倒産には様々な理由があります。不況や自然災害、社会情勢の変化など、努力しても避け難い事情がある一方、経営者の不手際や不祥事、判断ミスなど、「社長に責任があるのでは」と疑問を抱かれるケースも少なくありません。
実際に、倒産による不利益を被った取引先などの社外の関係者、社内の役員や従業員から、社長の経営責任を追及する声が上がるケースもあります。会社を倒産させるのは社長としても苦渋の選択なのは間違いないでしょう。法人とその代表者個人は、別の法人格ですが、破産の場面では、連帯保証人としての責任、損害賠償責任などを負うことがあります。
責任が生じる可能性があるからこそ、破産後に社長自身や役員、従業員の生活がどうなるのか、不安を抱く方も多いのではないでしょうか。
今回は、会社が倒産した際に社長が負う責任について、企業法務に強い弁護士が解説します。
- 法人と個人は別人格なので、会社が倒産しても社長の責任は無いのが原則
- 破産法上、例外的に、会社の倒産に対して社長が責任を負うケースがある
- 破産時の連帯保証人の責任を免れるには、社長個人の債務整理も必要
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会社が倒産しても社長は責任を負わないのが原則
会社が倒産しても、経営者(社長、会長、理事長など)が個人的に責任を負うことは、原則としてありません。
株式会社をはじめとする法人は、法律上「法人格」を持つ独立した存在です。
つまり、経営者個人とは区別され、会社と経営者は法的に別の存在として扱われます。そのため、会社が倒産しても、社長個人には責任が及ばないのが基本的なルールです。
法人の債務が経営者に引き継がれることはなく、破産手続きが終了して法人格が消滅すれば、その債務も消滅します。そのため、経営者本人はもちろん、社員や役員、その家族が債務の返済を求められることもありません。
そもそも、経営に「絶対の正解」はありません。
事業は常にリスクを伴うため、経営者には一定の裁量が認められます。たとえ判断の結果として会社が倒産に追い込まれたとしても、それだけで経営者個人が責任を問われるわけではありません。むしろ、全責任を負わされるのでは、萎縮して、冷静な判断ができないでしょう。
裁判例も「経営判断の原則」を採用し、経営判断の過程や内容が著しく不合理でなければ、結果的に会社に損失を与えたとしても経営者が賠償責任を負うことはないとして、役員の責任を限定的に解釈しています。
例外的に社長が倒産の責任を負う場合
会社が倒産しても、社長など経営者個人が法的責任を負うことは原則としてありません。
しかし、どのような場合でも一切の責任を負わないわけではなく、一定の条件を満たすと、個人としての責任を問われることがあります。企業規模が小さいほど、会社の破産と同時に、社長個人が自己破産せざるを得ないケースも少なくありません。
以下では、社長が個人的な責任を負う代表的なケースについて解説します。
連帯保証人としての責任を負う場合
例外的に社長が倒産の責任を負うケースの1つ目は、連帯保証人となっている場合です。
社長が会社の債務に対して連帯保証人となっていると、会社が破産しても保証債務は残ります。銀行からの融資、リース契約、取引先との信用取引などでは、社長が連帯保証を求められることは少なくありません。特に中小企業では、経営者の連帯保証が当然視される場面もあります。
連帯保証人には次の特徴があり、非常に重い責任を負います。
- 会社の債務を連帯して返済する責任が生じる。
- 会社が破産しても、保証債務は消えない。
- 債務の一括返済を求められることがある(期限の利益喪失)。
- 「まず主債務者に請求してほしい」と主張できない(催告の抗弁がない)。
- 「主債務者の資産を先に調べてほしい」と主張できない(検索の抗弁がない)。
連帯保証人は、主債務者(会社)の債務を「身代わり」として負担する立場なので、会社の破産に伴い、社長も自己破産を余儀なくされるケースが多く見られます。たとえ事業継続に必要だとしても、連帯保証人になるときは注意を要します。
社長個人が自己所有の不動産に抵当権を設定し、担保として提供している場合(いわゆる「物上保証人」)も同じく、会社が破産すると不動産を失うリスクがあります。担保不動産を一旦売却し、不動産会社から借り受ける「リースバック」などの対策を検討することも重要です。
経営責任を問われる場合
例外的に社長が倒産の責任を負うケースの2つ目は、経営責任を問われる場合です。
社長などの経営陣は、会社との間で「委任契約」を締結し、会社に対して善管注意義務、忠実義務を負います。これらの義務は、法令や定款を遵守し、会社の利益に資するよう誠実かつ注意深く職務を遂行することを内容とします。倒産の原因が、明らかに不適切な経営判断や法令違反の場合、経営者は任務懈怠として、会社に対する損害賠償責任を負う可能性があります。
会社法423条は、役員等の任務懈怠の責任を定めています。
会社法423条(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)
1. 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この章において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(2項〜4項 略)
会社法(e-Gov法令検索)
ただし、裁判例では「経営判断の原則」が確立されており、判断の過程や内容が合理的であれば、結果として損失が生じた場合でも、直ちに責任を問われることはありません。経営判断には一定の裁量があり、失敗したとしても経営者が全ての責任を負うわけではなく、責任を問われるのは、法令違反を故意に犯した場合や、重大な過失がある場合に限られます。
なお、社長だけでなく他の取締役などの役員も、職務執行を監視する義務を負っており、自身の問題行為による場合でなくとも、監視義務違反として賠償請求を受けるおそれがあります。会社が破産しても、役員などに対する損害賠償請求権は換価可能な財産として、破産管財人に管理処分権が移行し、裁判によって請求されることとなります。
第三者への損害賠償責任を負う場合
例外的に社長が倒産の責任を負うケースの3つ目は、第三者への賠償責任です。
破産による取引先や顧客の損害は避けられませんが、会社とは別の法人格である社長個人は、その責任を負わないのが原則です。しかし、悪質な行為により損失を与えた場合にまで責任を免除するのは不適切であり、経営者が故意または重過失によって第三者に損害を与えた場合、その第三者に対する損害賠償責任を負います。
会社法429条は、役員等の第三者に対する損害賠償責任を定めています。
会社法429条(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
1. 役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
(2項 略)
会社法(e-Gov法令検索)
この規定が適用される例としては、次のケースが挙げられます。
- 明らかに倒産が避けられない状況で、新たな契約を結んだ。
- 会社資産を私的に流用した。
- 少し調査すれば回避できた重大なミスを犯した。
「悪意又は重大な過失」が要件となるため、単なる過失(軽過失)によって損害を与えた場合には賠償責任を負いません。
財産散逸防止義務に違反した場合
例外的に社長が倒産の責任を負うケースの4つ目は、財産散逸防止義務違反の場合です。
破産直前に、社長が会社の財産を不適切に処分した場合、財産散逸防止義務違反として、損害賠償責任を問われることがあります。社長をはじめとした役員は、債権者保護のため、破産直前には法人の財産を管理、保全し、散逸しないよう配慮すべき義務があるからです。
例えば、以下の行為が該当します。
- 支払不能となった後に一部の取引先にのみ返済を行った(偏頗弁済)。
- 一部の顧客にのみ商品を引き渡した。
- 倒産前に社長の家族名義に資産を移した。
社長が義務に違反して会社の財産を減らした場合はもちろん、他の役員が監視を怠った場合にも責任を負う可能性があります。
この場合、破産手続における公正を損ねるため、破産管財人から損害賠償請求を受ける可能性があり、また、免責不許可事由に該当するリスクもあります。
社長が会社からの借入金を返済する場合
例外的に社長が倒産の責任を負うケースの5つ目は、会社からの借入金の返済です。
社長が会社から金銭を借りているケースもあります。特にオーナー企業や家族経営の会社だと、法人と個人の境目が曖昧で、内部での金銭のやり取りがよく起こります。
この場合、社長をはじめとした経営者は、破産時に、会社から借り入れた金銭を返済すべき義務を負います。倒産せざるを得ない会社の側から見れば、社長などに対する貸付は財産的価値を有する債権であり、法人の資産として扱われます。そのため、破産手続において破産管財人から貸金返還請求を受け、返済する責任を負います。
破産管財人に否認権を行使された場合
例外的に社長が倒産の責任を負うケースの6つ目は、管財人による否認権行使です。
破産手続が開始されると、裁判所の選任した破産管財人が財産を管理、処分し、債権者に配当します。管財人は、破産手続開始決定前にされた不公正な取引(会社財産を減少させる行為、特定の債権者に対する偏頗弁済など)を、否認権を行使して取り消すことができます。
否認される可能性のある行為には、以下のケースがあります。
- 破産直前に、法人の財産を社長個人名義に移し替えた。
- 破産直前に役員報酬を不自然に引き上げた。
これらの場合、否認権を行使されると、社長は不当に得た財産や金銭を返還しなければなりません。財産隠しをすれば、最悪は免責が認められなくなるおそれもあります。
刑事責任を問われる場合
例外的に社長が倒産の責任を負うケースの7つ目は、刑事責任を問われる場合です。
以上の責任はいずれも「民事責任」ですが、場合によっては、倒産の際に社長をはじめとした経営者が刑事責任を問われる例もあります。刑事責任は、刑罰を科されるため、民事責任よりも重大であり、犯罪に該当することを意味します。
代表的な例としては以下の犯罪が挙げられます。
刑事責任は極めて重大であり、慎重な行動が求められます。
個人責任を負う社長が取るべき適切な対応
ここまで、会社が倒産した際の社長の責任を、原則と例外を解説しました。
原則として、法人と経営者個人は別人格なので、倒産しても個人責任はありませんが、連帯保証や法令に違反した経営判断など、一定の場合は社長個人が責任を負います。
これらの例外的なケースでも、再出発を見据え、できる限り責任を軽減し、生活基盤を守ることが大切です。最後に、個人責任を負う社長が取るべき対応について解説します。
責任ある債務は可能な範囲で履行する
まず、連帯保証債務など、経営者個人に法的責任がある債務は、支払能力があるなら誠実に履行することが基本となります。例えば、会社の借入金に連帯保証しており、社長の個人資産で返済可能なら、その債務を支払うことで債権者の追及を免れるべきです。
ただし、一括での返済が難しい場合、「任意整理」により、以下のような条件交渉が可能です。
- 債務の一部減額
- 将来利息の免除
- 返済期間の延長
弁護士を通じて債権者との交渉を行うことで、現実的な返済計画を立てることができ、無理のない形で債務整理を進めることが可能です。
個人再生を利用する
個人再生は、民事再生手続きの個人版であり、一定の収入のある個人が、裁判所の認可を受けて債務を大幅に減額し、3年〜5年かけて分割返済する制度です。再生計画が認可されれば、債務総額は5分の1程度に減額され、再生計画に基づいて返済を完了すれば、残りの債務は免除されます。
自己破産との違いは、「住宅資金特別条項(住宅ローン特別条項)」を利用することで、所有する住宅などを手放さずに債務を整理できる点です。自宅を守りながら再建を目指す経営者にとって、有力な選択肢となります。ただし、安定した収入が継続的に見込めることが条件なので、再生計画の実現可能性が求められます。
自己破産を選択する
破産に伴い、社長個人が多額の債務を抱える場合、自己破産を選択するケースもあります。
会社を延命させようとして、資金繰りを維持するために個人のクレジットカードや借入に頼っていた場合など、個人資産でも返済が困難な状況に陥ると、破産手続きによって免責を受けるしか現実的な対応策がないこともあります。
自己破産の申立て後、裁判所から免責決定が下れば、対象となる債務の返済義務は免除されます。会社と社長の破産を同時に申し立てることで、同一の破産管財人が選任され、手続費用や対応が効率化されるメリットもあります。
なお、免責が許可されないケース(免責不許可事由)もあるため、事前に弁護士へ相談し、手続きの見通しや注意点を確認することが重要です。
「自己破産前にやってはいけないこと」の解説

まとめ

今回は、会社が倒産した際の社長の責任や、今後の生活への影響を解説しました。
業績悪化は、どのような企業にも起こり得ることです。企業経営が思うようにいかず、破産を検討する状況においても、経営者個人が法的責任を問われるのは、実際には例外的です。
とはいえ、特にベンチャーやスタートアップ、中小企業では、法人の債務を社長が個人保証していることも多く、この場合、破産時に社長が連帯保証人として責任を負うため、代表者個人の資産にも影響が及んでしまいます。リスクを少しでも軽減し、破産後の生活を支障なく送れるようにするには、倒産前に、十分な準備と情報収集をしなければなりません。
破産を検討している経営者の方は、自身の個人責任の有無や今後の対応についても、早めに弁護士へ相談しておくのがお勧めです。
- 法人と個人は別人格なので、会社が倒産しても社長の責任は無いのが原則
- 破産法上、例外的に、会社の倒産に対して社長が責任を負うケースがある
- 破産時の連帯保証人の責任を免れるには、社長個人の債務整理も必要
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