お客様の住宅を訪問してリフォームの営業をする訪問販売会社を経営するとき、細心の注意が必要です。
というのも、売上の拡大を求めるあまり、お客様をダマして注文をとろう、脅して契約してしまおう、という悪質なリフォーム業者が多くクレームが多く起こっているからです。
消費者であるお客様と、事業者である会社とでは、情報量に差があるため、少しでも誠実さを欠いてしまえば「悪質だ!」「詐欺だ!」といったクレームをまねくこととなります。
「消費者保護」の法律として「特定商取引法」や「消費者契約法」があり、これを遵守してリフォーム営業を行う必要があります。
法律に従った適切な営業を行うことによって、お客様や社会から、良い評価を勝ち取るようにするのがよいでしょう。
今回は、「リフォーム詐欺」とのクレームをいわれないため、訪問事業者が注意しておくべきポイントを、企業法務を得意とする弁護士が解説します。
目次
1. よくあるリフォーム訪問販売のクレーム
リフォーム訪問販売のイメージが悪いのは、悪質な詐欺業者がいて、そのクレームが絶えないためです。
御社が、同種の悪質業者だというイメージを抱かれないためにも、悪質業者の手口を簡単に理解しておきましょう。
リフォーム訪問営業に対するクレームには、次のようなクレームがあります。
- 拒否しているのに押し売りをつづけてくる
- 忙しいタイミングに突然訪問してくる
- 明らかにボッタクリな料金のリフォームを契約しようとする
- 不必要なサービスを押し付けてくる
- 質の悪いリフォームを強要してくる
実は、リフォーム訪問販売に対するクレームは、営業部分に関するクレームだけではありません。
その後のサービスの質の悪さや、営業の人が建築の知識を一切もっておらず、下請業者へ丸投げにしているだけであったりといった場合にも、クレームとなりやすいといえます。
いざクレームが表面化してしまうと、インターネット上での誹謗中傷、名誉棄損につながるおそれもあります。
2. 事実を正しく説明する
リフォーム訪問販売を経営する場合には、クレームを受けている悪質業者と同じであると思われないためにも、誠実な対応が必要です。
特に重要なのは、「事実を正しく説明する。」ことです。
消費者の方が、事業者よりも情報、知識が少ないため、十分理解していればしなかったような不利な契約を、営業に騙されて契約してしまうというケースも否定できず、このような消費者被害が起これば、クレームに繋がるわけです。
事実を説明していれば、長期的な信用につながり、結果として売上の向上が期待できます。
リフォーム訪問販売を行う場合に、特に注意して説明すべき事実は、次のようなものです。
- 自社の名刺、名称、ホームページなど所属会社の情報
- どこまでの業務が無料であるか
- 他社との性能の差
- 他社と比較した場合の料金
- その場ですぐに契約しなくてもよいこと
- クーリングオフ制度
これらの注意事項は、いずれも、悪質業者へのクレームの多い部分でもあります。
3. クーリング・オフ制度
「クーリング・オフ制度」は、特定商取引法に定められた、訪問販売を含む消費者保護の必要な取引類型について、一定の期間、消費者側からの解約を許す法制度をいいます。
目的は、消費者保護にありますから、事業者側としては、消費者を不当に害したと判断されないように、クーリング・オフに対応しなければなりません。
訪問販売の場合には、事業者が「法定書面」をわたしてから、8日以内であれば、契約の申込みを撤回したり、契約の解除をしたりすることができます。
そして、事業者としては、法律で定められた内容を記載した書面を渡してはじめてクーリングオフ期間が進行するということをよく理解しておいてください。
この書面を渡さなければ、「いつでも解約できる。」という状態となりかねません。
クーリング・オフの法定書面の内容は、次の事項です。
- 商品若しくは権利又は役務の種類
- 商品若しくは権利の販売価格又は役務の対価
- 商品若しくは権利の代金又は役務の対価の支払の時期及び方法
- 商品の引渡時期若しくは権利の移転時期又は役務の提供時期
- 9条1項の規定による売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回又は売買契約若しくは役務提供契約の解除に関する事項(9条第2項から第7項までの規定に関する事項を含む。)
特にリフォーム訪問販売会社が、クーリング・オフ制度に最大点の注意を払わなければならないのは、リフォームを行ってからクーリング・オフされた場合には、原状回復しなければならないためです。
4. 誇大広告をしない
「事実を正しく説明する」ことの裏返しでもありますが、特に、「誇大な広告をしないこと」、広告で効果などを誇張しないことが重要です。
誇大広告による消費者被害を防止するための法律として、「景品表示法」がありますが、「景品表示法」に違反をしないよう、十分注意しておきましょう。
「景品表示法」では、実際よりもよく見えるような広告をする「優位誤認表示」と、他社よりも有利に見えるような広告をする「有利誤認表示」が禁止されています。
5. リフォーム訪問販売に対する制裁
悪質な詐欺や特定商取引法違反の場合、リフォーム訪問販売のケースであっても逮捕をされたり、行政処分を受けたりした会社は多く存在します。
リフォーム訪問販売とはいえ、甘く見ないほうがよいでしょう。
特に、消費者被害が社会問題となり、取り締まりは年々強化されています。
5.1. 行政による処分
リフォームの訪問販売会社を経営するときに、特に注意しておかなければならない代表的な行政処分は、特定商取引法による行政処分と、景品表示法による行政処分の2つです。
まず、特定商取引法による行政処分は、既に解説しました「不実告知」や、一度行政より指示を受けたにもかかわらず指示に違反した場合には、業務停止命令といった厳しい処分のほか、刑事罰の対象ともなりますので、注意が必要です。
次の行為が、「指示」「業務停止命令」の対象となります。
- 訪問販売における氏名、勧誘目的、勧誘に係る商品、役務の明示義務違反
- 契約を締結しない旨の意思表示をした者に対する再勧誘の禁止違反
- 訪問販売における法定書面の交付義務違反
- 不実告知の禁止違反
- 威迫・困惑の禁止違反
- 契約に基づく債務などの履行拒否、不当な遅延
指示違反の場合には、業務停止命令、および「100万円以下の罰金」及び法人、事業主にも100万円以下の罰金、業務停止命令違反の場合には「2年以下の懲役または300万円以下の罰金」、法人には3億円以下の罰金、事業主には300万円以下の罰金が科せられます。
5.2. 刑事罰
リフォームの訪問販売会社を経営するときに、特に注意しておかなければならない代表的な刑事罰は、特定商取引法違反と、詐欺罪の2つです。
リフォーム事業者が、次のような事実に反する告知をすることがあります。
この場合、特定商取引法6条1項の「不実告知」にあたり、「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」となるおそれがあります。
- 床下に水漏れしている。
- シロアリに食われている。
- 柱が腐っている。
- モニター価格であるため割安である。
- 補助金が出るため無料である。
また、上の例のような、虚偽の事実を伝えることによって、実際に工事代金をだまし取った場合には、詐欺罪にあたります。
5.3. 信頼の低下
お客様に対して不誠実な対応をする営業マンがいれば、その営業マン個人の問題ではなく、会社全体の信頼が落ちることとなります。
ネット上の誹謗抽象、名誉毀損につながるおそれもありますが、インターネット上で、会社名入りのクレーム投稿をされてしまえば、売上に大きく影響しかねません。
このような最悪の事態の場合には、心当たりのあるお客様に対して誠心誠意対応するとともに、インターネット上の問題については、IT法務に詳しい弁護士に依頼して削除請求を行うとよいでしょう。
5.4. 契約解除の手続き負担
不実告知を行ったことによる契約であったり、クーリング・オフで解約が可能となる契約であったりする場合、実際にお客様からの解約を受けると、書類作成、説明、訪問など、会社には解約手続のための多くの負担がかかることとなります。
最初から誠実に営業を行っていれば、これらの人的コストは、負担する必要のなかったものです。
6. クレームを生まない営業マンの労務管理
リフォーム訪問販売の営業マンは、成果給、出来高給ではたらいている方が非常に多くいるようです。つまり、「成約させた売上の〇%」という形です。
しかし、出来高給だけで営業マンの給料を支払うことは、労働基準法違反となることはもちろん、営業マンのモチベーションが悪い方向にはたらいて強引な営業を助長します。
そこで、次に、クレームを生まない営業マンの労務管理について、企業の労働問題に詳しい弁護士が解説します。
6.1. 固定給は労働基準法を遵守する
まず、十分な賃金を与えていない場合、営業マンがつい多くの成果給、出来高給を得ようとして、無理な営業をしてしまうおそれがあります。
固定給を与える場合には、少なくとも、最低賃金法の基準を守った賃金を与えるようにしましょう。
また、賃金のすべてを出来高払い制度とすることは認めらておらず、労働基準法上、一定の「保障給」を支払わなければならないこととされています。
労働者の生活の安定を確保すべき保障給は、通常の労働者の実収賃金を余り下回らない程度の収入が保障されるべきものと決められています。
6.2. 事業場外みなし労働時間制
営業マンが、各お客様の家庭を訪問して営業をするという形態の場合には、会社が、各営業マンの労働時間を正確に把握することは困難なケースがあります。
このようなとき、活用できるのが、一定の時間だけ働いたこととみなす「事業場外みなし労働時間制」です。
ただし、事業場外みなし労働時間制を採用したからといって、残業代を一切支払わなくてもよい、という考えは、大きな誤りです。
営業マンに対して、労働時間に見合った賃金を支払わない場合には、やはり、自分の利益を追求するために無理な営業に走ってしまうおそれも否定できません。
7. まとめ
今回は、リフォームの訪問販売会社を経営されている経営者に向けて、御社の訪問販売ビジネスが、違法な内容にならないよう、法律上注意しておくべきポイントを、弁護士が解説しました。
特に、完全に違法な営業を指示したというケースでなかったとしても、営業マンの行き過ぎ行為があったり、グレーな行為を行っていたりした場合、クレームや風評被害をまねく要因ともなりかねません。