「出社しない社員への対応はどのようにするのが法的に適切なのでしょうか。」という法律相談を、顧問先の会社様からよくお受けします。
最近では、「終身雇用」の慣行が崩れ、会社に対する忠誠心が薄れていることから・・・
- 「会社の仕事がつまらない。」
- 「思っていた業務と少し違う。」
- 「上司から口うるさく注意されて煩わしい。」
といった理由で、特に体調などに問題がなくても出社をしてこない社員が問題となるケースが少なくないためです。
上司の世代からすれば、「何となく。」といった理由で出社をしないなど考え難いことでしょうが、実際に多く起こっている労務問題の1つです。
しかし、「出社しない問題社員」への対応を誤ると、会社が大きな損失を被ることにもなりかねません。
日本の労働法制では、解雇権濫用法理によって解雇が制限されているため、闇雲に解雇すると、労働審判、団体交渉、訴訟によって紛争を拡大させる恐れがあるためです。
今回は、無断で出社しない社員に対する法的に適切な対応について、企業法務・人事労務を得意とする弁護士が解説します。
1. 無断で出社をしない問題社員の対応
社員が出社をしてこず、欠勤についての連絡も全くないとき、会社として、どのように対応するのが適切かについて、弁護士が解説します。
無断欠勤が継続する場合であっても、すぐに解雇としてよいわけではありません。
いざ解雇する場合であっても、後で説明する解雇の注意点をきちんと理解して進めてください。
無断欠勤のまま何らの連絡もない場合には、既に労働した分の賃金についても、振込支払の場合には、一旦支払をストップせざるを得ません。
欠勤をした理由によっては、銀行口座の管理事態が怪しくなるためです。
給与が発生しなくても社会保険料が発生してしまうため、社会保険料の労働者負担分の支払についても早めに協議を行う必要があります。
1.1. 【ステップ①】無断欠勤の状況・理由を把握
まず、後に説明する「書式例」のように、書面によって「出社命令」を行ってください。書面によって「出社命令」を行うのは、会社が出社を命令したことを証拠化しておくためです。
「出社命令」をさらに拒否した場合には、やはり無断欠勤扱いにするという、上記と同様のスケジュールで問題ありません。
「出社命令」の際に無断欠勤の理由を問いただした結果、無断欠勤の理由が病気、ケガによるものであった場合には、解雇とするのではなく、労災、休職などの手続によって対応しなければなりません。
1.2. 【ステップ②】社員、関係者への接触
会社からの書面による通知(「出社命令」)によっても、社員から何らの反応も得られない場合であっても、それだけを理由に解雇とすることはお勧めできません。
というのも、解雇は、社員に対して与える不利益の度合いが非常に大きく、事後にトラブルとなる可能性が非常に高いためです。
そのため、できる限り、社員や、そうでなくとも関係者に対して連絡をとる努力をします。
「出社命令」を拒否する社員や関係者に接触するための、具体的な方法は、次の通りです。
- 社員自身の、電話番号、メールなど知り得る限りの連絡先に、上長から何度か連絡をする。
- 直接自宅を訪問する(病気で対応できなかったという可能性もあるため。)。
- 居留守に備え、書置きを残しておく。
- 自宅を訪問した際、電気メーター、ポストなどを確認しておく。
- 身元保証人、緊急連絡先へ連絡をする。
これら全ての対応は、将来、どうしても解雇をせざるを得ないとう状況となったときにも、会社がどれだけ丁寧に確認作業を行っていたかという証明になります。
労働審判や裁判で、解雇などの処分がトラブルとなる場合に備えて、記録に残しながら進めてください。
1.3. 【ステップ③】解雇は最終手段
以上のステップを踏んでも、どうしても解雇扱いとせざるを得ない場合であっても、後で説明する解雇の際の注意点を押さえて、丁寧に進めるようにしてください。
出社をしてこない場合に社員から全く連絡がない場合であっても、内容証明郵便などの郵送の方法だけでなく、一度は自宅を訪問しておく方がリスク回避のためにはよいでしょう。
身元保証書など、入社時に取得した書類から、両親など関係者の連絡先がわかる場合には、そちらにも連絡して接触を試みるようにしてください。
2. 本人が解雇を希望するケースの対応は?
会社に強い忠誠心を持つ人材が減っていることから、何気ない理由で「会社に行くのが面倒になった。」と言い、無断で出社をしなくなる社員が少なくありません。
この種類の社員の中には、出社をうながすと、「解雇扱いとしておいてもらって構わないので。」というように、自ら解雇を希望する無気力な社員もいます。
特に、アルバイト、契約社員などの非正規社員の場合には、「面倒くさがり」の対応が多い傾向にあります。
しかし、「本人が解雇で良いのであればそれでいい。」と考えて安易に解雇扱いとする前に、適切な解雇のやり方を理解してください。
本人が辞めたいのであればあえて引き留めるまでもないように思いますが、事後的に解雇扱いがトラブルとなることを回避するためです。
2.1. 【ステップ①】まずは出社命令
社員が解雇を争っていないとしても、それは今現在の気持ちだけであって、事後的に労働審判、団体交渉、裁判などの方法によって争ってくる社員も多くいます。
今は面倒で、解雇扱いを希望していても、後から、「お金がもらえるのではないか。」といった考えから争いを起こさないとも限りません。
まずは、出社を命令し、その後、勤怠不良についての注意指導を加え、それでもなお出社しない場合には就業規則に基づいて懲戒処分とするというのが、初動対応としては適切です。
重要なのは、注意指導、懲戒処分は書面によって行うことです。特に出社命令や注意指導は、口頭だけで済ませてしまうと、「聞いていない。」「命令を受けていない。」といった社員側の反論を許すことにもなりかねません。
解雇を希望し争わないという意思表示をする社員に対して、出社を命じる書面の文例を示しておきます。念のため、次の【ステップ②】で説明する退職届の同封もしておき、その旨も書面で説明しておきます。
平成__年__月__日より、貴殿は当社に、理由なく出社をしておりません。
貴殿が当社(社員名)に対して伝えたところによれば、貴殿は解雇扱いを希望するとのことですが、当社から貴殿に対する正式な解雇手続きは行っておらず、退職の手続きも終了しておりません。
したがって、貴殿は未だ当社に雇用されていることから、本書面をもって改めて、業務命令として出社を命じます。
自主退職を希望される場合には、同封の退職届に署名押印の上、当社(窓口名)までお送りください。
ご連絡のないまま欠勤を継続する場合には、無断欠勤として然るべき対応を検討せざるを得ないこと、予めご承知おき下さい。
2.2. 【ステップ②】退職届の提出を求める
出社命令をした後、「退職届」への署名を求めるようにしてください。
社員の側から、退職の意思を示しているわけですから、退職届を提出してくれる可能性も高いといえます。
面倒くさがりの社員が、大きな手間をかけずに退職届を提出できるよう、会社側で退職届のフォーマットを作成し、署名押印をするだけの状態にして提示しましょう。
ただ、「解雇扱いとなった方が、失業保険の点で有利である。」といった理由で、解雇扱いとすることを強く要求してくる社員もいます。
この社員の目的は、生活を保障する糧、すなわち「金銭的補償」ですが、ある程度の解決金を支払ってすら、解雇扱いとするよりは合意退職扱いとした方が、事後的なトラブルを回避できる点で有益です。
社員の言うがままに解雇扱いとし、失業保険の点で有利に配慮してあげた上に、労働審判を申し立てられて争われ、多額の解決金を失うのでは、「泣きっ面に蜂」です。
2.3. 【ステップ③】解雇は最終手段
以上のステップを踏んでも、どうしても解雇扱いとせざるを得ないケースもないわけではありません。
出社をしてこない場合に労働者の求めに応じて、解雇扱いとして事後的なトラブルの火種を作るのではなく、【ステップ②】に戻って今一度退職届を提出するよううながしてください。
やむを得ず解雇扱いとする場合は、事後的なトラブルのリスクを少しでも軽減できるよう、次で説明する適切な解雇の手続を踏むようにします。
3. 「解雇扱い」とするときの注意
最終的に「解雇扱い」とするときは、注意すべきポイントが多くあります。
解雇権濫用法理によって、事後的に解雇が「権利濫用として無効である。」と判断されると、最悪のケースでは社員の復職を認めなければならず、話し合いで解決できるとしても、多額の解決金が必要です。
どの時点で上記【ステップ①】~【ステップ②】の対応をあきらめて「解雇扱い」とするかは、ケースバイケースではあるものの、引き延ばすべきではなく、一定期日を定めて通知をしましょう。
3.1. 合理的な解雇理由かを確認
解雇権濫用法理によって、合理的な解雇理由がない場合には、解雇は「権利濫用として無効」となります。
出社しない社員を解雇扱いとする場合には、無断欠勤の継続が、「解雇理由として就業規則に記載されているかどうか?」を、まず確認してください。
また、就業規則に記載されているだけでは足りず、就業規則を社員に対して「周知」しなければなりません。
出社しない社員が解雇扱いを希望する場合、連絡自体はあることから、これを無断欠勤扱いとして解雇理由に該当させるためには、やはり【ステップ①】の通り、出社命令をきちんと行い、書面でその証拠を残しておきましょう。
3.2. 解雇が相当なケースであるかを確認
解雇権濫用法理によって、解雇が社会通念上不相当である場合には、解雇は権利濫用として無効となります。
ただ、無断欠勤が相当期間続いていた場合には、解雇とすることが不相当であるとまではいえないでしょう。
3.3. 懲戒解雇ではなく普通解雇
懲戒解雇は、雇用関係における「死刑」とも言われるように、労働者に与える不利益が非常に大きい処分です。
そのため、懲戒解雇とすると、労働審判、裁判などでの争いとなる可能性が非常に高いことから、あまりお勧めできません。
また、法的性質の面からいっても、「懲戒解雇」は企業秩序違反に対する制裁(ペナルティ)であり、出社しない社員に対して、無断欠勤の継続、すなわち勤怠不良を理由として行う解雇は、普通解雇が自然です。
3.4. 解雇予告手当の支払を行う
解雇の場合、30日前に予告するか、30日分の解雇予告手当を支払う必要があります。
したがって、出社しない社員に対しても、解雇扱いとするのであれば、解雇予告手当を支払わなければならなくなるケースもあります。
無断欠勤であって連絡がとれない場合には、30日前に解雇予告を行うようにしておきましょう。
4. まとめ
出社しない社員にも、いろいろな理由・動機があり、ケースに応じた適切な対応が必要です。
即座に解雇というのは、いかなるケースであっても乱暴であり、労働審判や裁判で、事後的に争われれば、会社に不利な解決となります。
出社しない社員の理由に応じて、出社しない社員に対する解雇、懲戒処分などを含めた適切な対応について解説しました。
社員の労務管理にお悩みの会社様は、企業法務に精通した弁護士に、お気軽に法律相談ください。