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カスタマーハラスメントとは?客の嫌がらせに企業が講じるべき対応

接客業では、「お客様は神様」という言葉があります。誠意のある顧客は尊重すべき一方で、社会問題となっているのが、カスタマーハラスメント、つまり、客からの嫌がらせです。

業務が忙しくなるほど、社員の判断力は失われ、顧客対応が雑になります。すると、ふとした機会に発した言葉や、軽率な行動が、客の怒りを買うケースが増えてしまいます。正当なクレームや文句なら拝聴し、速やかに対処すべきですが、過剰な要求はカスタマーハラスメントであり、問題行動として対処する必要があります。

実際に、店先での過剰な要求、顧客による不適切な言動によってサービス提供に支障が生じ、業務妨害となる例もあります。企業に悪評が立つデメリットもあります。カスタマーハラスメントへの対応をマニュアル化し、会社組織として積極的に対処するのは企業の責務であり、正しい対応で社員を守らなければ、安全配慮義務違反の責任を追及され、損害賠償を請求されるおそれがあります。

今回は、カスタマーハラスメントの意味や事例、適切な対応について、企業法務に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • カスタマーハラスメントは客からの嫌がらせで、権利意識の高まった現代特有の社会問題
  • カスタマーハラスメントは、不法行為(民法709条)となるほか、犯罪にも該当しうる
  • カスタマーハラスメントに企業として正しく対応しないと、社員から責任追及される

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カスタマーハラスメントとは

カスタマーハラスメントとは、カスタマー、つまり、顧客からの嫌がらせです。略して「カスハラ」と呼びます。客からの悪質なクレーム、不当な要求といった嫌がらせ行為がその典型例です。

接客業といえど常に完璧ではありません。待ち時間が長かったり、満足いくサービスでなかったりなど客側の不満は嫌がらせに発展しますが、接客スタッフもストレスを抱えています。人間が対応する以上、感情的な対立が生まれる例も少なくなく、客からの要求が度を越せばカスタマーハラスメントに繋がります。

カスタマーハラスメントの背景

日本では昔から「お客様は神様」という考えが浸透し、カスタマーハラスメントが問題視されたのは最近のことです。

個人の権利を尊重する流れの中、ハラスメントが問題視され始めました。社内で起こるパワハラ、セクハラはもちろんのこと、社外の客から嫌がらせを受けるカスタマーハラスメントも見逃せない違法行為です。2018年1月開催の厚生労働省・第7回「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」でカスタマーハラスメントに言及され、その後、厚生労働省によるカスタマーハラスメント対策企業マニュアルが公開されるなど、対策の議論が進んでいます。

また、消費者の権利意識の高まりと共に、SNSの発展により、口コミが購買の大きな動機となったのも背景にあります。顧客の気持ちを配慮しすぎ、過剰なサービスを提供することが、増長した客によるカスタマーハラスメントの原因となります。

カスタマーハラスメントの具体例

カスタマーハラスメントは、客であり、消費者であるという立場を利用して、不当な圧力をかけることによって行われるという特徴があります。カスタマーハラスメントの具体例は、次のケースです。

【客の地位を不当に利用する行動】

  • 「俺は客だぞ」と怒鳴る
  • 「お客様は神様」と客側から伝える
  • 「お客様は何をやっても許される」という態度
  • 「金を払っているのだから何でもすべき」という考え方
  • SNSや口コミによる嫌がらせを示唆して脅す
  • 店舗のスタッフの行為に言いがかりをつける
  • 大勢で囲み、威圧的に文句を言う

【社会通念を越える過剰な要求】

  • 契約の範囲を超えた過剰なサービスを要求する
  • 実損に見合わない損害賠償を請求する
  • 理不尽な値引きを要求する
  • 他の客に比べて不当に有利に扱うよう求める
  • 自分の主張に固執し、繰り返し同じ要求をする
  • 土下座して謝罪するよう求める
  • 女性社員にセクハラ的な接待を求める

【業務の妨害】

  • 店舗やオフィスに居座る(不退去)
  • 大声をあげて批判し、他の客の購入を妨害する
  • 長時間の電話で拘束する
  • 担当者に暴行、傷害、脅迫、名誉毀損、侮辱といった犯罪行為を行う
  • 暴れて店や設備を壊す、物を投げて威嚇する

【人格否定、人権侵害】

  • 担当者の外見、容貌を批判する
  • 話し方や態度など、内容に関係ない非難をする
  • 担当者の人格を否定する発言をする
  • 無許可で録音、撮影し、ネットにアップすると脅す
  • 個人の連絡先を聞き出し、執拗に連絡する
  • 店舗の終了時や自宅などで待ち伏せる
  • 家族に危害を加えると脅される

カスタマーハラスメントと正当なクレームの違い

客が、企業に対して不満を述べるという点では、カスタマーハラスメントとクレームは共通する点があります。しかし、クレームの中には、企業に改善点を教える有益なものもあります。商品やサービスの欠点、至らぬ点を指摘し、改善を求めるのは、正当なクレームであり、拝聴し速やかに対応すべきです。クレームは、企業への応援、期待の表れでもあり、カスタマーハラスメントと違って嫌がらせしようという意思は含まれません。

一方で、カスタマーハラスメントは違法で無益であり、区別して対応しなければなりません。ただし、境界線は曖昧なため、その区別は慎重にすべきです。客の属性によっては、正当なクレームをハラスメント扱いし、客の不満を増長させると本当にハラスメントに変化するおそれもあります。

カスタマーハラスメントから社員を守るのは企業の義務

会社は、その雇用する社員に対し、安全配慮義務を負います。安全配慮義務とは、雇用関係をはじめとした密接な関係にある人に対して、その心身の健康や安全を守る義務のこと。会社が、労働者の生命・身体を守るのは、労働契約に付随する義務であり、労働契約法は次の通り定めます。

労働契約法5条(労働者の安全への配慮)

使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

労働契約法(e-Gov法令検索)

この安全配慮義務の一内容として、会社はカスタマーハラスメントから社員を守る義務を負います。客からの嫌がらせは、業務中に生じるものであり、業務を命じた会社がコントロールすべき危険だといえるからです。カスタマーハラスメントを常時受けるような職場は、危険な場所だといえ、対策なく働かせ続ければ、安全配慮義務に違反します。

安全配慮義務違反があると、会社は社員から、損害賠償請求を受けてしまいます。損害の内容は、精神的苦痛を補償する慰謝料のほか、治療費の実費など。カスタマーハラスメントによって休みを余儀なくされたなら、休業損害や逸失利益(休職や失職によって得られなかった将来の収入)などの賠償を要求される可能性もあります。会社に責任があるときには、業務を原因としたうつ病、適応障害は、労災となる可能性も高いです。

カスタマーハラスメントを防止しない安全配慮義務違反の会社はブラック企業であり、企業の社会的評価が低下し、社員の離職率を上昇させたり、優秀な人材の採用が困難になったりといった悪影響も予想されます。

カスタマーハラスメントへの企業の対応

次に、カスタマーハラスメントへの企業の適切な対応について解説します。

行き過ぎたカスタマーハラスメントを放置すれば社員は疲弊し、退職するおそれもあり、対応は必須です。一方で、対応を誤ると、客がSNSに投稿したり、誹謗中傷の口コミを付けられたりして、カスタマーハラスメントが更に加速します。

基本方針を周知する

まず、最も大切なのは、基本方針を社内に周知することです。

接客業の教育では、まず顧客の尊重を徹底しているでしょう。しかし、それだけでなくカスタマーハラスメントは許さないという基本方針も合わせて周知しなければ、社員が我慢をしすぎ、無理しすぎて疲弊するおそれがあります。客からの行き過ぎた嫌がらせには会社組織として対応すべき。個々の社員任せにしては負荷が重くなってしまいます。

クレームを真摯に聞き、サービス精神を徹底する会社でも、カスタマーハラスメントは許さず、毅然として態度で臨んで良いと社員に周知しましょう。クレームとカスタマーハラスメントの区別は曖昧ですが、会社が線引をして対応を決めることで、社員の対応ストレスを緩和する努力をすべきです。

対応マニュアルを作成する

カスタマーハラスメントへの対応は、マニュアルを作成しておく必要があります。客からの嫌がらせは、突然に降り掛かってきます。問題ある顧客ほど即時の決断を強要するため、平時から対応フローを頭に入れておかねばなりません。

カスタマーハラスメント対応をマニュアル化するのには、次のメリットがあります。

  • 社員が判断をするストレスを軽減できる
  • 「社員ごとに判断が異なる」という客の不満を無くせる
  • 会社の対応方針を統一できる
  • リスクの高い対応で新たなクレームを招く二次被害を防止できる
  • 社員教育に活用できる

カスタマーハラスメントの対応マニュアルは、接客のマニュアルとは異なり、むしろ危機管理のマニュアルに近い性質を持ちます。マニュアルには次の対応フローと共に、どのような嫌がらせがあればそのプロセスに移るか、カスタマーハラスメントの程度、種類や悪質性に応じた判断基準を定めます。

  • 上司への報告
  • 本社(管理部門)への報告
  • 社長への報告
  • 損害賠償請求
  • 警察への通報、刑事告訴

危機対応のマニュアルでは初期対応が非常に大切です。そのため、初期対応の際に注意すべき点は、特に重点的にマニュアル化していくべきです。想定されるクレームが見極められるなら、事前に対策できます。一度作ったマニュアルは、実際に起こったカスタマーハラスメントの事例を踏まえ、日々改善していくことができます。

想定問答による円滑な対応は、客のストレスを軽減し、カスタマーハラスメント対策となります。

証拠を残す

カスタマーハラスメントをする客との議論は、言った言わないの水掛け論になるケースが多いです。このとき、企業側が証拠を残して対応しなければ、後から責められ、客の立場を利用した不利な条件を飲まされてしまいます。

カスタマーハラスメントの状況を明らかにするため、証拠を収集する努力は企業側ですべきです。具体的には、次の方法があります。

  • 監視カメラを設置する
  • 電話を録音する(録音のアナウンスを流す)
  • 現場の状況を写真撮影する
  • 居合わせた目撃者のヒアリングをし、協力を求める
  • 入店した客に挨拶し、声掛けを徹底する

また、カスタマーハラスメントの客の要求に、やむを得ず譲歩する場合にも、必ず合意書を作成し、被害を最小限に食い止めましょう。

社員教育・研修を実施する

マニュアルが完成したら、それを踏まえた社員教育を行います。カスタマーハラスメント対応の研修を実施するなどして、マニュアルを周知徹底してください。社員の中には、クレームを受けたことが自分の低評価に繋がるのを恐れ、隠したり我慢したりしてしまう人もいます。

社内研修だけでなく、弁護士に研修を実施してもらえば、法律上のポイントを抑えた対応をよく理解できます。社員教育では、マニュアルが形骸化しないよう、現場で起こりうる様々なケース、場面ごとにシミュレーションやリハーサルをして、行動に落とし込むのも大切です。

顧問弁護士に相談できる体制があれば、担当者が自信をもって不当な要求を拒絶できます。

お客様相談窓口を設置する

カスタマーハラスメントを防止するには、客側の不満を解消するのも大切です。不満が小さいうちに解消すれば、増大してカスタマーハラスメントに成長するのを避けられます。その場ですぐに文句を言わない人も、溜め込むほどに不満が増し、ある日突然爆発してハラスメント客になってしまうこともあります。

情報開示をきちんとし、不満を聞いて対応する姿勢を見せれば、カスタマーハラスメントに発展するリスクを軽減できます。万が一、裁判などの紛争に発展しても、企業側が誠実な対応をしていたと評価されます。

担当者のストレスを軽減する

カスタマーハラスメントは、担当者の心身にダメージを与え、放置すればメンタルヘルスの問題も生じます。客からの嫌がらせをきっかけにうつ病、適応障害になってしまう人もいます。

悪質なカスタマーハラスメントでは、担当者を変更したり、上位者を含め複数名で対応したりすべきケースもあります。上司や上位組織への引継ぎ(エスカレーション)を適切に行えば、担当者のストレスを軽減できます。更に、顧客対応の負担を軽減するため、相談しやすい体制を整備し、社内に相談窓口を作るのも大切です。

経験豊富な社員がいれば、不測の事態で頼りになります。現場レベルでトラブルの小さいうちに収束させるには、社員教育によってカスタマーハラスメント対応の熟練者を育て、管理職として各店舗に派遣するのも有効です。

理不尽な客の嫌がらせは警察に通報すべき

度を越えて理不尽なカスタマーハラスメントには、犯罪となるものもあります。悪質なケースでは、会社への被害を抑止するため、警察に通報して逮捕してもらったり、刑事告訴して処罰を求めたりする必要があります。

悪質なカスタマーハラスメントが犯罪になるケースは、例えば次の場合です。

  • 暴行罪(刑法208条)
    2年以下の懲役又は30万円以下の罰金
  • 傷害罪(刑法204条)
    10年以下の懲役又は50万円以下の罰金
  • 脅迫罪(刑法222条)
    2年以下の懲役又は30万円以下の罰金
  • 強要罪(刑法223条)
    3年以下の懲役
  • 名誉毀損罪(刑法230条)
    3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金
  • 侮辱罪(刑法231条)
    1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料
  • 不退去罪
    3年以下の懲役又は10万円以下の罰金
  • 業務妨害罪(刑法234条)
    3年以下の懲役又は50万円以下の罰金

カスタマーハラスメントのうち犯罪に該当すると疑われる事態が発生したら、躊躇せず、まずは警察に通報しましょう。社員に安心して働いてもらうためにも、悪質なカスタマーハラスメントに屈して言うなりになってはいけません。最終手段として警察への通報もあり得ることをよく伝えておくべきです。

カスタマーハラスメントについて判断した裁判例

違法の程度により、どのような責任が生じるか、カスタマーハラスメントについて判断した裁判例が参考になります。

カスタマーハラスメントは、不法行為(民法709条)に該当して損害賠償請求が認められるほか、刑罰が科されるおそれもあります。また、適切な対応を怠った企業には、社員から責任追及がなされる危険があります。

客側の民事責任を認めた裁判例

東京高裁平成20年7月1日決定

東京高裁平成20年7月1日決定は、保険会社の顧客が、多数回、長時間にわたり電話するなどして業務を妨害した事案で、客側の責任を認めました。

裁判所は、保険金請求の判断に必要な調査への協力を拒まれたこと、調査自体が違法だと非難されたこと、担当者が勤務時間外に電話連絡を強要されたこととといった点が、相当な範囲を超えていると判断しました。

大阪地裁平成28年6月15日判決

大阪地裁平成28年6月15日判決は、市民が、架電、面談の強要、罵声を浴びせるなどの行為によって、市の業務を妨害した事案で、市民側の責任を認め、差止請求を許容し、80万円の支払いを命じました。

裁判所は、情報公開請求によって得た職員の情報をもとに、対応した職員に侮辱的な発言をしたこと、1回の対応で1時間以上の時間がかかるのが通常だったことなどを理由に、市の平穏に業務を遂行する権利を侵害したと判断しました。

客側の刑事責任を認めた裁判例

札幌簡裁平成25年10月25日命令は、衣料品店「しまむら」で、店側の対応に腹を立てた顧客の行為が、強要罪、名誉毀損罪にあたるかどうか、争われた事案です。

顧客は、店員に土下座を命じ、その様子を携帯で撮影し、Twitterを通じてネットに投稿しました。裁判所は、名誉毀損罪の成立を認め、罰金30万円の略式命令を下しました。

対応を怠った企業の責任を認めた裁判例

甲府地裁平成30年11月13日判決は、私立小学校の校長が、カスタマーハラスメントに対応した教諭を一方的に非難し、その場を治めるために、事実関係を判断せずに謝罪を命じたという事案です。

裁判所は、校長のパワハラを不法行為と認め、約295万円の損害賠償を命じました。本件は私立小学校の例ですが、企業で同様のことが起こった場合、会社がカスタマーハラスメントの対応を怠れば、社員から責任を問われる可能性があります。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、カスタマーハラスメントに対し、企業が講じるべき対応を解説しました。

個人の権利意識が増大したり、社会情勢が暗くなったりすると、人の心は荒み、カスタマーハラスメントが蔓延します。誠意ある対応をとらない人まで顧客扱いする必要はなく、不当要求や嫌がらせをする客には、断固たる態度をとるべきです。会社としてカスタマーハラスメント対策を講じないと、逆にまともな顧客が離れてしまいます。社員の心身が害され、離職も増加します。

マニュアルを整備し、問題ある客と交渉したり責任追及したり、ケースによっては警察に通報したりといった対応で社員を守るのは、会社の責務です。カスタマーハラスメント対策にお悩みの会社は、ぜひ一度弁護士に相談ください。

この解説のポイント
  • カスタマーハラスメントは客からの嫌がらせで、権利意識の高まった現代特有の社会問題
  • カスタマーハラスメントは、不法行為(民法709条)となるほか、犯罪にも該当しうる
  • カスタマーハラスメントに企業として正しく対応しないと、社員から責任追及される

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