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「コロナ感染者」や企業への誹謗中傷の法的責任と対策【弁護士解説】

新型コロナウイルス感染症の拡大にともなう不安感から、インターネット上でもさまざまな情報が飛び交っています。その中でも、社会的に問題視されているのが、名誉棄損・誹謗中傷の問題です。

特に、院内感染者が出てしまった病院に対しては、厳しい非難が寄せられることもあります。しかし、医療従事者の十分な努力をもってしても、未知のウイルスとの闘いは困難を極めます。

インターネット上の匿名掲示板などでも、完全な匿名ということはなく、技術的に特定可能な場合があります。そして、新型コロナウイルス感染者や病院に対して誹謗中傷をする行為は、重大な人権侵害となります。主に問題となる権利が、「名誉権」と「プライバシー権」です。

むやみに情報を拡散したり、過激な書き込みをしたりすることは控えなければなりません。

今回は、新型コロナウイルスに関連したインターネット上の書き込み行為について、その法的責任と、書き込まれた側の対処法を、弁護士が解説します。

「新型コロナウイルスと企業法務」まとめ

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権利侵害となるインターネット上の書き込み

新型コロナウイルス禍の感染拡大のいきおいは止まらず、誰しもが不安・恐怖を抱いているのではないかと思います。正常な判断力がおとろえた状況で、インターネット上でおこなう書き込みも、平時よりもつい筆が滑ってしまいがちです。

新型コロナウイルスによる甚大な被害や、収入状況の悪化を、誰かのせいにしなければやりきれないのかもしれません。5ちゃんねるなどの匿名掲示板はもとより、TwitterなどのSNSでも盛んな議論がされています。

しかし、次のような書き込みは権利侵害になる可能性が高く、ニュース報道などでも話題になっています。

コロナ感染者の個人情報

インターネット上の問題行為の1つ目は「コロナ感染者の個人情報の特定」です。プライバシー権の侵害が問題となります。

新型コロナウイルスへの恐怖感から、「感染者が出た場所には近づきたくない」「感染者を特定したい」という気持ちはわかります。しかし、感染してしまった側にも人権があり、個人情報をさらされる不利益を負うことは不当です。

そのため、インターネット上の匿名掲示板などで、コロナ感染者の個人情報を特定したり、住所や勤務先を書き込んだりする行為は、プライバシー権の侵害となります。個人情報があきらかになれば、インターネット上の問題だけにとどまらず、差別や偏見、いじめにもつながります。

この問題は、特に、都心部よりもコミュニティの狭い周辺部で顕著です。

コロナ感染者の家族・勤務先への誹謗中傷

インターネット上の問題行為の2つ目は「コロナ感染者の家族・勤務先への誹謗中傷」です。プライバシー権に加え、名誉権が問題となります。

新型コロナウイルスは、いわば「天災」であり、感染してしまった人の過失責任を問うことはできません。そうであるにもかかわらず、コロナ感染者を特定し、家族や勤務先を特定して、インターネット上で誹謗中傷する行為は、権利侵害となります。

これらの問題行為は、誹謗中傷の対象となった新型コロナウイルス感染者の家族の名誉権を不当に侵害する「名誉棄損」の問題となります。

新型コロナウイルス感染者の出た会社への誹謗中傷、不当な要求などを5ちゃんねるなどの匿名掲示板やTwitterなどのSNSに書き込む行為は、その会社に対する業務妨害となります。

院内感染した病院への誹謗中傷

インターネット上の問題行為の3つ目が「院内感染した病院への誹謗中傷」です。コロナ感染者の勤務先への攻撃と同様、業務妨害となる可能性の高い行為です。

新型コロナウイルスによる未曽有の事態で、「医療崩壊」が社会問題化しています。医療物資はつねに足りておらず、感染症に対応する病院はどこもひっ迫した状況です。院内感染の確実な原因も、特定されてはいません。

このような確実な情報のない中で、不安な気持ちはわかります。しかし、不確かな情報をもとに、インターネットの匿名掲示板やTwitterなどのSNSで、悪意のある情報を拡散することには法的な責任がつきまといます。

自粛しない人や店舗への誹謗中傷

インターネット上の問題行為の4つ目が「自粛しない人や店舗への誹謗中傷」です。

新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が出され、「3密(密閉・密着・密接)」の可能性のある多くの業種に、休業要請が出されています。しかし一方で、通常どおり業務を継続している会社や店舗もあります。

新型コロナウイルスの危険が叫ばれていても、通勤などで外出が必要な人もいます。行動の一部をとらえて、インターネット上でたたく行為は慎まなければなりません。

しかし、「自粛しない人や店舗に対しては何をしてもよい」という感覚で、5ちゃんねるなどの匿名掲示板やTwitterなどのSNSに誹謗中傷を書き込む行為は、権利侵害となり得ます。

写真や動画を撮影して、インターネット上にアップロードする行為は、撮影対象者の肖像権を侵害する可能性があります。インターネット上に限らず、実際にクレームや不当な要求を受けるときは、カスタマーハラスメントとしての対応も必要です。

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インターネット上の権利侵害を受けたときの対応

では、インターネット上で権利侵害が問題になりうる行為が、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で増加していることを理解していただいたところで、そのような権利侵害行為による被害を受けてしまったときの対応策について、弁護士が解説します。

誹謗中傷の内容によっては、名誉棄損罪、業務妨害罪などの犯罪行為となることもあります。すべてを新型コロナウイルスに責任転嫁するのではなく、厳しく対応する方針を明らかにすることがお勧めです。

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会社の基本方針を明確にする

新型コロナウイルスの影響で、インターネット上での誹謗中傷を受けてしまったとき、会社側(企業側)がまずおこなってくべいことは、会社の基本方針を明確に示すことです。ホームページなどで対応方針を公開することがおすすめです。

誹謗中傷をおこなう側も、新型コロナウイルスの影響で、正常な判断ができていない可能性があります。しかし、責任転嫁をさせてはいけません。新型コロナウイルスに関する情報発信であっても、「権利侵害」にあたるときは厳しい対処をすることを、会社として明示しておきます。

一方、会社で感染者が出てしまったとか、院内感染が発生してしまったといった非常時の場合には、情報開示はすみやかに、いつわりなくおこなうことが必要です。

不確かな情報しかない状況がつづくと、デマや噂が拡散され、ますます誹謗中傷が増加しやすい状況を作り出してしまいます。

削除請求する

名誉権、プライバシー権、経営権など、法的な権利を侵害するインターネット上の書き込みに対しては、「削除請求」とおこなうことができます。

「削除請求」は、書いた本人が特定できる場合はもちろんのこと、特定できない場合であっても、5ちゃんねるなどの匿名掲示板の管理会社、TwitterなどのSNSの運営会社、プロバイダなどを対象としておこなうことができます。

インターネット上の書き込みが、伏字などで匿名性を意識した書き方になっていたとしても、前後の文脈、書き込み全体の理解から、権利侵害の対象を特定できる場合には、削除請求を実施することができます。

インターネット上の情報に対する削除請求は、まずは交渉による任意の協力を求めますが、これで削除されない場合には、裁判所に仮処分を申し立てます。新型コロナウイルスの影響で裁判所は停滞気味ですが、仮処分など緊急性の高い案件は通常どおりの取り扱いとなっています。

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発信者情報開示請求をする

インターネット上の情報発信は、完全な匿名ではない場合も少なくありません。それは、プロバイダなどが保存するアクセス情報を追うことによって、情報発信者を特定することができるからです。

この情報発信者の特定のための方法を「発信者情報開示請求」といい、誹謗中傷などの被害を受け、損害賠償請求をするときには、まずはこの手続きをおこないます。

発信者情報開示請求もまた、削除請求と同様に、まずは交渉をおこない、決裂する場合には、裁判所に仮処分を申し立てる方法によっておこないます。弁護士会照会という任意開示の方法もありますが、一般的に、プロバイダが任意開示に応じることは少なく、裁判を行うことが一般的です。

発信者情報開示請求の裁判では、プロバイダ責任制限法に定められた要件に基づいた適切な主張をします。

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損害賠償請求をする

刑事罰の科される犯罪にならなくても、例えば、コロナ感染者の住所、氏名や勤務先などを特定し、インターネット上にさらす行為などは、プライバシー権侵害にあたり、損害賠償請求の対象となります。

特に、新型コロナウイルスのように社会問題化している疾患の感染歴については、とてもセンシティブな情報であり、強く保護されます。

会社名、病院名などを特定して、必要以上に危険性をあおり、誹謗中傷する行為もまた、損害賠償請求の対象になります。

業務妨害の場合には、これによって減った売上分の損失や、精神的苦痛に相当する慰謝料などが、請求内容となります。また、「店舗に新型コロナウイルスをまいた」などのデマがインターネット上で拡散されたとき、本来であれば必要なかった消毒作業をおこなわなければならなかったり、一定期間の休業を余儀なくされた場合には、消毒作業にかかった実費、休業損失なども、損害賠償請求の対象となります。

告訴・告発する

インターネット上の誹謗中傷行為の中身によっては、犯罪行為となることがあります。犯罪行為の被害者が、警察・検察などの捜査機関に処罰を求める行為を「告訴」といいます。被害者以外の人がおこなう場合「告発」といいます。

人の社会的な評価を下げる行為は「名誉棄損罪」にあたり、「3年以下の懲役もしくは禁固または50万円以下の罰金」の法定刑が科されます。名誉棄損は、発信した情報が真実であっても成立します。氏名や住所をさらす行為だけでなく、撮影した写真や動画をアップロードする行為も「コロナ感染者」とい名誉棄損にあたります。

会社の業務を妨害する行為は「業務妨害罪」にあたり、「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」の法定刑が科されます。噂やデマを流す方法でおこなうものを「偽計業務妨害罪」、コロナ感染者だと喧伝するなどの力の行使によっておこなうものを「威力業務妨害罪」といいます。

インターネット上の誹謗中傷にとどまらず、勤務先に電話がかかってきたり、不当な要求やクレームを受けたりといった例も報道されています。このような例では、業務妨害罪にあたることが明らかであり、警察への通報など、厳正な対処をすべきです。

「企業法務」は、弁護士にお任せください!

今回は、新型コロナウイルス禍の影響で増えている、インターネット上の誹謗中傷への対応策について、弁護士が解説しました。

新型コロナウイルスは、多くの人に恐怖をあたえており、ウイルスへの過剰反応を生んでいます。平時であればおこなわないようなインターネット上の誤った情報、デマの拡散も、残念ながら広まってしまっています。

しかし、新型コロナウイルスの非常事態だからといって、何をしてもよいわけではありません。匿名だとしても、情報発信の法的責任が問われます。

新型コロナウイルスによるデマや噂、誹謗中傷により被害を受けてしまった方は、ぜひ一度、企業法務に詳しい弁護士にご相談ください。

「新型コロナウイルスと企業法務」まとめ

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