人事労務

採用内定者(入社前)に、就業規則は適用される?【弁護士解説】

社員の入社段階は、労働者からの採用応募に始まり、採用選考を経て、採用内定へと至ります。

採用内定中、まだ入社前の人をどのように取り扱えばよいのか、という法律相談があります。むしろ労働者のほうから「就業規則をみせてほしい」「どの程度会社に拘束されるのか」と質問されて困っている会社からもご相談をいただきます。

採用内定のことを法律の専門用語で「始期付き解約権留保付き雇用契約」といいます。つまり、内定段階であっても、既に雇用契約(労働契約)が締結された状態という意味です。しかし、就労義務はまだ発生していないため、会社による制約には一定の限界もあります。

今回は、まだ入社前の採用内定者について、会社全体に適用されるルールである「就業規則」が適用されるのか、「就業規則を見せなければならないのか、といった点を、企業法務に詳しい弁護士が解説します。

「採用内定・試用期間」の法律知識まとめ

採用内定とは?

採用内定とは、会社が労働者に対して、労働契約(雇用契約)成立させる時点のことをいいます。採用内定までの過程は、一般的に、次のように進みます。

  1. 労働者からの応募
  2. 採用選考
  3. 採用内定
  4. 雇用契約書(労働契約書)の締結

採用内定は、「採用内定通知書」などの書面を交付することで通知します。採用内定通知書は、労働者からの契約締結の意思表示(応募)に対する受諾の意思表示であり、これをもって労働契約(雇用契約)が成立します。

採用内定について「入社する前段階に過ぎない」という誤解もありますが、採用内定時点で、既に労使間の契約は成立しているのです。

ただし、就労は入社を待って行うものとされています。このように「就労が将来となること」「それまでの間、会社側から解約(内定取消)があり得ること」を指して、専門用語で「始期付き解約権留保付き雇用契約」と呼びます。

つまり、採用内定とは、「既に労働契約(雇用契約)が成立しているけど、まだ働く義務は負っていない状態」のことです。

採用内定者に、就業規則が適用される?

就業規則の冒頭に、その規則の「適用範囲」が記載されていることが一般的です。通常は、「この就業規則は、当社の雇用する従業員に適用される。」といった条文があります。

さきほど解説した通り、採用内定者は、既に労働契約(雇用契約)を締結した社員ですが、まだ働く義務は負っていません。「当社の雇用する従業員に適用される。」という条文は、採用内定者には適用されるのでしょうか。

このような特殊な状況にある採用内定者に対して、就業規則が適用されるのかどうか、また、適用されるとしたら全部なのか一部なのか、といった点について、弁護士が解説します。

採用内定者にも就業規則が適用される

就業規則は、「社員」もしくは「従業員」に適用されると記載されていることが一般的です。

「いつから社員もしくは従業員となるのか。」について、就業規則に明記されていないことが多いですが、法的には、採用内定の時点で、「始期付き解約権留保付き労働契約」という特殊な労働契約(雇用契約)が締結され、社員となることになります。

労働契約法7条では、就業規則は、合理的な労働条件が定められており、労働者に周知されていた場合に、労働契約の内容となるものと定められています。

そのため、採用内定者は既に雇用契約を締結しているものと考えて、就業規則を適用する場合には、その就業規則を周知しておかなければなりません。

部分的に、適用されない場合がある

採用内定者に対して就業規則が適用されるとしても、どの範囲の就業規則が適用されるかは、ケースバイケースの判断となります。

採用内定者は、はたらく義務は入社日以降にしか発生しないとしても、既に雇用契約(労働契約)が締結された状態であることから、一定の制約を負っています。

そのため、就業規則のうち、就労を前提としない部分については、採用内定者に対しても適用されます。

採用内定者に適用される就業規則の部分=就労を前提としない部分

  • 企業秩序を維持する義務
  • 会社の名誉、信用を保持する義務

採用内定者に適用されない就業規則の部分=就労を前提とする部分

  • 労働義務
  • 休憩・休日
  • 労働時間
  • 賃金支払義務

新卒入社の内定者は、学生であることが多いため、学業に大きな支障を及ぼすような業務命令は適切ではなく、従う義務がないと考えるのが一般的です。

会社側(使用者側)としても、「就業規則が適用されるかどうか」という形式論によって採用内定者を拘束しようとすれば、会社の信用を失い、入社後のモチベーションを削ぐことにもつながります。

内定者から「就業規則を見せてほしい」と求められたときの対応

「内定者に対しても、就業規則のうち就労を前提としない部分については適用される」ということを理解していただいた上で、次に、内定者から「就業規則を見せてほしい」と求められたときの会社側の対応について解説します。

結論から先に申し上げると、少なくとも一部は適用されるわけですから、就業規則の提示を求められたら、内定者に対しても就業規則を見せる必要があります。

そもそも、労働基準法で、会社は入社時に労働条件を明示しなければならない義務を負っています。そして、その労働条件の一部は、就業規則に書かれている会社が多いです。

したがって、労働条件の一部を就業規則にゆだねている会社では、入社時に内定者が「就業規則を見せてほしい」といってきたとき、「働きはじめてから見せる」という対応は不適切です。

むしろ、「不備のある就業規則を見せてしまっては、入社をためらわれてしまうかもしれない」という不安がある会社は、適法かつ適切な就業規則を、しっかりと整備しておく努力が必要です。

内定取消には、労働法が適用される

採用内定の取消のことを「内定取消」といいます。ひとたび成立した労働契約(雇用契約)を、会社側の一方的な意思表示で解約することを意味するものですから、「解雇」と同じ意味を持ちます。

そのため、内定取消に対しては、労働法が適用され、労働者は法律による保護を受けることができます。

採用内定の取消のとき適用される、会社が注意しておくべき労働法の内容は、次の通りです。

  • 労働契約法16条
    :「解雇権濫用法理」により、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当でない限り、内定取消が無効となります。
  • 労働基準法20条
    :「解雇予告」について、内定取消の30日前に予告するか、不足する日数分の解雇予告手当を支払う必要があります。
  • 労働基準法22条
    :「退職時等の証明」について、労働者が求める場合には解雇理由を書面で通知しなければなりません。

労働法に違反するような就業規則は無効です。

そのため、就業規則はこれらの法律に違反することができませんから、採用内定者に対して就業規則が適用されるにせよされないにせよ、いずれにしても「内定取消」には厳しい制限が課せられます。

安易な内定取消は、「不当解雇」であるという争いを起こされてしまうおそれがあるため、注意が必要です。

「人事労務」は、弁護士にお任せください!

今回は、「採用内定者に対して就業規則が適用されるのかどうか」、また、適用されるとしてどの部分が適用されるかについて、弁護士が解説しました。

まだ入社しておらず、内定段階にすぎない人でも、既に労働契約(雇用契約)を締結済みと考えることから、就業規則による一定の制約を受けます。そして、その裏返しとして、内定者から「就業規則を見せてほしい」といわれたら、就業規則を交付するなどして、閲覧させるようにしてください。

採用内定は「入社の準備段階」と甘く見られがちですが、可能なかぎり社員と同様の扱いをしなければなりません。就労を前提とする部分以外は、就業規則が適用されると考えるべきです。

採用内定をめぐる社員の扱いでお困りの会社は、ぜひ一度、企業法務に詳しい弁護士にご相談ください。

「採用内定・試用期間」の法律知識まとめ

  • この記事を書いた人
  • 最新記事
アバター

弁護士法人浅野総合法律事務所

弁護士法人浅野総合法律事務所は、銀座駅(東京都中央区)徒歩3分の、企業法務・顧問弁護士サービスを得意とする法律事務所です。 会社側の立場で、トラブル解決・リスク対策・予防法務の実績豊富な会社側の弁護士が、即日対応します。 「企業法務弁護士BIZ」は、弁護士法人浅野総合法律事務所が運営し、弁護士が全解説を作成する公式ホームページです。

-人事労務
-, ,

お問い合わせ


お問い合わせ

© 2020 企業法務・顧問弁護士の法律相談は弁護士法人浅野総合法律事務所【企業法務弁護士BIZ】