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株主総会を省略できるケースと、簡略化のために理解すべきポイント

株式会社では株主総会を開催するのが原則ですが、例外的に、株主総会を省略できるケースがあります。また、株主総会そのものを省略できなくとも、手続きを簡略化できる場面もあります。

株主総会の流れは複雑で、会社法を遵守して開催するには、準備に多くの手間を要します。日程調整から会場手配、招集手続きまでプロセスを踏んで進める必要があり、スピーディな経営判断の支障となることも。できれば省略したり、簡略化したりして進めるに越したことはありません。

一方で、株主総会をせずに放置するのは許されず、企業経営において大きなリスクとなります。

今回は、株主総会を省略できるケースと、簡略化のために理解すべきポイントを、企業法務に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 会社法の要件を満たす場合、例外的に、株主総会を省略・簡略化できる
  • 株主総会を省略、簡略化できるのは、株主保護の支障とならないケースに限られる
  • 株主総会を省略、簡略化するときも、決議の瑕疵とならないよう証拠保全に努める

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株主総会を省略すべきケースとは

まず、株式会社では、株主総会を開催するのが原則です。株式会社は、株主が所有するものであり、1株につき1つの議決権を持ち、その決議によって企業経営の重要事項を決めていくのが基本だからです。

しかし一方で、株主総会を省略すべきケースがあります。例えば、次の会社が想定されます。

  • 一人会社
    自分が社長であるとともに株主でもある会社
  • 家族経営
    株主が親族しかいない会社
  • 完全子会社
    株主が親会社のみの100%子会社
  • スタートアップ、ベンチャー企業
    株主が社長(もしくは少数の経営層)のみ

このように株主の属性が一定の範囲に収まる会社では、株主の意向は同質性が高く、株主総会の必要性はそれほど高くはありません。そのため、株主総会を省略、簡略化し、その手間を省いたりコストを節約したりする方がメリットが大きいです。そして、省略や簡略化のための株主全員の同意なども、比較的取得しやすい状況だといってよいでしょう。

株主総会の省略、簡略化には、次のメリットがあります。

  • 経営の意思決定スピードを早められる
  • 緊急事態に即座に対応できる
  • 招集・開催にかかる費用を削減できる
  • 決議の瑕疵(不存在、無効、取り消し)のリスクを予防できる

ただし、株式総会を省略し、簡略化する場合にも、株主を軽視するのは問題です。雑に進めたことがかえって株主間の不和を招き、トラブルの原因となるケースもあります。株主総会を省略、簡略化した結果として経営に深く関与しない株主がいるとき、事前の説明を怠らないようにしてください。

なお、株主総会を省略・簡略化した場合にも、議事録は作成する必要があります。

株主総会の流れの原則について、次の解説を参考にしてください。

株主総会の招集の省略について

会社法の通りに株主総会を開催するときに必要なのが招集手続き。具体的には、公開会社では2週間前、非公開会社では1週間前までに招集通知を株主に送付する必要があります。

この招集手続きについて次の省略、簡略化が許されます。

招集通知の期間短縮

譲渡制限付株式を発行する会社が「非公開会社」です。非公開会社、かつ、取締役会非設置会社では、前述の招集通知の期間を、1週間を下回る期間に短縮できます。この期間短縮は定款の相対的記載事項であり、定款に定める必要があります。

招集通知の方法の簡略化

非公開会社、かつ、取締役会非設置会社は、書面やオンラインによる議決権行使を認めない場合には、招集通知を書面で行わなくてもよいこととなっています(会社法299条2項)。この場合、電話、口頭、メールなどで招集の手続きを代替することができます。ただし、後の紛争リスクを軽減するため、招集通知をしたことを証拠化しておくのがお勧めです。

招集通知の省略

書面やオンラインによる議決権行使を認めない場合には、株主全員の同意があれば、招集手続きを省略することができます(会社法300条)。つまり、招集通知を送らなくても株主総会を開催できるということです。ただし、書面投票、電子投票の制度を利用した決議の簡略化をしている場合には、株主の意思表示の機会を守るために招集通知は省略できません。

会社法300条(招集手続の省略)

前条の規定にかかわらず、株主総会は、株主の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができる。ただし、第二百九十八条第一項第三号又は第四号に掲げる事項を定めた場合は、この限りでない。

会社法(e-Gov法令検索)

書面によって明示の同意を取得する場合のほか、黙示の同意があると評価できる場合にもこのような扱いが許されています。

全員出席総会

株主全員が、株主総会の開催に同意して出席したときは、招集手続きなしに株主総会を開催できます(最高裁昭和60年12月20日判決)。これを、全員出席総会と呼びます。

全員出席総会では、株主が出席し、意思表示する機会が保証されているます。そのため、招集手続きがなくても、株主保護の目的は果たされているからです。

株主総会を弁護士に依頼するメリットは、次に解説します。

株主総会の決議・報告の省略について

株主総会の決議を簡略化するために、書面投票、電子投票の制度を用いることができます(会社法311条1項)。遠隔地での開催や、ケガや病気で参加の難しい株主がいるとき、決議方法を柔軟にすれば定足数を満たす役に立ちます。

そして、事前に全株主が、株主総会の決議事項、報告事項に賛成しているときには、株主総会を開催する必要性は低く、株主総会を省略することができると定められています。これが、みなし決議、みなし報告です。

みなし決議

株主総会に提案された議題について、株主全員が書面又は電磁的記録によって同意の意思表示をしたときは、株主総会の決議があったものとみなされます(会社法319条1項)。この制度を「みなし決議」と呼びます。

みなし決議は、定時株主総会、臨時株主総会のいずれでも活用できます。

会社法319条(株主総会の決議の省略)

1. 取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき株主(当該事項について議決権を行使することができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなす。

2. 株式会社は、前項の規定により株主総会の決議があったものとみなされた日から十年間、同項の書面又は電磁的記録をその本店に備え置かなければならない。

3. 株主及び債権者は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。
一 前項の書面の閲覧又は謄写の請求
二 前項の電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求

4. 株式会社の親会社社員は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、第二項の書面又は電磁的記録について前項各号に掲げる請求をすることができる。

5. 第一項の規定により定時株主総会の目的である事項のすべてについての提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなされた場合には、その時に当該定時株主総会が終結したものとみなす。

会社法(e-Gov法令検索)

みなし決議でも議事録の作成を要し、記載事項は次の通り定められています(会社法施行規則72条4項1号)。

  • 株主総会の決議があったものとみなされた事項の内容
  • 1の事項の提案をした者の氏名又は名称
  • 株主総会の決議があったものとみなされた日
  • 議事録の作成に係る職務を行った取締役

書面により議決権を行使する株主は、株主総会の直前の営業時間の終了時までに、会社に宛てて議決権行使書面を送付します。書面投票を採用した場合、議決権行使書面を送付する必要があるため招集手続きは省略できません。株主全員の同意が会社に到達した日に決議があったとみなされますが、上記の通り、決議があったものとみなされる日を決めることもできます。

電子投票の場合には、オンラインで、電磁的方法によって議決権行使をしますが、会社が専用のウェブサイトを準備し、株主に意思表示させる方法が一般的です。通常の決議よりコストが低いのは当然、書面投票に比べても印刷代、郵送費などの費用が節約できます。

みなし報告

事業報告や計算書類の説明など、株主総会で報告すべき事項についても、決議と同様、報告しないことについて株主全員の同意を取得できれば、省略することができます(会社法320条)。これを「みなし報告」と呼びます。

会社法320条(株主総会への報告の省略)

取締役が株主の全員に対して株主総会に報告すべき事項を通知した場合において、当該事項を株主総会に報告することを要しないことにつき株主の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該事項の株主総会への報告があったものとみなす。

会社法(e-Gov法令検索)

みなし報告でも議事録の作成を要し、記載事項は次の通り定められています(会社法施行規則72条4項2号)。

  • 株主総会への報告があったものとみなされた事項の内容
  • 株主総会への報告があったものとみなされた日

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、株主総会の省略、簡略化について解説しました。

同族会社や100%子会社のように、判断権の同一性の高い会社や、スタートアップやベンチャーのように経営判断の迅速さが求められる会社において、株主総会を省略し、簡略化すべき需要は高いといえます。ただし、重要な事項について株主の意向を軽視するのは問題であり、どのような範囲で省略、簡略化が許されるか、その方法を理解しなければなりません。

株主総会を、法律を守って適切に進めるために、ぜひ一度弁護士に相談ください。

この解説のポイント
  • 会社法の要件を満たす場合、例外的に、株主総会を省略・簡略化できる
  • 株主総会を省略、簡略化できるのは、株主保護の支障とならないケースに限られる
  • 株主総会を省略、簡略化するときも、決議の瑕疵とならないよう証拠保全に努める

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