介護現場では、多くの関係者が働いています。人が人に対して行うサービスである以上、「人的トラブル」をゼロにすることは困難です。
介護現場では、多くの人的トラブルが起こります。利用者間で起こることもあれば、介護職員間で起こっているもの、利用者のご家族と施設との間で起こっているものなど、様々な種類があります。
介護の関係者には、介護に関する多くのストレスがかかっていることから、恒常的に、人的トラブルの起きやすい状態といっても過言ではありません。
今回は、介護現場でよく起こる「人的トラブル」の対応方法を、企業法務を得意とする弁護士が解説します。
1. 介護職員間の人的トラブル
まず、介護施設とはいえ、通常の企業と何ら変わりませんから、介護職員間でもトラブルが発生するおそれがあります。
特に、介護の現場は、介護のストレスが重くのしかかることから、介護職員間でのトラブルが起きやすい状態にあります。
介護現場において、職員間のトラブルを起こしやすいのは、次のような介護職員です。
- 利用者の家族に対して、利用者の悪口をいう。
- 無断欠勤、遅刻が多い。
- 介護中の行為がだらだらと緩慢である。
- 挨拶や返事が適当である。
- いつも不平不満を言っている。
- 注意をしても改善されない。
- 指示されたこと以外に介護サービスを提供しようとしない。
- 乱暴な態度で介護を行う。
このような介護職員を見つけたら、注意が必要でしょう。
日常的に問題のある介護を行っている職員は、職員間で陰口の対象となったり、職員間の仲たがいのきっかけとなったりする可能性が高いといえます。
2. 利用者(その家族)とのトラブル
利用者、その家族といっても、その感情は様々です。家族が利用者に対して強い関心を持っている場合もあれば、そうでない場合もあります。
最近では、個人の権利が強く尊重される時代となったことから、小さな問題を放置しておくと、「モンスタークレーマー」となる例も少なくありません。
自分の要求が通らないとわかると、突然態度を変え、大声で文句を言いだしたり、弁護士に依頼して訴訟を起こしたりといったこともあります。
利用者やその家族と、介護施設との間でよくあるトラブルは、次のようなものです。
- 介護職員が、認知症患者やその家族から、窃盗を行ったと疑いをかけられる
- 介護職員が利用者にあざをつけてしまい、虐待だといわれる。
- 介護サービスの提供を拒否される。
- 介護職員が利用者からセクハラを受ける。
3. 介護職員と介護施設とのトラブル
介護施設といっても、一般企業と同様に「労働問題」が起こります。
労働基準法などの労働法を守って、適切に経営を行わなければなりません。
介護職員と、介護施設との間でよくあるトラブルは、次のようなものです。
- 介護職員に対して残業代が支払われていない。
- 介護職員に対して上司がセクハラ、パワハラを行う。
- 介護職員を、合理的な理由なく不当に解雇する。
この介護職員と事業者とのトラブルは、「労働問題」であり、一般的な労働問題と同様、人材の管理、育成が重要となります。
4. 利用者間のトラブル
介護施設の利用者は、同じ空間を長時間共有することとなります。介護施設の利用者にもいろいろな人がいて、人間関係ですから、どうしても合う、合わないという問題が発生してきます。
介護施設の利用者は、もともと友人なわけではありません。たまたま同時期に介護施設に入所したというだけで、その背景は人によって様々です。
したがって、長時間同じ空間で過ごせば、当然ながらトラブルも発生しがちです。
特に、認知症の利用者は、理性が低下し、不快感を感じやすくなります。妄想から、他の利用者に対して攻撃的になるケースも少なくありません。
介護現場における、利用者間のトラブルの典型的なケースは、次のようなものです。
- 介護職員の対応が、他の利用者よりも悪い対応である。
- 自分に対する介護が、他の人より雑である。
- 同じ料金を支払っているのにサービス内容にえこひいきがある。
- 他の利用者の話し声が大きい。
- 他の利用者が派閥から仲間はずれにしてくる。
- 他の利用者の食べ方が汚くて不快である。
5. 個人情報漏えいのトラブル
大きく分けると介護職員と利用者との間の問題に分類される重要なトラブルとして、個人情報漏えいについてのトラブルがあります。
特に、「マイナンバー制度」がはじまった現在において、利用者の個人情報が流出すると、厳しい責任を問われることとなります。
法的責任だけでなく、事業者の信用が失墜すれば、経営に大きな影響を与えることとなります。
介護施設では、特に重要な個人情報が取り扱われます。特に取扱いに注意すべきセンシティブな情報として、次のものには細心の注意が必要です。
- 利用者の介護度に関する情報
- 利用者の病歴に関する情報
- 利用者の家族の収入に関する情報
介護福祉士が個人情報を漏えいした場合、介護福祉士法により「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」となります。
更に、利用契約という準委任契約において、「秘密保持義務」を負っていると考えるのが通常ですから、この義務の違反として「損害賠償請求」をされるおそれがあります。
利用者の個人情報を漏えいしないための対策として、次のことを十分注意するようにしてください。
- 個人情報を記載した書類を、施錠できる保管場所に保管する。
- ファックス・メールの誤送信に注意する。
- セキュリティソフトの入ったPCを利用する。
- USBなど外部メモリによる個人情報の持ち出しを行わない。
- 個人情報を含む会話は、個室で行う。
- 他の利用者やその家族がいるところで個人情報を含む会話をしない。
- 施設外で利用者に関する会話をしない。
そして、介護施設を運営する事業者は、これらの対策について、介護職員に対して、適切な教育、指導を行わなければなりません。
6. まとめ
以上、今回は、介護施設内で起こり得るトラブルのうち、特に発生頻度の高い、人的要因に起因するトラブルについて解説しました。
介護施設を運営するにあたっては、利用者(とその家族)、介護職員、介護事業者という、それぞれ利害の相反する多くの関係者の調整を行わなければなりません。
そのため、人的トラブルを最小限に抑えることは容易ではなく、平時からの十分な準備、教育と指導が重要となります。介護にまつわるトラブルを処理した経験の豊富な弁護士に相談するのが近道でしょう。