体調不良や病気で休みがちな社員に、会社はどう対処すべきでしょうか。
放置すれば業務に支障を来し、他の社員から不満が出るのは避けられません。不公平感が募り、士気も低下します。一方で、本人の事情に配慮せず強く責めると、安全配慮義務違反の責任を問われ、損害賠償請求に発展するリスクもあります。
正当な理由のない欠勤が続く場合、「問題社員」としての扱いも視野に入りますが、企業としては一方的な対応ができず、判断に迷う場面も多いのが実情です。健康を維持する責任は社員にありますが、欠勤が続いたとしてもすぐ解雇するのは危険です。日本の労働法は、解雇を厳格に制限しており、「休みがち」という理由だけで辞めさせるのはリスクが高いからです。
今回は、業務に支障を生じさせる「休みがちな社員」への対応について、企業法務に強い弁護士が解説します。
- 休みがちな社員への対応は、他社員との公平感を意識しなければならない
- 休みがちな社員の特徴(ストレス耐性が弱いなど)を示すなら、丁寧に声掛け
- 休みがちな点を理由に解雇するには、少なくとも出勤率80%未満が基準
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休みがちな社員の特徴
休みがちな社員とは、労働日に、正当な理由なく欠勤を繰り返す労働者のことです。
欠勤だけでなく、遅刻や早退が多い、出社しても業務に集中せず、突っ伏したり就業中に居眠りしたりしているケースも、広い意味では「問題社員」です。採用時から健康状態に懸念があることを理解して雇用したのでもない限り、欠勤が常態化するのは深刻な問題です。
休みがちな社員の理由は、病気や体調不良にとどまらず、精神的な不調やストレス、性格的な傾向、仕事に向かう姿勢など、センシティブな事情が関係するケースも少なくありません。その特徴を理解し、適切に対処することが重要です。
休みがちな社員の主な特徴は、次の通りです。
- コミュニケーション能力が低い。
- 環境の変化に順応するのが苦手。
- ストレス耐性がなく、発散できない。
- 浮き沈みが激しく、落ち込みやすい。
- 責任感がなく、他責思考である。
- やる気やモチベーションを自ら管理できない。
- 私生活に問題を抱えている。
「気持ち」の問題は、次第に「身体」にも影響します。例えば、食欲不振や睡眠障害、慢性的な疲労感などの症状が出て、結果的に出勤意欲が低下し、欠勤が続くようになるのです。
欠勤が多くなる時期にも一定の傾向も見られます。例えば、新入社員として入社したばかりで職場環境に慣れていない時期や、異動後の新たな人間関係に適応できていない場合など、生活環境の変化に伴って休みがちになるケースも珍しくありません。
休みがちな社員による悪影響
次に、休みがちな社員がもたらす悪影響について解説します。
企業が被るリスクを正しく理解し、適切な対策を講じることが重要です。
業務に遅延が生じる
休みがちな社員が担当している業務には、当然ながら遅れが生じます。
複数人で連携し、チームで進める業務では特に、欠勤の影響が部署全体に波及します。欠勤が続くことで慢性的な人手不足を招き、業務の進行が滞るだけでなく、他社員の負担も増加します。たとえ出社して労働したとしても、体調不良や精神的な不調で集中力を欠いていると、業務効率が低下したり、ミスが増加したりといったリスクもあります。
その結果、本来なら不要な長時間労働が発生し、残業代が膨らむことで人件費が圧迫される危険もあります。
人間関係や職場環境を悪化させる
休みがちな社員によって業務が滞り、しわ寄せが他の社員に及ぶと、周囲のストレスは拡大し、不満が蓄積します。会社が、問題のある社員に注意や指導をせず、対策を講じないと、「真面目に働く社員が正当に評価されていない」という不公平感が蔓延し、士気の低下を招きます。
職場環境が悪化すると、やがて社員同士の関係性が崩れ、ハラスメントの温床となるリスクさえあります。企業にとって、職場の空気が重くなることは、生産性の低下だけでなく、優秀な人材の流出を引き起こす要因にもなりかねません。
安全配慮義務違反の法的リスクがある
会社は、社員が心身共に健康に働けるよう配慮する義務を負います(安全配慮義務)。
休みがちであるのに放置していた場合、その対応の不備が安全配慮義務違反とされ、慰謝料をはじめとした損害賠償請求を受ける危険があります。たとえ一時的な体調不良でも、適切な対処を怠ったことで状態が悪化し、うつ病や適応障害などの精神疾患に発展することもあります。
この場合、適切に対処しなかったことが病状悪化の原因であると主張されれば、企業側に不利な判断が下されるリスクがあります。
休みがちな社員への対応
次に、休みがちな社員への対応について解説します。
まずは軽度な声掛けから始めて、社員の状況を見ながら段階的に関わり合いを深めていきます。休みがちな社員を放置するリスクを理解し、的確に対処することで業務への影響を最小限に押さえなければなりません。
積極的な声掛けで状況を把握する
休みがちな社員には、日常的な声掛けやコミュニケーションを徹底しましょう。
小規模な企業なら経営者自身が、規模の大きい会社では管理職などが、休みがちな社員に日毎から気配りをしてください。休みがちな社員は、自身の状態をコントロールするのが苦手な人が多く、他者からの働きかけが改善のきっかけになります。
- 「困っていることはないか」
- 「何か悩みを抱えていないか」
このような声掛けによって、相談しやすい職場環境を作り、問題が悪化しないうちに早期発見して対応に繋げましょう。また、ハラスメントに対応する社内窓口の設置や、上司との定期的な面談の実施も効果的です。
休みがちな理由を確認する
次に、社員が欠勤した場合には、その理由を必ず確認しましょう。
休みがちな社員への適切な対処法は、その理由や原因によっても異なるからです。所定労働日に欠勤した場合には、会社は労働者にその理由を質問することができます。この段階では、厳しく叱責するのではなく、状況を正確に把握する姿勢が重要です(むしろ、厳しすぎる対応は反発を招いたり、パワハラだと指摘されたりするリスクもあります)。
欠勤理由に応じた適切な対応の一例は、次の通りです。
- 正当性のない理由(気分や怠慢など)
→ 注意・指導を行う。 - 病気や体調不良
→ 医師の診断を求め、必要に応じて休職を命じる。 - 私生活上の事情
→ 状況を聞き取り、配慮を検討する。
就業規則を整備する
休みがちな社員に適切な対応をするには、その根拠となる就業規則の整備が欠かせません。
全社的に適用されるルールは、就業規則にまとめて定めるのが有効なので、事前に整備すべきです。特に以下の項目については、明確な規定を設けておきましょう。
- 欠勤控除の取扱い
「ノーワーク・ノーペイの原則」により、欠勤分の給与を控除できます。 - 懲戒処分の規定
注意・指導から懲戒処分に移行する際には、あらかじめ就業規則に処分の種類や理由を明示しておく必要があります。 - 休職に関するルール
休職の条件、期間、復職要件、同一事由による休職期間の通算など。また、会社が医師の診断を求める権限についても定めておきましょう。
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則を労働基準監督署に届け出る義務があります。また、作成した就業規則は事業所に備え置き、労働者に周知しなければなりません。
注意・指導と懲戒処分を検討する
欠勤理由が不十分な場合や、「気分が乗らない」「なんとなく休みたい」といった曖昧なものである場合は、注意・指導を行う必要があります。社員が欠勤理由を明らかにしない場合も同じく、正当な理由のない欠勤として扱うしかありません。
注意指導は、次のステップで進めてください。
- 口頭で指導を行い、改善を促す。
- それでも改善が見られない場合は、書面による注意に移行し、記録を残す。
- 更に繰り返されるなら、懲戒処分を検討する。
感情的にはならず、毅然とした態度で改善策を示すようにしてください。
なお、懲戒処分については、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であることが求められます(労働契約法15条)。過度な処分は違法となるおそれがあるので注意が必要です。
懲戒処分には、譴責・戒告といった軽いものから、減給・降格・出勤停止、更には諭旨解雇・懲戒解雇といった重い処分まで様々な種類があります。違反の内容や頻度に応じて適切な処分を選ばなければなりません。
医師の診断を受けさせる
休みがちな社員の欠勤理由を確認し、病気や体調不良である場合、医師の診断を指示するのが適切です。特に、うつ病や適応障害などの精神疾患が疑われる場合、専門的な判断が不可欠です。軽度だからと放置すれば症状が悪化し、長期療養が必要となる危険もあります。
診断の結果に応じて、次のような職場環境の配慮を検討します。
- 労働時間の短縮、残業の軽減
- 業務内容や配置の見直し
- ハラスメント加害者との接触回避
- 一定期間の休職命令
社員の健康状態を適切に把握するのも、企業に課された安全配慮義務の一環です。プライベートな事情や、本人も気付かないストレスが原因であることもあるので、早期の対応が重要です。
休職を命じる
それでも不足の場合は、休職を命じることを検討してください。
休みがちな社員の中には、体調が悪くても無理に出社を繰り返した結果、症状を悪化させるケースもあります。休職について「一定期間の欠勤を条件に会社が命令できる」と定める例が多く、休みがちな状況が続くなら、思い切って休養を取らせる方が良い場合も少なくありません。
社員に休養を取らせる場合、次の手順で進めてください。
- まずは未消化の有給休暇の取得を促す。
- それでも改善が見られない場合は、休職命令の発令を検討する。
具体的な運用については、自社の就業規則に従って慎重に判断してください。
休みがちな社員を解雇できる基準
休みがちな社員による悪影響を考えると、状況によっては解雇を検討せざるを得ません。
実際、多くの企業は、就業規則に「勤務状況が著しく不良であり、改善の見込みがない場合」などの条項を設け、解雇事由として明記しています。
しかし、日本の労働法は、解雇を非常に厳格に制限しています。
そのため、就業規則に記載があるからといって直ちに解雇が認められるわけではありません。労働契約法16条は解雇権濫用法理を定めており、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は、権利濫用として無効となります。
つまり、解雇には「客観的合理性」と「社会的相当性」が必要とされており、休みがちであるというだけの理由で即座に解雇するのは早計です。
休みがちであるという理由で解雇できるかどうかは、総合的な判断が必要です。
実務上、解雇の判断基準として重視されるのが「出勤率」です。休みがちな点を理由に解雇するなら、少なくとも「出勤率が80%未満であること」が必要と考えられます。というのも、「出勤率80%」は、労働基準法39条で年次有給休暇を付与される要件とされる水準だからです。
そのため、出勤率が80%を上回る社員は、「休みがち」だとしても、有給休暇の取得手続きに不備があるだけとも評価できます。このケースでいきなり解雇という厳しい処分に踏み切るのは、社会的に相当とはいえず、不当解雇と判断される可能性が高くなります。
特に、休みがちな社員に解雇を行う場合は、次の点に配慮する必要があります。
- 欠勤の理由や背景(病気、家庭事情、職場環境など)を丁寧に確認する。
- 欠勤の期間・頻度・出勤率を把握する。
- 事前に注意や指導をし、改善の機会を与える。
- 会社の対応が安全配慮義務を十分に果たしたものであったかを検討する。
以上の点を検討し、専門家である弁護士に相談しながら進めることが重要です。
「人事労務を弁護士に依頼するメリット」の解説

まとめ

今回は、休みがちな社員に対し、企業がすべき適切な対応を解説しました。
休みがちな原因が、一時的な体調不良や異動後の環境への適応など、短期間で解消できるなら大きな問題にはなりません。しかし、状況を軽視して対策を怠ると、うつ病や適応障害などの精神疾患になり、その責任は会社にあると主張されるおそれがあります。この場合、十分な対処をしていなかった会社が反論するのは極めて困難です。
休みがちな社員には丁寧に声掛けを行い、状況を把握することが大切です。必要に応じて注意をし、欠勤の理由を確認するなど、早めに適切な対応を積み重ねておくことが、後のトラブル防止に繋がります。これらの対応は、企業が負う安全配慮義務の一環でもあります。
対応に不安がある場合や判断に迷うケースでは、早めに弁護士に相談して、法的リスクを回避するためのアドバイスを得ておきましょう。
- 休みがちな社員への対応は、他社員との公平感を意識しなければならない
- 休みがちな社員の特徴(ストレス耐性が弱いなど)を示すなら、丁寧に声掛け
- 休みがちな点を理由に解雇するには、少なくとも出勤率80%未満が基準
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