消費行動に大きな影響を与える口コミやレビューは、BtoC企業にとって死活問題です。
ネット検索が普及した昨今、商品やサービスを選ぶ際、口コミやレビューを参考にする人が多いです。広告による「売り込み」よりも、SNSや口コミサイトに投稿された利用者の「リアルな声」の方が、購買判断の参考とされる時代です。
そのため、良い評価を得て集客を増やそうとするあまり、事実と異なる「やらせ口コミ」や「サクラのレビュー」が横行しています。やらせ口コミは、消費者に与える影響が大きい分、法的なリスクがあります。虚偽の口コミやレビューは景品表示法などに違反し、明るみに出れば、かえって否定的な口コミが急増して炎上する危険もあります。
今回は、口コミのやらせが法律に違反するケースと、違法なレビューが企業にもたらすリスクについて、企業法務に強い弁護士が解説します。
- ネット検索の普及で、口コミやレビューが顧客獲得手段として重要性を増す
- 口コミのやらせによって消費者を騙す手法は、法律に違反する可能性が高い
- 景品表示法に反する違法なやらせ口コミをするリスクはとても高い
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やらせ口コミとは
やらせ口コミとは、商品やサービスを提供する企業が、あたかも消費者の自発的な口コミであるかのように装って、虚偽や誇張されたレビューを作成する行為を指します。
口コミやレビューは本来、実際に商品・サービスを利用した消費者の手で、率直な感想に基づいて自然発生するものです。企業が主導して「やらせる」こと自体が不当です。
このような行為は、消費者が口コミやレビューを、購買決定の際に参考にする傾向が強まった現代特有のものですが、不適切なやらせ口コミ、サクラレビューが繰り返されると、インターネット上には実態に即さない「高評価」が蓄積され、結果として他の消費者を誤認させることになります。
したがって、このような「やらせ」は、「サクラ」や「ステルスマーケティング(ステマ)」とも呼ばれ、社会的にも問題視されています。
口コミのやらせが問題となるケース
次に、口コミのやらせが問題視される代表的なケースを解説します。
どのような情報発信が問題となるかを知ることで、悪意をもって行うのは当然、無意識のうちに不適切な行為に加担するリスクを防ぐことができます。
自社の良い評価を書き込む「自作自演」
最も典型的な手口が、自作自演のレビューです。
自作自演とは、企業自身が、自社にとって有利な内容の口コミやレビューを投稿する行為です。社員に口コミ投稿を強要するのは、パワハラに該当するおそれもあり、労働問題にも発展します。更に、会社が組織的に虚偽のレビューを大量に投稿したり、クラウドソーシングを通じて第三者に口コミを依頼したりする行為は、不当であるとされる可能性が高いです。口コミやレビューは本来、消費者が自然に発信するものであり、事業者がその体を装って投稿すべきではありません。
なお、逆のパターンとして、競合他社によって不当に低評価の口コミを投稿されるケースも存在します。虚偽のネガティブレビューは「風評被害」であり、削除請求や発信者情報開示請求など、法的措置を講じることが必要となります。
「風評被害を訴える方法」の解説

口コミ代行業者による「やらせ」
近年では、「口コミ代行業者」にやらせレビューを依頼する手法も見受けられます。
中には、違法なやらせ口コミであるという自覚のないまま依頼するケースもあります。悪質な業者の中には、明らかなやらせ行為にもかかわらず、正当なウェブマーケティング戦略の一環であるかのように装って営業する企業もあります。例えば、Googleビジネスプロフィール(GBP)の対策や、SNSを活用したリファラルマーケティングなどの名目で、実質的には虚偽の口コミ投稿を行っているケースもあります。
特に、これまでインターネット広告にあまり慣れていない企業ほど、悪質な業者の提案に騙されるリスクが高いため、十分な注意が必要です。
友人や顧客に依頼する「サクラ」
既存の顧客に、「よろしければレビュー投稿をお願いします」と依頼すること自体は、正当なマーケティング活動ですし、法律上も問題ありません。しかし、レビューの内容は顧客の意思に任せるべきであり、「高評価でお願いします」といった誘導をした場合は、やらせやステマとして問題視されるおそれがあります。
更に、商品やサービスを購入していない友人・知人に対して、高評価の口コミを依頼する行為は、明らかな虚偽であって、法的にも社会的にも問題のある「サクラ行為」に該当します。
口コミのやらせが法律に違反する場合とは
次に、口コミのやらせが法律に違反する場合について解説します。
口コミにおける「やらせ行為」は、法律違反の可能性があります。特に注意が必要なのが、景品表示法への違反です。口コミを通じてネット上の情報や評価を操作する行為は、ケースによっては重大な法的責任を負う可能性があります。
景品表示法における不当表示の規制
景品表示法(正式名称:不当景品類及び不当表示防止法、略称:景表法)は、事業者による不当な表示や過大な景品の提供を禁止し、消費者が適切な判断を行えるようにすることを目的とします。消費者の自主的かつ合理的な選択を守り、ひいては消費者利益の保護を図ることが趣旨です。
企業がやらせの口コミやレビューで消費者に誤解を与え、購入判断を誤らせることは、景品表示法の目的に反するため、同法の規制対象となります。紙媒体だけでなく、ウェブ広告やSNSの投稿、口コミサイトのレビューなど、あらゆる「表示」に景品表示法が適用されます。
口コミに適用される景品表示法のルール
口コミやレビューに適用される景品表示法のルールについて解説します。
景品表示法5条は、「優良誤認」「有利誤認」「その他、消費者に誤認を与えるおそれのある表示」の3つを、不当表示として禁止しています。
景品表示法5条
事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
二 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
三 前二号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの
景品表示法(e-Gov法令検索)
優良誤認となる口コミ・レビュー
優良誤認表示とは、商品・サービスの品質や性能が、実際よりも著しく優れていると誤解させる表示です。やらせの口コミやサクラのレビューを掲載して、実態より良い印象を与えると、優良誤認表示として景品表示法違反に該当するおそれがあります。
例えば、次のような口コミ・レビューの表現に注意してください。
- 裏付け資料のない他社との比較レビュー
- 捏造された統計や根拠のないデータ
- 商品の実態に反する嘘の口コミ
- メリットのみを強調した一方的な評価
- 「必ず痩せる」「誰でも簡単に稼げる」などの過剰な表現
このような表示は、消費者を誤認させる可能性が高く、違法とされるリスクがあります。
有利誤認となる口コミ・レビュー
有利誤認表示とは、商品・サービスの条件について、実際よりも著しく有利であると消費者に誤認させる表示です。例えば、値引きや特典などを実態以上に魅力的に見せることで、取引条件の比較において、消費者の判断を誤らせる行為が該当します。
例えば、次のような口コミやレビューの表現に注意してください。
- 「今だけの特別価格」と書きながら、通常価格と変化がない。
- 「地域最安値」「業界最安値」と表示しているが、客観的な根拠がない。
このような表示も、根拠が明確でなければ不当表示とされるリスクがあります。
景品表示法では、不当表示であるかどうかは、消費者目線で判断されます。そのため、消費者から見て、誤認を生じさせるかどうかが重要な判断の基準となります。「業界では一般的な表現」「他社も使用している」などの言い訳は通用しません。
消費者に誤認されるおそれがある口コミ・レビュー
優良誤認・有利誤認に該当しなくても、消費者を誤解させる危険のある表示は、景品表示法上の問題となります。例えば、内容が真実であっても、表現の仕方次第では誤解を生じさせてしまうことがあります。
特に、インターネット上では次のケースが問題視されます。
- SNSや口コミでの過剰な称賛
- アフィリエイト記事での誘導的なレビュー
- インフルエンサーによる広告表記のない推薦投稿
この点については、消費者庁も注意喚起をしており、ネット広告やインフルエンサーマーケティングに対する監視は厳格化しています(インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項)。
景品表示法違反に対するペナルティ
やらせ口コミが景品表示法に違反すると判断された場合、次のペナルティがあります。
- 措置命令
違反行為の停止と再発防止措置を命じる行政指導。企業名が公表され、社会的信用を大きく失うこともあります。 - 課徴金納付命令
不当な広告表示によって得られた売上の最大3%を、課徴金として納付することが命じられます。 - 刑事罰(措置命令違反)
措置命令に違反した場合、2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます。
課徴金は、行政罰の一種であり、不当表示を継続した間の商品やサービスの売上の3%が目安です。その口コミやレビューによって売れた商品やサービスの供給量が多いと、課徴金額もかなりの高額になる危険もあります。口コミのやらせの場合、課徴金は、情報発信をしてから削除までの間の全ての売上額が対象となり、リスクはかなり高いです。
違法な口コミ・レビューのリスク
最後に、やらせの口コミやレビューなど、違法行為のリスクを解説します。
違法な情報発信を行うと、企業は大きなリスクに直面します。やらせ口コミは、一時的には集客や売上の増加に寄与するかもしれません。しかし、長期的に見れば、企業にとって非常に大きな損失を招く可能性がある、高リスクな行為です。
消費者から損害賠償請求を受ける
違法な口コミのやらせを行うと、消費者から損害賠償請求される危険があります。
やらせの口コミや虚偽のレビューで騙して商品やサービスを購入させると、消費者から「真実の情報を伝えられていれば購入しなかった」と訴えられ、損害賠償を請求されるおそれがあります。苦情が多いと、消費生活センターや監督官庁の行政指導や是正勧告の対象となる危険もあります。
当然ながら、やらせの口コミを信じて購入した顧客からは契約の解除を求められますし、少なくとも、信頼を失ってリピーターやファンにはならないでしょう。不当な手段で得た顧客は、企業の持続的な成長には決して繋がりません。
悪質なやらせ口コミは犯罪になる
やらせ口コミの中でも、特に悪質で違法性の高いものは、犯罪となる危険もあります。
口コミのやらせが刑法に違反すれば、刑事罰を科せられてしまうのです。犯罪となる危険性が特に高いのは、自社を高評価するだけでなく、競合他社に虚偽の低評価を投稿するケースです。
違法性の高いやらせ口コミが、該当する可能性のある犯罪は、次の通りです。
- 信用毀損罪(刑法233条前段)
虚偽の口コミによって競合企業の社会的信用を損ねた場合など。「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」。 - 偽計業務妨害罪(刑法233条後段)
虚偽のレビューによって競合企業の営業活動を妨げた場合など。「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」。
このような違法行為があると、民事上の責任だけでなく、刑事責任にも発展する可能性があるため、極めて深刻です。
企業の社会的評価が低下する
やらせ口コミの事実が発覚すれば、消費者からの信頼は著しく損なわれます。
たとえ実際は不正をしていなくても、全てが高評価の口コミばかりといった不自然な投稿が目立てば、「やらせではないか」と疑念を抱かれる原因になりかねませんし、やらせやサクラを疑われる過剰な広告は避けるべきです。
違法行為をしていた事実がメディアで報道されれば、悪評は一気に拡散され、社会的評価は大きく低下します。たとえ商品やサービスの品質が優れていても、ブランドイメージは避けがたく、業績にも深刻な影響を及ぼすおそれがあります。
まとめ

今回は、口コミにおける「やらせ行為」の危険性について、法的な観点から解説しました。
自社の商品やサービスを消費者に届けたい企業にとって、ネット上の口コミやレビューは極めて重要な情報源となっています。現代の消費者は、企業の広告よりも、実際の利用者の声を重視する傾向が強まっており、やらせ口コミやサクラレビューで手早く集客する手法は、短期的には有効なようにも見えます。しかし、この方法はリスクも高く、いわば「諸刃の剣」です。
虚偽の口コミやレビューを投稿する行為は、景品表示法などの法令に違反する可能性があり、発覚した場合、企業の信用を失墜させ、売上を減少させるおそれがあります。
自社のマーケティング活動に法的なリスクが潜んでいないか、不安を感じる企業は、問題が顕在化する前に、弁護士に相談することをお勧めします。
- ネット検索の普及で、口コミやレビューが顧客獲得手段として重要性を増す
- 口コミのやらせによって消費者を騙す手法は、法律に違反する可能性が高い
- 景品表示法に反する違法なやらせ口コミをするリスクはとても高い
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