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入浴介助における事故の責任は?裁判例をもとにわかりやすく解説

介護の現場のなかでも、特に事故が起こりやすいのが入浴時。入浴介助における事故は、現に多く起こっており、裁判例でもその責任の所在が争点となりがちです。

浴室は滑りやすく、転倒事故が起きやすいもの。その上、入浴は、身体機能の低下した高齢者にとって、心身に大きな負担を与えます。入浴中に体調を崩したり、最悪は溺死して死亡事故となってしまったりするケースは少なくありません。したがって、介護施設での入浴介助においては、細心の注意を要します。

予防できるのが最善ですが、どれほど気をつけていても、入浴中の事故は一定数起こってしまいます。入浴介助で事故が起こったとき、その責任は誰にあるのでしょうか。遺族にとっては、介護中に家族を亡くしてしまってはやりきれないことでしょう。介護施設側としても、どのような法的責任を負うかを知ることで、納得いく解決を目指さなければなりません。

今回は、入浴介助における事故の責任について、企業法務に強い弁護士が、裁判例をもとにわかりやすく解説します。

この解説のポイント
  • 入浴時こそ、介護施設の利用者にとって最も危険性の高いタイミングと心得る
  • 入浴介助における事故の責任は、故意、過失がある場合、介護施設が負う可能性あり
  • 入浴介助における事故の責任を負わないためには、事故を未然に防ぐ対策を要する

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入浴介助における事故とは

介護施設では、入浴中に事故が起こることはしばしばあります。そのうち、介護施設が責任を負う典型例が、入浴介助において事故を起こしてしまったケースです。わざと事故を起こすことはないでしょうが、過失(不注意)で起こした事故でも、介護施設の法的責任を追及される可能性があります。

そして、介護施設の浴場で起こった事故について、「介護施設に過失がある」と判断されやすいのは、次の3つの場面です。場面に応じて、過失の判断要素が異なるため、ケースに即した対応をしなければなりません。

  • 入浴介助の最中に起きた事故
  • 一人で入浴させる際に起きた事故
  • 入浴とは無関係に、浴場の危険が現実化した事故

したがって、それぞれの事故の類型ごとに、介護施設に過失があると判断されないための対策をしなければなりません。そのケースに潜む危険を理解し、安全管理をするのが、大切なポイントです。入浴介助は、介護施設やそのスタッフの行為が関連するため、未然に防止しやすく、その裏返しとして、事故が起きたときには責任を追及されやすい類型です。

次章以降で、それぞれの類型に応じて、介護施設が注意すべきポイントを裁判例を踏まえて解説します。配慮すべきは、入浴介助の方法と、浴場の施設管理という2つの側面にあります。

入浴介助の事故は、浴場の危険性の高さから最悪は死亡事故もあり、細心の注意を要します。

入浴介助における事故の責任

介護施設における入浴で起こる事故の1つ目は、入浴介助の最中に発生するケースです。

入浴介助における危険とは

入浴介助をしているということは、介護施設のスタッフが事故の起きないよう注意していることを意味します。そのため、転倒事故などは比較的起きづらくなっており油断しがちです。しかし、入浴介助を要するということは、それだけ対象の高齢者の健康状態が悪化しているということでもあるので、安心するのは早いでしょう。

入浴介助においては、次の危険があることに留意しなければなりません。これらの危険は、介護施設を利用する高齢者に特有なものであり、そのような高リスクの利用者を扱うサービスであるからこそ、介護施設がよく注意せねばなりません。

  • 高齢であり、身体能力が低下している
  • 身体のバランスを崩しやすく、転倒しやすい
  • 皮膚の温度感覚が鈍感で、やけどしやすい
  • 意識状態が低下して、のぼせやすい

むしろ、上記のような危険が内在しており、入浴介助が必要な状態だったにもかかわらず、事故を起こしてしまうと、介護施設側の過失は認められやすいです。介護施設のスタッフが不注意にも目を離し、そのすきに事故が起きれば、法的責任は重大だと評価されるおそれもあります。

入浴介助における事故を防ぐ対策

では、入浴介助における事故を防ぐのに、介護施設はどのような点に気をつけて取り組むべきでしょう。入浴介助をしたにもかかわらず、浴室で事故が起きるケースの多くは、介護施設のスタッフの意識、能力や技術の低さが問題となっています。死亡事故を起こすなどして、遺族から責任を問われないためには、介護施設が組織として対策に取り組まねばなりません。

まずは、介護施設が率先して、そのスタッフに対し、入浴介助の技術、介護の考え方を徹底的に教育、指導するのが大切なポイントです。その上で、入浴介助の方法について、施設の浴場の状況なども踏まえてマニュアルを作成しましょう。

特に注意すべき次の点は、定型的なルールとして定め、スタッフに浸透させるべきです。

  • 介護の必要性に応じた、入浴介助者の人数
  • 入浴する時間帯
  • 入浴する時間数
  • 1日の入浴回数
  • 入浴する風呂の温度

その上で、「入浴介助をしても、事故の起こりやすい危険なタイミングである」と強く意識させ、一時も目を離すことのないよう指導するようにします。

一人で入浴させる際の事故の責任

介護施設における入浴で起こる事故の2つ目は、1人で入浴している最中に発生する事故です。

一人で入浴させる際の危険とは

入浴介助が不要であるように見えても、介護施設に入所する方には危険が多くあります。決して、施設利用者に全てを委ねてよい場面ばかりではなく、特に危険な浴場に行かせるにあたっては、一人で入浴させるのには大きな危険が伴います。

一人で入浴していても、介護施設内で起こった事故について、その原因を究明し、責任を追及される可能性があります。例えば、次の点に過失があれば、介護施設の法的責任を問われることになるでしょう。

  • そもそも一人で入浴させた判断は誤りだった
  • 浴場の設備の操作方法について十分説明しなかった
  • 認知症によって風呂から出られなくなってしまった
  • 前に浴場を使用した人が片付けをせず、転倒して骨折した

特に、介護施設を利用する高齢者には、健常者である介護施設のスタッフには計り知れないリスクがあります。「温度が熱いなら、やけどする前に気付くはず」「給湯設備を使用できるのは当たり前」「少しくらい片付いていなくても骨折はしない」といった思い込みは危険です。

次の通り、死亡事故についての裁判例で、給湯設備などの扱い方や危険性を、介護施設が十分説明しなかった点で、法的責任を認めたケースがあります(千葉地裁平成23年10月14日判決)。

浴室の給湯・給水設備、シャワー等の形状、操作方法等は種々雑多であり、使い慣れていない者にとっては容易に操作することができないことはしばしば経験するところであって、特に亡Dのような高齢者は、普段使い慣れない用具の操作が困難であるところ、本件浴槽水栓は、蛇口から55ないし56度という熱い湯が出る状態だったのであるから、使い方を誤れば、患者が熱傷を負う危険が存在していたというべきである。

そうすると、F看護師は、亡Dが本件入浴を開始するに当たり、亡Dが本件小浴室内で熱い湯を浴びて熱傷を負うことのないよう、本件浴室の給湯給水設備の使用方法及び本件浴槽水栓から熱傷を負うおそれのある熱い湯が出る危険について説明ないし注意すべき義務があったと認めるのが相当である。

千葉地裁平成23年10月14日判決

一人で入浴させる際の事故を防ぐ対策

では、一人で入浴させる際の介護事故を防ぐには、介護施設はどのような対策に取り組むべきでしょうか。

はじめに検討すべきは、「1人で入浴させるのが、本当に適切かどうか」という点。「健康そうだから」とか、「本人が1人で入浴することを希望しているから」といった理由で、介護施設が安易に「入浴介助は不要」という判断をすべきではありません。特に次のケースでは、利用者の判断に任せるのでなく、介護施設がよく健康状態を観察しなければなりません。

  • 介護施設の利用に慣れておらず、羞恥心から入浴介助を断る
  • 認知症で、判断力が低下している
  • 意識ははっきりしているが、身体能力がそれについていかない

介護施設側で、入浴介助を不要と判断する基準を明確に定め、本人の希望にかかわらず厳格に判断すべきです。判断に迷う場合には、医師の判断を仰ぐのが適切。また、その場しのぎの判断とならないよう、他のスタッフにも引き継ぎ事項として共有しておかなければなりません。

そして、1人で入浴させる場合でも、事前・事後に見回りをするのは必須です。

浴場の危険が現実化した事故の責任

介護施設における入浴で起こる事故の3つ目は、浴場そのものの危険が現実化した事故です。

これは、入浴中ではない場合であっても発生し得る介護事故です。

浴場そのものの危険とは

浴場は、水が流れる場所であることから、介護施設のなかでも特に危険な場所です。そのため、介護施設は、施設管理に責任のある立場にある者として、浴場の管理を適切に行わなければなりません。

例えば、浴場の危険とは、次の点です。

  • 水や石鹸で足を滑らせたことによる骨折
  • 湯気や熱気で体温が変化したことによる血圧の変化
  • 熱湯によるやけど
  • 水のたまった湯船による溺死
  • 湯船で寝てしまうことによる溺死

浴場の危険が現実化しないよう監視しなければならないのは、介護施設の利用者が、風呂を利用している時間帯だけに限るものではありません。介護施設の利用者のなかには、認知症であったり、徘徊癖があったりする人も少なくありませんが、介護スタッフといえど、四六時中常に監視するのは困難です。

とはいえ、次の裁判例のように、施錠されていなかった浴場へ、徘徊癖を有する認知症の利用者が立入り、転倒して死亡したことについて、介護施設の法的責任を認めたものもあるため注意を要します(岡山地裁平成22年10月25日判決)。

被告は、本件施設を設置し、これを経営するものであるところ、本件施設の入居者の多くは認知症に罹患していて、かつ、徘徊傾向を有しており、Cも同様であった……(中略)……職員により、全入居者について間断なくその動静を見守ることは、事実上困難であったと認められる。

したがって、被告としては、適正な数の職員を配置し、入居者の動静を見守る努力を傾注するとともに、本件施設中、入居者が勝手に入り込んで利用するようなことがあれば、入居者の生命身体に危険が及ぶ可能性がある設備ないし場所を適正に管理する責任を免れないというべきである。

岡山地裁平成22年10月25日判決

浴場の危険が現実化した事故を防ぐ対策

浴場の危険が現実化し、介護事故につながらないよう、介護施設が取り組むべき対策について解説します。まず、「浴場が危険な場所だ」ということを、介護職員に周知し、指導を徹底してください。

その上で、浴場の危険を取り除く方法として、次のことを検討します。

  • 浴室の床材を滑りにくいものに変更する
  • 滑り止めのマットを設置する
  • 入浴時間外は、湯船に蓋をする
  • 湯船、シャワーの湯温が高くならないよう設定する
  • 熱湯がでない工夫をする

以上のことを介護施設が徹底的してもなお、利用者である高齢者にとって、浴場の危険を全くのゼロにすることはできません。そこで、最後には、介護施設が許可するとき以外には、利用者が浴室に立ち入ることのないよう、施錠をし、定期的に見回るようにしてください。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、入浴介助における事故の責任について解説しました。

介護施設を利用する必要のある高齢者にとって、浴室での事故は致命的です。入浴介助があってもなお、死亡してしまうほどの重大な介護事故に繋がる危険は大きいといわざるを得ません。介護施設としても、利用者の人権への配慮からして入浴をさせないわけにはいかず、できる限り危険を減らすよう努めながら、入浴介助を行う必要があります。

入浴介助における事故の責任について判断した裁判例では、事故の起こったタイミングや関係者の行為など、様々な事情から、介護施設の責任が問われます。事故が起こってから焦らないよう、平時から弁護士に相談しておくのがお勧めです。

この解説のポイント
  • 入浴時こそ、介護施設の利用者にとって最も危険性の高いタイミングと心得る
  • 入浴介助における事故の責任は、故意、過失がある場合、介護施設が負う可能性あり
  • 入浴介助における事故の責任を負わないためには、事故を未然に防ぐ対策を要する

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