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出社拒否する社員への対応方法は?連絡とれなくても解雇は可能?

出社しない社員に対し、法的にはどう対応するのが適切でしょうか。

「明日から出社できない」「もう会社には行きたくない」など、突然に出社拒否をする社員がいるとき、企業は緊急の対応に迫られます。

職場の人間関係が複雑化し、精神的なストレスを抱える社員も少なくありません。中には、正当な理由を示さずに出社(出勤)を拒絶する人もいます。更に厄介なのは、連絡がつかず、注意しても無視される「音信不通」状態になることです。社員が会社に出社しない状態は健全ではなく、対応を誤ると、労使の対立が激化し、会社は大きな損失を被ることとなります。

今回は、出社拒否に対する適切な対処法を、企業法務に強い弁護士が解説します。労務リスクを最小限に抑えながら、冷静に対応するためのポイントを押さえておきましょう。

この解説のポイント
  • 出社拒否に対応する際は、記録を残し、段階的に進めることが重要
  • 出社拒否・無断欠勤でも、解雇は最終手段であり、理由の正当性が問われる
  • 出社拒否によるトラブルを未然に防止するため、就業規則を整備する

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出社拒否とは

出社拒否とは、会社からの出社命令に対し、正当な理由なく応じないことです。

雇用される労働者である限り、勤務時間中は、会社の定める就業場所(オフィスや店舗、工場など)で職務に従事する義務があります。しかし、就業場所に出勤せず、出社を命じても拒む対応をすれば、「出社拒否」となります。出社の命令も、企業が持つ業務命令権の一部なので、これに従わない社員の行動は、業務命令違反(就業規則違反)として懲戒処分の対象となります。

重要なポイントは、正当な理由の有無です。事前に欠勤の承諾を得ていたり、医師の診断書を提出して休職命令が発出されていたりする場合、出社拒否とはみなされません。

よくある出社拒否の例は、次のようなものです。

  • 心身の不調を理由に「出社できない」と訴えるケース
    医師の診断書など、医学的な判断に基づいて対応するのがポイントです。うつ病や適応障害などの精神疾患の疑いがある場合は、慎重な対応が求められます。「出社しようとしても心理的に抵抗がある状態(それに伴う頭痛、吐き気、腹痛やめまいなどの拒否反応)」を、出社拒否症、出社困難症などと呼ぶこともあります。
  • ハラスメントによる職場復帰拒否
    「上司からパワハラを受けた」「社長のセクハラがあった」などの理由で出社を拒むケースです。この場合、出社拒否の責任を問う前に、企業は事実調査を行う必要があります。
  • 「リモート可」の約束があったと主張するケース
    リモートワークを希望し、出社を拒否するケースも近年増加しています。しかし、リモートワークの実施は企業の裁量であり、労働契約の内容として合意していない限り、社員が一方的に主張できるものではありません。

なお、出社拒否は、「命令に従わず、出社しない」という明らかな意思がある場合を指し、音信不通で出社しない「無断欠勤」とは区別します。

出社拒否する社員への初動対応は?

次に、出社拒否する社員への初動対応について解説します。

出社拒否が発生した場合、企業としては冷静に対応することが重要です。以下のステップを順に踏むことが、懲戒処分や解雇の正当性を担保します。間違っても、感情的になって安直に解雇することのないようにしてください。

STEP

出社命令を出す

まず、出社命令を出すことからスタートします。

出社を命じたのに正当な理由なく拒否するのが「出社拒否」であり、出社命令が前提となります。出社命令は、内容証明やメールなど、証拠に残る形で出してください。例えば、次の文例を参考にしてみてください。

【メール案】

件名:出社命令について

お疲れ様です。人事部の◯◯です。貴殿が現在出社されていない状況について、下記の通り、正式に出社を命じます。

  • 出社日:20XX年XX月XX日
  • 出社時間:午前9時00分までに
  • 出社場所:本社(住所)
  • 業務内容:労働契約に従った◯◯業務

この出社命令は、貴殿との雇用契約及び当社就業規則に基づく正当な業務命令です。正当な理由なく出社に応じない場合、就業規則に基づき懲戒処分等を検討する可能性があることを、あらかじめご承知おきください。

【内容証明案】

貴殿は、当社の出社命令に対し、20XX年XX月XX日以降、出社しない状況を継続しています。当社は、本日に至るまで再三、出社を求める通知を行いましたが、貴殿より何らのご連絡もなく、正当な理由も確認できません。

つきましては、以下の通り、正式に通知します。

1. 貴殿に対し、以下の条件に従い出社することを命じます。

  • 出社日:20XX年XX月XX日
  • 出社時間:午前9時00分までに
  • 出社場所:本社(住所)
  • 業務内容:労働契約に従った◯◯業務

2. 上記命令に正当な理由なく応じない場合、当社就業規則第◯条に基づき、懲戒処分(最悪の場合、懲戒解雇を含む)を検討せざるを得ません。

3. 本書面到達後◯日以内に、出社の意思及び今後の勤務に関する意向についてご連絡ください。万が一、期限内に連絡や出社がない場合、貴殿が正当な理由なき業務命令違反を継続しているものと判断します。

証拠に残る形で出社命令を出していなかった、あるいは曖昧だった場合、「拒否」と評価することが難しくなりますので、必ず丁寧に実施してください。

STEP

事実と理由を確認する

次に、事実関係と、出社拒否の理由を確認しましょう。

出社命令に対して社員が拒否したとき、どのような発言、行動があったかについても具体的に記録しておくことが重要です。後に労使トラブルに発展した際に、次のような記録は証拠として活用することができます。

  • 「もう行きません」との発言の録音・メモ
  • 返信メールにある拒否の明言
  • 社内チャットやLINEのやりとり

これらは、業務命令違反があったことを立証する証拠となります。仮に、労働審判や訴訟に発展した場合、証拠の有無が結果を大きく左右します。

STEP

本人とのコンタクトを試みる

社員が出社してこない場合でも、いきなり懲戒処分や解雇に進むのではなく、まずは粘り強く連絡し、出社させる努力を記録に残すことが大切です。

次のように段階を踏みながら、連絡していきましょう。

  • 携帯電話に、複数回の着信履歴を残す。
  • 留守番電話に、折り返すよう伝える。
  • メールや社内チャットで催促する。
  • LINEやSNSを通じて連絡する。

ただし、公私混同してはならず、業務上、一般に使用している連絡方法に限るべきです。記録を残せば、「会社が努力したが、本人が無視した」という証拠になります。

それでも連絡がつかない、無視される状態が続く場合は、内容証明による通知が有効です。内容証明は、受取が必要となるので、あわせて特定記録郵便やレターパックなど、受取不要で追跡可能な郵便手段でも送っておきましょう。

STEP

身元保証人・緊急連絡先への連絡

本人と連絡が取れず、出社拒否が続く場合、一定期間を経過したら、身元保証人や緊急連絡先への連絡を検討します。これらの手段はいずれも、万が一の場合に備えたものなので、可能な限りの確認手段を尽くした後で実行しましょう。

多くの企業では、入社時に「身元保証人」や「緊急連絡先」を提出させているでしょう。安否確認や連絡不能時の非常手段として、活用することができます。

ただし、次の点に注意してください。

  • 緊急時に限って連絡するべきである。
  • 連絡内容は、事実の確認や状況把握に留める。
  • 業務命令違反の責任追及は避ける。

以下の文例も参考にしてください。

貴殿が身元保証人になっている◯◯が、20XX年XX月XX日以降当社に出社しておらず、連絡にも応答がない状況です。

本人の安否、連絡方法について、何かご存知でしたらご一報いただけますと幸いです。なお、当社としては本人の状況確認を目的としており、それ以外のことをお願いするものではございません。

この段階では、穏当な表現でソフトに連絡するのがよいでしょう。なお、会社に損害が生じることが明らかになった場合は、身元保証契約書に基づき、身元保証人の責任を追及することが可能です。

身元保証人や緊急連絡先への連絡についても、必ず記録を残してください。万が一、労働者から「突然解雇された」「連絡もなかった」と主張された際に、企業として十分な対応を尽くしていたことの証明になります。

STEP

就業規則に基づいた対応を進める

ここまでのステップを踏んだら、最後に、就業規則に基づく対応を進めます。

出社拒否に対して懲戒処分とするには、就業規則上の根拠が必要です。出社拒否(業務命令違反)を懲戒対象として定めていることを前提に、懲戒処分の種類も、企業秩序違反の程度に応じたバランスの取れたものである必要があります。

いきなり解雇とするのではなく、注意指導、譴責など、段階的に対応するのが基本です。重すぎる処分は、懲戒権の濫用(不当懲戒)として争われる危険もあるからです。

最後に、再三の注意や処分にもかかわらず、労働者が拒否や無視を続ける場合には、就業規則の定めにしたがって「退職扱い」もしくは「解雇」とします。

出社拒否を理由に解雇する場合の注意点

出社拒否が続き、解雇せざるを得ないケースもあります。

出社拒否を理由とする解雇が有効となるかどうかは、解雇権濫用法理に基づいて判断すべきです。客観的に合理的な理由がなく、社会通念上の相当性がない場合には、権利濫用の「不当解雇」として無効となります(労働契約法16条)。

以下の通り、重要なポイントは、出社拒否に正当な理由があるかどうかです。

解雇が無効とされる例

出社拒否があったとしても、労働者側に正当な理由があるなら、解雇は無効です。例えば、次のケースは、不当解雇と判断されるおそれがあります。

  • 長時間労働により精神疾患になった場合
  • 上司や同僚のセクハラ・パワハラに起因する場合
  • 体調不良による数日の欠勤の場合

したがって、有効に解雇できるかを判断するためにも、出社拒否が生じた際は、その理由の確認が欠かせません。裁判所は、単なる欠勤の事実だけでなく、双方のやり取りや経緯なども総合的に加味して判断するので、企業側としては、適切なプロセスを踏むことは必須となります。

出社拒否について調査やヒアリングが十分でなかったり、心身の不調への配慮が不足していたりする場合も、解雇権の濫用と判断されるリスクがあります。また、懲戒解雇をする場合には、注意指導を行い、弁明の機会を付与するといったプロセスを踏む必要があります。

解雇が有効とされる例

一方で、以下のように企業が適切な手順を踏んでいたのに、社員が継続的に出社命令に従わなかった場合は、解雇が有効とされる例も存在します。

  • 複数回にわたり出社命令や出勤要請を行った場合
  • 内容証明で通知の履歴を残していた場合
  • 就業規則に基づいて段階的に懲戒を進めていた場合

これらの対応を経てもなお、出社拒否が継続した場合、悪質な業務命令違反を理由とするものとして、解雇が有効であると判断されやすくなります。

出金拒否によるトラブルの予防策

企業としては、いざ出社拒否のトラブルが顕在化する前に、予防策を講じるべきです。

懲戒処分や解雇とすると対立は激化するので、日常的なルールを整備し、従業員との信頼関係を構築することで、未然に防止するのが最善です。

就業規則を整備しておく

出社拒否への対応について、就業規則に根拠を定めておきましょう。

特に、次の点を明確化しておいてください。

  • 出社拒否(業務命令違反)が懲戒対象となること
  • 「音信不通◯日」といった基準を設定すること
  • 「注意指導→懲戒処分→解雇」とったフローを定めること
  • 懲戒処分の種類とその条件

これらが曖昧なままだと、社員側に出社拒否の責任があったとしても、「懲戒処分が重すぎる」などと主張されて争いに発展するおそれがあります。就業規則は、10名以上の社員を雇用する事業場では労働基準監督署への届出が義務となっていますが、10名未満でも、トラブル時のルールとして整備しておくべきです。

また、コロナ禍以降、テレワークや在宅勤務が急速に普及しているため、どのような場合に実施できるのか(できないのか)のルールも就業規則に明記しておくのがお勧めです。

社内の相談体制を強化しておく

社内の相談体制の不備が、出社拒否の背景となっているケースもあります。

社内の人間関係が精神的な負担となっていたり、それを社長や上司にも相談しづらい雰囲気だったりすると、労使の信頼関係は崩れていきます。その結果、会社の命令に従わず、出社しない状態となってしまうわけです。

企業としては、早期に察知し、予防することが重要で、そのためには、社員が会社に気軽に相談できる体制づくりが不可欠です。

例えば、次のような方法が考えられます。

  • 直属の上司との定期的な1on1
  • 人事担当者との面談の実施
  • 産業医やカウンセラーとの連携

こうした環境整備によって、社員が孤立することを防ぐと共に、整備したことを社員に周知し、安心感を与えるようにすれば、問題が深刻化する前に対応できます。

出社拒否についてのよくある質問

最後に、出金拒否についてのよくある質問に回答しておきます。

労働者が解雇を希望する場合は?

出社拒否を続ける労働者の中には、解雇を希望する人もいます。

例えば、出社命令に対し、「もう辞めたい」「面倒だ」「仕事の気力が湧かない」「解雇扱いにしてくれて構わない」といった発言をするケースです。

この場合も、企業としては安易に解雇に応じるのは危険です。たとえ本人が希望しても、解雇には客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要となります。法的な要件を満たさない「不当解雇」をすれば、今は無気力な労働者も、後から「やはり納得いかない」と争ってくる危険があります。

労働者が解雇を希望しても、退職届を作成させ、本人の意思で退職することを明らかにさせるのが最善の対応です。本人が書面を出さず、意向が曖昧なまま出社拒否が続くなら、「退職の意思はない」とみなし、業務命令違反の対応に切り替えるべきです。

出社拒否後に、労働者の体調不良が明らかになった場合は?

社員が出社を拒否した理由が、うつ病や適応障害など、精神的な不調だったことが後になって判明するケースもあります。この場合、出社命令違反として懲戒処分や解雇をしても、無効となる危険があります。

診断書が提出されたなら、就業規則に従って休職命令を下す対応が適切です(そして、休職期間満了までに復職できなければ退職扱いとなります)。

不調が「業務に起因する」と主張されると、労災認定をされたり、安全配慮義務違反を理由に慰謝料を請求されたりといったリスクもあるので、慎重な対応が求められます。

テレワークや在宅勤務を認める場合の注意点は?

出社を拒む社員に、「在宅勤務で対応しよう」と判断する企業もあります。

ただ、出社拒否に対する「妥協案」として、安易にテレワークや在宅勤務を認めることの弊害が大きいです。このような許可は後から覆せず、今後も「特別扱い」を認めざるを得なくなります。そして、他の社員は不公平感を抱き、企業秩序も乱れるでしょう。

テレワークや在宅勤務の実施は、原則として企業側の業務命令に基づくものであり、労働者に選択権はありません。テレワークを認めるかどうかは、業務の性質や安全衛生の観点から、慎重に検討しなければなりません。

出社拒否と有給休暇の関係は?

出社拒否する社員が「有給を使う」と一方的に主張してくることがあります。

有給休暇は、労働基準39条に基づく権利なので、原則として会社はこれを拒めません。ただし、「事業の正常な運営を妨げる場合」には、時季変更権を行使して、有給取得の時季を変更することができます。

また、有給休暇の申請は事前にする必要があるので、無断で出社しないでおいて「その日は有給休暇扱いにしておいてほしい」といった求めに応じる必要はありません。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、出社拒否をする社員への対応について解説しました。

社員が、正当な理由なく出社を拒否し、連絡も取れない状況となるのは、企業にとって悩ましい問題です。対応を誤れば、不当解雇や損害賠償請求など、より大きなリスクに発展しかねません。

出社拒否への対応では、まずは事実と理由を確認し、記録することを徹底してください。そして、段階的に注意指導や懲戒処分を行い、その履歴を残すことが大切です。やむを得ず解雇や退職手続きに踏み切る場合も、就業規則の内容に従ったプロセスを踏むことが不可欠です。

労働審判や訴訟などのトラブルを未然に防ぐために、就業規則を整備し、社内の相談体制を構築しておきましょう。対応に迷うときは、労務に精通した弁護士への相談がお勧めです。

この解説のポイント
  • 出社拒否に対応する際は、記録を残し、段階的に進めることが重要
  • 出社拒否・無断欠勤でも、解雇は最終手段であり、理由の正当性が問われる
  • 出社拒否によるトラブルを未然に防止するため、就業規則を整備する

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