介護で後悔しないためには、よく起こるトラブルと対処法を知るべきです。
高齢化が進み、「介護」は誰しも避けて通れない身近な問題となりました。一方で、親の介護をめぐって家族間で意見が食い違ったり、訪問介護や施設のサービスに不満を感じたりと、様々な介護トラブルが発生しています。
「兄弟と介護の分担で揉めた」「施設に預けた親がケガしたのに説明がない」など、悩みを抱える家族は少なくありません。介護トラブルを機に、法的な争いに発展するケースもあります。
今回は、実際に起こったトラブル事例をもとに、介護トラブルの種類や背景、その際に取るべき対応について、弁護士が解説します。
- 介護トラブルは、関連する当事者(家族・親族)や施設との間で起こる
- 介護トラブルを迅速に解決するには、証拠の保存がポイントとなる
- 家族間の介護トラブルほど感情的にならないよう、弁護士の力を借りる
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よくある介護トラブル
まず、よくある介護トラブルについて、3つに分類して解説します。
介護施設とのトラブル
介護のために施設や訪問介護を利用する際、その事業者との間でトラブルに発展する事例があります。介護施設とのトラブルは、利用者本人だけでなく、その家族にも影響します。
例えば、次のようなケースが典型例です。
サービスの質に関するトラブル
施設職員による暴言や身体的な虐待、必要な介護が提供されない「放置」などは、よく問題となります。事故や体調悪化を家族に十分報告していなかったり、医療措置が不十分であったりといった説明不足から生じるトラブルも少なくありません。
料金トラブル
介護に関するサービスは決して安価ではなく、多くの費目があって請求内容は複雑になりがちです。利用者の理解が不十分であったり、事前に説明なく追加費用を請求したりすると、利用者と施設の間の信頼関係は崩れてしまいます。
契約・解約時のトラブル
契約内容をしっかり確認せずに入所し、後でトラブルになる例もあります。
退所の際に違約金が発生したり、預けた金銭や私物が返還されなかったりするとトラブルに発展します。入所時に交付された契約書や重要事項説明書を保管し、読み返しておくことが大切です。
家族間・親族間での介護トラブル
介護は家族や親族の協力が不可欠ですが、現実には「誰がどれだけ負担するか」で衝突することが多く、感情的な対立が起こりがちです。
例えば、次のような事例が見受けられます。
介護の分担を巡る争い
親族間で、介護の負担を押し付け合っているケースがあります。
例えば、近隣の親族が日常の細かな面倒を見ている一方で、遠方の親族が何も負担を負っていないと、不公平感からトラブルに発展しがちです。
働き方や性別によって介護の負担が偏る傾向があるのも問題です。特に、長男の妻が同居し、義両親の介護を全て押し付けられる状況だと、不満が爆発することが多いです。
金銭負担の不公平感
施設の利用料や訪問介護の費用などを誰が負担するかで揉めることも多く、「金は出さないが口は出す」といった親族がいると大きなトラブルになります。
親の介護のための支出の裏返しとして、「親の資産を誰がどのように管理するか」は、相続トラブルの火種にもなります。例えば、親の預金から介護費用を出していたのが、相続時に他の親族から「使い込みだ」と指摘されるケースがあります。
訪問介護におけるトラブル
在宅介護を支える訪問介護サービスは非常に重要ですが、利用者宅という閉鎖的な環境で行われるため、トラブルが起きても表面化しにくいという課題があります。
訪問介護を巡るトラブルの具体例は、次の通りです。
私物の紛失や金銭の盗難
介護職員の訪問後に、「財布がない」「指輪がなくなった」といった事態が起こると、職員に対する疑念が生じるでしょう。防犯カメラなど、窃盗の証拠がない限り立証が難しく、トラブル解決は困難です。事前の対策として、貴重品は家族が管理し、定期的に確認する体制を整えましょう。
態度や言葉のトラブル
訪問介護職員の言動に対し、利用者や家族が不快感を持つケースもあります。精神的に不安定な高齢者や、介護の負担で疲れ切った親族の場合、些細な言葉がストレスとなることも多いです。利用者が認知症だと、更に問題は複雑です。
連絡ミスや記録の不備
訪問介護では、職員の交代も多く、引き継ぎが不十分なままサービス提供されることがあります。食事・服薬・トイレ介助などの情報が伝わっていない場面も見受けられます。
介護の現場における具体的なトラブル事例
介護トラブルは表面化しにくく、発生しても我慢してしまう人も多くいます。以下では、介護の現場で実際に起きているトラブル事例について解説します。
施設入所中の母が骨折したが説明が不十分だったケース
第一に、施設と利用者家族とのトラブル事例です。
認知症を患う80代の母が特別養護老人ホームに入所していたところ、深夜に転倒して大腿骨を骨折しました。翌朝になって家族に連絡がありましたが、既に救急搬送された後でした。
家族としては「なぜ転倒が起きたのか」「夜間の見守り体制は適切だったのか」など、詳細は説明を求めましたが、施設からは「適切な見守りを行っていた」としか回答がありませんでした。
介護施設の説明が曖昧だったり、報告書が簡素だったりすることで、利用者家族の納得を得られずトラブルが拡大するケースは少なくありません。家族として「隠蔽ではないか」という強い不信感を抱く気持ちも理解できます。
このようなケースでは、利用者家族が弁護士に相談し、弁護士から事故発生時の記録開示を求めるのがよくある流れです。施設側も、適切に対処するには顧問弁護士に依頼し、介護記録・ヒヤリハット報告書・監視カメラ映像などを調査し、正確な説明(必要な場合には謝罪)を行った上で、再発防止策を検討するべきです。
責任追及の段階に進む場合、交渉や訴訟で、慰謝料などの損害賠償請求が行われます。
兄が介護を拒否し、妹一人に負担が集中した家族間トラブル
第二に、家族間で起こる負担の押し付け合いのトラブルの例です。
高齢の父親の介護が必要となった際、近くに住む妹が一手に引き受けていました。
兄は遠方にいることを理由に非協力的な姿勢を取り続け、度重なる協力の要請にも、「妹が勝手にやっているだけだ」「父から小遣いをもらっているからいいだろう」などと言い訳して拒絶し、家族内のストレスは限界に達しました。
更に、親の資産をどのように使うかという問題も加わり、妹は家族会議を提案し、介護方針と費用負担について大きな揉め事に発展しました。
この種の事例では、親の資産管理を巡って対立が激化することが多いです。
言い分がかけ離れていると、任意後見や成年後見制度、親の財産の使途や今後の介護方針、更には、死亡後の相続の問題や、それに備えた相続対策(遺言作成など)にも拡大します。将来の生活設計にもかかわるので、協議や調停の結果として一定の結論が出た際には、たとえ親族だとしても、合意書や覚書などの書面を作成し、証拠に残しておくようにしてください。
訪問介護職員による金銭トラブル
第三に、訪問介護職員と家族の間の金銭トラブルの具体例です。
在宅で介護を受けていた90代の女性が、「お金がなくなった」と家族に話し、確認したところ、財布から1万円が消えていたことが判明しました。訪問介護職員以外には、家へ出入りした人物がいなかったことから、家族は疑いを持ちました。
その後も紛失が数回起きたため、家族は訪問時間と金銭の出入りを記録し、財布の中身を写真で残すなどの証拠収集を徹底し、その結果、職員の盗難が判明しました。
介護職員による行為について、介護施設もまたその責任を負います(介護事業者との間の契約上の責任、もしくは、不法行為の使用者責任)。したがって、利用者家族としては、問題が発覚したら、まずは介護事業者に報告し、対応を要求すべきです。
介護事業者は、クレームや苦情を受け付けたら、事実関係を調査し、問題が発覚した職員の入れ替えや懲戒処分、解雇といった社内の扱い、一定の証拠がある場合は警察への通報といった対応をします。利用者に対しては、謝罪と被害額の返還を検討してください。
「企業の不祥事における対応」の解説

介護トラブルを未然に防ぐための対策
次に、介護トラブルの予防策について解説します。
介護に関するトラブルは、下手をすれば利用者の生命や健康に関わるため、起きてから対応するのではなく、起きる前に防ぐことが何より重要です。
契約書・重要事項説明書を丁寧に確認する
施設と利用者・家族とのトラブルは、入所時のチェックを徹底することで回避できます。
介護施設に入所する際は、契約書や重要事項説明書の内容を読み合わせして、よく確認してください。施設の運営方針、利用料金、提供されるサービスの範囲、医療との連携体制、緊急時の対応方法などについて、互いの理解に齟齬がないようにしておきましょう。
特に、費用について、利用料金の内訳と追加費用の有無に争いが生じないようにしてください。契約の終了時が最もトラブルの多いタイミングなので、入退所の条件や、退所時の違約金の有無についても説明を徹底すべきです。
利用者側では、内容が不明確だったり、理解しづらい専門用語があったりするなら、そのまま署名せず、納得いくまで説明を求めましょう。説明を渋るような施設は、後にトラブルとなる可能性が高いです。場合によってはその場でサインするのではなく、書面を持ち帰って家族で検討する時間を確保するのもよいでしょう。
家族間で定期的な話し合いを実施する
家族・親族間のトラブルは、コミュニケーションの不足が原因であることが多いです。
介護の分担が曖昧なまま進めると不公平感が積もり、感情的な対立が起きやすくなります。たとえ親が元気なうちでも、「将来的に介護が必要になったとき、兄弟間でどう協力するか」など、家族で定期的に話し合いの機会を持つことが大切です。
特に、誰が主たる介護者(キーパーソン)か、金銭的な負担をどうするか、という点は、必ず決めておきましょう。まだ紛争化する前であれば、不公平感を解消するために十分にコミュニケーションを取り、納得のいく妥協点を見出すことができます。元気なうちに話しておけば、当事者である親の意思を尊重することも可能です。
話し合いでまとまった事項は、言った・言わないの水掛け論にならないよう、書面に残して証拠化しておきましょう。
法的トラブルを見越して準備する
介護を巡るトラブルは、法的トラブルに発展する可能性があります。
親が認知症などで判断能力が低下している場合、一部の家族だけで介護費用を支出したり、財産を管理したりするのはトラブルの元です。この場合、成年後見制度の活用を検討しましょう。家庭裁判所に選任された成年後見人には、財産管理・契約行為を行う代理権が与えられます。
まだ親が元気なうちなら、将来に備えた法的準備として、任意後見契約を交わしたり、遺言を作成して相続内容を明確にしておいたりといった対策も検討してください。
介護トラブルに発展したときの対応法
最後に、介護トラブルに発展したときの対処法について解説します。
介護に関するトラブルは、放置するとますます状況が悪化し、解決が困難になります。感情的になりすぎず、適切なステップを踏めば、冷静に解決へと導くことが可能です。
事実を調査して記録を保存する
まずは冷静になり、できる限り客観的な事実の把握に努めましょう。
介護トラブルは「家族の問題」という側面が強く、発生した直後は、怒りや悲しみといった強い感情が生じやすいです。しかし、そのまま相手にぶつけては、建設的な解決にならなくなります。
介護施設や訪問介護の事業者は、ビジネスで行っているため、冷静に要求をまとめ、書面で伝えるのがお勧めです。親族や家族が争いの相手のときは、積年の恨みが募って感情的になりやすいので注意が必要です。
音声録音やメール・LINEの履歴、介護記録の写しなども、有効な証拠となります。
第三者機関に相談する
当事者間の話し合いでは解決が難しい場合、行政機関や公的な支援機関に相談する方法があります。特に、介護トラブルの場合、次の相談先が有効です。
- 地域包括支援センター
市区町村に設置された高齢者の総合相談窓口です。介護サービスの苦情・相談はもちろん、家族間の介護に関する悩みにも対応可能です。 - 消費生活センター
介護施設との契約内容や請求金額、サービス内容に関するトラブルは、消費者トラブルとして対応してもらえます。 - 市区町村役場
公的な制度の説明や、介護保険の取り扱いなどは、市区町村役場の窓口(介護保険課・高齢福祉課など)に相談可能です。
弁護士に相談する
介護のトラブルが激化して訴訟になるなど、法的判断が必要なケースでは、早めに弁護士に相談しておくべきです。例えば、弁護士の力を借りるべき介護トラブルは、次のような場面です。
- 介護施設での事故に関する損害賠償請求
- 不適切な契約内容や不当な解約金を巡る紛争
- 遺産相続トラブル
弁護士が代理人となることで、直接の対立を避けながら、交渉や訴訟への対応を進めることができます。
まとめ

今回は、介護をめぐるトラブルについて、法律知識を解説しました。
介護のトラブルは、家族や親族、施設など、多数の関係者のいる複雑な問題です。当事者は「親を大切にしたい」「誰も傷つけたくない」と思っていても、立場や役割の違いから、感情的な対立が激化してしまうこともよくあります。
そもそも介護は、一人で抱えるものではありません。自身や家族を守るためにも、トラブルが起こる前に話し合うこと、記録に残すことを意識して、より良い介護の形を模索してください。
トラブルが起きたときに大切なのは、冷静に事実を確認し、必要に応じて第三者の力を借りることです。紛争が激化した際は、法律の専門家である弁護士に相談しながら、関係を悪化させないよう円満解決を目指すべきです。
- 介護トラブルは、関連する当事者(家族・親族)や施設との間で起こる
- 介護トラブルを迅速に解決するには、証拠の保存がポイントとなる
- 家族間の介護トラブルほど感情的にならないよう、弁護士の力を借りる
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