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控訴審とは?民事裁判の控訴審の流れと、逆転のポイントを弁護士が解説

日本の裁判は「三審制」を採用しており、1つの紛争につき3回まで審理を受けられます。代表的な流れは、第一審を地方裁判所、控訴審(第二審)を高等裁判所、上告審(第三審)を最高裁判所で審理するケースです。

しかし、3回の審級が保証されるとはいえ、控訴審の戦いは第一審に比べて格段に難しいもの。第一審で敗訴した場合、控訴して覆せる可能性の方が低いと自覚すべきです。逆転のための戦略に悩むケースも少なくありません。民事裁判の控訴審の流れをよく理解し、弁護士の変更も含め、方針を慎重に検討する必要があります。

今回は、民事裁判の控訴審の流れと、判決で逆転するためのポイントを、企業法務に強い弁護士が解説します。

目次(クリックで移動)

控訴審とは

控訴審とは、第一審に不服のあるとき、上級の裁判所で、再度の審理を受ける機会。三審制のうち2番目の判断です。

民事裁判の控訴審は、厳密にはやり直しではなく、第一審の続きを意味します(「続審」と呼びます)。法律も「第一審においてした訴訟行為は、控訴審においてもその効力を有する」(民事訴訟法298条1項)と定めます。つまり、第一審の効力は控訴審にも影響し、これまでの審理の続きを行い、新たな証拠を提出し、主張を補充して「第一審の判決に誤りがあるか」という観点で、争いについて再び判断してもらいます。

控訴の期限

第一審の判決が下され、控訴するスケジュールは、法律に定められた期限を遵守しなければなりません。控訴状の提出期限を過ぎると、控訴はできません。

第一審判決の送達から2週間以内に、控訴状を提出します。また、控訴状の受理から50日以内に、控訴理由書を提出し、主張を裁判所に伝えます。

この期限を守るために、弁護士に速やかに相談し、事前準備を開始する必要があります。

控訴審の判決までにかかる期間

控訴審は、第一審の審理を前提に、追加の主張、証拠の審理を行います。控訴審は、判断が変更される可能性のある論点に絞って審理を進めるのが実務です。そのため、控訴審にかかる期間は、第一審の審理期間に比べて短いケースが多いです。

控訴審の多くは、第一回期日のみで終結し、判決に至ります。その結果、審理が短いほど、既に出た判決の変更される可能性は低い傾向にあります。一方で、控訴審の裁判官が、判決を変更する必要があると考える場合は、続行期日が設定され、主張に関する釈明、証人尋問など、追加の審理が行われるケースもあります。

なお、令和3年度司法統計によれば、控訴の総数4273件のうち、3月を超え、6月以内に終了するものが2233件と最も多い結果となっています。

控訴審で逆転できる理由と、その確率

控訴審で結果が変更される可能性は、統計上かなり低く、原判決の誤りが認められたのは全体の15%に過ぎません(詳しくは「控訴審の判決」における司法統計参照)。

控訴審で逆転できる理由には、次の例があります。

  • 第一審判決に大きな法律知識のミスがあった
  • 証拠の審理が漏れていた
  • 新たに有力な証拠が発見された
  • 法律解釈が微妙で、立場によって判断の分かれる難解な事案だった

しかし、こういったケースは決して多くはありません。多くは、1回結審で控訴棄却となり、第一審の判決が維持されてしまいます。裁判官によって評価の異なる微妙な問題もありますが、第一審、控訴審を通じても、法的にあまりに非常識な結論となるのはないと考えた方がよいでしょう。

控訴審の流れ

次に、控訴審の手続きの流れについて解説します。

控訴審は、控訴から判決までの期間が短いケースが多いものの、やるべきことは多く、準備から訴訟遂行まで、必要なポイントを押さえてスピーディに進めなければなりません。

第一審判決を精査する

まず、第一審の判決を精査します。記録を検討し、判決の誤りを見つけ、これを正すための論理構成を検討するのが控訴審の戦い方です。第一審と同じ主張を繰り返すだけでは、控訴審で逆転する確率は相当低いでしょう。

なぜ敗訴判決となったのか、理由を検討し、新たな主張、立証が可能かを検討してください。この際、限られた時間で、法律の専門的な観点からアドバイスをもらうため、判決を受領したら速やかに弁護士に相談するのがお勧めです。

控訴状を提出する

控訴することが決まったら、控訴状を提出します。前述の通り、控訴状の期限は、第一審判決の送達を受けてから2週間以内であり、期限を過ぎると控訴できません。

控訴状の記載事項は、次の点です。

  • 裁判所名
    控訴状の提出先は第一審の裁判所ですが、宛先は控訴審の裁判所を記載する。
  • 裁判の当事者名
    控訴をする側を「控訴人」、される側を「被控訴人」と記載する。
  • 原判決の表示
    第一審判決の主文を記載する。
  • 控訴の趣旨
    控訴において争点となる部分を記載する。第一審を全面的に争う場合には「原判決を取り消す」と書いた上で、控訴審において求める判決の主文を記載する。
  • 控訴の理由
    控訴の趣旨のような結論とすべき理由を記載する。時間的な制約があることから、「追って理由書を提出する」と記載し、控訴理由書において詳しく述べるのが通例。

また、訴訟物の価額に応じた印紙を貼る必要があります。印紙代は手数料早見表(裁判所)に従い、第一審の手数料の1.5倍となります。

控訴理由書を提出する

控訴状の受理から50日以内に、控訴理由書を提出し、控訴の理由を詳しく主張します。控訴理由書の記載は、その他の準備書面と同じく、事実と証拠に基づいて、説得的にわかりやすく説明する必要があります。

控訴審は1回結審となるケースの多く、審理が始まってから改めて主張を追加する機会はないことも少なくありません。そのため、言い分は漏らさず、控訴理由書に記載しておく必要があります。

なお、控訴状の期限を過ぎると控訴できませんが、控訴理由書の期限を過ぎても、控訴そのものは無効になりません。

控訴審における証拠提出

あわせて、控訴理由書の主張を基礎づける証拠を提出します。

有力な新証拠が見つかれば、控訴審で逆転する大きな武器となりますが、それであれば第一審で提出しておくべきでした。これから作成する証拠には、それほど重要な証拠価値は認められない可能性があります。証拠の取捨選択に迷うときには、信頼できる弁護士のサポートを受けて進めるのが良いでしょう。

控訴審における訴えの変更

訴えの変更は、裁判中に、請求する内容、審理の対象を変更することです。

控訴審においても訴えの変更をすることができます。ただ、既に一度勝訴しているのに訴えの変更によって紛争が蒸し返されることを避けるため、請求の基礎に変更がない場合や、当事者に明示又は黙示の同意がある場合に限られるなど、一定の限定があると考えられています。

証人尋問

第一審判決の変更が予想されるケースで、裁判所が必要性を認めれば、控訴審でも証人尋問を実施してもらえます。

とはいえ、控訴審の多くは1回結審であり、証人尋問はされないケースもあります。判決を変更する理由とならない証人尋問は特に、強く求めても裁判所に却下されてしまいます。控訴審において証人尋問を実施してもらうには、次のポイントを押さえ、証人の必要性を強く主張する必要があります。

  • 証言が、判決を変更する理由となると主張する
  • 証人の証言の重要性を主張する
  • 既に尋問済みの証人の場合、第一審の尋問が不十分、不適切だったと主張する
  • 第一審で尋問不能だったが事情が変わり、尋問できるようになった
    (例:病気の治癒、転居、気持ちの変化により協力的になったなど)
  • 必要最小限の人数に絞って証人申請する

判決以外の控訴審の終了(訴えの取下げ・和解など)

控訴審で改めて、和解の機会を設定するケースがあり、双方が合意すれば、控訴審でも和解できます。和解の機運を高めるべく、第一回期日前に進行協議期日を行ったり、事前協議や、事実上の裁判官面接が実施される例もあります。ただ、控訴審にも手間や費用がかかり、いずれも容易には引けず、和解成立の可能性は高いとはいえません。

また、控訴審でも訴えの取下げは可能ですが、相手が既に本案について準備書面を提出し、弁論準備手続で申述し、または口頭弁論しているときは相手方の同意が必要です。控訴の取下げをすることも可能で、この場合は相手の同意は不要です。

控訴審の判決

控訴審の判決による終了には、次の種類があります。

  • 控訴却下
    控訴手続きに違法があるケースで、控訴自体を認めないとする判決。審理は行われず、門前払いを意味する。
  • 控訴棄却
    控訴の理由を認めない本案判決であり、原判決を維持する判断である。
  • 原判決取消し
    控訴を認容し、原判決を取り消す判断である。その後、控訴審が判断を下す「自判」、審理を第一審に再度行わせる「差戻し」、審理を管轄ある第一審に移す「移送」の3つの処理のいずれかが選択される。

なお、令和3年度司法統計によれば、控訴の総数4273件のうち、控訴却下が6件、控訴棄却が1359件、原判決取消しが640件、また、控訴の取下げとなったものが708件となっています。下記グラフの通り、原判決の誤りが認められる結果となったのは、全体の15%に過ぎません。

控訴審で弁護士を変更するメリット・デメリット

控訴して争いを継続するとき、弁護士を変更すべきか、迷うことがあるでしょう。

訴訟遂行が不十分で敗訴したケースなど、信頼関係がなければ弁護士を解任する手も良いでしょう。弁護士側から、責任を感じて辞任を申し出られるケースもあります。一方で、控訴審という区切りとはいえ、争いの途中で弁護士を変更するのはリスクも伴います。次のメリット、デメリットを比較し、慎重に検討しなければなりません。

メリットデメリット
新たな視点の獲得
弁護士の再選択
準備期間の不足
弁護士費用

新たな視点を得られる

控訴審で弁護士を変更するメリットの1つ目は、新たな視点を得られることです。

これまで担当してきた弁護士の法律知識、経験、実績に不安があるときには、控訴を機に弁護士の変更を検討するのが良いでしょう。トラブルとなった争点に専門特化した弁護士のアドバイスを受けることで、これまでとは違った戦略、方針を提案してもらえることもあります。

弁護士を選び直せる

控訴審で弁護士を変更するメリットの2つ目は、弁護士を選び直せることです。

第一審の遂行において、コミュニケーション不足や相性差など、弁護士との関係性に不都合を感じたなら、控訴を機に弁護士を変更する理由となります。

変更を予定する弁護士に相談を申込み、セカンドオピニオンを求めるのが有効です。

準備期間が不足する

控訴の期限は、判決の送達から2週間です。また、控訴状の受理から50日以内に控訴理由書を提出するのが裁判所の実務です。このことから分かる通り、控訴審では書面の提出期限が厳格で、弁護士は速やかに準備を始める必要があります。

第一審を担当した弁護士なら済んでいる記録の取り寄せ、調査、検討を、控訴審で新たに受任した弁護士は一からし直さなければならず、準備期間が不足するおそれがあります。弊害を少しでも軽減するため、控訴状の提出を期限直前に行い、かつ、そこまでは変更前の弁護士に担当してもらう対応がお勧めです。

弁護士費用が余計にかかる

弁護士費用が余計にかかることも、控訴審で弁護士を変更するデメリットです。

第一審と弁護士が同じならば、事案を把握しており、控訴審で改めてする準備や、その業務量はさほど多くはないこともあります。この場合、次章の通り、控訴審の弁護士費用の割引を受けられることがあります。しかし、弁護士を変更すれば、全て一から行わなければならず、弁護士費用は単純にいって2倍かかることとなるでしょう。

控訴審にかかる弁護士費用

控訴審の対応を弁護士に依頼するとき、かかる弁護士費用の相場を解説します。

控訴審の弁護士費用について、着手金・報酬金の方式によって定めるときには、控訴することによって求める経済的利益に応じて決めるのが通例です。現在、弁護士費用は自由化されていますが、かつて存在した(旧)日弁連報酬基準を参考として次のように定めるのが一般的です。

スクロールできます
請求額着手金報酬金
300万円未満経済的利益×8%経済的利益×16%
300万円以上3000万円未満経済的利益×5%+9万円経済的利益×10%+18万円
3000万円以上3億円未満経済的利益×3%+69万円経済的利益×6%+138万円
3億円以上経済的利益×2%+369万円経済的利益×4%+738万円

控訴審は、第一審とは異なる新たな手続きなので、同じ弁護士に依頼し続けるとしても、別途の費用が発生するのが通例です。ただし、現在の弁護士に委任し続ける場合、これまでの依頼の延長であることを加味して、着手金について一定の割引を受けられるケースもあります。

また、第一審において争点が整理され、不服のある部分が限定されるなど、業務量の減少が認められるときは、かかる時間に応じたタイムチャージによって弁護士に依頼できるケースもあります。

控訴審の注意点

最後に、控訴審を進める上での注意すべきポイントを解説します。

時機に後れた攻撃防御方法

民事訴訟法のルールに、「時機に後れた攻撃防御方法」というものがあります。

裁判における主張立証は、いつどのようなタイミングでしてもよいわけではなく、適切なタイミングでしなければ効果を発揮しないということであり、その最たる例が、時期に後れた攻撃防御方法です。民事訴訟法297条は次のように定め、適切な機会よりも遅すぎる主張、立証について、裁判所が却下の決定をできるとしています。

民事訴訟法157条(時機に後れた攻撃防御方法の却下等)

1. 当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法については、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。

2. 攻撃又は防御の方法でその趣旨が明瞭でないものについて当事者が必要な釈明をせず、又は釈明をすべき期日に出頭しないときも、前項と同様とする。

民事訴訟法(e-Gov法令検索)

このルールは当事者の無計画な主張、立証を戒め、相手方当事者を保護する目的があり、控訴審にも適用されます。前述の通り、控訴審は、法的には第一審の続きであり、たとえ控訴審開始直後に主張や証拠を出しても、裁判全体を通じては「遅すぎる」と評価される危険があります。

控訴審で逆転できる確率は低い

三審制で、裁判所で3度審理してもらえるとはいえ、チャンスは同等ではありません。むしろ、第一審の結論が変更され、控訴審や上告審で逆転できる確率の方が低いと覚悟しなければなりません。第一審もまた、裁判官が真剣に判断した結果であり、控訴審で変更するのであればよほどの事情が必要となります。

「控訴審から逆転を目指して努力する」という考えは甘く、まずは第一審に集中し、勝訴を目指すのが基本です。

主張や証拠を出し惜しむと、控訴審で初めて提出しても重視はされず、後悔するでしょう。

上告審での逆転に期待しない

ましてや、上告審での逆転に期待し、控訴審での努力を尽くさないのは論外です。最高裁における上告審は、判断できる範囲が限定され、次の2点で、第一審、控訴審とは性質が異なります。

  • 憲法問題の主張が原則
    最高裁に上告できるのは、憲法問題があるケースに限られるのが原則です。
  • 事実認定は変更されない
    裁判所の判断は「事実認定」「法的評価」の2種類。事実認定を変更できるのは第一審〜控訴審までで、最高裁における上告審は法的評価の誤りしか主張できないのが基本です。これは、最高裁が法令解釈の統一を役割とする特別な裁判所だからです。

上告審は、控訴審に比べても更に逆転の確率が統計上低く、大きな期待を寄せるべきではありません。裁判官もまた法律の専門家であり、特に第一審、控訴審の法的評価が同じケースは、上告審で大きく変更される可能性は低いでしょう。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、民事裁判の控訴審の戦い方について解説しました。

残念ながら第一審で敗訴した場合、控訴して争いを継続するにも大きな困難が伴います。控訴審の意味と流れをよく理解し、適切な方針を選ばなければ、控訴審の判決で逆転することはできません。控訴審を戦う場合、弁護士を依頼するケースがほとんどでしょう。第一審から変更する場合も含め、弁護士選びは慎重を期する必要があります。

控訴審は、第一審に比べても準備期間が少なく、厳格なスケジュールの下で進みます。十分な主張をするには、弁護士への相談は早期に行わなければなりません。

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