★ お問い合わせはこちら

労働審判に負けた労働者に、会社側が逆に損害賠償を請求できる?

不当解雇や残業代などの労働トラブルで、労働審判を申し立てられると、腹立たしく思う会社もあるでしょう。労働審判で勝ったとき、負けた労働者に対して「逆に損害賠償請求したい」と、経営者から法律相談を受けるケースも少なくありません。

労働審判の勝率は、労働者優位と言わざるを得ません。労働者保護の制度であり、正しい労務管理を徹底しない限り、事後の対策で会社が勝つのは困難です。とはいえ、権利意識の高まりから、労働者が、到底勝訴できないのに労働審判を申し立ててしまうケースもないとはいえません。

例えば、重大なミスを理由に懲戒解雇したのに、不当解雇を主張して地位確認を請求された事案を考えてみてください。このとき、正当な理由があるなら解雇は有効。逆に、解雇理由となった業務上のミスの責任追及を検討してもよいでしょう。労働審判の手続内では反訴できませんが、勝訴したなら、負けた労働者に損害賠償請求することもできます。

今回は、労働審判を申し立てた労働者に、会社が逆に損害賠償を請求できるか、企業法務に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 労働審判を有利に進めるため、会社が労働者に、逆に損害賠償請求するケースがある
  • 損害賠償請求は、労働審判内での主張、もしくは、終了後の別の訴訟提起による
  • 労働者が、労働審判で負けた場合でも、責任追及するかどうかは慎重な検討を要する

\お気軽に問い合わせください/

目次(クリックで移動)

なぜ会社側が逆に損害賠償請求するの?

労働審判は、労使いずれからも申し立てできますが、そのほとんどは労働者側からの申し立てです。労働者に申し立てられた労働審判に対し、会社が損害賠償請求する理由について解説します。

労働トラブルを起こされるということは、社内の労務管理に不都合があったということ。労働者への嫌悪感など、感情的な理由だけで損害賠償請求をしても、うまくはいきません。労働者の正当な権利行使なのに報復をすれば、裁判所に悪いイメージを与え、労働審判で、会社に不利な判断をされるおそれもあります。

労働審判で有利な解決を求める

労働者が申し立てた労働審判に対し、会社が損害賠償請求を検討する理由の1つ目は、労働審判で有利な解決を求めることです。つまり、戦略的な観点から、損害賠償請求を交渉のカードに使うようなケースです。

労働審判は、労働者保護のため、スピーディに問題を解決する制度です。その手続のなかでは、調停によって話し合いを促進し、会社が解決金を払うことによる金銭解決を目指されることも多いものです。会社側では、金銭を払うのが前提としてす数おそれがあり、負担する解決金を少しでも減らすべく、労働者に対して逆に金銭請求をしておくことが検討されるのです。

問題行為の責任を追及する

会社側が損害賠償請求をする理由の2つ目は、労働者の責任を追及するためです。

労働審判に発展するほど労使トラブルが悪化している責任は、労働者にあることも少なくありません。労働問題の多くは、労使のいずれかが一方的に悪いわけではなく、コミュニケーション不足による行き違いのケースも多いからです。労働者が退職するに際し、会社に至らぬ点があったのはさておき、労働者にも責任があるなら追及すべきです。

例えば、懲戒解雇の原因となった労働者のミスにより、会社に生じた損失を補填させるケースです。

ただし、報償責任の考え方から、利益の帰属する会社側が、そのリスクも負担すべきと考えられています。実際に生じた損失の全額を労働者に請求できるとは限らない点には注意を要します。

会社側が損害賠償請求する具体的な方法

次に、以上の動機で、会社が労働者に損害賠償請求しようと決断したとき、その具体的な方法を解説します。

会社が、労働審判の申し立てに対して、損害賠償請求する方法は、次の3つです。

労働審判中に損害賠償の主張をする

まず、労働者が起こした労働審判のなかでも、会社にとって有利な反論は、最大限にしておくべきです。労働審判では、会社側は、答弁書を提出することによって反論を伝えることができます。そのなかに、「損害賠償請求権が存在する」という内容を記載すれば、労働審判での解決において、考慮される可能性があります。

この方法には、次の通り、メリットとデメリットがあります。

メリット

労働審判において、解決金を払うことによる金銭解決をする際、損害賠償請求権の存在を考慮してもらえるメリットがあります。これにより、労働審判での会社の支出を減らせます。なお、裁判所に十分考慮してもらうには、損害賠償請求権について、証拠による証明は欠かせません。

労働審判は、労働者を保護するため、調停による話し合いで金銭解決されるケースが多いもの。その場合に、会社が一定額の解決金を払うことを前提に話し合いが進められます。労働契約の清算は、退職時をもって全て終了させるべきであり、労使間の金銭に関する反論は、必ずしておきましょう。

デメリット

デメリットとして、仮に、労働者から要求された解決金額より、会社の請求する損害賠償額が大きい場合にも、労働審判内では、差額の請求はできません。

労働者が申し立てた労働審判では、逆に会社が金銭を得るという結論を勝ち取ることはできないからです。会社のほうがむしろ請求する額が大きいと予想される場合は、次章以降のとおり別の争いを起こす必要があります。

別の労働審判を起こす

労働審判は、会社側からも申し立てることができます。

労働者に対して損害賠償を請求したいとき、労働審判の申し立てによってすることもできます。ただし、労働審判は、労働者の保護のためにスピードと柔軟性を重視した制度であり、会社からの申し立てに必ずしも役立つわけではありません。

したがって、労働者への損害賠償請求で、会社に有利な解決を得たいなら、次章の通り訴訟提起がお勧めです。

別の訴訟を起こす

最後に、会社が本気で損害賠償請求をしたいなら、別の訴訟を提起する方法が有効です。会社が損害賠償を請求する訴訟は、労働者が労働問題を争う労働審判とは、争点が別であり、別の手続きで進めることができます。そのため、労働審判中はもちろんのこと、労働審判が終了した後でも、訴訟提起できます。

なお、労働審判の終了後に訴訟を起こすのであれば、労働審判で、清算条項付きの和解を締結しないよう注意してください。労使間の一切の債権債務関係をなくす清算条項を結ぶと、追加の請求が妨げられてしまうからです。

労働審判に負けた労働者に損害賠償請求するときの注意点

労働審判を労働者から申し立てられたら、少しでも有利に進めたいところでしょう。解決金をできるだけ減額するために損害賠償請求を交渉のカードとしたい場合には労働審判内で、そうでなく、本気で損害を回復しようと求めるならば別訴ですべきとまとめることができます。

また、労働審判で労働者側が負けた場合(もしくは、労働者側の劣勢が明らかな場合)は特に、会社にとっては損害賠償請求を断行するチャンスともいえます。このとき、損害賠償請求時に注意すべきポイントを最後に解説します。

労働審判内で損害賠償請求するときの注意

まず、労働審判内で損害賠償の主張をするときの注意点は、労働審判が話し合いを重視した制度だと理解すること。損害賠償請求の主張は、労働審判内でするなら、あくまで交渉カードとして、解決金の減額に寄与する一事情となるに過ぎません。

労働審判の手続きは、まずは調停による話し合い、まとまらない場合には審判が下されます。労働者保護の色彩の強い労働審判で、話し合いがまとまらずに審判となるとき、裁判所は会社の主張にそれほど配慮してくれないおそれがあります。

別の訴訟で損害賠償請求するときの注意

次に、別の訴訟で損害賠償請求するときの注意点。別訴は、労働審判とは別の手続きなので、既に申し立てられた労働審判がなくなるわけではありません。労働審判で、会社側が敗訴し、不利な審判が下った場合には、2週間以内に異議申立すれば訴訟に移行することができます。このとき、訴訟手続に移行すれば、損害賠償請求の訴訟と併合を上申することができます。

なお、労働審判のなかで調停や和解といった話し合いによる解決をするときは、別の訴訟で求めている損害賠償が清算の対象とならないよう、調停調書や和解書の記載に工夫を要します。

まとめ

今回は、企業側の立場で、労働審判で勝った場合の対応について解説しました。

懲戒解雇のトラブルなど、労働問題には、労働者側に責任あるケースもあります。それでもなお、労働者保護の観点から、会社の非を責められ、争われてしまう例は多くあります。いざ、会社が労働審判で勝訴したら、逆に労働者のミスなどによって会社が負った損害について、賠償請求したいと考えるのも当然です。

労働審判への対応だけでも、多くの手間と費用がかかります。しかし、労働審判における調停は、話し合いの側面があり、円満に解決するには、労使双方の譲歩が不可欠です。できれば、労働審判の手続のなかで納得いく解決を実現できるのが理想ですが、トラブルが拡大する場合には、会社の被害を最小限に抑える必要があります。

この解説のポイント
  • 労働審判を有利に進めるため、会社が労働者に、逆に損害賠償請求するケースがある
  • 損害賠償請求は、労働審判内での主張、もしくは、終了後の別の訴訟提起による
  • 労働者が、労働審判で負けた場合でも、責任追及するかどうかは慎重な検討を要する

\お気軽に問い合わせください/

目次(クリックで移動)