借入を行う際、担保の有無が重要な要素となります。未払いが生じてから、担保を取っていなかったことを悔やんでも手遅れです。
ビジネスにおいても、信用取引を開始するなら、相手がどのような担保を提供できるかが、取引の安全性を左右します。約束通りの支払いがないとき、債権回収の確実性を上げるには、事前に担保を設定しておく必要があります。
ビジネスにおける担保は、企業の信用力そのものです。担保となる資産は様々な種類があり、適切に設定すれば、他の債権者に先立って優先的に債権を回収できます。そのため「どの財産を担保とするか」は、契約締結時によく検討すべきです。担保を活用するには、財産の種類ごとの担保設定の方法を理解する必要があります。
今回は、担保となる財産の具体例と、それぞれの財産に応じた担保の取り方について、企業法務に強い弁護士が解説します。
- 担保には物的担保、人的担保があり、その財産から優先弁済を受けられる
- 担保に取る資産は、不動産や売掛金などの種類から適切な選択が必要
- どのような財産が担保として適切かは、ビジネスの局面ごとに判断すべき
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担保を取る理由
担保とは、借入や売掛金などの債権が未回収となった場合に、債権者が優先的に弁済を受けることを可能にするための財産を指します。
企業間取引は「信用」が重視されます。お金の貸し借りはもちろんのこと、代金を後払いとする売掛・買掛取引においても、支払期日までの間は、債権者が債務者の信用を前提として取引を行っている状態にあります。取引後すぐに代金が払われるなら問題ないですが、後払いとなる以上、信用の裏付けとして担保を確保しておくことが極めて重要です。
以下のケースでは特に、未払いのリスクが高く、担保を取る必要があります。
- 支払期限までの期間が長い場合
- 新規の取引先で、取引実績がない場合
- 取引先の業績が不安定な場合
- 起業したばかりの新設法人の場合
- 取引先の資本金が少ない場合
- 自己資本比率が低く、財務基盤が脆弱な場合
債権者にとって、担保をあらかじめ確保すれば、取引先に信用不安が生じた際や未払いが現実化した際に、迅速かつ優先的に債権を回収することが可能です。最悪の場合、相手が倒産しても、担保の範囲内であれば回収が見込めます。
債務者にとっても担保を提供して信用を得れば、より大きな資金調達が可能であり、自己資金だけでは難しい規模の取引や事業展開も実現できます。更に、借入金利の引下げや、支払期限の延長といった有利な条件を引き出せる可能性もあります。
このように、担保は、債権者・債務者いずれにとっても、ビジネスを円滑かつ安全に進めるのに重要な役割を果たします。
担保の種類
次に、担保の種類について解説します。担保には、大きく分けて 「物的担保」 と 「人的担保」 の2つの種類があります。
物的担保
物的担保とは、金銭的価値を有する財産を担保として差し入れる方法です。
価値の高い資産が対象となり、その中でも特に重要とされるのが「不動産」を担保とする方法です。不動産は、企業の保有資産の中でも高い価値を持ち、かつ、散逸しづらいという特性があるので、重要な物的担保となります。
不動産を担保とする際は、「抵当権の設定」がよく利用されます。
これは、債務者との間で抵当権設定契約を締結し、その内容を不動産登記簿に登記(抵当権設定登記)することで効力が生じる担保です。
登記によって抵当権の存在が第三者に公示され、他の債権者よりも優先して弁済を受けることができる点で、非常に有効な債権保全手段です。
その他に、預貯金や株式、債権など、財産的な価値のあるものは全て、物的担保の対象となり得ます。債務者所有の財産に限らず、第三者所有の財産も、担保に差し入れることができます(例:代表者所有の自宅不動産など)。
人的担保
担保は財産だけでなく、「人」の信用に基づくこともあります。保証人の信用力を担保とする方法を総称して「人的担保」と呼びます。中でもよく活用されるのが「連帯保証人」です。
連帯保証人は、債務者ではない第三者が、自身を担保として信用力を提供します。そのため、債務者が支払いを怠ったときには、連帯保証人は、連帯してその債務を返済する義務を負います。更に、連帯保証人だと催告の抗弁権、検索の抗弁権がなく、たとえ債務者に支払う余力があっても、先に連帯保証人から請求することもできます。
人的担保を利用するには、債権者と保証人との間で、書面による保証契約を締結する必要があります。この契約に基づき、その人物を正式に保証人として担保に取ることが可能となります。
担保となるものの具体例
次に、担保となる財産の具体例について解説します。
担保を効果的に活用するには、各財産の特徴を踏まえ、それぞれのメリット・デメリットを理解しておく必要があります。債権者側では、取引相手の資産状況を把握し、財産をリストアップして、どの財産を担保として求めるべきかを個別に検討することが重要です。
不動産
債務者が不動産を所有している場合、非常に有力な担保となります。
不動産を担保に取るには、抵当権設定契約を締結し、抵当権設定登記を行うのが通常の方法です。担保を選択する際、次の不動産を検討してください。
- 本社所在地の土地・建物
- 投資用として保有する土地・建物
- 代表者の自宅など、個人所有の不動産
不動産は評価額が高く、登記によって権利関係が明確なので、隠匿や散逸のリスクが低い、優れた担保資産です。一方で、他の債権者も担保に取りやすいデメリットがあります。既に他の抵当権が設定された不動産は、十分な担保余力が残っていないこともあります(抵当権には順位があり、先順位の債権が回収されなければ後順位の債権の回収は受けられません)。
また、適切な担保評価を行うには、現地調査や不動産鑑定が必要なこともあり、専門家のサポートを要するケースも少なくありません。
預貯金
金融機関に預けられた預貯金も、非常に有効な担保資産です。
金融機関にある預貯金は、額面が明確なために評価が容易であり、かつ、通帳や取引明細で残高が確認できるので管理しやすいというメリットがあります。特に、定期預金は流動性が低く、信用取引の際の担保として活用されます。
預金口座を担保とすれば、債務不履行があると口座凍結され、ビジネスが停止するおそれがあるので、債務者にとってはプレッシャーが強く、債権回収の確実性が高いです。
債権(指名債権担保)
債務者が第三者に対して有する債権も、担保とすることができます。
売掛金などの債権も、「回収する権利」には財産的価値があるからです。このような担保を、法律上は「指名債権担保」と呼びます。対象となる債権には、次のような例があります。
- 売掛金
- 保険金請求権
- 業務委託報酬
- 請負代金
債権に担保を設定するには、債権譲渡担保契約の方法によります。
債権を担保とすれば、債務不履行となった際、取引先に債務者の経営状況や信用不安が伝わるので、それ自体が債務者にとって強いプレッシャーとなります。ただし、第三債務者(債務者の取引先など)の債務者に対する抗弁は、明示的に放棄されない限り引き継ぐのが基本なので、回収の支障となるような抗弁がないかどうか、事前の調査が欠かせません。
現金
現金は、最も普遍的な価値を持つ資産であり、担保評価しやすいです。また、将来的に価値が大きく下がるリスクもありません。
現金を担保とするには、保証金担保契約を締結して、現金そのものを保管する方法が一般的です。ただし、現金は費消されやすく、物理的に散逸・紛失するリスクがあるので、担保とする際にはくれぐれも保管と管理に注意が必要です。
なお、現金を担保に差し入れることで資金の流動性が失われ、債務者の事業活動に支障が出る可能性もあり、業績悪化や倒産が早まる危険があります。
有価証券(株式・社債・国債など)
有価証券も担保にすることができます。代表的なものは「株式」であり、会社代表者や株主が保有する自社株式のほか、投資目的で保有している他社株式なども担保に取れます。
その他にも、次のような有価証券にも担保を設定できます。
- 社債
- 国債
- 手形・小切手など
上場企業の株式など、市場による取引が可能なものは、評価額の算定も比較的容易であり、現金化の見通しが立てやすい点がメリットです。
動産(車両、事業用機械など)
動産のうち、相応の財産的価値を持つものは担保として活用可能です。動産を担保する例には、次のようなケースがあります。
- 社用車、送迎車両などの車両
- 工作機械、工場設備などの大型機械
- 美術品、貴金属
車両や機械を担保とするには、譲渡担保契約を締結し、確定日付のある証書を作成する必要があります。更に、登記や登録制度がある場合、二重譲渡を防止するために活用することも重要です。車両や機械などの動産は、事業に直接用いられることが多いため、担保設定によって「いつでも事業停止させられる」という強いプレッシャーをかけられるメリットがあります。
一方で、中古市場での価値が著しく下がることもあり、処分先が限られてしまうなどのデメリットもあります。
連帯保証人
以上が物的担保の例ですが、最後に忘れてはならないのが連帯保証人などの人的担保です。
連帯保証人は、会社の代表者などの経営に関わる人物や、株主などの利害関係の深い者を選ぶのが通常で、債務を履行するに足る十分な資力を有することが求められます。連帯保証人の選定にあたっては、単に同意が得られるかどうかだけでなく、実際に保証債務を履行する能力があるかどうかを慎重に調査すべきです。
担保を取得する方法
担保として差し入れる財産が決まったら、次に、実際に担保を取得するための手続きや方法について理解しておいてください。
債務者と交渉する
担保の取得は、まず債務者との交渉から始まります。
どの財産を担保とするか、そもそも担保を提供してもらえるかは、全て債務者の合意が前提となります。ビジネスでは「契約自由の原則」が基本であり、取引内容や条件は当事者間の合意によって自由に定めることができます。そのため、債務者にとっても、担保提供を拒否したり、取引自体を成立させなかったりといった選択もあり得ます。
したがって、取引でリスクを負う局面(支払期限の延長、新たな融資や貸付)では、担保について債権者側が主導して交渉しなければなりません。
担保設定の権利があるか確認する
担保の取得には、その所有者の同意が必要です。
どれほど担保に適した財産があっても、所有者の同意なく第三者の財産を担保とすることはできません。債務者所有の財産なら本人との交渉で足りますが、たとえ会社の代表者でも、個人の資産を担保に差し出す場合、その人の承諾を得る必要があります。
不動産や自動車、船舶など、登記制度のある資産なら、登記簿などの公的記録で所有者を確認できます。一方で、在庫商品や機械などの動産は登記制度がない場合も多く、外見だけでは所有権が判断できないため、慎重に調査すべきです。
担保の価値を評価する
担保に差し入れられる財産の評価額を把握することも重要です。
債務者には担保を提供する義務があるわけではなく、担保の評価や妥当性の判断は、債権者側の責任となります。取引の信用リスクに見合った価値を有するか慎重に検討し、可能であれば書面上の情報だけでなく、現物の確認や第三者の鑑定を行いましょう。
担保を過大評価してしまうと、将来の回収リスクに直結します。
担保を設定する契約を締結する
最後に、担保を設定するための契約書を作成し、締結します。
担保の設定は、債権者と債務者の間で「担保権設定契約書」を交わすことで成立します。担保提供者が第三者であったり、会社代表者が連帯保証人となったりするケースは、提供者との間で個別に契約を締結する必要があります。
契約書には、担保となる財産の特定やその価値、債務の内容など、法的効力を持たせるために必要な要件を記載してください。登記や登録が必要な資産の場合は、契約締結後に速やかに登記手続きを行い、対抗要件を確保することも忘れてはいけません。
担保にする財産を選ぶ際のポイント
最後に、担保とする財産を選ぶときの考慮要素、判断基準を解説します。
担保の対象となる財産にいくつかの選択肢があるケースも多いです。倒産寸前でない限り、複数の資産を保有し、場合によっては社長など第三者の財産を担保に差し入れることも検討されます。担保となり得る財産をリスト化し、その中から適切な資産を選定する必要があります。
債権者が選択を誤ると、十分な担保価値がなかったり、債務者へのプレッシャーとして機能しかなったりして、債権回収に役立たないおそれがあります。
十分な価値があるか
担保は、債権回収のための最終的な拠り所となります。そのため、債権額と同等以上の価値のある財産でなければ、担保としての実効性が期待できません。したがって、客観的に評価できる資産ほど、優先的に担保とすべき対象となります。
担保の価値を判断する際は、次の点を考慮することが重要です。
- 市場が確立しているか。
- 取引が活発かどうか。
- 時期によって価格が変動しないか。
- 将来、価値が目減りしないか。
- 客観的な評価が容易かどうか。
例えば、上場株式なら、市場価格を容易に知ることができます。これに対し、不動産は、価値が高い一方で正確な評価には専門家による調査・鑑定が必要となります。いずれの場合も、市場変動が大きい資産だと、将来的に期待した担保価値を下回るリスクがあります。
処分が容易かどうか
担保の本来の役割は、債務不履行が起こった際に財産を換価し、速やかに債権回収を行うことにあります(担保の優先弁済的効力)。したがって、担保として適切かを判断するには、迅速かつ容易に処分できるかが重要な基準となります。
処分や売却に時間がかかったり、手間がかかったりする資産は、たとえ価値が高くても、担保としての機能が果たせないことがあります。特に次のような財産は扱いが難しく、担保としての優先度を低く見積もるべきでしょう。
- 買い手がつきにくい不動産(交通の便が悪い、立地条件が悪い、用途制限が厳しいなど)
- 特定業種でしか利用しない事業用機械
- 相場がなく、真贋の判定が難しい動産(骨董品、絵画、宝石など)
危機的状況では、できる限り早く現金化できる財産こそ、担保にふさわしいと言えます。
債務者へのプレッシャーとなるか
担保を取得する目的は、単に回収手段を確保することだけではありません。担保を差し入れること自体が、債務者に支払いを促すプレッシャーとして機能する場合があります。
実際には、債務が未払いとならず、担保を実行せずに済むのが望ましいです。その観点からも、債務者の事業継続に不可欠な財産を担保に取ることが有効です。例えば、次のような財産の担保価値は大きく、優先度が高いと考えてよいでしょう。
- 本店所在地の土地・建物
- 事業に必須の機械・設備
- ビジネスの中核を担う知的財産権
担保を手元で管理し、万一の際には換価できる状態に置いておくことで、債務者に支払いを促す効果があります(担保の留置的効力)。
まとめ

今回は、「何を担保として確保すべきか」について、法律の観点から解説しました。
たとえ信用に基づく取引でも、ビジネスである以上、口約束のみに頼るのは不適切です。具体的な財産の裏付けがない信用は、不確実なものと言わざるを得ず、担保を取らずに相手を過信して長期的なビジネスを築くのは危険です。担保には様々な種類があり、一見すると財産が乏しいように見える企業でも、担保として活用できる資産が存在するケースもあります。
担保の取得は、債権回収に向けた初期段階の重要な対策でもあります。支払いが滞る事態に備え、どの財産が担保に適しているのか、財産の種類や性質ごとに見極める必要があります。
それぞれの担保の種類には、メリットとデメリットが存在するので、担保設定に悩んだ際には、弁護士の専門的なアドバイスを得るのが有効です。
- 担保には物的担保、人的担保があり、その財産から優先弁済を受けられる
- 担保に取る資産は、不動産や売掛金などの種類から適切な選択が必要
- どのような財産が担保として適切かは、ビジネスの局面ごとに判断すべき
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