労働基準法(労基法)では、一定の時間を越えて社員を働かせる場合には、一定の時間以上の「休憩時間」を付与することが、会社側(使用者側)の義務とされています。
よくテレビや新聞でニュースになっている通り、長時間労働を強要すれば、過労死、過労自殺、メンタルヘルス、労災などの労使トラブルの原因となるため、連続して長い労働時間働かせないことが、「休憩時間」の目的です。
この休憩時間を「分割して与える」ことは、生産性、業務効率を向上させる効果があるほか、社員間でシフトを組み、交代で休憩をとることで業務への支障を軽減するメリットがあります。
今回は、会社側(使用者側)の都合で、労働者に対して休憩時間を「分割して与える」ことができるかどうか、また、その際に注意すべきポイントについて、企業の労働問題(人事労務)に強い弁護士が解説します。
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目次
労働基準法の「休憩時間」とは?
労働基準法(労基法)は、労働者の最低限の労働条件を定める法律です。
労働者の最低限の労働条件として、長時間労働を避けるための「休憩時間」について、労働基準法は次の通り定めています。
- 労働時間が6時間を超える場合、少なくとも45分
- 労働時間が8時間を超える場合、少なくとも1時間
労働時間が6時間以内の場合には、労働基準法上、休憩時間は不要です。
労働基準法にいう「休憩時間」は、事業場で働く全労働者に「一斉に」付与することが原則であり(一斉付与の原則)、どのように利用するかを会社側(使用者側)が制限することはできません(自由利用の原則)。
この2つの原則との関係で、労働基準法の「休憩時間」を、「分割して」与えることができるのか?というのが、今回の弁護士解説の問題点です。
休憩時間の分割が適法となるケース
労働基準法にいう「休憩時間」を「分割して」与えることを禁止する法律はありません。つまり、休憩時間を分割して付与することは、労働法上、適法であることが原則です。
労働基準法をはじめとした重要な労働法のいずれにも、「休憩時間を『連続して』○分とらせなければならない」という義務は定められていないからです。
したがって、さきほど解説した「6時間を超える労働時間に対して45分以上、8時間を超える労働時間に対して1時間以上」という休憩時間は、分割した休憩時間を合計した長さがこの時間を超えていれば適法です。
例
例えば、所定労働時間について「始業時刻:午前9時 ~ 終業時刻:午後6時」、そのうち休憩時間が1時間、という定めの場合、「所定労働時間」は8時間となり、割増賃金(残業代)の支払義務はありません。
この場合、休憩時間を、「正午から午後1時まで」とすることも可能ですが、「正午から午後0時45分と、午後3時から午後3時15分」というように、分割して与えることも可能です。
休憩時間を適法に分割するための要件
会社側(使用者側)にとって、休憩時間を分割して付与することは適法ですが、ただし、休憩の分割を適法に行うために、次の2つの要件をクリアしなければなりません。
休憩時間の分割付与を行っている会社の中には、次に解説する「違法となるケース」も見られるように、これらの適法要件に注意しなければ、違法な休憩の分割となるおそれがあります。
- 休憩時間中、労働者が、労働(使用者の指揮命令)から完全に解放されていること
- 労働者が、休憩時間を自由に利用できること
「手待ち時間」と評価されないよう注意
「休憩時間」と区別される時間に、「手待ち時間」があります。
「手待ち時間」は、実際の作業には従事していないものの、待機などを命じられたことにより会社に拘束されているため、「休憩時間」ではなく「労働時間」と評価される時間のことです。
つまり、労働から完全に解放されていなかったり、自由に利用できなかったりすると、「休憩」ではなく「手待ち時間」と評価される結果、思いもよらない残業代請求を受けるリスクが高まるということです。
休憩時間の分割が違法となるケース
ここまでお読みいただければ、休憩の分割付与を有効に使い、会社の業務効率を上げることが、適法に可能であることはを十分ご理解いただけたことでしょう。
しかし、適法に行うことのできる「休憩の分割」ですが、注意して活用しなければ、労働基準法(労基法)など重要な法律に違反し、違法となるケースもあります。
そこで次に、休憩時間の分割取得が違法となるケースとその対策について、弁護士が解説します。
あまりに細切れの休憩時間の分割
あまりに細切れに休憩時間を分割した場合には、「労働者が労働から解放された状態である」という労働基準法上の「休憩時間」の定義にあたらないおそれがあります。
つまり、細切れに与えた休憩時間が、労働基準法にいう「休憩」とは評価されないおれおがあります。
休憩時間は、単に「作業を行わない」という意味ではなく、労働者が自由に利用することを保障されている必要があるからです。このことは、さきほど解説した「手待ち時間」が休憩にはならないことからも理解できます。
そのため、非常識なほど細切れにした休憩(5分休憩×10回など)では、休憩の自由利用は困難であり、心身を休めることもできませんから、労働から解放されているとは到底いえません。
例
例えば、先程の例のとおり、所定労働時間を午前9時から午後6時とした場合に、1時間の休憩時間を、「5分」ずつ、「12回」に分割して与えることも、不可能ではありませんし、これを禁止する労働法の定めはありません。
しかし、「5分」だけの休憩では、食事をとることも気分転換をすることも、トイレに行くことにすら十分とはいえません。
会社都合の休憩中断
会社によっては、休憩時間中に接客対応をさせたり、電話対応をさせたりしている会社も少なくないようですが、会社側に大きなリスクを及ぼす行為であると言わざるを得ません。
労働者側に「自由利用」が保証されておらず、休憩時間中に業務が生じるような時間は、「休憩」とは評価されず、「労働時間」とされてしまうからです。
これを更に進めて、「忙しくなったら休憩中断、暇になってから残りを取得」という分割取得も考えられますが、同様に、「休憩」とは評価されず、労働時間として、残業代の支払が必要となるおそれが強いといえます。
したがって、休憩時間の分割方法のうち、会社都合で一方的に休憩を中断する方法は、違法となるケースがあります。
参考
「休憩時間を、会社都合で一方的に中断してはならない」と説明すると、「大きなトラブルや事故が、休憩時間中に起こったらどう対応するのか」というご相談を会社側から受けることがあります。
休憩中の社員に、やむを得ず緊急対応をお願いすべき経営上の必要性は、当然理解できます。
緊急対応の場合、残業代請求のリスクを十分理解すると共に、やむを得ず休憩時間を中断する場合には、他の時間に休憩をとらせるなどの代替措置が必要となります。
労働時間の最後に付与する休憩
原則として適法な休憩時間の分割ですが、休憩時間を、労働時間の最初、もしくは、最後にとらせることは違法と判断される可能性の高い方法です。
労働基準法(労基法)で、休憩時間は「労働時間の途中」に与えなければならないと定められているからです。
当然ながら、忙しくなったときには休憩時間を中断し、残りの休憩時間は、労働時間の最後にまとめてとってもらう、という休憩の分割方法もまた、労基法違反となります。
労働者に通知しない休憩分割
「休憩時間」の長さ、位置などは、重要な「労働条件」の1つです。
労働基準法では、社員(従業員)を雇用するとき、労働条件を明示しなければならないとされていますが、「休憩時間」もまた、書面を交付して労働者に対して明示しなければなりません。
就業規則を作成する場合も、「休憩時間」に関する労働条件を、必ず記載しなければなりません(就業規則の必要的記載事項)。
したがって、休憩時間を分割して与えるのであれば、その分割時間や与える時間帯を、「労働条件通知書」や「就業規則」に記載し、労働者に周知しておかなければなりません。
「違法な休憩時間の分割」で会社側が負うリスク
最後に、休憩時間を分割して付与した結果、「休憩時間」についての処遇が「違法」な状態となった場合、会社側(使用者側)にどのようなリスクがあるのかについて、弁護士が解説します。
どの程度の分割取得が違法となるか、特に分割する「休憩時間の長さ」については、「程度」の問題で大きく変わるため、ご不安な場合には弁護士にご相談ください。
残業代請求の法的リスク
会社側(使用者側)が、「休憩」であると考えていた時間が、「手待ち時間」などの「労働時間」と評価されてしまうと、会社側(使用者側)の想定していなかった長時間労働が発生することとなります。
その結果、「休憩時間」をもあわせた労働時間が「1日8時間、1週40時間」の制限を超えると、労働者から残業代請求を受けてしまうおそれがあります。
注意ポイント
「休憩時間」についての考え方を誤っていたことを理由とする残業代請求は、会社の制度に関わる問題であるため、全社員に波及します。
つまり、1人の労働者が、「休憩時間の分割が違法である。」と不満を抱いて残業代請求をすると、最悪のケースでは、全社員に残業代を支払い直さなければなりません。
労災・安全配慮義務違反の法的リスク
休憩の分割取得が違法とされ、長時間労働となってしまった結果、過労死、過労自殺、メンタルヘルスなどの傷病が発生してしまったときには、「労災」とされ、慰謝料請求をされるおそれがあります。
本来、「休憩」とは、心身をゆっくりと休め、業務を行うだけの力を回復するための時間ですから、分割することによって、肉体的、精神的なストレスが増加することに、慎重な配慮が必要です。
刑事罰の法的リスク
労働基準法において、休憩を適法にとらせないことは、刑事罰の対象とされています。具体的には、「6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金」に処せられるおそれがあります。
特に、さきほど解説したとおり、休憩を分割することで、満足な休憩をとらせなかった結果、労災事故を引き起こしてしまったような重大ケースでは、逮捕、送検される可能性があります。
「人事労務」は、弁護士にお任せください!
今回は、会社経営者、人事総務の担当者の立場に立って、休憩時間を「分割して」取得させることができるかどうかについて、弁護士が解説しました。
休憩時間の分割は、正しく行えば、生産性、業務効率を上げる効果があり、長時間労働を抑制する効果を生む有効な手段です。
しかし、法律の正しい知識にしたがって休憩時間の分割を行わなければ、思わぬ残業代請求など法的リスクは小さくありません。
会社内の労働時間管理が正しく行われているか、不安な会社経営者の方は、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士に、お早目にご相談ください。
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