★ お問い合わせはこちら

休憩時間は分割して付与できる?連続勤務時間と休憩の関係は?

労働基準法は、一定の時間を越えて従業員を働かせる場合に、休憩時間を付与することを使用者の義務としています。過労死や過労自殺、メンタルヘルスの不調や労災など、深刻な問題が増加する中、連続して長時間労働させないため、休憩時間の確保が重要視されています。

一方、企業から「休憩を分割して与えることは可能か」という相談を受けることがあります。休憩を分割して取得させることは、生産性や業務効率の向上が期待できるほか、交代で休憩を取らせることで業務への支障を軽減できるメリットがあります。

しかし、労働基準法のルールに違反し、違法な労務管理とならないよう注意すべきです。

今回は、企業側の事情で休憩時間を分割して与えることができるか、その際に違法とならないよう注意すべきポイントについて、企業法務に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 休憩時間の分割付与は違法ではなく、業務効率化に資するメリットがある
  • 休憩を細かく分割した結果、労働基準法の趣旨に反する場合には違法となる
  • 休憩時間の扱いが違法で「労働時間」と評価されると、残業代リスクがある

\お気軽に問い合わせください/

目次(クリックで移動)

労働基準法の「休憩時間」のルール

労働基準法は、労働者保護のために、最低限の労働条件を定める法律です。

この法律は、連続した長時間労働を避けるため、休憩時間に関するルールが定めています。労働基準法は最低限の保障なので、たとえ労使の合意があっても違反することはできません。

労働基準法の定める休憩時間のルールは、次の通りです。

  • 労働時間が6時間以内の場合
    休憩時間は不要
  • 労働時間が6時間を超える場合
    少なくとも45分の休憩が必要
  • 労働時間が8時間を超える場合
    少なくとも1時間の休憩が必要

これらの休憩は、労働時間が連続して長時間に及ぶことを防ぐ目的があるので、労働時間の「途中」で取得させる必要があります(つまり、労働時間の開始時や終了時に、まとめて休憩をさせることは同法の趣旨に反し、違法です)。

また、労働基準法上の「休憩時間」には、次の原則が適用されます。

  • 休憩の一斉付与の原則
    事業場で働く全労働者に「一斉に」休憩を付与するのが原則とされる。
  • 休憩の自由利用の原則
    休憩利用の目的や態様について、使用者が制限することはできない(休憩時間とされていても、使用者の指揮命令があるときは「労働時間」と評価されるおそれがある)。

この2つの原則との関係で、労働基準法の「休憩時間」を、「分割して」与えることができるか、違法ではないかというのが、今回の解説する問題点です。

休憩時間の分割が適法となるケース

労働基準法をはじめ、休憩時間の分割を禁止する法律はありません。

したがって、休憩時間を分割して付与すること自体は、原則として適用です。労働基準法も、「休憩時間を『連続して』○分以上」といった義務は定めていません。分割付与する場合、その合計時間が、労働基準法の定める休憩時間を上回っていれば法的には問題ありません。

休憩時間の分割の具体例

休憩時間の分割について、具体例で解説します。

例えば、「始業時刻:午前9時、終業時刻午後6時、そのうち1時間休憩」と定めた場合、所定労働時間は8時間となり、残業代の支払い義務は生じません。

この場合、一般的には「正午から午後1時まで」を昼休憩として付与している会社が多いですが、これを「正午から午後0時45分までの45分間」と「午後3時から午後3時15分までの15分間」に分けるといった運用も、休憩時間の合計が1時間であれば、法的に許容されます。

休憩時間を適法に分割するための要件

ただし、休憩時間の分割も、常に適法なわけではありません。

休憩を分割して付与する場合には、以下の2つの要件を満たす必要があります。

  • 休憩時間中、労働者が使用者の指揮命令から完全に解放されていること
  • 労働者が、休憩時間を自由に利用できること

これらの要件を満たさない場合、形式上は「休憩」とされていても、実態は「手待ち時間」と判断され、労働時間として扱われるおそれがあります。

「手待ち時間」と評価されるリスクに注意

手待ち時間とは、労働者が実際の作業に従事していないものの、使用者の指示により待機させられているなど、いつでも業務に対応できる状態で拘束されている時間を指します。この手待ち時間は「休憩時間」ではなく「労働時間」と評価されます。

したがって、労働から完全に解放されていなったり、自由に利用できなかったりすると、適切な休憩時間を与えたとは認められず、残業代請求を受けるリスクも高まってしまいます。

休憩時間を分割して運用する際にも、分割後の各休憩において、労働者が実質的に労働から解放され、自由に時間を使える環境が整っているかを十分に確認することが重要です。

休憩時間の分割が違法となるケース

次に、休憩時間の分割が違法となるケースと、その対策について解説します。

休憩時間の分割は、適切に運用すれば、業務効率を向上させる有効な手段です。しかし、その運用を誤ると労働基準法違反となり、違法な労務管理と評価されるおそれがあります。

休憩時間をあまりに細かく分割した場合

極端に小刻みに分割してしまうと「労働から解放された状態」とは評価されず、労働基準法上の「休憩時間」とは認められないおそれがあります。

例えば、5分間の休憩を10回に分けて与えても、食事や気分転換、トイレなどすら十分に行えない短時間の休憩では心身も休まらず、「自由に利用できる時間」とは到底いえません。その結果、全体として「労働時間」と評価され、残業代の支払い義務が生じるおそれがあります。

どの程度の感覚が適切かは、次の具体例を参考にしてみてください。

  • 不適切な例
    5分×12回の休憩を分割付与
    → 労働からの解放が不十分と判断される可能性が高い。
  • 適切とされやすい例
    30分×2回、または15分×4回など
    → 一定の時間が確保されており、休憩として機能する可能性が高い。

業種や業務内容、休憩の取らせ方などによっても許容される分割の程度は異なるため、自社の実態に即して慎重に検討してください。

会社都合で休憩を中断した場合

休憩時間中に接客や電話対応を指示したり、業務の都合で休憩を中断したりするケースも、会社にとって大きなリスクがあります。

労働基準法上、休憩時間は「労働者が自由に利用できる時間」でなければなりません。したがって、自由利用が保証されず、休憩中に業務が生じるような状況では、その時間は「休憩」とは評価されず「労働時間」とされてしまいます。特に、「業務が忙しくなったら一旦休憩を中断し、暇になったら残りを取得させる」といった運用は、休憩とは評価されないおそれが強いです。

とはいえ、会社としては、事故や緊急トラブルなど、休憩中でも対応を要する場面もあるでしょう。この場合、対応を依頼した時間が「労働時間」に該当することを理解し、他の時間に休憩を取らせるといった代替措置が必要となります。

労働時間の最初や最後に付与する休憩

労働基準法は、休憩時間は「労働時間の『途中』に付与すること」を原則とします。

したがって、始業直後や終業直前に休憩をまとめて付与しても、適法な休憩時間とは認められず、違法となるおそれがあります。よくある誤った運用として、「休憩を、労働時間の最後にまとめて取らせる」という方法がありますが、これは「休憩を取らせず働かせ、早めに帰らせる」のと変わらないこととなり、労働基準法違反となります。

労働者に通知せずに分割する場合

休憩時間の分割自体が適法でも、労働者に明示していないとトラブルの火種になります。

労働基準法上、休憩時間などの重要な労働条件は、労働契約締結時に書面で明示する義務があります。また、就業規則の作成においても、休憩時間に関することは必要的記載事項とされ、必ず明記しておかなければなりません。

したがって、休憩時間を分割して与えるなら、その分割時間や与える時間帯を、あらかじめ就業規則や労働条件通知書に明示し、労働者に周知しておく必要があります。

「違法な休憩時間の分割」で会社側が負うリスク

最後に、休憩時間の分割が違法な場合に、企業の負うリスクについて解説します。

休憩分割の適法性は、その回数や時間の長さ、実際の運用状況などにより左右される「程度の問題」なので、判断に迷う場合は労務に詳しい弁護士に相談してください。

残業代請求のリスク

会社が「休憩」として付与した時間が、実質的には「手待ち時間」などの労働時間と評価された場合、会社にとって想定していなかった労働時間が生じることとなります。その結果、労働時間が合計して「1日8時間、1週40時間」という法定労働時間の上限を超えた場合、労働者から残業代請求を受けるおそれがあります。

「休憩時間」についての運用を誤ったことを理由とする残業代請求は、会社の制度に関する問題です。そのため、ある請求者の問題に留まらず他の社員にも波及し、全社的な残業代の未払いが生じかねません。

つまり、たった一人の労働者からの残業代請求が、全社的な労務リスクへと発展することもあり得るのです。

労災・安全配慮義務違反による損害賠償リスク

違法な休憩時間の分割によって長時間労働が常態化した結果、過労死や過労自殺、メンタルヘルスの不調などの健康被害が生じた場合、労災認定されるリスクがあります。更に、会社には労働者の安全と健康を守る義務(安全配慮義務)が課されており、同義務の違反として慰謝料をはじめ損害賠償を請求される危険があります。

休憩は本来、単に業務を中断するだけでなく、心身の疲労を回復させるための大切な時間です。分割することでその効果が損なわれた場合、重大な法的責任が発生してしまいます。

刑事罰を科されるリスク

労働基準法では、休憩時間を適切に付与しなかった場合、刑事罰の対象とされています。これは、休憩が労働者の基本的な権利として重要視されていることの表れです。

具体的には、「6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金」が科される可能性があります。

特に、休憩を分割することで満足に休めなかった結果、労災事故を引き起こしてしまうケースは、刑事責任を問われ、逮捕、送検されるおそれがあり、企業としても重大なリスクです。

まとめ

今回は、企業側の立場で、休憩時間を分割して付与することが可能かどうか、解説しました。

休憩時間の分割は、適切に運用すれば生産性や業務効率の向上に寄与し、企業にとってメリットの大きい労務管理が可能です。長時間労働の抑制にも繋がるので、働きやすい職場環境づくりの一助となるでしょう。

しかし、労働基準法の趣旨に沿わない形で実施すると、違法と判断される危険があります。違法な運用によって、休憩時間であると認められないと、未払い残業代の請求など、予想外の重大な法的リスクを招くおそれがあります。

休憩時間の取扱いをはじめ、労務管理に不安のある会社は、早めに労務に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。

この解説のポイント
  • 休憩時間の分割付与は違法ではなく、業務効率化に資するメリットがある
  • 休憩を細かく分割した結果、労働基準法の趣旨に反する場合には違法となる
  • 休憩時間の扱いが違法で「労働時間」と評価されると、残業代リスクがある

\お気軽に問い合わせください/

目次(クリックで移動)