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周知していない就業規則は有効?就業規則の周知方法とポイント

就業規則を作成はしたものの、社員(従業員)に対する周知はしていない、という会社の方も少なくないのではないでしょうか。

就業規則は、雇用契約の内容とするために作成するものであって、就業規則を作成することによって複数の社員(従業員)に共通のルールをあてはめ、社内の秩序を保ちやすくなります。

とはいえ、就業規則は、社員(従業員)に「周知」しておかなければ、いざ労働審判や裁判となったとき「無効」とされるおそれがあり、この「周知」の方法には、ルールがあります。

今回は、就業規則の周知方法のポイントについて、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士が解説します。

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1. 就業規則の「周知」の意味

労働基準法で、常時10人以上の労働者を使用する事業場には、就業規則を作成する必要があるものと定められています。

就業規則には、社内の複数の社員に対して適用される、共通のルールを定めるもので、特に、賃金や始業、終業時刻、退職に関することなど、労働者に対する非常に重要な労働条件を定めるものです。

就業規則を作成したり、変更したりする場合には、一定の要件を満たさなければならず、「過半数代表者への意見聴取」、「労働基準監督署への届出」とならんで、最も重要なのが、今回解説します「社員への周知」です。

2. 就業規則の周知方法は?

就業規則を社員(従業員)に知ってもらうことが、就業規則を有効に活用するためには必須であると理解していただけましたでしょうか。

この重要性の高い就業規則の「周知」ですが、労働基準法では、その周知方法は一定のルールにしたがわなければならないものとされています。

2.1. 「実質周知」と3つの方法

労働基準法によって必要となる「周知」とは、専門用語で「実質周知」であるといわれています。

要するに、実際に社員全員が知っていたかどうか、ではなく、知ることができるための方法を、会社側(使用者側)がきちんと行っていたかどうか、が重要であるということです。

労働基準法106条、労働基準法施行規則52条の2で定められた、就業規則の周知方法は、次の3つです。

  • 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し,または備え付けること
  • 書面を労働者に交付すること
  • 磁気テープ,磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し,かつ,各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること

以下、就業規則の3つの周知方法について、弁護士が具体的に解説していきます。

2.2. 【方法①】掲示または備え付け

まず、1つ目の周知方法は、作業場への「掲示」または「備え付け」です。

「作業場」というのは、事業場内で、作業が行われている個々の現場のことをいうとされています。

例えば、社員(従業員)の休憩スペース、更衣室、待機室などに就業規則を置いておいたり、誰でも見ることのできるロッカーに就業規則を並べておくことが考えられます。

 注意! 

「掲示」または「備え付け」の方法によって周知する場合の注意点は、そこに就業規則が存在するということを労働者が知らないのでは、「周知」にならないという点です。

そこで、社内の決められた場所に、就業規則を掲示、備え付けた場合には、その旨を、社員(従業員)にきちんと知らせておかなければなりません。

2.3. 【方法②】書面の交付

次に、2つ目の周知方法は、書面の形で社員に対して交付する方法です。印刷した就業規則を冊子にして、従業員に配布する方法です。

就業規則には、労働基準法上守らなければならないことが書かれているものであって、配布をすることは、会社にとってメリットはあれど、デメリットはありません。

就業規則を知られないよう隠しておいたとしても、労働法違反があっては、労働審判や裁判の場で、結局証拠として、就業規則を提出しなければならないこととなります。

いずれにしても知られるのであれば、全員分書面にして交付し、ルールを浸透させるほうがよいでしょう。

2.4. 【方法③】データ共有

最後に、3つ目の周知方法である「電磁的記録」とは、要するに、データで共有する、ということです。

就業規則を、社内のパソコンに保存したり、共有フォルダなどに保存したりして、社員(従業員)が、自由にパソコン上で確認できるようにしておくことで、「周知」する方法です。

 注意! 

データ共有の形で「周知」をする場合であっても、他の周知方法と同様、就業規則が、どの場所で閲覧することができるのかを、社員(従業員)に知らせる必要があります。

「共有フォルダに入っていたのだから、いつでも見れたはずだ。」という会社側(使用者側)の反論は、フォルダのどこに入っているかを告知していない場合、認められない可能性が高いといえます。

また、いつでも容易に確認できる必要があるため、パスワードがかかっていたり、閲覧制限がかかっていたりすると「周知」として不十分です。

3. どの方法で周知するのがよい?

以上のとおり、労働基準法において認められている、就業規則を周知するための3つの方法について、弁護士がまとめました。

いずれの方法であっても「周知」として十分ではあるものの、定められたルールにしたがって十分な周知を行う必要があります。

そのため、「どの方法で周知するのがよいのか?」といえば、「【方法②】書類の交付」が、より確実であるといえるでしょう。労働者側からの「知らなかった。」という反論を防げるからです。

就業規則は、雇用契約の内容となるルールを定めるものですから、見せることによって特に会社にデメリットがあるわけではなく、むしろ作成しているのであれば積極的に周知すべきです。

とはいえ、作業量など、その他の理由で「【方法③】書類の交付」の方法をとらない場合であっても、会社で就業規則をどのように保存しているかにしたがって、「【方法①】掲示または備え付け」「【方法③】データ共有」のいずれかの方法で周知しましょう。

4. 就業規則の周知が認められなかった裁判例

ここまでお読みいただければ、作成した就業規則を有効に活用するためには、「周知」が重要であることが理解いただけたことでしょう。

「周知をしない。」、「就業規則を隠す。」というのは論外であるとしても、会社側(使用者側)が、「周知」をしたと思っていたのに、実際には不十分で、裁判で就業規則の有効性が否定されてしまうことがあります。

中部カラー事件(東京高裁平成19年10月30日判決)では、朝礼において口頭で、就業規則の変更と、変更によって適用される退職金の計算式を示しただけでは、「周知」として不十分だと判断しました。

つまり、単に就業規則を示しただけでは足りず、従業員がきちんと理解できるように「周知」する必要があるということです。

5. 「周知」を欠く就業規則は有効?無効?

「周知」の重要性をご理解いただいたところで、「では、周知をしていない就業規則は有効なの?」というご相談があります。

まず、裁判例においては、周知をされていない就業規則については、有効性が否定されます。すなわち、「無効」ということです。

就業規則にしたがって労働条件を定め、就業規則にしたがって会社内のルールを決めていた会社にとっては、この就業規則に従うことができないと、デメリットは非常に大きいと言わざるを得ません。

「周知」を欠く就業規則が無効となってしまうのは、労働者にとって「不意打ち」となり、不利益が大きくなってしまうからです。

6. まとめ

弁護士や社労士など、専門家のサポートを借りて就業規則を作成している会社は増えてきました。特に、助成金を活用するために、既成の就業規則を一応持っているという会社も少なくありません。

しかし、就業規則は、ただ作成するだけでは意味がなく、会社の利益となるよう有効活用するため、労基法で認められたルールにしたがって「周知」する必要があります。

会社の就業規則について不安、疑問のある会社経営者の方は、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士に、お気軽に法律相談ください。

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