企業が従業員を解雇する場面では、適切な手続きが求められます。
解雇の局面では、書面で証拠に残しながら対応するのが必須であり、その中でも「解雇通知書」が重要な役割を果たします。解雇通知書は、労働者に対して解雇の意思を明示する書面であり、不当解雇のトラブルを防ぐ重要な証拠となります。
解雇は、社員にとって大きな不利益となるので、解雇通知書の記載や交付の方法を誤ると、労働者側から「不当解雇」であると主張され、法的リスクを招くおそれがあります。
今回は、解雇通知書の役割と内容について、実務で使えるテンプレート・雛形と共に解説します。法律や裁判例に従い、解雇のトラブルを避けたい方は、ぜひ参考にしてください。
▼ 図解で解説 ▼

- 解雇通知書は、企業にとって将来の法的トラブルを抑止する効果がある
- 解雇通知書の解雇理由は、客観的かつ具体的に記載すべき
- 解雇通知書について弁護士に相談すれば、不当解雇のリスクを軽減できる
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解雇通知書とは
解雇通知書とは、使用者(企業)が労働者に対して「雇用契約を終了させる」(解雇)という意思を明確に伝えるための書類です。法的には、労働契約を会社が一方的に終了させることを「解雇」と呼び、これを労働者に書面で伝えるのが解雇通知書の役割です。
書面で通知することで、後の労使トラブルを避けるための証拠となり、企業側にとっても重要なリスク回避手段となります。
解雇通知書の目的
解雇通知書の主な目的は、次の3点です。
- 解雇の意思を明確に伝えること
- 解雇日や解雇理由を記録し、紛争を予防すること
- 労働者に対し、今後の行動(引継ぎや転職活動など)を促すこと
日本の労働法では解雇が制限されており、解雇権濫用法理により、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当でない解雇は無効となります(労働契約法16条)。そのため、労働者が解雇の有効性を争い、「不当解雇」であると主張してくるケースでは、いつ、どのような理由で解雇したのか、説明できる文書を残すことが極めて重要です。
解雇通知書が必要な理由
企業側にとって、解雇通知書は非常に重要な役割を果たします。
近年、解雇を巡る労使トラブルが増加し、企業としては、解雇の正当性を問われるケースも少なくありません。このような場面で、口頭の通知のみでは不十分で、書面の通知によって証拠を残す必要があります。また、労働基準法20条は、解雇の30日前に予告するか、不足する日数分の平均賃金の支払い(解雇予告手当)を義務付けています。予告義務を果たす上でも「いつ解雇したのか」を会社側が説明できるようにしなければなりません。
労働者から争われると、「そのような理由だとは聞いていない」「クビだとは言われなかった」などと主張され、言った言わないの水掛け論になりがちです。したがって、解雇通知書は単なる形式ではなく、法的なリスクを回避する武器にもなります。
解雇通知書の必要性は、普通解雇、懲戒解雇、整理解雇など、解雇の種類を問いません。
解雇に関するその他の書面との違い
解雇に関連する書面は他にも存在しますが、それぞれの役割は異なります。解雇をする企業側で、しっかりと法律知識を理解して使い分けなければなりません。
解雇予告通知書との違い
解雇予告通知書は、解雇を事前に予告するために労働者に交付する書面です。
前述の通り、法的に解雇は30日前に予告する必要があり、日数が不足する場合は解雇予告手当が必要です。そのため、事前に予告する場合は、「解雇を予告した」ということを証拠に残すため、解雇予告通知書を利用します。
解雇理由証明書との違い
解雇理由証明書とは、解雇の理由を労働者に伝えるための書面です。
労働者から請求があった場合、労働基準法22条によって解雇の理由を書面で伝えることが義務付けられており、この義務を果たす書面が、解雇理由証明書です。したがって、解雇通知書は会社が一方的に交付するのに対して、解雇理由証明書は労働者の請求があって初めて発行されます。
ただ、労働者の要求がなかったとしても、後の紛争化を避けるには、しっかりと解雇理由を労働者に説明し、納得を求めるプロセスが重要です。
解雇通知書に記載すべき内容
次に、解雇通知書に記載すべき内容について解説します。
解雇通知書によって法的トラブルを回避するという目的を果たすには、一定の記載事項について漏れなく、明確に示す必要があります。
解雇する旨
まず、法的に「解雇」の意味を持つことを明記してください。
例えば、書面の名称を「解雇通知書」とし、その通知書の冒頭で「貴殿を◯年◯月◯日付をもって解雇する」というように明確に意思表示します。断定的に記載しなければ、自主退職の勧奨と混同されるおそれがあります。「明日から来なくて良い」「あなたの仕事はもう無い」など、曖昧な表現だと、後で労働者から「解雇ではなかった」と主張されるリスクがあるので、誤解を生まないよう一義的な表現にしてください。
なお、労働者の納得を示すためにサインや署名、押印を求めるケースもありますが、本来、解雇は会社の一方的な意思表示であり、労働者の同意や承諾は不要です。
解雇日(雇用契約の終了日)
次に、雇用契約の終了日、つまり「解雇日」を明記します。解雇日の記載には次の意味があります。
- 雇用契約の終了日を決める。
- 賃金の発生する期限を決める。
- 解雇予告手当の要否を判断する。
- 社会保険や雇用保険の資格喪失日となる。
なお、有給休暇の消化や業務の引継ぎなどの関係で、解雇日と最終出社日が異なるときは、その点についても明記しておきましょう。
解雇理由
次に、解雇理由を記載します。
解雇理由の記載は、解雇通知書の中でも特に重要です。後の法的トラブルを避けるには、客観的で合理的な理由を、できるだけ具体的に記載するよう注意してください。「能力不足」「勤務態度が不良」といった抽象的な記載だけでなく、そのような悪い評価に至ったエピソードなども含めて具体的に記載すれば、労働者に対しても説得力があります。
あわせて、就業規則の根拠条文や、証拠の有無についても記載しておきましょう。
なお、解雇の多くは会社都合退職となりますが、例外的に、労働者の責に帰すべき重大な事由がある場合(例:懲戒解雇など)は、自己都合退職となる場合があります。この点は、失業保険の受け取り時期に影響するので、労働者にとっては重要な関心事となります。
解雇予告手当の有無
労働基準法20条に基づく解雇予告手当についても、支給の有無を明記します。この点は、前述の解雇日とも関係しますが、即時解雇の場合は、30日分の手当の支給が必要となります。
なお、やむを得ない事由や労働者の責に帰すべき事由がある解雇は、例外的に予告手当が不要ですが、労働基準監督署の「解雇予告除外認定」を受ける必要があります。
解雇通知書のテンプレート・雛形
以上の点を踏まえて、解雇通知書のテンプレート・雛形を紹介します。
解雇通知書
20XX年XX月XX日
◯◯◯◯殿
株式会社◯◯
代表取締役◯◯◯◯
当社は、貴殿の行為が、就業規則○条(解雇)◯号「従業員の勤務態度が不良で、就業に適さないとき」及び○号「無断欠勤を繰り返し改善の見込みがないとき」に該当すると判断し、上記条項に基づき、貴殿を20XX年XX月XX日付けで解雇いたします。
【理由例①】
貴殿は、本年度の営業成績が全営業職中最下位であり、複数回の改善指導にもかかわらず成果が改善されなかったため、業務遂行能力に著しい不足が認められます。
【理由例②】
貴殿は本年X月中に、無断欠勤を10日間継続し、会社からの再三の連絡にも応答しませんでした。この行為は就業規則第○条(無断欠勤・職務放棄)に違反するものです。
【理由例③】
貴殿は令和7年7月5日、会社の金銭を私的に流用したことが判明しました。調査の結果、領収書改ざんなどの悪質な行為も確認され、就業規則第○条の「横領行為」に該当する重大な懲戒事由があることが明らかです。
なお、解雇予告手当として30日分の平均賃金に相当する金額を、貴殿の給与振込口座にお振込みします。本件についてご不明な点があれば、総務部(TEL:03-XXXX-XXXX、担当◯◯)までご連絡ください。
以上
このテンプレート・雛形は、あくまで記載例なので、ケースに応じて追記・修正が必要です。実際に解雇通知書を作成する際は、法的に必要な記載事項だけでなく、「受け取った労働者がどのように感じるか」も考慮し、不必要に感情的な対立を煽らないような表現で記載するのがお勧めです。
解雇通知書を作成する際の注意点
次に、解雇通知書を作成する際、特に注意すべきポイントを解説します。
曖昧な表現を避けて解雇理由を明記する
解雇理由について、曖昧な表現だと、後日トラブルになります。
労働契約法16条は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は無効とする」と定め、解雇を制限しています。通知書の記載が曖昧だと、労働者にも裁判所にも、「解雇する正当な理由はないのではないか」と疑われてしまいます。
たとえ解雇通知書を作成しても、次のような理由の記載には問題があります。
- 明らかに事実と異なる。
- 解雇するに足らない、軽微な違反行為しかない。
- 社長や上司の主観的な評価に偏っている。
労働審判や訴訟で「解雇が無効である」と判断されれば、遡って労働者は復職し、解雇中の賃金も遡及して支払う必要があります(バックペイ)。企業の負うリスクは非常に大きいので、明確な事実・期間・注意指導の経緯などを解雇通知書に明記して、説得的に説明することが重要です。
労働者と対話して納得を求める
解雇は、会社にとっての権限であり、一方的なものです。
しかし他方で、労働者にとっては、解雇されると収入を失い、生活に直結する重大な処分です。そのため、解雇の前に、必ず労働者本人と面談し、理由を伝え、改善を促したり納得を求めたりといったプロセスを踏む必要があります。
このプロセスを踏むことで、解雇が社会通念上相当であると評価されやすくなります。また、事実上、労働者が解雇理由に納得して、これ以上の法的紛争を起こさないことを決断してくれるという副次的な効果もあります。したがって、後の争いに備え、解雇通知書だけでなく、解雇前後のやり取りや経緯についても、必ず記録して保存しましょう。
解雇通知書を交付する方法と注意点
次に、解雇通知書の交付に関する知識も解説しておきます。
解雇通知書の書き方や送り方、渡し方について悩むときは、自分一人で進めてしまうのではなく、事前に弁護士に相談することをお勧めします。
書面での交付が望ましい
解雇したことを証明するのは、企業側の責任です。そのため、口頭での通知だけでは不確実で、労働者側から「解雇ではなかった」「解雇とは言われてない」などと主張されるリスクがあります。このようなリスクを避けるためにも、必ず書面で通知すべきです。
書面を交付すれば、「いつ・誰に・どのような内容で通知したか」が明確になります。
また、労働者が不当解雇を主張したときに、解雇通知書に記載された解雇理由が争いの対象となります。証拠を残すために電子メールでの通知も可能ではありますが、改ざんのおそれがあるため、解雇のような重要な局面でこそ、対面または郵送で、書面を交付すべきです。
内容証明郵便で送るべき場合もある
既に労働者とトラブルになることが明らかな場合、内容証明で送ることも検討してください。
内容証明は、日本郵便が「いつ・誰に・どんな内容で」送ったかを証明する郵便方法であり、証拠としての価値を高めることができます。内容証明を使うべきケースは、例えば次の通りです。
- 労働者に不当解雇を争う意思があることが明らかである。
- 解雇理由について、労使の認識に大きな乖離がある。
- 労働者が出社を拒否している。
- 従業員との連絡が取れない。
- 懲戒解雇など、強い処分を行う予定である。
なお、解雇通知書の交付タイミングは、解雇予告期間や手当の支給日数とも関係します。内容証明で送り、「いつ到達したか」を証明できれば、解雇予告手当について考える際の役にも立ちます。
解雇通知後はトラブルに備える
解雇通知を行う際や通知後に、労働者が不服を申し立てる例は少なくありません。解雇は労働者に大きな不利益があり、紛争化は避けられないでしょう。会社側もトラブルに備え、リスクを軽減しておくべきです。
労働者側の争い方には、労働審判や訴訟のほか、労働局のあっせんや労働組合による団体交渉などがあります。いずれの手続きでも、解雇の正当性については企業側が証明する責任があるので、次のような証拠を準備しておきましょう。
- 就業規則
- 雇用契約書
- 解雇理由に該当する行為の証拠(報告書・録音・映像など)
- 面談記録・警告書・注意指導の履歴など
- 業務成績や勤務態度の客観的データ
これらの資料がないと、裁判所で「解雇は無効である」と判断されるおそれがあります。
なお、解雇のトラブルの多くは、社内ルールが曖昧だったり、運用に一貫性がなかったり、社員に納得のいく説明ができていなかったりすることが原因となっています。そのため、紛争化する前から、就業規則や人事制度を整備するなど、社内体制を見直しておくことが必要です。
解雇通知書に関するよくある質問
最後に、解雇通知書に関するよくある質問に回答しておきます。
解雇通知書を会社は拒否できる?
会社は、解雇通知書を発行する法的な義務はありません。
しかし、解雇通知書には、本解説の通り、会社側にとってのリスク軽減という重要な役割があり、「拒否する」「発行しない」という対応は、得策とはいえません。労働者側にとっても、発行してもらえないとなれば不満の種になってしまうでしょう。
また、労働基準法22条は、労働者が求める場合は解雇理由を書面で伝えることを義務付けているので、たとえ解雇通知書を交付しないとしても、従業員が要求すれば解雇理由証明書まで拒否することはできません。
解雇通知書は必ず出さなければならない?
次に、ケース別で、解雇通知書の必要性について解説します。
試用期間中の場合
試用期間中の雇用終了も、試用期間満了時の本採用拒否も、いずれも法的に「解雇」の性質を有します。したがって、会社にとって、解雇通知書を交付する必要性は、正社員の解雇と変わりません。
なお、試用期間14日以内に解雇する場合、解雇予告手当は不要です(この場合も、解雇通知まで不要となるわけではありません)。
アルバイト、契約社員など非正規の場合
アルバイトや契約社員など、非正規社員は軽視されがちですが、雇用契約を一方的に終了するなら、法的には「解雇」の性質を有します。この場合も、会社は解雇通知書を交付するのがリスク回避の策となります。
解雇通知は口頭やメールでも有効?
法律上、口頭やメールでの解雇通知も有効に成立します。
しかし、口頭の解雇通知のみだと、労働者に争われたとき、十分に証明できず、企業側の不利に働くおそれがあります。また、労働基準法22条は、労働者が求める場合に解雇理由を書面で交付することを求めており、これは口頭では代替できません。
以上のことから、実務上、解雇通知は郵送(場合によっては内容証明)で送付するのがお勧めです。先に口頭やメールで伝えても、必ず後で書面も送っておきましょう。
解雇通知書について弁護士に相談するメリットは?
解雇通知書について弁護士に相談することには、次のメリットがあります。
- 法律に基づいた適正な内容にできる
解雇は労働契約法や労働基準法の厳格なルールを遵守する必要があり、違反して不当解雇と言われないよう、弁護士のチェックを受けるのが安心です。 - 不当解雇と主張されるリスクを下げられる
曖昧な表現や不合理な解雇理由は、労働者から争われる原因となります。弁護士に相談して、裁判でも有効と認められやすい表現とすべきです。 - 紛争時の証拠として有効なものを作成する
解雇の争いでは、企業側に立証責任があります。弁護士作成の通知書なら、裁判所に認めてもらいやすい有力な資料となります。 - 労働者とのトラブルを防止できる
弁護士が関与することで通知書の内容に疑義が生じづらくなります。また、必ずしもすぐ解雇するのでなく、労働者と話し合い、退職届を提出させて自主退職としたり、合意退職としたりする方法も提案できます。 - 企業の労務リスクを軽減できる
ある社員の解雇の問題から派生して、就業規則や人事制度の見直しなど、将来の労務トラブルを予防する仕組み作りについてもアドバイスできます。
「人事労務を弁護士に依頼するメリット」の解説

まとめ

今回は、解雇通知書に関する基本的な知識を解説しました。
解雇通知書は、単なる形式的な書類ではなく、企業が労働者に誠意を示し、法的なリスクを回避するための重要な文書です。記載事項や内容が曖昧だと、「不当解雇である」と反論されて争われる危険があるので、適切な内容で作成すべきです。
解雇の場面では、労働基準法や労働契約法をはじめ、法律のルールをよく理解しなければなりません。また、不当解雇について争われた裁判例の理解も必須となります。これらの知見を踏まえた適切な内容の解雇通知書には、後の紛争を予防するという重要な効果があります。
そのため、遅くとも解雇通知書の作成の段階から、弁護士に相談することが有益です。労務に詳しい弁護士は、その社員の解雇だけでなく、組織全体の労務リスクマネジメントについても助言をすることができます。
- 解雇通知書は、企業にとって将来の法的トラブルを抑止する効果がある
- 解雇通知書の解雇理由は、客観的かつ具体的に記載すべき
- 解雇通知書について弁護士に相談すれば、不当解雇のリスクを軽減できる
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