後も、障害者の雇用は拡大することが予想されます。特に、人手不足の業界では、障害者雇用の活用を検討すべきです。
従業員を50人以上雇用している会社の経営者は、来年に迫る「法定雇用率」の引上げに、どのように対応するかを、事前に検討しておく必要があります。
今回は、障害者の法定雇用率の引上げ(平成30年4月~)と、障害者の就職状況について、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士が解説します。
目次
1. 会社は障害者を雇用する義務あり!
従業員を50人以上雇用している会社では、従業員全体の一定割合だけ、障害者を雇用することが義務付けられています。
この会社に義務付けられている、「障害者を雇用しなければならない割合」のことを、「法定雇用率」といいます。
1.1. 「法定雇用率」の引上げ(平成30年4月)
平成29年7月現在、民間企業の「法定雇用率」は2.0%とされていますが、厚生労働省は、平成30年(2018年)4月から、この「法定雇用率」を2.3%に引き上げる方針としています。
なお、後ほど解説するとおり、「法定雇用率」の引上げは、算定対象に「精神障害者」が追加されることを受けたもので、単に「法定雇用率」の達成がより難しくなったというだけではないことに注意してください。
1.2. 雇用率の引上げ率は?
では、平成30年4月から、障害者の「法定雇用率」が引き上げられることをご理解いただいた上で、どの程度の引き上げ幅となるのでしょうか。
結論からいうと、民間企業であるか、国、地方公共団体などであるかによって差はあるものの、「0.3%」の引上げ率とお考えください。
法人の種類ごとの、詳しい引上げ率は、次の表をご覧ください。
法人の種類 | 現行 | 引上げ後 |
---|---|---|
民間企業 | 2.0% | 2.3%(当分の間2.2%、三年を経過する日より前に2.3%) |
国、地方公共団体、特殊法人 | 2.3% | 2.6%(当分の間2.5%、三年を経過する日より前に2.6%) |
都道府県等の教育委員会 | 2.2% | 2.5%(当分の間2.4%、三年を経過する日より前に2.5%) |
2. 精神障害者が対象に追加される
平成30年4月から予定されている、「障害者雇用」についてのもう1つの重要な変化が、「精神障害者」の取り扱いです。
これまでは「精神障害者」は、法定雇用率を算定するときに、対象となる「障害者」とはされてきませんでしたが、平成30年4月より、新たに対象に通以下されます。
これにより、算定基礎となる「障害者」には、次の3つが含まれることとなります。
- 身体障害者
- 知的障害者
- 精神障害者
平成30年4月からの、障害者の「法定雇用率」の算定式は、具体的には次のとおりです。
- 法定雇用率 = (身体障碍者、知的障害者及び精神障碍者である常用労働者の数 + 失業している身体障碍者、知的障害者及び精神障碍者の数) ÷ (常用労働者数 + 失業者数)
なお、「障害者」の範囲は、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の所有者であることが必要であり、また、短時間労働者の場合には「0.5人」としてカウントします。
3. 厚労省による「サポーター」養成
厚生労働省では、精神障害者のはたらきやすい労働環境づくりを推進するため、「精神・発達障害者しごとサポーター」の養成をはじめることが発表されました。
民間企業ではたらく従業員に対して、障害についての基本的な知識を理解してもらい、精神障害者、発達障害者の労働環境を向上させることが目的です。
今後は、厚生労働省の開催する、サポーター余生のための障害に関する講習会などが全国で予定されます。
4. 障害者の就職状況は?
平成30年4月からの、障害者の「法定雇用率」、「精神障害者」に関する取扱いの変化をご理解いただいた上で、最後に、現在の障害者の就職をとりまく状況について、まとめてみました。
厚生労働省の発表によれば、障害者雇用は、年々向上している傾向にあり、「法定雇用率」の上昇もまた、この傾向に拍車をかけることが予想されています。
会社側(使用者側)としても、障害者雇用について、到底無視しておくことはできない事態となっています。
4.1. 「障害者」の職業紹介件数
個性労働省の発表によれば、平成28年の障害者の職業紹介件数は、ハローワークを通じたものが平成27年の90191件から、平成28年の93229件と、増加しています。
就職率もまた、微増となっています。
4.2. 「障害者」の就職件数
障害者の就職件数は、「身体障碍者」で、前年より3.8%減少しているものの、「知的障害者」、「精神障害者」、「その他の障害者」の項目ではいずれも前年より増加しています。
また、同時に、障害者の解雇の状況を見ても、平成27年の1448件から、平成28年の1335件へと、減少しています。
解雇の理由として特に多いのは「事業廃止」や「事業縮小」となっており、必ずしも、障害者側の理由による「障害者」の解雇が目立つ状況ではありません。
4.3. 「障害者」の業種別の就職状況
業種別にみると、「医療・福祉」業界における障害者の就職件数が最も多く、全体の35%を占めています。
その次が「製造業」、「卸売業・小売業」となっています。
職業別では、「運搬・清掃・包装等の職業」の割合が最も多く、全体の「34.9%」となっています。
4.4. 「障害者」の地域別の就職件数
都道府県別にみると、大阪府における障害者の就職件数が最も多く、「7017件」、その次が、「東京都」、「愛知県」となっています。
ただ、「就職率」で見ると、「富山県」(71.9%)、「徳島県」(71.0%)、「島根県」(67.2%)が多く、逆に、大阪、東京、愛知では半数にも満たない状況です。
5. まとめ
今回は、平成30年4月から引上げが予定されている、障害者の「法定雇用率」に関する基礎知識と、精神障害者の取り扱いなど、今後の障害者をとりまく労働環境について、弁護士が解説しました。
特に、50人以上の労働者を雇用している会社では、「法定雇用率」の変化と、それに対する対応について、事前検討が必要となります。
会社内の労務管理にお悩みの会社経営者、人事担当者の方は、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士に、お気軽にご相談ください。