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始業より早く出社する「早出社員」に残業代を払わなければいけない?

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「時間にルーズな社員」というと、遅刻を繰り返したり、理由もなく早退をしたりする問題社員をイメージしがちです。

しかし、これとは逆に、会社に、理由もなく不必要に早く来たり、会社に居残り続けたりする社員も、「問題社員」となるケースがあります。

特に、始業時間より早く会社に来る「早出社員」が高額の残業代を請求してきたとき、会社経営者としては、どのように対応したらよいのでしょうか。

今回は、毎日、始業時間より早く出社する「問題社員」に対して、残業代を支払わなければならないのかについて、企業の労働問題に詳しい弁護士が解説します。

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「早出」も残業

社員が、自分から積極的に始業時間よりも早く出社してくるケースがあります。

例えば、「電車が遅れるかもしれない。」、「道路が渋滞しているかもしれない。」など、遅刻の可能性があるため、余裕をもって出てくるというケースです。

会社側(企業側)の立場としては、「早く会社に来て仕事をするとは、良い心掛けだ。」と放置しておいてはいけません。「早出」した時間が、「残業」となる可能性があるからです。

「余裕をもって5分早く出社した。」という程度ならまだしも、かなり早く出社して仕事をしていたと主張された場合には、その「早出」が残業になる可能性があります。

「労働時間」の考え方

労働基準法(労基法)では、「労働時間」に対して「賃金」を支払わなければなりません。法律上、賃金を払うべき「労働時間」とは、「会社(使用者)の指揮命令下にある時間」のことをいいます。

そして、会社(使用者)の指揮命令下にあるかどうかは、会社が従業員に対して、労働することを明示的に命令した場合が含まれるのは当然ですが、黙示に業務を命令していると評価できる時間も含まれます。

つまり、「早出して労働している。」という事実を知りながら放置していた場合、「会社が黙認していた。」として、「労働時間」に加算される場合があります。

「労働時間」の具体的基準

とはいっても、どの程度の事情があれば、「黙示の業務命令」があったと評価されるかは、ケースバイケースの判断となります。

具体的には、早出をした時間が「労働時間」になるかどうかは、次の2つの基準で考えます。

  • 従業員が、会社で業務をする必要性があったかどうか。
  • 会社が従業員に対して、業務を明示的または黙示的に命令していたかどうか。

最終的には、裁判によって決着をつけることになるため、過去の裁判例が参考となります。お悩みの会社は、ぜひ一度、会社側の労働問題を取り扱う弁護士にご相談ください。

残業代が必要となる

今回のテーマである「始業時間より1時間早く出社してくる社員」がなぜ問題かというと、残業代が1つの大きな原因です。

始業時間より早く出社するのはやる気があってよいことですが、仕事をする必要性が会社側にとっては全くないにもかかわらず出社した場合であっても、残業代を支払わなければなりません。

このように毎日の「早出」で積み上げられた残業代は、会社の思うよりも相当高額であるおそれがあり、危険です。労働基準法(労基法)で、「1日8時間、1週40時間」を超える「労働時間」には、残業代が必要とされているからです。

「早出」社員への会社の対応法

「早出社員」が、その労働時間を記録し、残業代を請求してくる可能性があることをご理解いただいたところで、会社側(企業側)が行うべき対策について、弁護士が解説します。

早出が恒常化している社員から高額な残業代請求を受けないようにするためには、常日頃からの対策が必要です。対策は、日常的に継続して行わなければならず、後でまとめて行うことはできません。

「早出」の理由を問いただす。

まず、毎日始業時間より1時間早く出社してくる社員に対しては、早出の理由を明らかにするよう、厳しく問いただしてください。

経営者や管理職の人は、あるときはその社員と一緒の時間に出社し、早出した時間、その社員が何をしているか監督しなければなりません。

早出したにもかかわらず、タイムカードを押したあと仕事をせず、コーヒーを飲んだりたばこを吸ったりしているときは、「業務上の必要性なし」と考え、「早出しても働いていない。」という証拠を必ず残すようにします。

「早出」の必要性がなければ注意指導

始業時間より早く出社することに、「業務上の必要性なし」と判断したときは、きっちり始業時間に出社してくるよう、注意指導してください。

この指導を怠って、常に少し早めの出社を認めていたとすれば、「黙示の労働時間」とされ、残業代を請求されるおそれがあります。

この場合には、早く出社した時間も含めて、労働時間が「1日8時間、1週40時間」(法定労働時間)を超えていた場合には、残業代を支払わなければなりません。

口頭での注意指導でも、問題社員が改善をしようとしない場合には、注意指導書などの書面を手渡す方法によって厳しく注意してください。

○○○○ 殿

○○年○月○日
株式会社○○○○
代表取締役〇〇〇〇
注意指導書(不必要な早出残業の禁止について)

貴殿におかれましては、日頃から業務に精励いただき、大変ご苦労様です。

さて、○○年○月○日頃より、貴殿は、始業時刻である午前9時より1時間以上早い時刻から出社していることが当社タイムカードの記録から明らかになっております。
しかしながら、当社としては貴殿が早出する必要性はないものと判断しますので、始業時刻に出社して労働を開始するよう指導します。

必要性なく始業時刻より前に出社したとしても労働基準法にいう「労働時間」とは評価されないことをご理解ください。また、担当業務の状況などにより始業時刻より前に出社して労働する必要がある場合には、就業規則○条の手続に従い、所属長に残業申請書を提出し、許可を得るようにしてください。

 今後、万が一、不必要な早出を繰り返すことがある場合には、この度書面による注意指導を受けてもなお改善の余地が見られなかったことに鑑み、懲戒処分を含めた厳しい処分が下る可能性もあることを予めお伝えします。

以上

「黙認していない」という証拠が重要

ここまでお読みいただければ理解いただけるとおり、会社に無断で早く出社する社員に対しては、「黙示の労働時間」とならないよう、厳しく指導するべきです。

裁判例には、社員が職場に出社した時間は、業務を行っていたと推認すべきであるとしたケースもあります。

本来であれば、残業代請求などを行うとき、労働をしたことは、労働者側が主張立証しなければなりません。

しかし、早めの出社の黙認を続けることによって、その時間労働していたかどうかがわからなくても、労働審判や裁判で「労働時間」であるとされてしまう危険性があるわけです。

ココがポイント

早出残業が全社的な問題となっているときは、朝礼、張り紙、共有ファイルへの掲示などの方法によって、「早出残業は禁止」であることを明示することが効果的です。

業務を指示するとき、残業代を意識する

最後に、会社が、あえて始業時間よりも早くきて業務をするよう指示をするときの注意点は、やはり「残業代」です。

始業時間よりもちょっと早くきて仕事をさせるという場合、残業代が発生するという意識のない経営者も少なくありませんが、これは間違いです。

残業代とは、終業時刻後に残っていた場合だけでなく、始業時刻前に早出する場合にも発生するということを、会社経営者、役員、管理職など仕事を指示する人が正しく理解することが大切です。

早出社員への対策のための勤怠管理

早出してくる社員がいるときに、会社側(企業側)できちんと注意指導をし、無用な残業代請求を避けるためには、会社が労働者の勤怠をしっかり管理していなければなりません。

労働時間管理における重要な指針が、2017年(平成29年)1月に策定された「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」です。

このガイドラインでは、会社が労働者の労働時間を適正に把握するために、次のことを義務付けています。

  • 労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録すること
  • 労働者の自己申告ではなく、客観的な記録(タイムカード等)に基づくこと
  • 労働者の自己申告と客観的記録に乖離があるときは実態調査と補正をすること

労働者の、労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、記録に残しておかなければ、不必要な早出を理由に残業代を請求してくる「問題社員」に対抗することができません。

現在では、クラウドサービスによって電子的にタイムカードと同様の労働時間把握が行えたり、GPSやメール送受信、パソコンのOn・Offの情報などから自動的に始業・終業時刻を記録かしたりするサービスも充実しています。

早出社員の対策のため、会社の業務内容や労働時間の状況に合わせて、より正確に労働時間を管理できるシステムを導入することが、対策の鍵です。

懲戒処分・懲戒解雇は?

以上のとおり、会社にいわずに勝手に早出してくる社員に対しては、厳しい対応が必要となります。

とはいえ、「懲戒処分」、特に、「懲戒解雇」などの厳しい制裁(ペナルティ)を下すかどうかは、慎重に検討したほうがよいでしょう。

社員の中には、「少し早めにきて頑張ろう!」というやる気のある労働者もいて、その場合には、残業代のリスクがあるとはいえ、制裁(ペナルティ)を下すのは厳しすぎるといえます。

やる気のある従業員の士気にもかかわります。

まずは、さきほど解説した対策のとおり、早出の理由・必要性を十分に確認し、「必要性なし」と会社が判断する場合には注意指導を行うところからはじめてください。

「人事労務」は、弁護士にお任せください!

今回は、会社に無断で、毎日1時間早く出社してくる従業員に対する、会社として、経営者としての、適切な対応を、弁護士が解説しました。

「早出社員」のやる気に任せて放置し、「よく働いてくれて助かる。」と甘く見ていたら、残業代請求をされてしまった、というご相談は後を絶ちません。

従業員の勤怠管理、労働時間管理に不安のある会社の経営者の方は、企業の労働問題を得意とする弁護士に、お気軽に法律相談ください。

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