自社の受注した業務を他社に丸投げすれば、報酬だけを得ることができます。仕事は他社に任せ、報酬だけ中抜きする「一括下請け」は、法律により禁止されています。
一括下請けは、元請会社が下請会社に対し、全ての建設工事を丸投げすることを指します。このような全面的な業務の委任は、建設業法で禁止された違法行為であり、営業停止処分などの厳しい制裁を受けるおそれがあります。一括下請けを許せば、元請けは利益だけを確保することとができる一方、下請けは不当な搾取を受けてしまいます。
一括下請けによって適正な報酬が下請会社に払われなくなると、コストを抑えるための悪質な手抜き工事が常態化するなど、工事の質が低下するおそれがあります。その結果、施主をはじめとした顧客に重大な不利益が生じかねません。建設会社が信頼を勝ち取るには、適切な下請契約を締結し、公正な報酬配分を決め、監督責任を負わなければなりません。
今回は、一括下請けの禁止と、丸投げに関する下請法の規制について、企業法務に強い弁護士が解説します。
- 発注者保護のため一括下請けは禁止。違反すると営業停止処分のリスクあり
- 工事請負は、発注者と元請、元請と下請の間で、契約書を締結する義務がある
- 下請けに不当な不利益を負わせる行為は禁止される
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一括下請けの禁止とは
一括下請けとは、業務を請け負った会社(元請会社)が、その業務の全てを下請会社に任せてしまう行為を指します。建設業界でよく起こる問題行為であり、「丸投げ」とも呼ばれます。
一括下請けは、請け負った工事全体を丸ごと任せるケースに限らず、工事の一部が他と独立している場合は、その一部に元請会社が一切関与せず丸投げすることも該当します。
一括下請けは、建設業法で禁止されており、違法行為とされています。
発注者からの信頼を受けて契約を締結した元請会社が、自ら工事をせずに丸投げすることは、その信頼を著しく裏切る行為であり、決して許されるものではありません。
建設業法における一括下請け禁止の定めは、次の通りです。
建設業法22条
1. 建設業者は、その請け負つた建設工事を、いかなる方法をもつてするかを問わず、一括して他人に請け負わせてはならない。
2. 建設業を営む者は、建設業者から当該建設業者の請け負つた建設工事を一括して請け負つてはならない。
3. 前二項の建設工事が多数の者が利用する施設又は工作物に関する重要な建設工事で政令で定めるもの以外の建設工事である場合において、当該建設工事の元請負人があらかじめ発注者の書面による承諾を得たときは、これらの規定は、適用しない。
4. 発注者は、前項の規定による書面による承諾に代えて、政令で定めるところにより、同項の元請負人の承諾を得て、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて国土交通省令で定めるものにより、同項の承諾をする旨の通知をすることができる。この場合において、当該発注者は、当該書面による承諾をしたものとみなす。
建設業法(e-Gov法令検索)
一括下請けが禁止される理由
建設業界では、元請会社から下請会社、更には孫請会社へと、重層的な下請け関係が形成されていることが多いです。このような体制の中で、元請会社が全ての情報を把握し、下請会社を監督できる状態でなければ、工事全体に重大なミスや瑕疵が生じるおそれがあります。
一括下請けの問題は、建設業界における構造的な問題に起因します。
元請会社が関与せず、力関係を利用した中抜きをし、業務を丸投げすれば、下請会社も限られた予算内で対応せざるを得ず、手抜き工事に走る危険があります。
このような構造が常態化すれば、ミスが起こる可能性は更に高まります。
施工品質の低下を招き、その影響は最終的には発注者である顧客の不利益として跳ね返ってきます。
したがって、建設業界に特有の下請け体制の弊害から顧客を保護するために、建設業法では、一括下請けの禁止を定めて、元請会社による丸投げを厳しく禁じています。
一括下請けに対する制裁
以上の理由で建設業法で禁止される一括下請けを行った場合、関与した建設会社には厳しい処分があります。一括下請けの禁止を遵守させるため、法律上の制裁が定められているのです。
建設業法は、禁止された一括下請けをする建設会社に対し、15日以上の営業停止処分を定めています。営業停止期間中は、新たな工事を受注できず、売上を失う厳しい処分です。更には、取引先からの信頼も低下し、期間経過後にも大きな影響があるでしょう。
この制裁は、元請会社だけでなく、違法な一括下請けに加担した下請会社に対しても同様に適用される場合があります。
実質的な関与のある下請けは許される
建設業法では、原則として一括下請けが禁止されていると解説しました。
ここで言う「一括下請け」とは、元請会社が下請会社の施工に実質的に関与しているとは認められないものを指します。つまり、形式上は契約を締結していても、実際には元請会社は工事に関与せず、下請会社に業務を全て丸投げしていると認められる場合です。
一方で、元請会社が実質的に関与していると評価できる状態なら、一括下請けには該当しません。つまり、実質的な関与のある下請けは適法です。
ただし、「実質的に関与している」と認められるには、企画・設計の段階から施工・管理に至るまでの全プロセスにおいて、元請会社が主体的な役割を果たしている必要があります。一括下請けとならないための判断基準は、国土交通省の発出する通達にも具体的に示されています。
なお、一括下請けに該当しない適法な下請契約でも、建設業法における監督義務は免除されるわけではありません。元請会社が下請会社を適切に監督するために、建設業法で義務付けられた監理技術者、主任技術者などを設置しなければ、適切な下請けとは言えません。
また、「発注者の書面による承諾がある場合(公共工事及び民間工事における共同住宅の新築工事を除く)」は、例外的に一括下請けが可能とされます。この場合、施工品質の低下によって不利益を受ける発注者が、一括下請けに同意しているからです。
下請けとの工事請負契約書の注意点
下請会社に業務を委託する際、締結するのが「工事請負契約書」です。
工事請負契約書は、元請会社と下請会社の間で紛争が生じたとき、契約内容を示す証拠として役立ちます。そのため、いずれの立場でも必ずリーガルチェックした上で締結する必要があります。契約書なしに企業間の取引を進めるのはトラブルの元であり、建設業界のビジネスでは、契約書の締結が義務付けられる場面もあります。
下請けの契約書が義務付けられる
建設業法は、元請会社が下請会社と工事請負契約を締結する際、契約書の締結を義務付けています。これは、元請・下請間に生じやすい力関係の格差により、下請会社が一方的に不利な契約条件を強要されるのを防止する目的があります。
この契約書作成義務は、発注者と元請会社の間だけでなく、元請会社と下請会社の間でも適用されます。いずれの場合でも、契約の内容を明確にし、トラブルを未然に防ぐために、書面による締結が法的に求められているのです。
建設業法上の義務を果たすには、工事ごとの個別契約書を締結するのが基本です。
注文書と請書のやり取りのみで契約を成立させるケースも見られますが、これだけでは建設業法の義務を果たしたことにはなりません。注文書・請書形式を用いる場合は、これを補完する基本契約書や基本契約約款などの文書が必要となります。
工事請負契約書の記載事項
元請会社と下請会社の契約で義務付けられる工事請負契約書において、記載すべき事項は建設業法19条1項に次のように定められています。
建設業法19条1項
建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。
一 工事内容
二 請負代金の額
三 工事着手の時期及び工事完成の時期
四 工事を施工しない日又は時間帯の定めをするときは、その内容
五 請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法
六 当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があつた場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め
七 天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め
八 価格等(物価統制令(昭和二十一年勅令第百十八号)第二条に規定する価格等をいう。)の変動若しくは変更に基づく請負代金の額又は工事内容の変更
九 工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め
十 注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め
十一 注文者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期
十二 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法
十三 工事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容
十四 各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金
十五 契約に関する紛争の解決方法
十六 その他国土交通省令で定める事項
建設業法(e-Gov法令検索)
以上の通り、下請会社との契約では、契約内容の重要部分は、全て書面に記載しなければなりません。契約書には、署名または記名押印が必要となります。そして、これらの事項を変更する場合も、契約時と同様に書面によらなければなりません。
建設リサイクル法に注意する
建設工事を下請けするとき、建設リサイクル法に注意してください。
特定の建設資材を使用した、一定の規模以上の工事の場合、建設リサイクル法の適用を受けます。同法は、工事請負契約書に次の点を記載するよう義務付けています。
- 特定建設資材の分別解体等の方法
- 解体工事に要する費用
- 再資源化等をするための施設の名称及び所在地
- 再資源化等に要する費用
※ 特定の建設資材とは、コンクリート塊、アスファルト・コンクリート塊、コンクリート及び鉄からなる建設資材、木材をいいます。
建設リサイクル法の対象となる工事の規模は、工事の種類ごとに次のように定められています。
| 工事の種類 | 工事の規模 |
|---|---|
| 建築物の解体 | 床面積80㎡以上 |
| 建築物の新築・増築 | 床面積500㎡以上 |
| 建築物の修繕・模様替え | 請負代金1億円以上 |
| 建築物以外の解体・新築等 | 請負代金500万円以上 |
下請けの見積もりには一定の期間が必要
元請会社と下請会社が、工事請負契約を締結する前提として、見積もりを依頼するのが通常です。この場合に、下請会社の見積もり期間には、一定期間以上の猶予を与えなければなりません。
元請会社が、不適切な短期間で見積もりをするよう焦らせたり、十分な情報を与えなかったりして、下請会社に不当に安価な工事代金を強要するのを避けるためのルールです。与えなければならない見積もり期間の下限は、請負工事の規模によって、次のように定められています。
| 工事の規模 | 見積もり期間 |
|---|---|
| 500万円未満 | 中1日以上 |
| 500万円以上、5000万円未満 | 中10日以上 |
| 5000万円以上 | 中15日以上 |
まとめ

今回は、一括下請けの禁止に関する法律上のルールについて解説しました。
建設業界においては、元請会社と下請会社の間に力関係の格差があるケースも多いものです。工事請負契約を交わすにあたり、下請会社が不当な契約条件を押し付けられ、適正な報酬配分を受けられないといった問題が生じがちです。不当な契約の強要が続くと、コスト削減のための手抜き工事が横行し、施工品質が低下するのは容易に予想できます。このような自体を防ぐため、建設業法は一括下請け行為を禁止しているのです。
下請会社としては、不当な扱いに屈してはなりません。元請会社においても、自社の信頼を維持し、事業を成長させるためにも、建設業法の趣旨を理解し、丸投げしないよう注意しましょう。
法律に違反した企業経営が発覚すれば、自社の信用を損ない、最終的には業績にも深刻な影響を及ぼす可能性があります。適正な契約と法令遵守のため、ぜひ弁護士に相談してください。
- 発注者保護のため一括下請けは禁止。違反すると営業停止処分のリスクあり
- 工事請負は、発注者と元請、元請と下請の間で、契約書を締結する義務がある
- 下請けに不当な不利益を負わせる行為は禁止される
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