ウェブサービスを提供するIT企業が、決済を簡易化して、顧客に課金してもらいやすくするため、「ポイントサービス」を導入することを検討する場合が多くあります。
「ポイント」をあらかじめ購入することによって、サービスを利用しやすくする一方、ゲーム性を上げてより顧客に満足してもらうといった狙いがあります。
しかし、「ポイント」をあらかじめ購入してもらうことによってゲーム内の支払を済ませる方法を導入するためには、法律上の制限があります。
特に、「資金決済法」という法律の「前払式支払手段」にあたる「ポイントサービス」には、厳しい法的規制があります。
今回は、「ポイントサービス」導入時に、企業が理解しておくべき、「資金決済法」の「前払式支払手段」についての法律知識を、IT法務を得意とする弁護士が解説します。
1. ポイントサービスとは?
ウェブサービスの中で、サービス内で使用できる「ポイント」を導入しているサービスが増えてきました。
有名な「ポイントサービス」は、例えば、次のようなケースです。
- モバゲーのモバコイン
- アメーバブログのアメゴールド
- LINEのLINEコイン
- ポケモンGOのポケコイン
ウェブサービスの中で利用できる「ポイント」を導入することによって、次のようなメリットを得ることが可能となります。
- 顧客が、ポイントをまとめて購入することによって、サービスを継続利用してくれる。
- 現実の金銭の単位でないことから、顧客の購買意欲が上がることが期待できる。
- まとめて購入したポイントを利用できない競合サービスへの流出を阻止して囲い込みができる。
そして、これらの「ポイントサービス」は、「資金決済法」に定められた「前払式支払手段」にあたる可能性があり、これにあたると、様々な法的規制を受けます。
2. 「前払式支払手段」とは?
「資金決済法」は、正式名称を「資金決済に関する法律」といいます。
その内容は、今回解説する「前払式支払手段」をはじめとした、資金移動、資金決済に関するルールを定めたものです。
「ポイントサービス」を導入する場合に、この「資金決済法」で規制される「前払式支払手段」にあたる場合には、法的規制にしたがったサービスとする必要があります。
2.1. 前払式支払手段の定義
「資金決済法」に定められている「前払式支払手段」の定義は、次のとおりです。
- 金額等の財産的価値が記載、記録されること
- 金額、数量に応ずる対価を得て発行される証票等、番号、記号その他のものであること
- 代価の弁済等に使用されること
オンラインサービスで、クレジットカード決済などで代金を支払いポイントを購入し、ポイントを使うことでサービスを購入するという仕組みの場合、「前払式支払手段」にあたる可能性が高く、「資金決済法」による法的規制にしたがう必要があります。
これに対し、ポイントの対価が発生しない場合には、前払式支払手段にはあたらず、法的規制が適用されません。
- 無償でポイントを付与されるポイントサービス
- 単なる「おまけ」や「景品」としてポイントが付与されるポイントサービス
2.2. 「対価を得たか?」がポイント!
ここまでの解説からもわかるとおり、「資金決済法」に定められる「前払式支払手段」の定義にあてはまるかどうかは、ポイントの「対価」を得たかどうかが非常に重要です。
そこで、「資金決済法」にいう「対価」の意味が問題となります。
「資金決済法」にいう「対価」は、現金だけに限らず、財産的価値を有するものをすべて含むとされます。
「対価」を得ているといえるかどうかの判断は、非常に難しいですが、最終的には、「社会通念にしたがった判断」、すなわち、利用者が、「対価」を支払ったと認識していたかどうかを基準として判断します。
2.3. 「前払式支払手段」に当たらないときの注意
「前払式支払手段」とは、「対価」を得て発行する支払のためのポイントをいう、と考えてもらったら非常にシンプルです。
「対価」を得ずに発行しているポイントは、前払式支払手段には当たりませんが、「資金決済法」の規制を受けないとしても、注意すべきポイントがあります。
「前払式支払手段」にあたらず、「資金決済法」の規制を受けないからといって、利用者を無視したサービスを提供していては、サービスに対する信用が低下し、企業イメージに大きな傷がつきます。
したがって、「前払式支払手段」に該当しない「ポイントサービス」も、利用者保護の視点に十分注意してサービス設計を進めなければなりません。
2.3.1. 景品表示法
「景品表示法」は、「景品」、すなわち、おまけに対する規制と、表示に対する規制を定め、不当な景品、表示をなくすための法律です。
ポイント制度を運用するとき、たとえ前払式支払手段にあたらず、資金決済法を気にしなくてもよいケースであっても、そのポイントが、景品表示法にいう「景品類」にあてはまる可能性があります。
この場合、「おまけ」としてつけても良いポイントの金額についての規制を受ける可能性があります。
2.3.2. 消費者契約法
「消費者契約法」は、事業を営む企業ではなく、それを享受する消費者のほうが弱い立場にあることから、その消費者を保護することを目的とした法律です。
たとえ、企業が発行するポイントが、資金決済法にいう前払式支払手段にはあてはまらない場合であっても、消費者保護の見地から、あまりに消費者に対する害が大きい場合には、消費者契約法違反として無効となる可能性があります。
例えば、ポイントの有効期限が短すぎる場合や、利用者にとってあまりに不利すぎる条件設定がある場合などには、消費者契約法に違反しないかどうか、検討が必要となる場合があります。
3. 「資金決済法」の規制の種類
ここまでお読みいただければ、御社の「ポイントサービス」が「資金決済法」における「前払式支払手段」の規制を受けるかどうか、ご判断いただけるのではないでしょうか。
御社の「ポイントサービス」が、「資金決済法」の規制を受ける場合には、法的規制にしたがったサービスを提供しなければなりません。
「資金決済法」の規制は、資金決済、資金移動の安全性を確保して、顧客の安全を確保する目的もあるため、違反した場合、刑事罰による制裁もありうる厳しい処分となります。
平成28年春頃、LINEに対する関東財務局の立ち入り検査が話題となったように、「資金決済法」の規制を無視したサービス提供を行うと、企業イメージが低下し、経営に悪影響を及ぼすおそれがあります。
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「資金決済法」における「前払式支払手段」の規制は、次の3つに分類されます。
- すべての「前払式支払手段」に共通の規制
- 「自家型」前払式支払手段の規制
- 「第三者型」前払式支払手段の規制
3. 共通の規制
まず、すべての「前払式支払手段」に適用される、共通の規制について、弁護士が解説します。
つまり、御社の導入する「ポイントサービス」が、「資金決済法」に定められた「前払式支払手段」の3要件にあたる場合には、共通の法的規制に従わなければなりません。
3.1. 表示義務
「前払式支払手段」にあたる「ポイント」を発行するときは、次のとおりの、「資金決済法」に定められた一定の事項を、ユーザーに明示しなければなりません。
- 発行者の名称
- 支払可能金額
- 使用期間・期限
- 利用者からの問い合わせ窓口
「資金決済法」上明示しなければならない事項について、ユーザーへの明示の方法には、次のような方法があります。
- 前払式支払手段自体に表示する方法
- 電子メールで送信する方法
- ウェブサイト上に表示する方法
3.2. 供託義務
「前払式支払手段」の発行者は、顧客の安全のため、一定の場合には、金銭を供託する義務があります。
すなわち、未使用ポイントの残高が1000万円を超えるときは、未使用残高の2分の1以上の金額を、「発行保証金として、主たる営業所、事務所の最寄りの供託所に供託しなければなりません。
供託義務には、基準日(3月31日、9月30日)が決められており、基準日に「未使用残高が1000万円を超える」という要件を満たしたとき、翌日から2か月以内に供託する必要があります。
つまり、少なくとも500万円の現金を供託しなければいけないということです。
3.3. 供託義務(無償・有償ポイントが混在する場合)
供託義務が発生する「未使用残高1000万円を超える」という要件を判断するとき、注意したいのは、有償ポイントと無償ポイントとをいずれも発行しているというケースです。
無償ポイントと有償ポイントのいずれをも発行している「ポイントサービス」とは、例えば、普段はポイントは事前にクレジットカード決済などによって購入しなければいけないものの、特別なイベントなどの際には無償でポイントがプレゼントされるといったサービスの場合です。
この場合、供託義務の要件を判断するとき、有償ポイント、無償ポイントが、明確に区別して表示され、区別して管理されていなければ、無償ポイント分も含めて供託義務を判断されてしまうこととなります。
したがって、無償ポイントを配布する場合には、有償ポイントとの区別が、ユーザーにも明らかにわかるようにしておくことをお勧めします。
3.4. 払い戻し義務
御社の「ポイントサービス」が「前払式支払手段」にあたる場合には、払い戻しができる場合、払い戻しができない場合が、明確に決められています。
払い戻しをしなければならない義務のあるケースもあります。
まず、次の場合には、払い戻しをしなければならない義務があります。
- 前払式支払手段の発行業務の全部または一部を廃止した場合
- 第三者型の発行者である場合に、登録を取り消された場合
次に、これらの場合以外は逆に、内閣府令43条で払い戻しを許容される場合以外は、払い戻しを行うことが禁じられています。
払い戻しを許容される例外的な場合とは、次のケースをいいます。
- 基準期間における払戻金額の総額が、その直前の基準期間の発行額の20%を越えない場合
- 基準期間における払戻金額の総額が、その直前の基準日未使用残高の5%を越えない場合
- 保有者が前払式支払手段を利用することが困難な地域へ転居する場合、保有者である非居住者が日本国から出国する場合その他保有者のやむを得ない事情により前払式支払手段の利用が著しく困難となった場合
3.5. 行政への報告
「前払式支払手段」に該当するとき、今回解説するような「資金決済法」による法的規制あるため、監督を行政が行うこととなります。
そのため、ポイントの発行者は、行政庁(金融庁長官)に対して、定期的に報告書を提出しなければなりません。
4. 自家型前払式支払手段の規制
「自家型前払式支払手段」とは、発行者に対してのみ使用することのできるポイントをいいます。
「自家型前払式支払手段」の例として、例えば、自社のウェブサービス上でのみ利用できるポイントサービスを導入する場合にはこれに当たります。
「自家型」の場合、基準日に発行する未使用残高が1000万円を超えるまでは、「資金決済法」の規制対象とはなりません。
これを越えた場合にはじめて、金融庁長官に対する届出義務を負うとともに、「資金決済法」の法的規制を受けます。
5. 第三者型前払式支払手段の規制
「第三者型前払式支払手段」とは、発行者以外の第三者においても使用することのできるポイントをいいます。
「第三者型前払式支払手段」の例として、例えば、有名なケースでは、スイカ(Suica)やパスモ(PASMO)などがこれに当たります。
「第三者型」は、金融庁の登録を受けた法人のみが、発行業務を行うことができます。
6. ポイントサービス運営のポイント
最後に、「ポイントサービス」を導入する企業が、「ポイントサービス」をうまく導入するポイントを解説します。
「ポイントサービス」は、上手に運用すれば、顧客の囲い込みや営業ツールとして、非常に強い効果を発揮します。
しかし一方で、「資金決済法」による規制を守ることは、多くの法律知識が必要であり、安易な導入は危険です。
6.1. 資金決済法の規制を受けないためには?
発行の日から「6か月未満」に限って使用できるポイントは、「前払式支払手段」にあたらないとされています。
「資金決済法」において、適用除外についての定めがあるからです。
「ポイントサービス」を導入したいのだけれど、「前払式支払手段」の法的規制を守ることが難しい場合は、ポイントの有効期限を6か月以内に定めるとよいでしょう。
特に、「供託義務」は、相当額の資金がロックされるため、これが御社において不可能であれば、有効期限を短くすることを検討してください。
6.2. 未使用残高が1000万円以下となった場合は?
御社の「ポイントサービス」が「前払式支払手段」にあたる場合であって、基準日の未使用残高が1000万円を超えた場合であっても、その後に未使用残高が1000万円以下となった場合には、次の義務はなくなります。
- 発行保証金の供託義務
- 自家型前払式支払手段に関する、報告義務
未使用残高が1000万円以下となった場合には、発行保証金を全額引き出すことができ、その後基準日の未使用残高が1000万円を超えるまでは、供託義務はなくなります。
ただ、その他の義務については、未使用残高が下回った後であっても、サービス自体を廃止しない限り継続的に行わなければなりません。
7. まとめ
以上の通り、「資金決済法」の「前払式支払手段」にあたる場合の法的規制は、かなり厳しいものがあります。
少なくとも500万円以上の現金を供託する義務が生じる、というだけでも、中小企業やベンチャー企業にとっては相当厳しいと言わざるを得ません。
運用上も、「資金決済法」に定められたルールにしたがって行わなければなりません。
したがって、まずは、「前払式支払手段」に当たらないようなポイントサービスの設計を考えましょう。法的な判断については、弁護士にお気軽にご相談ください。
御社の「ポイントサービス」が、「前払式支払手段」に当たるかどうかの判断は、難しい法的判断である上、誤った判断をした場合の金銭的なリスクが非常に高い問題でもあります。