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解雇通知の正しい方法と、解雇通知書の書き方【書式・ひな形】

従業員の不正が発覚したり、能力不足について改善の余地がなかったりした場合に、会社は社員を解雇することがあります。

解雇とは、会社が一方的に労働契約(雇用契約)を解約することを意味しており、最も労使対立が顕在化するタイミングです。それゆえ、解雇通知は、人事労務の問題の中で、とても緻密に検討されなければなりません。

退職勧奨をした後で解雇をする場合もあれば、即日解雇をするケースもありますが、解雇の時期、内容、理由、態様に合わせて、適切な内容の解雇通知書を作成する必要があります。

そこで今回は、会社側(企業側)の意図が正しく伝わるよう、また、「不当解雇」として無効とされてしまわないよう、解雇通知の正しい方法と、解雇通知書の書き方について、弁護士が解説します。

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解雇通知とは?

労使間で結ばれた労働契約(雇用契約)を、会社側(企業側)の一方的な意思表示によって解約することを「解雇」といいます。そして、会社が労働者に対して解雇を伝えることが「解雇通知」です。

会社側(企業側)は「解雇権」を有していますが、労使の力の格差から労働者を保護するため、解雇権は制限されています。すなわち、「解雇権濫用法理」によって、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当でない限り、解雇は「権利濫用」として無効となります。

解雇は、解雇の意思表示が到達したときに効力を発するため、解雇を行いたいと考える会社としては、解雇の通知をすることで労働者に対して意思を伝達することが必要です。

解雇は、30日前に予告するか、不足する日数分の解雇予告手当を支払う必要がある(労働基準法20条)ため、実際には「解雇通知」は、「解雇予告通知」の意味を持つことが多いです。

解雇の30日前に予告をおこなうときには「解雇予告通知書」、解雇時点で「解雇通知書」を作成し、社員に交付する必要があります。

解雇通知に適切な方法は?

解雇通知は、会社による一方的な労働契約(雇用契約)の解約の意思表示を労働者に伝えることを意味しています。そのため、民法の「意思表示」に関する一般的なルールが適用されます。

したがって、意思表示は、口頭、書面、メールなど、いかなる方法であっても、相手方(労働者)に到達したときに、その効力を生じます。

そこで次に、解雇通知の際によく用いられる方法と注意点について、弁護士が解説します。

口頭の方法での解雇通知

解雇通知は、民法上の意思表示であることから、口頭であっても有効に行うことができます。

しかし、解雇通知を口頭のみで行った場合には、解雇をしたことや解雇日について、正確に証拠化しておくことが困難となってしまうという問題点があります。

なお、労働基準法22条では、次の通り、解雇通知をして労働者から要望があった場合には、解雇理由について「書面による方法によって」労働者に交付する義務を定めています。そのため、労働者が求める場合には、口頭の方法による解雇通知では足りません。

労働基準法22条

1. 労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。
2. 労働者が、第二十条第一項の解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。ただし、解雇の予告がされた日以後に労働者が当該解雇以外の事由により退職した場合においては、使用者は、当該退職の日以後、これを交付することを要しない。

書面交付による解雇通知

社員が出社している場合には、解雇通知書を作成して、交付(手渡し)する方法によって解雇通知を行うことができます。

書面交付による解雇通知は、解雇通知書を詳細に記載することにより、解雇の意思や解雇理由、解雇日について、会社の考え方を、労働者に対して正しく伝えることができます。

しかし一方で、面前交付のみだと、解雇通知を行った日がいつであるのかを、客観的な証拠の形で残すことができません。

労働者が、解雇通知の内容を確実に把握したことを明らかにするために、書面交付による解雇通知を行った場合であっても並行してメール、内容証明郵便などの方法で解雇通知書を送付することが多いです。

この場合には、面前で交付した解雇通知書と、郵送により送付した解雇通知書のいずれが原本であるかを明らかにしておいてください。

メール送付による解雇通知

ビジネス上のやり取りは、もはや書面よりもメール、チャットなどに移行しています。そのため、会社が解雇通知を「効率的に」労働者に伝えるため、メール送付による方法を用いる場合があります。メールによる解雇通知は、最も迅速に労働者に解雇の意思を伝えることができます。

ただし、電子メールの場合には、技術的な理由によってメールが届いていなかったり、迷惑メールフォルダに振り分けられていたりといった理由で、解雇通知が適時適切に届かないおそれがあります。

一般的に、労働者がメールを開封した時点、もしくは、メールが配信されたことを労働者が知り得る状態となった時点で、解雇通知が到達したものとみなされます。しかし、電子メール送付の方法のみによって解雇通知を終えることは、解雇通知が正確に伝わらない可能性があり、危険です。

その他の方法をとることができないやむを得ない理由がある場合(労働者が無断で転居して住所が不明である等)を除き、迅速性を重視してメール送付の方法を利用するとしても、その他の方法も併用することがお勧めです。

やむを得ず、メール送付による解雇通知のみとする場合には、改変されるおそれのないよう、解雇通知書をPDF等の形式にして、メールに添付して送付してください。

書面郵送による解雇通知

解雇通知書を郵送する方法によって解雇通知を行った場合には、裁判例の一般的な解釈では「相手の支配領域に入り、一般の取引通念に照らして相手が知り得る状態になったとき」に到達したものとして効力が発生することとなります(最高裁昭和36年4月20日判決)。

つまり、実際に解雇通知書の内容を労働者が知らなくても、知り得る状態になれば、解雇の効力が生じるということです。

解雇通知が到達した日を明確にするため、普通郵便ではなく配達証明付内容証明郵便の方法で到着日を明らかにすることがお勧めです。解雇通知日の証拠化が容易であることから、実務上最もよく利用されるのが、書面郵送による解雇通知です。

内容証明郵便の場合、労働者が受取拒否をしたとしても、受取拒否をした時点、あるいは、郵便局での留置期間が満了した時点をもって意思表示が到達したものとみなすとする裁判例が一般的です(日経BP事件:東京地裁平成14年4月22日判決)。

解雇通知書の記載内容【書式・ひな形】

解雇が無効になってしまわないような、正しい解雇通知書を記載するためには、まずは、労働者側から見ても「解雇の意思表示である」ことが明確にわかる内容である必要があります。

一方で、解雇通知を受け取った労働者が、どのように感じるか、という点も検討しなければなりません。労使間の感情的な対立を無暗に煽らないような表現で記載する必要があります。

そこで、解雇通知書の適切な記載内容について、書式・ひな形を示しながら、弁護士が解説します。

○○年○月○日

○○ ○○ 殿

解雇通知書
○○○○株式会社
代表取締役社長 ○○○○

 当社は、貴殿の行為が、当社就業規則○条(解雇)の○号「従業員の勤務態度が不良で、就業に適さないとき」及び○号「無断欠勤を繰り返し改善の見込みがないとき」に該当するものと判断しました。
 以上のことから、上記条項に基づき、貴殿を○○年○月○日付けで普通解雇することを通知します。
 なお、就業規則○条及び労働基準法に従って、解雇予告に代えて30日分の平均賃金○○円を、本日、貴殿の給与振込口座にお振込みします。

以 上

「解雇」と記載する

「解雇」という言葉はとても直接的であり、労働者にとって大きな損失を予兆させる不吉な言葉です。

しかし、会社が、明確に「解雇」という用語を使用して、会社の行う処分を労働者に対して明示さなければ、労働者が自身の処遇を的確に認識できなくなってしまいます。

解雇通知書には、「解雇する」こと、また、解雇が一方的な意思表示であって労働者の承諾・同意を要するものではないことが理解できるような記載をしなければなりません。

解雇日(効力発生日)を記載する

解雇通知を受け取った労働者の側で、いつが解雇日なのか、いつまで出社しなければならないのか、いつを基準として解雇予告手当を請求すべきなのかがわからない解雇通知書は、労使紛争の火種となります。

解雇日(解雇の効力発生日)を記載しないことによって、会社の考えているのとは異なる賃金支払義務、解雇予告手当支払義務が生じてしまわないようにするためにも、解雇通知書に解雇日を明記しなければなりません。

特に労働者にとって不利益の大きい「即日解雇」とするときは、その旨明確に伝えてください。

解雇理由の記載方法

さきほど解説したとおり、労働基準法は、労働者からの求めがあった場合には解雇理由を書面によって通知することを義務付けているものの、最初から解雇理由を解雇通知に記載しなければならないわけではありません。

しかし、解雇の理由があるかどうかは、解雇の有効性に関わる重大な問題であるため、解雇理由の記載が不正確であったり、抽象的過ぎたりする場合、労働者から訴訟、労働審判などの争いを起こされる危険があります。

そのため、解雇通知書を交付する時点で、詳細かつ具体的な解雇理由を記載しておくべきです。

解雇の効力が訴訟、労働審判等の方法で争いになった場合にも、解雇通知書の時点で、どれほど正確に解雇理由が記載されているかが、会社が勝訴できるかどうか(解雇が有効となるかどうか)の結果に影響します。

参 考

なお、普通解雇について、その効力が争いとなった場合には、解雇通知書に記載された解雇理由だけでなく、解雇の当時に存在していた理由を追加して主張することが可能であると判断した裁判例があります。

マルヤタクシー事件(仙台地裁昭和60年9月19日判決)では、「解雇のときに告知された解雇事由以外の事由であっても、解雇の当時に存在していたものである限り、当該解雇の効力に影響を与えるものというべきであるから、その効力を解雇のときに告知された事由のみに限定して判断すべき理由はない」と判断されています。

ただし、解雇通知書に記載されていないことにより、会社がそれほど重視していなかったと評価される可能性があるため、解雇通知書に記載する時点で、解雇理由をよく吟味する必要があります。

条件付解雇は有効?

退職勧奨を先行して行い、「退職勧奨に応じて自主退職しない場合には解雇する」、もしくは「○月○日までに退職しない場合には解雇する」などといった場合を、「条件付解雇」といいます。

「条件付解雇」の場合、退職勧奨時に、上記のとおり条件付きの解雇の意思表示を労働者に伝えることがありますが、これだけでは、解雇通知として不十分と言わざるを得ません。

解雇は、確定的意思表示を労働者に伝える必要があるからです。「条件付解雇」とする場合には、条件が成就したとき(つまり、退職勧奨に応じないことが明らかになったとき)に、改めて解雇通知をするべきです。

ココに注意

解雇することを脅しに使い、自主退職を受け入れざるを得ないというプレッシャーを与えること自体が、公序良俗に反する違法行為と評価されるおそれもあります。

退職勧奨は、あくまでも「退職の勧め」であり、退職するかどうかは労働者の自由意思に委ねられています。退職強要は、解雇と同義であるため、「不当解雇」として無効となる可能性が高いです。

解雇通知を行うときの注意点【会社側】

最後に、解雇通知を行うときに理解しておくべき、会社側の注意点について、弁護士が解説します。

解雇は、労働者にとって生活の糧を一方的に奪われる厳しい処分であることから、会社側(企業側)としても注意事項を守って慎重に進めなければなりません。

解雇の内容を正確に伝える

「解雇」は、すなわち「クビ」という意味であることから後ろめたい気持ちになり、労働者に対して正確に解雇の内容を伝えられていないことがあります。

しかし、「もう来なくてよい」、「明日から出社しなくてもよい」といった内容しか伝えられていないと、就労を免除されたのか、自宅待機を命じられたのか、それとも解雇されたのか、労働者側では判断がつきません。

その結果、解雇の通知が正しく行われていないこととなり、最悪のケースでは解雇の効力自体が否定されてしまうことがあります。「解雇」という処遇について、労働者側に正しく伝わる解雇通知書を準備する必要があります。

解雇日を正確に伝える

「解雇とすること」に加えて、「解雇日」を対象となる社員に正確に伝えることも重要です。すなわち、解雇の効力発生日です。

特に、解雇通知書を郵送する方法によって解雇を伝える場合、発送日、書面作成日、書面に記載された解雇日、到達日がそれぞれ異なります。内容証明郵便は受領が必要であるため、労働者が不在によって受け取らなかったり、受取拒否したりした場合、更に日付にズレが生じます。

そのため、解雇通知書に「本日をもって解雇する」としか記載されていない場合、何月何日が「解雇日」となるのか、という争いが生じる可能性があります。

解雇日を正確に伝えなければ、次に解説する「解雇予告手当」を「何日分支払えばよいのか」も決まりません。

解雇予告をする(もしくは解雇予告手当を支払う)

労働基準法において、解雇は、30日前に予告して行うか、これに代わる解雇予告手当を支払う必要があるものとされています。

解雇予告手当は、解雇予告が30日に満たない日数分の平均賃金によって算出されます。

解雇予告手当は、解雇予告を行ったら直ちに支払う必要があります。解雇通知書を交付する際に振込先(給与振込先口座など)を聞いて振込んだり、解雇通知書を交付する際に現金で交付したりする方法があります。

「人事労務」は、弁護士にお任せください!

今回は、解雇通知の適切な方法や、解雇通知書の記載内容について、弁護士が解説しました。

実務的には、解雇権濫用法理に照らして解雇が有効であるかどうか、すなわち、解雇の客観的な理由や相当性が、大きな争点となります。しかし一方で、「解雇の意思表示があったかどうか」が争いとなるケースもあります。

解雇通知を確実に行うことによって、「そもそも解雇の意思表示を受領していない」という労働者側からの反論を防ぐ必要があります。

労働者の解雇をお考えの方は、「不当解雇」と争われてしまわないよう、事前に、企業の労働問題を得意とする弁護士にご相談ください。

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