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接待は残業になる?労働時間として残業代を支払うべきケースとは

取引先との関係構築のために行う「接待」は「労働時間」として扱うべきでしょうか。

上司の指示で参加した会食、休日の接待ゴルフなどは、実は「労働時間」であって残業に該当し、企業にとっては残業代の支払い義務が生じるケースもあります。逆に、労働者としては、無給で接待に参加すれば、サービス残業になっている可能性もあります。

残業代のトラブルは企業にとって組織的な問題であり、判断を誤れば、後に大きな請求を受けるリスクもあります。紛争を未然に防ぎ、健全な労務管理を行うには、法律知識が必須です。

今回は、接待が労働時間と認定される条件や、その際の残業代に関する考え方について、企業の労働問題を得意とする弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 接待が業務命令ならば、指揮命令下に置かれた「労働時間」となる
  • 自由参加・私的交流であり、拒否するのが自由なら残業代の対象外
  • 企業は、残業代請求のリスクを軽減するため、接待ルールを明文化すべき

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接待は残業になる?

はじめに、接待は残業なのか、について解説します。

労働基準法における「労働時間」の定義からすると、接待といえど「自由参加」や「私的な場」ではなく、実質的な拘束や業務との関連性がある場合、残業になる可能性があります。

労働基準法における「労働時間」

労働基準法における「労働時間」とは、使用者の指揮命令の下で労働者が労務を提供した時間を指します。就業規則に定める「始業時刻から終業時刻まで」の時間に限らず、業務時間外でも会社の指示で行動していれば該当する可能性があります。この基準は、三菱重工長崎造船所事件(最高裁平成12年3月9日判決)などで示されたもので、現在でも同様の枠組みで判断されています。

つまり、実質的に「使用者の指揮命令下にあるかどうか」で判断するのであり、労働者が自主的に行った活動は当てはまりませんが、社長や上司の指示があったり、業務の一環として行われた活動であったりすれば、労働時間と判断されます。

接待が労働時間と判断されるケースとは?

以上の基準に照らして、接待であっても、「使用者の指揮命令下にあった」と判断される場合は「労働時間」に該当します。

例えば、次のケースは労働時間性が認められる可能性があります。

  • 明確な業務命令があった場合
    上司や会社から明確な業務命令として「この接待に参加するように」と指示された場合、その時間は「労働時間」に該当します。
  • 従わないと不利益が予想される場合
    命令に従わないと人事上の不利益が予想されるケースは、「労働時間」に該当する可能性が高まります。例えば、接待しないと業績が悪化する、仕事を外される、必要な情報を共有してもらえない、といったものも不利益になります。
  • 接待への同席を指示された場合
    口頭での指示や業務の流れで、「同行するように」と求められた場合も、黙示の業務命令と考えられます。例えば、営業担当者が商談後に顧客との会食に同席するケースは、業務の一環と判断されるでしょう。
  • 接待中も業務が予定される場合
    接待と言えど、その時間中に業務が予定されるなら「労働時間」に違いありません。例えば、会食中に打ち合わせを行うケースや接待ゴルフで商談が進むケース、終了後の報告書提出が義務付けられている場合などが該当します。
  • 顧客対応の都合上、拒否できない場合
    顧客との接待が業務上不可避で、断れない立場にあることも多いです。例えば、営業ノルマの達成や関係維持のために「どうしても出席せざるを得ない」「拒否しづらい」状況だと、会社が明示的に指示していなくても「労働時間」となる可能性があります。

接待が労働時間とならないケース

接待であっても、全てが「労働時間」になるわけではありません。

自由参加と明記され、実質的にも参加が任意で、不参加でも不利益がないなら、労働時間に該当しません。例えば、懇親会や社内イベント、飲み会などは労働時間とならないこともあります。

労働基準法上の「労働時間」は、使用者の明示または黙示の指揮命令下にある必要があるので、以下のケースは、労働時間とは評価されづらいです。

  • 自由参加でプライベートな飲み会
    参加が完全に任意なら、職場の人と飲み会に行っても労働時間にはなりません。労働者も自由な意思で参加したと評価されやすく、業務ではないからです。
  • 上司や同僚との私的な交流
    親しい上司や同僚との食事など、業務と無関係な私的な交流である限り、労働時間には含まれません。ただし、「上司に誘われたから断りづらかった」という場合は労働時間となる可能性があります。
  • 業務内容と無関係な会合への出席
    相手が取引先や顧客だとしても、業務内容とは全く無関係な会合への出席で、自由参加ならば労働時間とは評価されません。例えば、友人との会食や懇親会、異業種交流会や趣味のサークルといった例です。

ただし、自由な意思で参加したといえるかどうか、次の点を確認してください。

  • 欠席しても叱責されない。
  • 事実上参加するようにという圧力がかかっていない。
  • 人事評価や昇進、労働環境に影響しない。
  • 時間中の業務や、その後の報告義務がない。

参加が事実上義務となっていて、欠席すると人事評価や待遇に不利益が生じたり、社長や上司からハラスメントや嫌がらせを受けたりするなら、労働時間と判断されます。

接待が残業となった場合の企業側の対応

次に、接待が残業となった場合の企業側の対応について解説します。

接待が、労働基準法上の「労働時間」と評価されるとき、その時間を含めると残業が生じていることがあります。この場合、残業代の支払いをはじめとした適切な対応をする必要があります。

適正な残業代を支払う

接待が「労働時間」に該当する場合、勤務時間に加算されます。

その結果、「1日8時間、1週40時間」を超える場合には時間外労働(残業時間)として扱われます。また、接待の会食などが深夜に及び、午後22時から午前5時までの労働となった場合には深夜労働、休みの日に接待ゴルフなどに参加させた場合には休日労働として扱うべきです。

この場合、企業には労働基準法37条に基づき、割増賃金の支払い義務が生じます。割増賃金は、本来労働すべき時間以外に働いたときに、通常の賃金に割り増して支払う賃金であって、時間帯に応じて次の割増率を乗じる必要があります。

残業の種類割増率
時間外労働25%
時間外労働(月60時間超)50%
休日労働35%
深夜労働25%
時間外+深夜(深夜残業)50%
休日+深夜60%

接待中であっても、労働者が実質的に業務として拘束されていれば「労働時間」となり、残業代の支払いが必要となります。そして、たとえその日の飲食代が無料だったとしても、残業代と相殺することは法的に認められません。

代休や振替休日を取得させる

例えば、休日に「労働時間」となる接待ゴルフに参加させた場合、代休を与えることによる解決策も検討できます。代休とは、休日労働を指示し、事後的に休日を与える方法です。代休を与えた場合には、休めなかった分の休日を与えたことになるので、その分の賃金は控除されます。

ただし、休日労働をさせた場合、割増率部分の支払いは必要となります(例えば、法定休日労働をさせた場合には「35%」分の支払い)。一方、振替休日は、休日労働の予定がある場合に、あらかじめ休みを別日に変更しておく方法であり、この場合は割増率部分の支払いも不要です。

36協定を締結しておく

労働基準法では、適法に残業をさせるには36協定を締結しておく必要があります。

具体的には、残業は原則として違法であって、36協定を締結した場合に、そこに定めた限度で適法になるに過ぎないと考えられています。したがって、接待によって発生した労働時間が時間外労働になる場合は、あらかじめ36協定を締結しておく必要があります。

36協定が締結されていない場合に違法となるのはもちろん、36協定には法定の上限(原則として月45時間、年360時間)があり、これを超える場合にも違法となります。

接待後の労働時間を管理する

残業代を適切に支払うには、労働時間を正しく把握し、記録しておく必要があります。接待の性質上、延長されるケースも多いので、終了時刻を管理しなければなりません。

使用者側には労働時間を把握する義務があります。客観的な証拠を残さないと、労働者からより長い時間の残業を主張され、多額の残業代を請求されても反論が難しくなってしまいます。企業としては、以下のような記録を残しておいてください。

  • タイムカードや勤怠管理システムの打刻
  • 接待開始・終了時刻を申告する報告書
  • 接待内容・目的の記録(顧客名、参加者、目的など)
  • 交通費や経費清算の申請書

これらの記録を残しておけば、後で争いになったときに「接待が労働時間かどうか」を判断する際の重要な証拠にもなります。

企業が講じるべき接待のリスク回避策

最後に、企業が講じておくべき、接待のリスク回避策について解説します。

接待のルールを明文化する

まず大切なのが、接待に関する社内ルールを明文化しておくことです。

接待についての社内ルールは、就業規則や内規に定め、従業員全員に周知しておきましょう。以下の点を明記しておくと効果的です。

  • 接待の目的
  • 接待が業務として認められる範囲
  • 私的な活動との区別の基準
  • 接待命令を出す場合の手続きや責任者
  • 接待を許可する手続きや基準
  • 労働時間や勤怠の管理方法
  • 経費処理の方法
  • 労働時間として扱う基準

これらのルールは、事前に明文化しておけば、従業員にとっても透明性が高まり、納得感があります。「無理やり接待を強要された」「無償の奉仕を求められた」といった不満も生じづらくなり、トラブルの防止にも役立ちます。

事前申請制や自由参加を明示する

接待について、事前申請制としておくのがお勧めです。

接待を業務として行う場合に、事前に社長や上司、人事部門に申請し、承認を得ることを義務付けておけば、労働者にとっても不満は生じません。また、会社にとっても従業員の接待活動を把握し、コントロールすることができ、予想外の残業代を請求される事態を回避できます。

事前申請制には、企業にとって次のようなメリットがあります。

  • 労働時間となる接待時間を把握できる。
  • 不要な接待や長時間の拘束を抑止できる。
  • 妥当な経費支出であるかをチェックできる。

また、事前申請を徹底することで、会社としても「業務上の指示による接待」と「私的な飲み会」を明確に区別できます。そして、業務でなく懇親目的である場合は、自由参加であることを明確に伝える事が重要です。

社内告知やメール案内の際、「参加は任意であり、不参加による不利益は一切ありません」と明記しておけば、後から争われても、労働時間性を否定しやすくなります。

残業代トラブルについて弁護士に相談する

最後に、残業代請求などの労務トラブルに備えて、弁護士との連携体制を整えましょう。

実際に残業代を請求されてから焦って法律相談をするのではなく、日常的に、労務管理が適切に行われているかのチェックを依頼し、顧問弁護士として関与してもらうのがお勧めです。定期的に労務管理の体制や、就業規則などを見直しておくのがよいでしょう。

トラブルが表面化してから対応するよりも、予防策を講じる方が効果が高いです。

人事労務を弁護士に依頼するメリット」の解説

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、接待が労働時間になるかどうか、残業代の観点もあわせて解説しました。

接待は、業務とプライベートの境界が曖昧になりやすい活動の一つです。そのため、「どこまでが仕事で、どこからが私的な時間か」の判断基準を理解しないと、企業にとっては予想外の残業代請求を受けるリスクが高まってしまいます。

接待が残業になるかどうかは、「使用者の指揮命令下に置かれているかどうか」という、労働基準法の「労働時間」の定義によって、実質的に判断されます。接待が、会社の指示に基づくものだったり、従業員が拒否できない状況にあったりすると、勤務時間外でも労働時間(=残業)として扱われ、割増賃金の支払い義務を負ってしまう危険もあります。

正しい労務管理は、企業の信頼を守り、労使双方にとって健全な職場環境を目指す第一歩となります。不安のある経営者や人事担当者は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。

この解説のポイント
  • 接待が業務命令ならば、指揮命令下に置かれた「労働時間」となる
  • 自由参加・私的交流であり、拒否するのが自由なら残業代の対象外
  • 企業は、残業代請求のリスクを軽減するため、接待ルールを明文化すべき

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