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バイトが商品をつまみ食いしたら違法?懲戒処分や解雇にできる?

コンビニや飲食店の経営者の中には「バイトが勝手に、店の商品をつまみ食いしていた」「廃棄品の弁当を、バイトが食べていた」といった不正な行為を発見した経験のある方もいるでしょう。不正なつまみ食い、盗み食いは軽いことではなく、「詐欺」「横領」ではないかと疑問を持つ経営者から相談を受けることもあります。

コンビニや飲食店の場合、社長や店舗責任者が、常にシフトに入ったり、現場を監督したりするのは不可能なので、バイトを含めたスタッフの自主性にどうしても任せざるを得ない時間帯があります。防犯カメラの映像も、頻繁にチェックするのは現実的ではありません。他のスタッフの証言などにより、バイトのつまみ食い、廃棄品の持ち帰りなどが判明したとき、懲戒処分や解雇にできるのでしょうか。それとも「不当解雇」とされてしまうのでしょうか。

今回は、バイトを含む社員が、店の商品をつまみ食いしたり、廃棄品の弁当を持ち帰ったりしたときの、適切な労務管理について、企業法務に強い弁護士が解説します。

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店の商品をつまみ食いしたら犯罪!

飲食店やコンビニの店内には、商品はもちろんのこと、商品となる前の材料や、既に商品としての価値を失った廃棄品など、たくさんの物が置かれています。そして、商品に価値があるのは当然、商品ではなくても全て、会社側(店側)の所有物であって、バイトを含む社員には、勝手に使ったり、勝手に食べたり、持ち帰ったりする権限はありません。

そのため、店内の物品について、無断で食べたり、持ち帰ったりする行為は、民事上の責任、雇用契約上の責任があるほか、刑事事件ともなりかねない重大な問題です。

【民事上の責任】損害賠償請求

店の商品をはじめ、会社が管理している物品は、会社がその物品を支配しており、所有権を有しています。

会社が所有する商品・廃棄品などを勝手に食べたり持ち帰ったりする行為は、会社の財産の所有権を侵害します。したがって、これによって会社が負った損害は、それらの行為を行ったバイト社員に対し、損害賠償請求することができます。

これらの商品・廃棄品などが、適切にお客様に販売されれば、定価で販売することができたというのであれば、定価分の売上を侵害されたことになり、定価によって算出した金額が損害となります。

【雇用契約上の責任】懲戒処分

店の商品は、お客様に提供する大切なものですから、コンビニやレストランにおいて商品をつまみ食いする行為は、会社内の秩序を乱すことが明らかです。

廃棄品であって、お客様に提供することができない場合でも、「廃棄をする」ことが社内のルールとなっているのですから、しっかり決まりを守らなければ会社の秩序を乱し、次のような悪影響が出てしまいます。

  • 廃棄品を、商品と間違えて提供してしまい、お客様とトラブルになった。
  • 廃棄品を食べたアルバイト社員、お客様の健康被害が生じた。
  • 廃棄品を捨てずに再利用したことが社会問題となり、会社(店)の信用を傷つけた。

以上のことから、会社側(店側)が、廃棄品を勝手に食べたり持ち帰ったりするのを禁止することには、合理的な理由があります。したがって、これに違反した場合には、厳重注意、懲戒処分など、社内における厳しい処分をする必要があります。

なお、懲戒処分をするためには、懲戒処分の理由と内容を、就業規則などに定めて雇用契約の内容としておく必要がありますので、事前に就業規則を確認しておきましょう。

【刑事上の責任】業務上横領罪

最後に、会社(店)が管理し、所有する商品・廃棄品を、所有権者に無断で持ち出したり、食べてしまったりするバイト社員の行為は、犯罪行為にあたる可能性があります。

具体的には、業務上の地位を利用して、会社(店)の所有するものを奪う行為であることから、業務上横領罪に該当します。業務上横領罪は、刑法253条により、「10年以下の懲役」という刑罰が科せられる重大な犯罪です。

捨てる物でも横領になる?

以上の、①民事上の責任(損害賠償請求)、②雇用契約上の責任(懲戒処分)、③刑事上の責任(業務上横領罪)の説明は、たとえもはや捨てる予定であったもの(例えば、廃棄品の弁当)などでも問題となります。

すぐに捨てる予定だからといって、バイト社員が食べてしまったり、持ち帰ってしまったりするのは、法律においても、雇用契約においても、問題行為となるからです。

廃棄品でも懲戒処分できるか検討する

すでに捨てることが決定している廃棄品の場合には、もはや商品として利用する価値はないことを会社側(店側)が認めたわけですから、その財産的な価値はとても小さいといってよいでしょう。そのため、再度販売することができない以上、バイト社員が勝手に食べたり持ち帰ったりしても、会社の損害は存在しないか、とても小さいと考えられます。

しかし、コンビニや飲食店においては、廃棄品であっても、無断で食べたり持ち帰ったりすることは禁止していることが多いでしょう(就業規則や、雇用契約書における禁止事項で、きちんと禁止してあるか、確認してください)。廃棄品をあさるバイトがいることは、周囲の顧客、周辺住民からも悪評を立てられるおそれがあり、厳格に禁止すべきです。

そして、就業規則などで禁止された行為を行うバイト社員がいる場合には、厳しく注意指導をし、繰り返すようであれば、懲戒処分を行う必要があります。

廃棄品でも犯罪行為になるか検討する

廃棄をすることが予定されていても、コンビニやレストランなどの店内で保管されている限りは、会社側(店側)に所有権があります。そのため、これを侵害する行為は、窃盗罪、業務上横領罪などの犯罪にあたります。

これに対して、既に、ゴミ置き場に捨てられている廃棄品の場合には、会社側(店側)が、その廃棄品の所有権を放棄している、と考えることもでき、横領などの犯罪にはならないケースもあります。

とはいえ、ゴミとして捨てられていたとしても、全く犯罪とはならないわけではありません。ゴミを持ち去る行為もまた、捨てられたゴミを管理する行政の所有権を侵害する点で「占有離脱物横領罪」などの犯罪にあたり得ます。

つまみ食い、横領した社員への対応は?

最後に、つまみ食いや、廃棄品の横領を行った社員がいることが判明した場合に備えて、このような悪質な社員に対し、会社側(店側)が行うべき対応、労務管理について解説しておきます。

なお、飲食店やコンビニにおいては、従業員を常に監視、監督しておくことは困難でしょう。つまみ食い、廃棄品の持ち帰りなどが行われた疑いがあれば、監視カメラをつけたり、信用のおける社員を常駐させたりするなど、予防策を怠らないようにしてください。

厳重注意する

つまみ食い、廃棄品の持ち帰りなどの問題行為を行ったバイト社員を発見した場合、まずは厳しく注意をするようにしてください。厳重注意の方法は、まずは口頭で行い、それでも守れないようであれば書面によって注意指導をします。書面を交付することで、厳重注意したことを証拠化し、記録に残すようにします。

アルバイト、派遣社員、契約社員など、いわゆる「非正規社員」は、商品のつまみ食い、廃棄品の持ち帰りといった不正が「横領」などの重大な違法があるという意識を欠いている場合があります。

重大な問題行為だと理解させるための教育をせずに、突然に懲戒解雇などの厳しい処分とするのは、「不当解雇」となるリスクが非常に高まります。

よほどの悪質な行為でもない限り、まずは口頭の注意から段階を踏んでください。

懲戒処分にする

厳重注意をしても、書面によって注意指導を繰り返して改善を求めても、全く改善をする意思がなく、商品の横領、つまみ食いを繰り返すケースでは、さらに厳しい処分が必要です。具体的には、懲戒処分を下すことを検討するのがよいでしょう。

懲戒処分には、次のような種類がありますが、金額が大きい高額商品の横領などでなく、バイト社員のつまみ食いといった内容であれば、はじめは譴責、戒告などの軽度の懲戒処分が妥当です。

  • 譴責・戒告
  • 減給・降格
  • 出勤停止
  • 諭旨解雇
  • 懲戒解雇

どの程度の懲戒処分とするかは、問題となる商品のつまみ食い、廃棄品の持ち帰り行為が行われた回数、頻度、被害金額などによって判断してください。懲戒処分をする場合には、会社の就業規則に、その要件と効果を定めておかなければならないため、就業規則がきちんと整備されているかどうか、今一度確認してください。

告訴する

会社(店)への損害が大きいケースや、何度も注意指導し、懲戒処分を下して止めないケースでは、刑事罰の責任を負わせるため、捜査機関(警察・検察)への被害届の提出をし、告訴することを検討してください。告訴とは、犯罪の被害者が、犯人を厳しく処罰してほしいと捜査機関に願い出ることをいいます。

廃棄をする予定の賞味期限切れの弁当のような場合には、たとえ持ち帰っても、経済的価値は低く、損害が小さいケースもあります。しかし、損害、被害額が小さいからといって、犯罪にならないわけではありません。何度も持ち出し行為を行い、その結果として被害額が大きくなったり、社内の秩序を乱しているといった悪質なケースでは、厳しい対処が必要です。

示談する

仮に、店の商品のつまみ食い、廃棄品となる弁当の持ち帰りといったアルバイト社員の不適切な行為が、横領となるとして、会社の負った損害は、行為を行ったアルバイト社員に補填してもらう必要があります。そこで、示談をするにあたっては、損害額を調査し、支払ってもらうのがよいでしょう。

店の商品や廃棄品の弁当は、損害額の決め方が難しいところですが、会社側としては、まずはその商品の正規の定価で計算した金額を基準に、示談交渉の話し合いを進めることとなります。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、コンビニや飲食店において、バイトが軽い気持ちで行ってしまいがちな、売れ残り商品のつまみ食い、廃棄物の持ち帰りといった問題行為について、会社側の対処法を解説しました。

深夜のコンビニバイトなど、どうしても会社(店)の監督が不十分となりがちなときに、廃棄物の持ち帰り、無断のつまみ食いなどの不正な行為が発生しがちです。損害賠償、懲戒処分などの対象となるのは当然、刑事罰の対象ともなりかねない違法行為です。

重大な違法があることを社員にしっかり教育すると共に、禁止行為に違反したバイト社員に対しては、懲戒処分をし、損害金を支払わせるなど、厳しく対処するのが適切な労務管理であるといえます。

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