住居を訪問し、リフォームの営業をする企業があります。このようなビジネスモデルで経営するには、重大な法律上の注意点が数多くあります。
というのも、利益を追求するあまり無理をすれば、「リフォーム詐欺」に加担するおそれがあるからです。顧客を騙して不要な契約をさせたり、強く営業して脅したりといった悪質なリフォーム業者へのクレームは社会問題化しています。ネット社会では、口コミは瞬く間に広がります。リフォーム詐欺との風評が広まれば、今後の売上は見込めません。
(※ 参照:特定商取引ガイド「訪問販売でリフォーム工事の契約をさせられた」)
特に、リフォームの訪問販売は、違法となる可能性があります。消費者と、事業者との間で、情報量に大きな格差があるからです。違法性のない営業方法とするには、法令を遵守し、誠実な対応をすべき。この際、消費者保護を目的とした特定商取引法、消費者契約法といった法律を理解する必要があります。
今回は、リフォーム詐欺という評価を受けないために、事業者が注意すべきポイントと、リフォームの訪問販売の違法性について、企業法務に強い弁護士が解説します。
- リフォームの訪問販売は、消費者を不当に侵害する営業手法なら、違法の可能性あり
- 違法な訪問販売には、契約の解除、行政処分、刑事罰、信用低下などのリスクがある
- リフォームの訪問販売が違法にならないよう、社内の体制整備をするのが重要
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リフォームの訪問販売が違法となるケース
リフォームの訪問販売だけで、すぐ違法なわけではありません。むしろ、顧客の住居を営業マンが実際に訪問して、リフォームが必要な箇所を目視で確認することは、具体的な提案につながる、とても有効な営業手段です。
それでもなお、リフォームの訪問販売のイメージが悪いのは、悪質な詐欺業者がいるからです。リフォーム詐欺をはたらく悪質な業者は、消費生活センターなどでも多くのクレームにつながり、社会問題化しています。リフォームの訪問販売を事業として経営するにあたり、同種の悪質業者だというイメージを抱かれれば、大きなマイナスとなります。そこで、悪質なリフォーム業者の、違法な手口を知っておく必要があります。
リフォームの訪問販売が違法となるケースは、例えば次のものです。
- 顧客が拒否しても押し売りを続ける
- 無許可で住居内に立ち入る
- 家のドアを閉めさせない
- 早朝、夜間に突然訪問して営業する
- その場ですぐ契約するよう急かし、判断力を低下させる
- ぼったくりのリフォーム費用を請求する
- 過度に不安を煽り、不必要なリフォームを売りつける
リフォームの訪問販売に対するクレームは、不誠実な営業によって起こります。ただ、実際の問題は、リフォーム営業のみの改善だけでは解決しません。リフォームの訪問販売の問題は、後のリフォームのサービスの質の悪さも原因となっているからです。
営業社員が、リフォームの知識を有せず、強引な営業によって契約を取得する場合、その後に下請け業者に丸投げするだけだと、激しいクレームにつながりがちです。いざクレームが表面化すれば、ネット上の風評被害につながる危険もあります。
違法なリフォームの訪問販売に対する制裁
リフォームの訪問販売が違法の疑いがあると、事業者は制裁を受けることとなります。消費者被害が社会問題化し、取締は、年々強化されています。
悪質な詐欺のケースでは、行政処分を受けたり、経営者が逮捕されたりする会社もあるため、甘く見てはなりません。
契約の解除
違法な営業方法によって得られた契約を、続けることはできません。騙したり、脅したりしてとった契約は、詐欺または強迫によって取り消し可能となります(民法96条)。また、不実の告知をしたことで契約を得ても、クーリングオフによる解約が可能です。すでに得ていたリフォーム費用についても返金を要します。
したがって、どれほど無理をして契約をとっても、後に顧客から解約を受けてしまいます。
解約されると、書類作成、説明や訪問など、解約の手続きのために、会社側に大きな負担がかかり、良いことはありません。最初から誠実に説明し、営業していれば、これらの人的コストは負担する必要のなかったものです。
行政処分
リフォームの訪問販売を事業として進めるにあたって注意しなければ、法違反として行政処分を受けてしまいます。訪問販売で注意すべき代表的な行政処分は、特定商取引法による行政処分、景品表示法による行政処分の2つです。
行政処分の対象となるのは、次の行為です。
- 訪問販売における氏名、勧誘目的、勧誘に係る商品、役務の明示義務違反
- 契約を締結しない旨の意思表示をした者に対する再勧誘の禁止違反
- 訪問販売における法定書面の交付義務違反
- 不実告知の禁止違反
- 威迫・困惑の禁止違反
- 契約に基づく債務などの履行拒否、不当な遅延
特定商取引法による不実告知の場合の行政処分が、典型例です。リフォームの訪問販売でも、実態と異なった説明をして、不当に契約を取得するケースがこれにあたります。さらに、行政からの指示を受けたにもかかわらずこれに違反した場合、業務停止命令といった厳しい処分のほか、刑事罰の対象ともなります。
刑事罰
リフォームの訪問販売を事業とするときには、刑事罰を受けてしまう危険もあります。注意すべき代表的な刑事罰は、特定商取引法違反による刑事罰、詐欺罪(刑法246条)の2つです。
リフォーム事業者が、営業の際に、事実に反する告知をし、不実告知(特定商取引法6条1項)にあたると、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金の刑事罰が科せられます。また、虚偽の事実を伝えることによって、リフォーム費用を騙し取った場合には、詐欺罪として、10年以下の懲役という重い刑罰が科せられます。
リフォームの訪問販売の際、床下の水漏れやシロアリ被害など、虚偽の事実を伝えて不安を煽るような営業手法は危険と言わざるを得ません。
社会的評価の低下
営業時に不誠実な対応をすれば、その会社の社会的評価は低下します。ネット上の風評が広まれば、会社の売上にも大きく影響するでしょう。いち営業マンの問題でなく、全社的な課題としてとらえなければなりません。リフォーム詐欺業者だというレッテルを貼られれば、今後の営業の支障となります。
誠心誠意の対応をしていても、クレームを受けることがあります。事実に反する悪い口コミを書かれるなど、ネット上の風評被害に遭ってしまったら、削除請求、損害賠償請求をはじめ、風評対策を弁護士に相談ください。
違法なリフォーム詐欺にならないための事業者側の注意点
次に、リフォームの訪問販売が、違法にならないため、事業者側が注意すべき点を解説します。違法なリフォーム詐欺と言われないよう、社内によく浸透させるようにしてください。
ここまで、リフォームについての営業手法が違法となるケースを解説しました。違法な方法をとってしまえば、短期的には利益が増加することもありますが、長期的な視点で見れば、会社にとってマイナスです。なので、リフォームの訪問販売が違法にならないよう細心の注意を払うべきです。
事実を正確に説明する
リフォームの訪問販売を事業として経営するにあたり、誠実な対応を徹底してください。クレームを受けるような悪質な業者と同類だと思われないよう、営業手法に注意しましょう。重要なのは、事実を正確に説明することです。
住宅のリフォームのような専門分野は、消費者のほうが事業者より情報が少ないものです。知識も少なく、十分理解すれば締結しなかった不利な契約でも、営業に騙されてしまうケースも否定できず、消費者被害につながるわけです。逆に、正確な事実を説明し、顧客目線で提案すれば、長期的な信用につながると期待できます。
リフォームの訪問販売で、特に注意して説明すべき事実は、次のものです。
- 自社の情報
名刺やパンフレットを渡すなどして、名称、連絡先を説明する - 責任の所在
法人名に加え、担当者、責任者などがわかるように説明する - 他社との比較
性能の差をアピールする場合、数字によって客観的に説明する - リフォーム費用
かかる費用の総額を、わかりやすく説明する - 適用される割引や特典
割引などのメリットを提案して営業するなら、その条件や内容を正確に説明する - リフォームの必要性
過度に不安を煽ることなく、必要な工事の内容、その理由を正確に説明する - 契約の流れ
その場ですぐに契約しなくてもよいことを説明する - 解約の流れ
万が一、契約の意思がなくなった場合、クーリングオフ制度があることを説明する
誇大広告をしない
事実を正確に説明すべきなのは、裏を返せば、誇大広告をすべきでないという意味です。営業して、契約をとるためには、メリットを過大に評価したり、デメリットを隠したりしてしまいがちです。しかし、効果を誇張して取得した契約は、違法になるおそれがあります。
誇大広告を防止して消費者を保護する法律に、景品表示法があります。景品表示法では、実物よりよく見えるよう広告する「優良誤認表示」、他社より不当に有利に見えるよう広告する「有利誤認表示」を禁止し、消費者被害の防止が目指されています。
クーリングオフ制度を理解する
消費者保護の観点から、一定の取引類型について、特定商取引法においてクーリングオフ制度が定められています。
訪問販売は、消費者の権利が不当に侵害される危険性が高く、クーリングオフによる解約が許される取引類型の1つです。リフォームを事業とする会社でも、営業手法として訪問販売を活用するなら、クーリングオフを理解し、消費者を不当に害しないよう注意を要します。
訪問販売では、事業者が消費者に法定書面を交付してから8日以内なら、クーリングオフによって契約を解除できます。
事業者として重要な注意点は、法定書面を交付してはじめてクーリングオフ期間が進行するということ。法定書面を渡していなかったり、必要な記載事項が不足していたりすると期間は進行せず、いつでもクーリングオフできてしまいます。
法定書面に記載すべき事項は、次のとおりです。
- 商品若しくは権利又は役務の種類
- 商品若しくは権利の販売価格又は役務の対価
- 商品若しくは権利の代金又は役務の対価の支払の時期及び方法
- 商品の引渡時期若しくは権利の移転時期又は役務の提供時期
- (特定商取引法)9条1項の規定による売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回又は売買契約若しくは役務提供契約の解除に関する事項(9条第2項から第7項までの規定に関する事項を含む。)
リフォームの訪問販売では特に、リフォームを実際にしてからクーリングオフされた場合は原状回復をしなければならない点に注意が必要です。
正しい営業マニュアルを作成し、教育する
リフォームの訪問販売で、違法な営業が行われてクレームを生まないためには、実際に担当する営業社員の教育が重要となります。そのためには、営業マニュアルを作成し、会社組織として教育することが大切です。
個々人の能力やスキルに任せるのでなく、組織全体として、違法な営業手法を用いないよう徹底しなければなりません。営業社員にとっては、成果が上がるほうがアピールにつながります。多少の違法なやり方でも、会社にバレなければと違法な行為に走ってしまう社員もいます。特に、リフォームの訪問販売で、インセンティブの割合が大きいとき、社員側でもこのような不正が横行しがちです。
「成約した売上の20%」のように、いわゆる成果給、出来高給の制度とするのは、労働者のモチベーションを上げるのに効果的です。しかし、やる気が空回りすれば悪い方向に働き、強引で違法な営業を助長することとなります。
労働基準法を遵守する
十分な給料を与えないと、営業社員が、つい多くのインセンティブを得ようと無理をして、違法な営業に手を染めるおそれがあります。そのため、リフォームの訪問販売を社員に指示するにしても、少なくとも労働基準法を遵守した、適切な社内体制の構築が必須となります。
営業社員の労働条件で、特に注意すべきことは、出来高払い制とする場合には保障給の支払いを要する点。労働基準法では、労働者の生活の安定を確保するため、通常の労働者の実収賃金をあまり下回らない程度の収入を保障しなければならないことが定められています。
まとめ
今回は、リフォームの営業をする会社に向け、リフォームを訪問販売する際に、法律上の注意すべきポイントを解説しました。よく理解し、訪問販売が違法だと言われてしまわないよう注意してください。
違法な営業方法を進めて、リフォーム詐欺を疑われてしまえば、行政処分や、最悪の場合には刑事罰の対象となる危険があります。少なくとも、詐欺業者とのレッテルを貼られて悪評が広まり、ビジネスの継続は危険になってしまいます。
会社ぐるみで違法な営業を指示したのではなくても、営業社員の行き過ぎがとがめられるケースもあります。マニュアルや教育が適切でなければ、その責任は会社の経営者にあります。グレーな営業、クレームや風評被害に結びつくような誠意ない営業をしないよう、よく指導しなければなりません。
- リフォームの訪問販売は、消費者を不当に侵害する営業手法なら、違法の可能性あり
- 違法な訪問販売には、契約の解除、行政処分、刑事罰、信用低下などのリスクがある
- リフォームの訪問販売が違法にならないよう、社内の体制整備をするのが重要
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