★ お問い合わせはこちら

株主総会を省略できるケースと、簡略化のために理解すべきポイント

株式会社では株主総会を開催するのが原則ですが、例外的に省略できるケースがあります。また、総会そのものを省略できなくとも、手続きを簡略化できる場面もあります。

株主総会の流れは複雑で、会社法を遵守して開催するには、準備に多くの手間を要します。日程調整から会場手配、招集の手続きまで、適切なプロセスを踏んで進める必要があり、スピーディに遂行しなければ経営判断の支障となることもあります。

一方で、法律の要件を満たさないにもかかわらず、株主総会なしに進めるのは、企業経営における大きなリスクとなります。

今回は、株主総会を省略できるケースと、簡略化のために理解すべきポイントを、企業法務に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 会社法の要件を満たす場合、例外的に株主総会を省略・簡略化できる
  • 株主総会の省略・簡略化は、株主保護の支障にならないケースに限られる
  • 省略・簡略化する際は、決議の瑕疵とならないよう、証拠保全に努めるべき

\お気軽に問い合わせください/

目次(クリックで移動)

株主総会を省略すべきケースとは

株式会社では、原則として株主総会を開催する必要があります。

株式会社は、株主によって所有されており、1株につき1つの議決権を持ち、その決議によって企業経営の重要事項を決めていくのが基本です。

しかし、全てのケースで、株主総会を厳格に開催する必要があるとは限りません。一定の条件を満たす会社では、株主総会を省略または簡略化することが望ましい場合もあります。

  • 一人会社
    株主が1名のみで、その人物が代表取締役を兼ねている会社
  • 家族経営の会社
    株主が全員親族のみで構成される会社
  • 完全子会社
    株主が親会社のみで構成されている100%子会社
  • スタートアップ、ベンチャー企業
    株主が代表者や少数の経営陣に限られている会社

株主の属性が一定の範囲に収まる会社では、その意向は同質性が高く、利害関係もほぼ一致している場合が多いです。そうすると、株主総会の必要性はさほど高くはありません。

実施にかかる手間やコストに比して得られるメリットが小さいと、株主総会を省略したり簡略化したりする利点が大きくなります。また、このような会社は、省略・簡略化のための株主全員の同意も比較的取得しやすい状況でしょう。

株主総会の省略・簡略化には、次のメリットがあります。

  • 経営における意思決定のスピードを早められる。
  • 緊急時に迅速な対応が可能となる。
  • 株主総会の招集・開催に伴う費用を削減できる。
  • 手続き不備による決議の瑕疵(不存在・無効・取消し)のリスクを回避できる。

ただし、株式総会を省略し、簡略化する際は、株主の意見や立場を軽視しないよう注意が必要です。手続きを省くことで情報共有や意思確認が不十分となれば、かえって株主間の不信感を招き、トラブルの原因となってしまいます。特に、経営に深く関与しない株主がいる場合ほど、重要事項についての事前説明は怠らないようにしてください。

なお、株主総会を省略・簡略化した場合でも、議事録の作成は必要です。手続きを簡略化しても記録の整備は確実に行うようにしましょう。

株主総会の招集通知の省略について

株式会社で株主総会を開催するとき、原則として株主への招集手続きが必要です。具体的には、会社法により、公開会社では2週間前、非公開会社では1週間前までに招集通知を株主に送付します。

しかし、一定の条件を満たす場合、この招集手続きの期間の短縮、方法の簡略化、手続き自体の省略(招集通知がいらないケース)も認められます。

招集通知の期間短縮

非公開会社(譲渡制限付株式を発行する会社)で、かつ、取締役会非設置会社の場合、定款に定めることで、通常「1週間前まで」とされる通知期間を、1週間を下回る期間に短縮できます。この定款の定めは相対的記載事項であり、定款に規定しない限り適用できません。そのため、期間短縮を希望する場合、あらかじめ定款の整備が必要です。

招集通知の方法の簡略化

非公開会社で、かつ、取締役会非設置会社の場合、書面または電子的手段による議決権行使を認めない場合には、書面での招集通知をしなくてもよいこととなっています(会社法299条2項)。この場合、電話・口頭・メールなどによる招集通知で代替することが可能です。

ただし、後の紛争リスクを避けるためにも、招集通知を行った事実は記録し、証拠化しておくことが望まれます。例えば、メールの保存や電話の録音といった方法が有効です。

招集通知の省略

更に、株主全員の同意がある場合、招集手続きを省略することができます(会社法300条)。これにより、招集通知の送付そのものが不要となり、招集手続きなく株主総会を開催できます。

会社法300条(招集手続の省略)

前条の規定にかかわらず、株主総会は、株主の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができる。ただし、第二百九十八条第一項第三号又は第四号に掲げる事項を定めた場合は、この限りでない。

会社法(e-Gov法令検索)

ただし、書面または電子的手段による議決権行使を認める場合、株主の意思表示の機会を確保するために、省略は認められません。

書面によって明示の同意を取得する場合のほか、黙示の同意があると評価できる場合にもこのような扱いが許されています。

全員出席総会

実務上よく見られるのが、いわゆる「全員出席総会」です。

これは、株主全員が株主総会の開催に同意して出席している場合に、招集手続きを送っていなくても株主総会として有効に成立するというものです(最高裁昭和60年12月20日判決)。

全員出席総会では、株主全員が出席し、意思表示する機会が確保されているので、形式的な招集手続きを省略しても、株主保護の目的は十分に達成されると考えられるからです。

株主総会の決議・報告の省略について

株主総会での決議や報告は、株主が一堂に会して行うのが原則です。

しかし、会社法では、決議を簡略化するために、書面投票や電子投票の制度を用いることができます(会社法311条1項)。遠隔地での開催や、病気やケガで参加できない株主がいるとき、決議方法を柔軟にすることは定足数を満たすのに役立ちます。

そして、事前に全株主が、株主総会の決議事項・報告事項に賛成しているときは、総会を開催する必要性は低く、総略できる制度として「みなし決議」「みなし報告」が定められています。

みなし決議

議題について、株主全員が書面又は電磁的記録によって同意の意思表示をしたときは、株主総会の決議があったものとみなされます(会社法319条1項)。

これを「みなし決議」と呼びます。

会社法319条(株主総会の決議の省略)

1. 取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき株主(当該事項について議決権を行使することができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなす。

2. 株式会社は、前項の規定により株主総会の決議があったものとみなされた日から十年間、同項の書面又は電磁的記録をその本店に備え置かなければならない。

3. 株主及び債権者は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。
一 前項の書面の閲覧又は謄写の請求
二 前項の電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求

4. 株式会社の親会社社員は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、第二項の書面又は電磁的記録について前項各号に掲げる請求をすることができる。

5. 第一項の規定により定時株主総会の目的である事項のすべてについての提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなされた場合には、その時に当該定時株主総会が終結したものとみなす。

会社法(e-Gov法令検索)

みなし決議は、定時株主総会、臨時株主総会のいずれでも活用できます。

株主全員の同意が会社に到達した日に決議があったとみなされますが、決議があったものとみなされる日を別途定めることも可能です。

みなし決議でも議事録は必要で、記載事項は次の通りです。(会社法施行規則72条4項1号)。

  • 株主総会の決議があったものとみなされた事項の内容
  • 議題を提案した者の氏名又は名称
  • 株主総会の決議があったものとみなされた日
  • 議事録を作成した取締役の氏名

書面で議決権を行使する株主は、株主総会の直前の営業時間の終了時までに、会社に宛てて議決権行使書面を送付します。書面投票を採用した場合、議決権行使書面を送付する必要があるため招集手続きは省略できません。

電子投票の場合は、オンラインで電磁的方法によって議決権を行使します(会社が専用ウェブサイトを準備し、株主に意思表示させる方法が一般的です)。通常の決議よりコストが低いのは当然、書面投票に比べても印刷代、郵送費などの費用が節約できます。

みなし報告

株主総会では、事業報告や計算書類の報告など、決議を伴わない報告事項もあります。

この報告についても、決議と同様、株主全員の書面または電磁的記録による同意が得られれば、実際に報告を行わずとも、「報告があったものとみなす」ことが可能です(会社法320条)。

これを「みなし報告」と呼びます。

会社法320条(株主総会への報告の省略)

取締役が株主の全員に対して株主総会に報告すべき事項を通知した場合において、当該事項を株主総会に報告することを要しないことにつき株主の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該事項の株主総会への報告があったものとみなす。

会社法(e-Gov法令検索)

みなし報告とするには、取締役が報告すべき事項を全株主に通知し、かつ株主全員の書面または電磁的記録による同意が必要です。

みなし報告でも議事録の作成を要し、記載事項は次の通りです(会社法施行規則72条4項2号)。

  • 株主総会への報告があったものとみなされた事項の内容
  • 株主総会への報告があったものとみなされた日

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、株主総会の省略や簡略化について解説しました。

同族会社や100%子会社のように判断権の同一性の高い会社や、スタートアップやベンチャーのように経営判断の迅速さが求められる会社では、株主総会を省略し、簡略化するニーズが高いです。ただ、重要な事項について株主の意向を軽視するのは問題であり、省略や簡略化が許される範囲と方法については、会社法のルールに従います。

法令を遵守しながら株主総会をスムーズに進めるには、弁護士のサポートが不可欠です。

この解説のポイント
  • 会社法の要件を満たす場合、例外的に株主総会を省略・簡略化できる
  • 株主総会の省略・簡略化は、株主保護の支障にならないケースに限られる
  • 省略・簡略化する際は、決議の瑕疵とならないよう、証拠保全に努めるべき

\お気軽に問い合わせください/

目次(クリックで移動)