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パワハラと注意指導の違いと、パワハラにならないための注意指導の方法

パワハラ防止法によりパワハラ対策が会社の義務となり、パワハラ問題はますます社会問題化しています。

しかし一方で、パワハラが注目されすぎるあまりに、「パワハラだ!」と言われることをおそれて、上司による注意指導が委縮してしまい、モンスター社員が横行することが問題視されています。

業務上必要な注意指導は、パワハラとは違うものであり、明確に区別されなければなりません。会社としては、このことを理解し、問題社員に対して適切な注意指導をおこなう上司を、部下からの「パワハラだ!」という指摘から守ってあげる必要があります。

そこで今回は、パワハラと注意指導の違いを示し、パワハラにならないための注意指導の方法について、企業法務に詳しい弁護士が解説します。

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パワハラと注意指導の違い

まず、パワハラと注意指導がことなるものであることを理解し、区別しなければなりません。パワハラは違法ですが、業務上必要な注意指導は、業務命令であり、適法なものです。

適法な注意指導を「パワハラだ!」と指摘して攻め立てるモンスター社員から、会社は上司を守らなければなりません。

パワハラと注意指導の違いは、簡単にいうと「業務上必要な範囲内であるかどうか」という点で区別されますが、詳しい判断はケースに応じて個別におこなう必要があります。

注意指導とは

適法な注意指導とは、上司が部下に対して、業務上の行為が適正なものとなるよう命令したり指導したりする行為のことです。

雇用契約関係(労働契約関係)は会社と社員の間に結ばれるものであり、社員はこれにしたがって労務を提供し、会社は対価として賃金を支払います。しかし、実際の業務遂行をスムーズにおこなうためには、会社は上司をしてその部下を監督させ、業務上の行為が雇用契約(労働契約)にしたがって正しくおこなわれるよう、注意指導をおこなうこととなります。

そのため、注意指導は、雇用契約(労働契約)から信義則上当然に発生する業務命令権の一部であり、もちろん適法なものです。

パワハラとは

この適法な注意指導に対して、パワハラとは、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」(パワハラ防止法)のことをいいいます。具体的には、身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個の侵害の、いわゆる「パワハラの6類型」がありますが、これに限られません。

パワハラは、民法上の不法行為(民法709条)にあたり損害賠償、慰謝料請求の対象となるほか、その程度が悪質な場合には、暴行罪、脅迫罪、強要罪、名誉棄損罪などの刑法上の犯罪行為となることもあります。

パワハラと注意指導の区別

パワハラの定義にもあるとおり、違法となるパワハラとは「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」です。裏返すと、適法な注意指導とは、業務上必要であり、かつ、相当なものをいいます。

第一に、業務上の目的に沿ったものであるかどうかが重要となります。間違った業務や問題社員を正しく導くなど、業務上の目的がある場合には適法となりやすく、しかしながら、その人個人への嫌がらせなど、業務上の目的がないものについては違法なパワハラとなりやすくなります。

第二に、その目的に沿った相当な行為であるかどうかが重要です。目的が業務上のものであっても、行為が過剰なものであれば、違法なパワハラとなります。もちろん、暴力や脅迫などの違法な手段は、どのような目的があっても許されません。

パワハラにならないように注意指導する方法

次に、パワハラと注意指導の違いを理解していただいた上で、パワハラにならないように注意指導する方法について弁護士が解説します。

会社側(企業側)としては、社長自ら注意指導をおこなう場合はもちろんのこと、上司をして部下に注意指導を行わせる場合に、下記の方法を理解してパワハラにならないように注意指導をおこなえるよう、教育が必要となります。就業規則やマニュアルなどを作成するほか、管理職研修をおこなうことがお勧めです。

問題行為を特定する

まず、注意指導の目的が、どのような問題行為の改善にあるのかを特定する必要があります。業務上の行為について、問題を是正することが目的であれば、正当な権利行使となるためです。

どのような点が問題であるかは、抽象的な言葉で伝えるのではなく、具体的な言葉で、かつ、可能な限り客観的な数字などに置き換えて特定するようにしてください。

「やる気がない」「態度が悪い」といった抽象的な問題の指摘は、人の感じ方次第で変化してしまうため、次に説明する改善方法の指摘も曖昧になりがちです。

改善方法を指摘する

次に、問題行為を特定した後、それを是正する注意指導をおこなうときに、改善方法を指摘する必要があります。問題のみ指摘をし、改善方法を伝えないことは、適切な注意指導をはいえず、その方法が過剰な場合にはパワハラになりやすくなってしまうからです。

このとき、就業規則やマニュアルなどによって会社全体のルールが明確に示されていれば、これに沿って指導をすることができるため、注意指導をする上司の側でも迷ってパワハラに至ってしまう危険を減らすことができます。

適切な方法で伝える

最後に、注意指導の際には、適切な方法で伝えることをこころがけましょう。暴力的な手段にうったえかけることは当然不適切ですが、言葉で伝えるにしても、どのような発言が適切で、注意指導に向いているかどうか、検討しなければなりません。

特に、不必要な人格否定、人格攻撃は、パワハラとなります。

注意指導の目的を果たすためであれば、部下が理解できるように伝える必要があり、かつ、感情的な発言は控えるべきです。

整理してから注意指導する

ここまで解説した「問題行為の特定」「改善方法の指摘」を、注意指導をしながら考えるのでは、結局話がまとまらず、部下としてはなにを注意指導されているのかがわからず、パワハラ扱いされてしまう危険があります。

そのため、注意指導前に、注意指導の内容や方法について整理した上でおこなう必要があります。

少なくとも、問題行為を箇条書きし、その問題点ごとに、改善方法を短くまとめて伝えられないようであれば、注意指導が的外れとなったり長時間になりすぎたりし、パワハラになってしまいます。問題点への改善方法が会社として明らかにされていない場合には、上司が自身の判断だけで注意指導を強行するのでなく、更に上司の意見を仰ぐような体制を構築することも重要です。

すでに口頭での注意指導を繰り返しても問題が改善されないときは、整理した書面をそのまま「注意指導書」として交付し、書面による注意指導に移行することも検討してください。さらにそれでも改善の兆候のない場合、懲戒処分、解雇といったより厳しい処分に移行する布石となります。

反論を受けとめる

パワハラにならないよう注意指導するためには、一方的な押し付けに終始するのではいけません。あくまでも仕事ですから、上司が自己の価値観を押し付けるのではパワハラと言われても仕方ありません。もちろん、上司が部下に注意指導するわけですから、「部下からの反発を全て受け入れるべきだ」と言っているわけではありません。

反対の立場からの反論があることを理解して受け入れた上で、それでもなお注意指導に理由があることをきちんと説明すべき責任が使用者側にはあります。

注意指導に対して反論のある社員には、パワハラ的に感情で押さえつけるのではなく、その反論を書面で示すよう指導することがお勧めです。将来的に、その問題が大事となり、労使紛争に発展した場合にも、労働者側の考えを証拠化しておくことにつながるためです。

パワハラといわれやすい不適切な注意指導とは

最後に、パワハラといわれやすい不適切な注意指導について解説します。不適切な注意指導はいずれも、「注意指導」という名を借りておこなわれているだけで、実際は注意指導の体をなしておらずパワハラに該当するおそれの高い行為です。

これらの行為は、仮に争った結果パワハラではないと評価されるものであったとしても、社員からの強い反発を受けることが容易に予想でき、注意指導を受ける側のモチベーションを削ぐこととなります。

相手の人格を否定する注意指導

相手の人格を否定する注意指導は、「注意指導」に名を借りた違法なパワハラ行為です。パワハラの類型のうち「精神的な攻撃」「人間関係からの切り離し」「個の侵害」などの類型に該当します。

問題社員の問題を特定し、改善をうながすのであれば、人格を否定する必要はなく、その「行為」の問題点を指摘すればよいのです。「罪を憎んで人を憎まず」ということです。

部下への注意指導が感情的になって、その人に対する嫌悪感があらわになってしまったり、相手の人格、正確、くせ、容姿、容貌などへの欠点の指摘、誹謗中傷にまで至ってしまえば、パワハラとの評価を受けることとなります。

価値観を一方的に押し付ける注意指導

自己の価値観を一方的に押し付けることは、「注意指導」に名を借りた違法なパワハラとなります。

業務におけるルールは、客観的な基準によって判断できるものについては会社が定めるとおりに指導をすればよいのですが、自分の価値観を反映してはいけません。むしろ、価値観によって善悪の決まる問題は、「仕事」ではなく「プライベート」の問題なのではないかと疑うべきです。

完璧を求める厳しすぎる注意指導

完璧を求める厳しすぎる注意指導もまたパワハラ行為となります。業務において求める目標が高いことは褒めるべきことですが、他人には他人の事情があります。

労働契約(雇用契約)において求められている以上の努力を強要し、完璧を求めると、業務指導が目的であったとしてもパワハラになりかねません。とくに、勘違いした体育会系にありがちな根性論、精神論が行き過ぎると、適切な注意指導の範ちゅうを超えることになります。

上司と部下との間には能力や経験の差があり、すべて思う通りにはいきません。もちろん、労働契約(雇用契約)で定めた能力が発揮できなければ「能力不足」として解雇などの対象となることもありますが、その程度に至らないのに厳しすぎる注意指導を継続してはいけません。

相手の状況を理解し、「ミスは人間だれしもが起こすものである」という原則を理解し、完璧を追い求めすぎることのないよう柔軟な姿勢で注意指導をすることが大切です。上司となる社員には人間の器の大きさが試されます。

「企業法務」は、弁護士にお任せください!

今回は、パワハラと注意指導の違いを説明し、パワハラとならないための適切な注意指導の方法について弁護士が解説しました。

上司の立場にある人の中には、部下の行為に腹を立て、ついイラッとして感情的に強い口調で注意をしたり、古い体質の会社でつい手が出てしまったりという人もいます。しかし、これらの行為が違法なパワハラであることは明らかであり、パワハラの被害者となった社員から訴えられることとなれば、会社もあわせて使用者責任、安全配慮義務違反の責任を負うこととなります。

注意指導を上司に任せきりにするのではなく、適切な注意指導の方法について、会社は管理職研修などによる教育をする必要があります。

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