人事労務

新型コロナで増える客の嫌がらせ(カスタマーハラスメント)への対応

新型コロナウイルスが感染拡大していますが、薬局やスーパーマーケット、病院など、休業できないどころか、むしろ忙しくなっている業種・業態もあります。

一方で、新型コロナウイルスへの不安感から、正常な判断力を失ってしまう人もいます。そのため、新型コロナウイルス禍の影響下で、客からの嫌がらせ(カスタマーハラスメント)が増加しています。

実際、「マスクの売り切れに腹を立て、コロナに感染していると叫んだ」というケースで、逮捕者が出たことも報道されています。

いわゆる「カスハラ」について、現在も営業を続ける重要な業種・業態では注意しなければなりません。普段は一般的なクレーム対応で済んでいたとしても、現在の状況ですと従業員個人の判断にゆだねるのではなく、組織として積極的に対処すべきです。

今回は、新型コロナウイルス感染拡大にともなって増える客からの嫌がらせ(カスタマーハラスメント)への対応方法について、弁護士が解説します。

「新型コロナウイルスと企業法務」まとめ

カスタマーハラスメントとは?

カスタマーハラスメントとは、「カスタマー」すなわち「顧客」や「取引先」の嫌がらせ行為のことです。悪質なクレーム、不当な要求などのハラスメント行為が典型例です。「カスハラ」と略されることもあります。

新型コロナウイルスの影響で、医療機関、薬局、スーパーマーケットなどにおいて、顧客に対応する従業員のストレスが著しく増加しています。それらの業種において、客側もまた新型コロナウイルスの影響下で、不当な要求をしやすくなっているからです。

新型コロナウイルス感染が拡大している不安感により、従業員に対する嫌がらせ行為(カスタマーハラスメント)が増加しています。

たとえば、薬局で開店と同時に売り出されるマスクなどを求めてたくさんの客が行列をしている光景が見られます。マスクや消毒液を購入できなかった客が店員に対して「本当は、在庫を隠しているのだろう」「店員がつけるマスクがあるなら、まず客に売るべき」などと不当な要求をする例が報道されています。

エスカレートして店員店員を殴る、怒鳴る、罵詈雑言を浴びせる、執拗に謝罪を求めるなどの過激なカスタマーハラスメントも、残念ながら発生しています。

参考

日本では「お客様は神様」という考え方もあってか、カスタマーハラスメントの問題はあまり取り上げて議論されませんでした。

しかし、2018年1月26日に開催された厚生労働省・第7回「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」においては、カスタマーハラスメントについての話題が出ています。ここで「必要であれば、カスタマーハラスメント検討会も立ち上げることが望ましい」という意見が出されたと報道されています。

新型コロナウイルスで、逮捕騒動も出るほど客と店がもめたケースもあり、今後カスタマーハラスメントの問題を避けては通れません。

新型コロナウイルスと会社の安全配慮義務

会社には、その社員を健康で安全にはたらかせる「安全配慮義務」があります。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で、この安全配慮義務が危険にさらされています。医療従事者への院内感染が報道されているとおり、危険な場所ではたらかせざるをえないとき、特に会社がどのような対策をとるかが重要となるからです。

そしてこのことは、程度の差はあれど、新型コロナウイルスへの不安感、恐怖感でカスタマーハラスメントが起こってしまう、店舗ビジネスの店頭でも起こっています。

会社の安全配慮義務を理解する

カスタマーハラスメントに会社として対応する必要があるのは、会社は従業員に対して「安全配慮義務」を負っているからです。

安全配慮義務とは、会社が、その雇用する労働者の生命、身体などの安全を確保して労働できるようにする義務のことです。労働契約法に、次のとおり定められています。

労働契約法5条(労働者の安全への配慮)

使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

従業員に対し安全配慮義務を負うのは使用者である会社ですが、取締役に注意義務違反があるときは、取締役も連帯して責任を負うと判断した裁判例もあります。

安全配慮義務に違反すると、治療費、休業損害、逸失利益(休職や失職で得られなくなった将来の収入)、慰謝料などの支払を命じられ、事案や症状次第では、相当高額になります。さらに、会社自体の社会的な信用に悪影響を及ぼすこととなり、株価への悪影響や人材の確保などにも支障が生じます。

カスタマーハラスメントを放置し、社員に過度なストレスをかける会社だとすれば、安全配慮義務に違反していることが明らかです。

新型コロナウイルス禍の特殊性を理解する

安全配慮義務の一環として、会社がカスタマーハラスメントへの対策をおこなわなければならないことは、平時でも当然ですが、非常事態こそ特にあてはまります。

新型コロナウイルスにより緊急事態宣言が出され、多くの業種が休業、在宅勤務など、客とのかかわりの薄い状態となっています。

一方で、自粛要請によってたまったストレスが、客として店舗にいったときカスタマーハラスメントとして表に出てきます。新型コロナウイルスを原因とするカスタマーハラスメントへの対応をするときには、その特殊性を理解しなければなりません。

新型コロナウイルスへの危機意識は、人によって異なります。「カスタマーハラスメント対策」としておこなった施策が、「不謹慎」ととらえられ、かえって評判を落とすことのないよう注意が必要です。

カスタマーハラスメントへの会社の対応

カスタマーハラスメントの増加を、「新型コロナウイルスの影響」と簡単に片づけることはできません。行き過ぎたカスタマーハラスメントを放置しておけば、社員が疲弊し、退職してしまうおそれがあります。

対応を誤ると、客がさらにSNSなどに投稿し、店や従業員の対応について一方的に誹謗中傷するなどの事態に発展することもあります。

新型コロナウイルスの影響下で、自分自身も不安ななか、理不尽な客のクレームに日々対応しなければならず、カスタマーハラスメントの被害者になりかねない従業員の心の状態も大変心配です。

そこで次に、新型コロナウイルスの影響で増加しているカスタマーハラスメントへの会社の適切な対応について、弁護士が解説します。

会社組織として基本方針を決定する

カスタマーハラスメント対策をおこなうとき大事なことは、単なるクレームを超えた客からのいきすぎたハラスメントに対し、「会社として」対応することです。決して、個々の従業員任せにしてはいけません。その理由は、次のようなものです。

  • 会社組織としての対応を怠ると、社員にカスタマーハラスメント以上のストレス負荷をかける
  • 会社としてとるべき対応が、対応した社員ごとに異なることで、会社への信頼感を低下させる
  • カスタマーハラスメントへの誤った対応が、あらたなクレームを呼び起こし、二次被害を発生させる

カスタマーハラスメント事例が明らかに多くなっている状況で、会社が組織的な対応を怠り、個々の従業員に対応を委ねると、従業員はますます重い負担感や不安感などのストレスに襲われます。

従業員が日々カスタマーハラスメントのストレスを感じて勤務をすると、集中力を失い、業務効率を下げ、ひいては精神を病んでしまう事態となります。

カスタマーハラスメントが刑法上の犯罪に該当することが明らかである場合には、毅然とした態度で臨むことが大事です。警察への連絡、通報、民事上の損害賠償請求などに関する規定もマニュアルに整備されるべきです。

「最終手段として、カスタマーハラスメント加害者に対して法的な措置をとってもよい」というお墨付きを会社が与えてくれることは、社員の精神的なストレスを大きく緩和する効果があります。

対応マニュアルを作成する

会社が組織的な対応をとる方法としては、カスタマーハラスメント行為に対応するためのマニュアルを作成し整備することが非常に大事です。マニュアルの整備により、会社の基本的な考え方、スタンスを全従業員に共有し、浸透させることができます。

マニュアルがあることで、従業員も安心して顧客対応できます。社員教育の一環としても、マニュアルは非常に意義のあることです。

従来は、「お客様は神様」という基本的なマニュアルがありましたが、カスタマーハラスメントを疑われるケースでは、法的な措置をとることも含めて、別のマニュアルが必要となります。それは「接客のマニュアル」ではなく「危機対応のマニュアル」です。

マニュアルには、次のとおり、会社のとりうるカスタマーハラスメントへの取り扱いを、カスタマーハラスメントの程度、種類、悪質性に応じて記載していきます。

  • 店長・上司への報告
  • 本部への報告
  • 民事上の損害賠償請求
  • 警察署への通報
  • 告訴・告発

危機対応のマニュアルでは、クレームの初期対応がとても大事です。そのため、初期対応の際に注意すべき点は、特に重点的にマニュアル化していくべきです。

今回の新型コロナウイルスの蔓延により、特に一定の業種では、想定されるクレームがある程度見極められるのではないでしょうか。特に、「マスクの売り切れ」「医療従事者の不適切な対応」といった、事前に予想カスタマーできるハラスメントについては、想定回答を用意しておきましょう。

クレーム対応の責任者を決める

クレーム対応のポイントは、従業員ひとりに対応させるのではなく、複数の従業員に対応させ、かつ、責任者を明確にすることです。一対一の関係だと、後日言った言わないなどで争いになりかねません。

クレームを受けた従業員より別な上位者が複数で対応した方が良い事例があります。クレームなどに担当者が対処できない場合に、上位の組織や担当者、管理者などに連絡し、対応を引き継ぐことを「エスカレーション」といいますが、適切におこなえば、顧客に日々対応する現場の従業員のストレスを適切に軽減できます。

さらに、従業員がカスタマーハラスメントやそれに関することについて相談しやすい体制を会社内に作り、相談窓口・連絡窓口を明確化しましょう。

カスタマーハラスメントに対する対応は緊急性が高く、一定の時間が経過してしまうと、会社として選択できる対応手段が限定されてしまうことが少なくありません。まさに時間との勝負という事態がしばしばおこります。そのような緊急事態に対応する窓口、担当者をあらかじめ決定し、組織内でその情報を共有しておくことが大事です。

クレームとカスタマーハラスメントを区別する

マニュアルの内容として、単なるクレームをカスタマーハラスメントに発展させないための方法やカスタマーハラスメントを助長させない方法、カスタマーズハラスメントに対する対応策などを盛り込んでいく必要があります。

たとえば、冒頭に記載した、新型コロナウイルス予防のためのマスクを購入できなかった客が店員に対しカスタマーハラスメントをすることを防止するためには、会社としてマスクなどが「ない」または「少ない」ことを客に理解してもらう必要があります。

そのために、広告や掲示などで在庫、今後の入荷見込み、1日当たりの販売個数などを明らかにし、過度な不安をあおらない情報の出し方を行っていくことが大切です。

単なる「顧客対応」にとどまることなく、情報開示や広告のあり方に関する事項をマニュアル化するためにも、「会社全体で、組織として対応する」ことの重要性を理解してください。

従業員に対する教育を行う

マニュアルを作成したならば、それを踏まえてマニュアルに関する社員教育を継続的に行っていくことが重要です。決して、マニュアルが作成されたらそれで終わりにならないように注意してください。

マニュアルを作成することによって会社の対応方針に関するルールを統一化したならば、会社内で確実にルールを実行・実現させていくため、すべての従業員がマニュアルを真に理解し、現場で起きるさまざまなケースでマニュアルに従って適切な対応できるように教育していくことが必要です。

十分な経験を受けた社員がいれば、適切にトラブルを収束させることができ、現場の社員の負担を減らすことができます。十分に社員教育を受けたクレーム対応の熟練者を育て、管理職として現場に派遣する、といった対応も検討してください。

新型コロナウイルスの感染拡大は未曽有の事態であり、はじめから十分な経験がいる社員などいません。しかし、日ごろからのクレーム対応の技術が、このような非常事態でも生かすことができます。

顧客教育を徹底する

最後に、顧客教育を徹底します。カスタマーハラスメントの対策は、社内だけの問題ではありません。

会社は、顧客に対して、会社内の情報のうち公開すべきことを適時適切に開示することが大事です。

冒頭の例でもわかるとおり、新型コロナウイルスの影響によりマスクなどが「ない」または「少ない」ことを客に理解してもらうため、広告や掲示などで在庫、一日の販売量、今後の入荷見込み、入荷日などを明らかにし、過度な不安をあおらない情報の出し方をしていくことが大切です。

情報開示が適切に行われていれば、単なるクレームがカスタマーハラスメントに発展するリスクを軽減することが可能となります。

また、将来、裁判などの紛争となってしまったとしても、会社が適切な情報開示を行っていたことは、会社に有利な事情となります。

度を越えて理不尽な客は警察に通報すべきか?

度を越えて理不尽なカスタマーハラスメントは、刑法上の犯罪行為となることがあります。

たとえば、刑事罰を科される可能性のある悪質なカスタマーハラスメントの例には、次のものがあります。

行為 罪名 法定刑
客が従業員に有形力を行使する 暴行罪(刑法208条) 2年以下の懲役または30万円以下の罰金
客が従業員にケガをさせる 傷害罪(刑法204条) 10年以下の懲役または50万円以下の罰金
客が従業員を脅迫した 脅迫罪(刑法222条) 2年以下の懲役または30万円以下の罰金
客が従業員に土下座を強要した 強要罪(刑法223条) 3年以下の懲役
客が従業員を侮辱した 侮辱罪(刑法231条) 拘留または科料
客が店に長時間居座り、退去しない 不退去罪(刑法130条) 3年以下の懲役または10万円以下の罰金
客が「新型コロナに感染した」と脅す 威力業務妨害罪(刑法234条) 3年以下の懲役または50万円以下の罰金

「お客さんの対応くらいで警察沙汰など、よほどの場合だ」と思うかもしれません。しかし実際に、新型コロナウイルスに感染しているかのように装って飛行機を遅延させたとして、千葉県警成田国際空港署が2020年3月27日、ある男性を偽計業務妨害容疑で逮捕したと報道されています。

カスタマーハラスメントのうち刑法上の犯罪行為に該当することが疑われる事態が発生した場合には、警察への通報を検討すべきです。

直ちに警察への通報まで行わない場合には、今後のことに備えて、写真撮影や関係者からの聴き取りなどの証拠の保全を検討する必要があります。

従業員を安心させるためには、会社がそのような「最終手段」を使ってもよいことを、あらかじめ従業員につたえておかなければなりません。そうでないと、従業員としては、「客にひどいことをしたと、あとから会社に怒られるのではないか」と心配になり、ひとりで我慢してストレスをため込むことになります。

ひとたび従業員がうつ病などにかかり正常に勤務することができず、ひいては休職、退職することとなると、会社、経営者としては大きな損失で、見過ごすことはできません。「会社の対応が悪かったのでカスタマーハラスメントにあいうつ病にかかった」と主張し民事上の損害賠償責任等を追及するという事態が生じることも予想されます。

「企業法務」は、弁護士にお任せください!

今回は、新型コロナウイルスの影響で増加している客の嫌がらせ(カスタマーハラスメント)への対応について弁護士が解説しました。

日本では「お客様は神様」という考え方もあってか、カスタマーハラスメントの問題はあまり取り上げて議論されませんでした。しかし、新型コロナウイルスによるストレスで正常な判断力を失った客からの被害は、放置しておいてはいけません。

カスタマーハラスメントについてのマニュアル整備、警察対応、加害者との交渉や責任追及は、特に、カスタマーハラスメントの被害を受けた従業員を守るためにもとても重要です。

新型コロナウイルスの影響下におけるカスタマーハラスメントへの対応にお悩みの会社は、ぜひ一度、企業法務に詳しい弁護士のアドバイスをお聞きください。

「新型コロナウイルスと企業法務」まとめ

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