法人代表者とは、法人の代表権を有する人のことで、多くの会社では「社長」が該当します。
経営が好調なうちは良いものの、業績が悪化すると、法人代表者は責任を問われるおそれがあります。対外的に、出資者や借入先、取引先から追及されるのはもちろん、対内的に株主や社員から突き上げを食らうこともあります。
経営状況が悪いとしても「全て法人代表者の責任」という場合ばかりではなく、環境的な要因によるやむを得ないケースもあります。一方で、法人代表者が違法な行為をしたケースのように、個人の責任を追及すべき場面もあります。いずれにせよ、責任追及に正しく対処するには、法人と代表者個人が別人格であることを理解しなければなりません。
会社の責任について、連帯保証をしない限り、法人代表者個人が責任を負うことはないのが原則です。各場面で、法人と個人いずれの責任が問題となるか、慎重に検討すべきです。
今回は、法人代表者の意味と、法人と個人の責任の違いを、企業法務に強い弁護士が解説します。
- 「社長」はあくまで職制上の肩書で、法律上の代表権を意味しない
- 法人代表者となる個人は、法人自体とは別人格であるのが原則
- 法人代表者は、個人保証・連帯責任・経営責任などの追及をされることがある
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法人代表者とは
法人の代表者は、多くの場合、社長であることが多いですが、それに限られるわけではありません。「社長」というのはあくまで社内の肩書の呼び名であって、法律上の定義ではないからです。
法人の代表者は、法律上、法人の種類により、次のように呼称が異なります。
- 代表取締役
株式会社の場合、代表取締役が法人代表者となる。取締役の選任は株主総会の決議によってなされ、取締役の中から、取締役会ないし株主総会にて、代表者となる代表取締役が選任される。 - 代表社員
合同会社の代表者は、代表社員と呼ばれる。出資した社員の中から選任するため、代表社員は必ず出資もしている必要がある。 - 代表理事
一般社団法人の代表者は、代表理事と呼ばれる。
法人代表者というと、代表取締役のイメージが強いでしょう。「代表取締役社長」は確かに、法的にも経営的にも会社を代表する存在となります。
しかし、会社の状況によっては例外もあります。社長ではない代表取締役(例えば代表取締役会長など)もいますし、代表権を有しない社長(社長が平取締役の会社など)もいます。
法人代表者と共に重要な決定権を有する株主も、代表権を持つとは限りません。
株主はあくまで出資をしただけで、経営は他に任せることもあります。会社設立手続きを行う「発起人」も、新設会社の出資者となり、会社設立後の株主として重要な決定を行うのみで、必ずしも法人の代表者になるわけではありません。
「取締役の選任の手続き」の解説

法人と個人は別人格
法人のことを一般に「会社」と呼びます。そして、法人と、その代表者とは、法的に別人格として扱われるのが原則です。
法人格とは、法律上の権利ないし義務の主体となることのできる資格のことで、分かりやすく言えば、法律で「人」と同じく扱われるという意味です。法人は、自然人ではありませんが、法律の考え方の中では「人」と同じように法人格が付与されます。
そのため、法人そのものと、その代表者とは、法人格が別だと考えられるのです。
上場企業など、大きな会社の例ならわかりやすいでしょう。
大規模な会社ほど、法人は株主の持ち物であり、法人代表者は、たとえ「代表取締役社長」という肩書でも、単に経営を任されているに過ぎないことが多いです。
このとき、法人と代表者個人とは全く異なり、代表者は、その任期中に経営を委任されているに過ぎません。
一方で、ベンチャー企業やスタートアップ、中小企業の多くは、実態として「会社=社長」の状態にあります。このとき、法人代表者は、法人の運営について相当な裁量を有しています。ただし、この例でもなお、法人と、法人代表者とが別なのは当然で、法律上の権利、義務を考える際には区別しなければなりません。
法人と代表者の関係
次に、法人と、その代表者の法的な関係について解説します。
代表者は法人から経営を委任される
法人である会社と、個人である法人代表者とは別だと解説したものの、互いに法的な関係を有します。具体的には、法人代表者は、法人から経営を委任される関係にあります。
法人の利益は代表者には帰属せず、法人代表者はあくまで報酬を受領するのみです。そのため、法人の損失についても、代表者が負うわけではありません。
法人とはつまり、その所有者である株主のことを指します。法人の所有者と経営者が異なることを、法律用語で「所有と経営の分離」と言います。
代表者が全株式を保有するオーナー企業の場合
法人は株主のものですが、法人代表者が全株式を保有する「オーナー企業」もあります。
小規模な会社や、創業間もない会社の多くはオーナー企業でしょうが、それでもなお、法人代表者が、法人についての責任を全て負うわけではありません。社長の個人資産と会社の資産は区別され るので、社長の個人資産まで責任追及の対象とされることは原則としてありません。
法人代表者が複数いる場合
法人代表者は、一人の場合が多いですが、複数選任することもできます。
株主総会で選任した取締役の中から代表取締役を選ぶのが通常ですが、このとき、代表取締役の人数に法律上の制限はありません。法人代表者が複数いる場合、経営に関する重要な決定について全ての代表者の同意が必要となります。
企業の経営について、複数の人の知恵を集めて慎重に判断できるメリットがある一方で、経営判断のスピードが落ちることは否めず、ビジネスチャンスを失うデメリットが生じかねません。
法人の責任について代表者個人が責任を負うケース
次に、法人代表者が、例外的に、法人の責任を負うケースについて解説します。
法人と個人は、法人格が異なるので、その責任も異なります。法人の責任と、個人の責任とは別に検討すべきで、責任追及されたなら、責任の所在がいずれにあるか慎重な判断を要します。
法人である会社の負うべき責任は、法人代表者は負わないのが原則ですが、例外もあります。
法人代表者が個人保証した場合
法人代表者が、個人責任を負うケースの1つ目は、法人債務を個人保証した場合です。
中小企業などでは、会社の債務を社長が連帯保証するケースは多いです。たとえ社長の肩書を持つ法人代表者でも、連帯保証人の重い責任からすれば、リスクを背負いきれるか慎重に検討すべき。連帯保証人は、債務者と同等の返済義務を負い、かつ、債務者に請求する前に連帯保証人に請求することもできるからです(法律用語で「検索の抗弁・催告の抗弁がない」と言います)。
会社の資産が十分でも、支払いがなされないと連帯保証人である社長が責任を負います。法人と個人は別なので、全株式を有するオーナー企業でもない限り、個人保証の責任は過大だと言えます。
法人代表者が連帯責任を負う場合
法人代表者が、個人責任を負うケースの2つ目は、法人と代表者が連帯責任を負う場合です。
会社が、法律に違反し、その原因が社長個人の行動にあるというのが典型例です。このとき、法人と代表者は、対外的には同時に責任追及の対象となります。損害賠償を請求される場合には、直接の行為者となった法人代表者には不法行為(民法709条)の責任、法人に対しては使用者責任(民法715条)が追及されます。
法人代表者に経営責任がある場合
法人代表者が、個人責任を負うケースの3つ目は、経営責任を負う場合です。
前述の通り、法人代表者は、法人から経営の委任を受ける関係にあります。法人の所有者である株主から経営を任されている以上、経営でミスをした場合、会社に対してその責任を負うおそれがあります(会社法423条1項)。
会社法423条1項
取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この章において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
会社法(e-Gov法令検索)
取締役の背任行為があれば、解任をされた上に、損害賠償を請求されるおそれがあります。ただし、「経営判断の原則」により、経営者の判断には裁量があり、結果的に会社に損失が生じたとしても、その責任は限定的に評価されます。
また、法人代表者がその任務を懈怠したとき、対外的にも責任を負います(会社法429条1項)。
会社法429条1項
役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
会社法(e-Gov法令検索)
まとめ

今回は、法人代表者の意味と、その責任について解説しました。
法人代表者の責任を考えるにあたり、法人そのものとは別人格だとよく理解し、区別しなければなりません。会社の責任と、法人代表者の個人の責任は別物です。ビジネスをするときに会社を設立する理由は、法人を設立すれば、法人代表者の個人責任が限定されるからです。
とはいえ、例外的に、法人代表者が個人責任を負うケースもあるので注意してください。
法人代表者の職務に問題があるなど、責任追及をしたい株主はもちろん、逆に、責任を問われて悩む法人代表者の方も、まずは弁護士に相談してください。
- 「社長」はあくまで職制上の肩書で、法律上の代表権を意味しない
- 法人代表者となる個人は、法人自体とは別人格であるのが原則
- 法人代表者は、個人保証・連帯責任・経営責任などの追及をされることがある
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