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誤嚥で死亡したら介護ミス?誤嚥性肺炎を起こした介護施設の責任を解説

介護施設を利用する高齢者は、加齢で喉の力が衰えています。そのため、食べ物を詰まらせる、いわゆる「誤嚥」による事故がよく起こります。

誤嚥事故は、誤って飲み込む事故のことです。食べ物ではないのに飲み込んだり、気管に入ったり、大きな食べ物を喉に詰まらせたりする事故は、介護施設では少なくありません。

介護施設で起こる誤嚥事故の特徴は、死亡の危険性が高いことです。誤嚥によって気管が詰まると、誤嚥性肺炎の原因となり、最悪は窒息死してしまいます。誤嚥の危険は、高齢になるほど高まります。介護施設における死因の中でも、肺炎の死亡率は高く、その多くは誤嚥によるものです。

誤嚥で死亡すると、介護施設は、遺族から責任追及を受ける危険があります。しかし、誤嚥での死亡は、直ちに介護ミスとは言い切れません。誤嚥性肺炎について介護施設がどれほどの責任を負うか、検討する必要があります。

今回は、誤嚥で死亡する事故が起こったときの介護施設の責任について、企業法務に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 介護施設では誤嚥がよく起こる。死亡などの重大な事故を防ぐ努力が必要
  • 誤嚥が死亡事故に発展してしまったら、原因によっては介護ミスの可能性あり
  • 誤嚥による死亡が介護ミスのとき、遺族から慰謝料請求されるおそれ

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誤嚥で死亡したら介護ミスになるか

介護施設でよく起こる「誤嚥」は、施設利用者の身体的な問題に起因するケースが多いです。高齢になると飲み込む力が弱ったり、誤って気管に入るのを防ぐ「飲み込み反射」に障害があったりする人も少なくないからです。

そのため、誤嚥事故で死亡したからといって、全て介護ミスとは限りません。

とはいえ、誤嚥がよく起こるのは、介護施設なら理解できるはずです。

日常的な予防策は当然のことで、万が一の事故が発生したときに適切な対処をせず、利用者を死亡させたなら、介護ミスの責任を認められる可能性があります。

深刻な誤嚥事故では、利用者が死亡する危険が高く、遺族から請求される損害賠償も高額になります。

利用者が誤嚥による介護ミスで死亡したと報道されれば、施設の信用は低下し、業績不振に陥る危険もあります。

誤嚥は、重大な事故に発展する危険があります。気道に物をつまらせる窒息、誤嚥性肺炎といった生命の危機に繋がるからです。

誤嚥の事故が起こり、介護施設の法的責任が争われたケースでは、その責任を肯定した裁判例、否定した裁判例のいずれも存在します。法的責任を否定した裁判例では、介護施設側でも、平時の誤嚥事故の予防策が徹底されていたことが事情として挙げられている例が多いです。

誤嚥事故で慰謝料を請求されるケース

不幸にも誤嚥事故が起こり、利用者が死亡したとき、それが介護ミスに基づくものなら、遺族から責任を追及されてしまいます。その方法が、不法行為(民法709条)に基づく慰謝料請求です。

不法行為に基づく慰謝料請求は、損害賠償請求のうち、精神的な苦痛を補填するための被害回復の手段です。利用者や、その家族が負った心の痛みを、金銭的に評価して請求することを意味します。

請求できる損害額は、負った被害の重さに応じて増減します。したがって、利用者が死亡した誤嚥事故では、賠償額は非常に高額になってしまいます。

不法行為の責任が認められるには、故意または過失が必要とされます。

わざと誤嚥事故を起こす施設はないでしょうが、不注意があると「過失」が認められます。介護施設の利用者は、加齢によって誤嚥を起こしやすい身体的要因を備えています。食事介助には十分な注意を要するのが当然で、介護施設の過失が認められやすい状況といえます。

次章の通り、誤嚥について、介護ミスとして法的責任を認めた裁判例において、どのような点を介護施設の過失であると認定しているかを理解し、予防策を講じる必要があります。

誤嚥の責任について判断した裁判例

誤嚥について介護施設の法的責任が認められるか、裁判例の考え方を理解してください。

誤嚥で死亡する介護ミスで、遺族から責任追及されたとき、両者の主張が食い違うと交渉では解決できません。このとき、遺族が責任追及を諦めなければ訴訟に発展します。誤嚥の責任が明らかではないとき、互いに証拠を提出し、裁判所に判断してもらう必要があります。

死亡事故で請求される慰謝料は高額なので、介護施設としても、直ちに責任を認めるわけにはいかないでしょう。客観的な証拠をもとに調査し、責任を否定するに至ったケースほど、対立が激化し、訴訟になりやすいです。

引継ぎ違反で誤嚥事故を起こした例

病院から介護施設に運ばれたケースでは、医師からの引き継ぎ事項に十分注意すべきです。医師の指示に従わず、不用意な食事介助をしたことで誤嚥を起こさせたら、介護ミスの責任を追及されても仕方ありません。

大阪高裁平成25年5月22日判決は、ポリープ除去手術を受け、退院まで全ての食事をお粥にしていた利用者が、退院後に介護施設に入所し、誤嚥を起こした事案です。

嘔吐や誤嚥の可能性があると引き継ぎを受けたのに、4回の食事で症状が出なかったために朝食にロールパンを配膳し、誤嚥により昏睡状態となり、死亡させてしまいました。

第一審は、誤嚥の予測可能性がないとして過失を否定しましたが、控訴審は一転し、介護施設の責任を認め、310万円の損害賠償の支払を命じました。

4回の食事で誤嚥がなかったとしても、いきなり誤嚥しやすい食材を一人で食べさせるのは不注意であり、避けるべきだったといえます。

咀嚼しづらい食事が誤嚥事故を招いた例

咀嚼しづらい食事は誤嚥の危険性を高めるので、介護ミスと判断されるおそれがあります。

水戸地裁平成23年6月16日判決は、パーキンソン症候群が進行して通常食をとれない利用者に、家族への相談なく、摂取状態が良好であったことや本人の希望などにより、刺し身を食べさせ、誤嚥事故を起こした事案です。

その結果、刺し身を喉に詰まらせ、意識が回復せずに死亡させてしまいました。裁判所は、介護施設に対して、2,204万円の損害賠償の支払を命じました。

刺し身は、通常の人なら喉に詰まらせることはないでしょう。しかし、パーキンソン症候群が進行して、通常食のとれない状態にあった利用者にとっては、咀嚼しづらく、誤嚥しやすい食事です。

本事案は、利用者本人の意向を介護施設が尊重した結果、不幸な死亡事故になりました。

本人の意向は、希望や期待が多分に含まれ、全て受け入れるわけにはいきません。認知症などで判断能力が低下した人ほど、食事の方針を変更する際は、事前に家族に相談すべきです。

誤嚥による介護ミスの責任を回避する対策

最後に、介護施設が誤嚥事故による責任を追及されないための対策を解説します。

誤嚥について過失があると判断されると、責任を認められてしまいます。裁判例を参考に予防策を徹底することが、介護施設を守るために重要なポイントです。

誤嚥が起こりにくい食事を提供する

まず、誤嚥しにくい食材を提供するよう心がけましょう。

利用者の状態や症状によっても異なるため、判断に迷うときには医師のアドバイス受けるようにしてください。一般に、次の食材には注意を要します。

  • のどにへばりつきやすい(例:海苔)
  • 粘り気が強い(例:餅、白玉団子、こんにゃくゼリー、ガム)
  • 噛み切りづらい(例:タコ)
  • 水分がなくパサつく(例:パン)

調理方法にも配慮が必要となります。喉に詰まらないよう細かく切る、固形物はペーストにするなどの対策を講じてください。

食材や調理方法への配慮が足らないと、誤嚥によって死亡事故が起こったとき、介護ミスとして責任を認められる可能性が高まります。

食事介助の際によく観察する

食事のときには頻繁に見回るなどの方法により、利用者の状況をよく観察してください。食事介助をするときは、その際の利用者の反応を観察することで、誤嚥のリスクを減らせます。

むせたり、咳や痰が見られたり、食事を飲み込めずに嘔吐する場合、誤嚥の前兆です。一人で食事をさせず、放置しないよう注意してください。

前兆があり、予測可能であったにもかかわらず誤嚥事故を起こせば、介護施設の責任が認められやすくなってしまいます。

家族や病院と連携する

病院から「誤嚥を起こしやすい」と引き継ぎされたのに配慮せず、死亡事故を起こしたケースは、裁判例でも介護施設の重い責任を認めました(前述「引継ぎ違反で誤嚥事故を起こした例」)。

このことから分かる通り、医師による医学的な判断は、十分尊重して対応する必要があります。また、誤嚥事故の予測が可能だった場合は、介護施設の責任は重く評価されます。

施設に初めて入所する利用者に対し、誤嚥事故を回避するため、次の点を入念に確認してください(本人だけでなく、介護を担当した家族のヒアリングで明らかになることもあります)。

  • 過去に誤嚥を起こしたことがあるか。
  • 誤嚥を起こしやすい病気にかかっているか。
  • 咳や痰、むせる、嘔吐といった症状があるか。

介護情報を記録する

誤嚥事故の前兆となる症状があったときは、他のスタッフにも共有する必要があります。

情報共有のためにも、介護情報を記録し、証拠化しておくことが重要です。介護情報の記録は、誤嚥事故の予防に役立つだけでなく、いざ死亡事故などの深刻な事態に陥ったとき、介護施設が対策を怠らなかったことを証明するのにも活用できます。

通所と訪問など、複数の介護サービスを利用していると、複数のスタッフが交代で担当することがあります。小さな変化を見逃さないためにも、情報共有が欠かせません。

誤嚥事故を予防する体制を整備する

誤嚥は、利用者の身体的な要因や、加齢から来るもので、全く起こらないようにはできません。そのため、いざ誤嚥が起こっても大きな事故に発展しないよう、体制を整備することが大切です。

介護施設では、誤嚥による死亡事故を防止するため、次の予防策を平時から講じるべきです。

  • 救命措置についてスタッフに講習を受けさせる。
  • 誤嚥の応急措置について教育する。
  • AEDを設置する。
  • 食べやすく調理する。
  • 誤って飲み込みやすい細かい物を片付ける。

予防体制が不十分で、誤嚥による死亡を防げなかったときには、介護ミスとして責任を追及されても仕方ありません。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、誤嚥による事故が起こったとき、介護施設が負う法的な責任について解説しました。

介護施設の利用者が誤嚥で死亡すると、介護ミスがあったかが争点になります。遺族側としては介護ミスを主張し、責任追及をするでしょうが、介護施設側が責任を否定するためには、誤嚥事故が起きた状況や要因などを究明する必要があります。

利用者が高齢である介護施設では、誤嚥による事故は避けられません。

誤嚥が起こっても、必ず死亡するわけではなく、発生頻度の高さから甘く見られがちです。しかし、対策なく、不用意な食事介助によって誤嚥を起こし、死亡事故に発展させてしまえば、介護ミスと言わざるを得ません。

誤嚥について、介護施設の法的責任を判断した裁判例を参考に、万一の事故に備えた準備を徹底しなければなりません。

この解説のポイント
  • 介護施設では誤嚥がよく起こる。死亡などの重大な事故を防ぐ努力が必要
  • 誤嚥が死亡事故に発展してしまったら、原因によっては介護ミスの可能性あり
  • 誤嚥による死亡が介護ミスのとき、遺族から慰謝料請求されるおそれ

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