社員から突然、欠勤の連絡が入ることがあります。
家族の不幸や法事、病欠など、もっともらしい理由でも、中には嘘をついて欠勤する「ズル休み」の社員も存在します。
ズル休みは許しがたい問題行為です。納期直前や重要な取引日など、企業活動にとって重要なタイミングで無断欠勤されると、経営に重大な支障を及ぼすし、他の社員の士気にも悪影響を与えかねません。意欲が低い社員ほど、重要な場面にストレスを感じ、嘘の理由で逃げる傾向があります。
「ズル休みではないか」と疑念を抱いても、企業としてどう対処すべきか迷う経営者や人事担当者も少なくありません。しかし、嘘の理由の見抜き、欠勤に対して処分する際は、労働法上のルールや手続きを守る必要があります。
今回は、ズル休みを疑われる社員への対応について、嘘を見抜く方法やその後の対処法を、企業法務に強い弁護士が解説します。
- 社員の嘘やズル休みを見抜くために、よくある嘘の欠勤理由を知っておく
- 診断書の提出を指示して、欠勤理由とされた事情を労働者側に証明させる
- ズル休みが発覚したら、その悪質さに応じて懲戒処分や解雇を行う
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よくある嘘の欠勤理由
まず、ズル休みに対処するには、嘘を見抜く必要があります。
そのためには、「よくある嘘の欠勤理由がどのようなものか」を理解するのが有益です。例えば、ズル休みの際によく使われる欠勤理由には、次の例があります。
【嘘の体調不良】
- 朝起きたら突然頭痛がした。
- 突然高熱が出て動けない。
- 朝から検査に行かなければならない。
【嘘の家庭の事情】
- 身内に不幸があったので休みたい。
- 実家の親が危篤になった。
- 子供が急に熱を出し、看病しなければならない。
何かと理由をつけて、「休むこと」そのものが目的となっている社員もいます。
当然、本当に休む必要のある社員もいるので、これらの理由が全て嘘とは限りません。労働契約は、労使の信頼で成り立つので、信頼関係を損なわないためにも過度な疑いは逆効果なこともあります。「嘘ではないか」と感じても、強く詰問したりプライベートに過度に踏み込んだりすれば、「パワハラ」という指摘を受ける危険もあります。
したがって、よくある嘘の欠勤理由は、ズル休みを見抜く「アンテナ」を張るのに役立てるべきです。実際に「アンテナ」に引っかかる怪しい欠勤があったら、本解説のテクニックを利用して冷静に対処してください。
社員の嘘を見抜く方法
次に、社員の嘘を見抜く方法について解説します。
欠勤理由に嘘や不自然さを感じても、いきなり問い詰めるのは避けるべきです。プライバシーへの過度な干渉は、パワハラと受け取られるリスクもあります。信頼関係を損なえば、今後の成長や貢献も期待できません。
よくある嘘の欠勤理由は、ズル休みの典型的な言い訳である一方、本当にやむを得ない事情となる例も少なくありません。真偽を見極めるために、適切な事実確認の方法を理解しましょう。
欠勤の申告のタイミングに注意する
第一に、欠勤の申告のタイミングについてです。
当日に突然申告してくるケースは、嘘をついている可能性が高いと考えます。急な頭痛や発熱も確かにありますが、仕事を休まざるを得ないほどの体調不良は、少なくとも前日には予兆があることが多いでしょう。身内の不幸も、突然死でない限り事前に連絡できるものです。
検査や法事などの理由なら、事前に申告することも十分可能なはずです。したがって、欠勤理由の緊急性と申告のタイミングを考慮すると、ズル休みを疑うことができます。
欠勤理由の具体性に着目する
第二に、欠勤理由の具体性に着目すると、嘘を見抜けるケースもあります。
嘘の理由で休もうとすると、「風邪」「体調不良」など、具体性に欠ける申告になりがちです。一方で、やけに具体的で、聞いてもいない欠勤理由まで詳細に説明してくる社員も、仮病を疑うべき場合があります。ズル休みに後ろめたさを感じる社員ほど、「嘘がバレないように」と焦り、やたら詳しい説明をしてくる人も少なくありません。
企業側としては、まずは端的に欠勤理由を聞き、必要に応じて体調や症状を確認しましょう。ハラスメントとならないよう、健康を気遣うような質問をするのが重要なポイントです。
欠勤の頻度を調べる
第三に、欠勤の記録を取り、頻度を調べましょう。
欠勤の頻度があまりに多いとき、ズル休みを疑うべきです。欠勤の理由が日によって違っても、実は全部嘘である可能性もあるので、休む頻度やパターンを参考にすべきです。
身体の弱い労働者もいるでしょうが、疲れを回復するために「休日」があります。労働基準法35条は「1週1日または4週4日」の法定休日の取得を義務付けています。出社日に限って体調不良となるのでは、就労の意欲や能力が欠けると評価されても仕方ありません。「週明けの出勤がつらい」「週末遊んだら朝起きられなかった」といった言い訳は、もはやズル休みと変わりません。
身内の不幸や家庭の事情などを理由にしていても、週明けに毎回のように休んでいたり、欠勤することで連休が発生していたりするときは、ズル休みではないかと疑いましょう。
診断書を提出させる
次に、診断書の提出を指示すべきです。
病欠を理由としたズル休み、つまり「仮病」を見抜く最良の方法は、診断書を提出させることです。体調が悪くて欠勤せざるを得ないなら、早く治すために医師の診断を受けるべきであり、会社は診断書の提出を命じることができます。
深刻な病状を訴えているのに診断書の提出に応じない場合、欠勤理由は虚偽であると考えて対応すべきです。この方法を徹底すれば、仮病によるズル休みは防ぐことができます。
なお、診断書の作成費用は、労働者に負担させても法的には問題ありません。
しかし、費用負担を理由に診断書の提出を拒まれては、真偽の確認ができなくなります。ズル休みの疑いのある社員を見極め、排除できると考えれば、診断書取得にかかる費用は会社にとって「必要経費」と割り切るべき場面もあります。
もっとも、診断書を提出させる方法も万能ではありません。
うつ病や適応障害などは、外見から判断が難しく、最終的には本人の自己申告に頼らざるを得ない場面もあります。この場合、診断書の有無のみに頼らず、日頃の勤務態度や欠勤のタイミング、過去の言動なども含め、総合的に判断すべきです。
SNSをチェックする
次に、社員の嘘を見抜く方法として、SNSをチェックしましょう。
最近では、SNSアカウントを非公開設定にして、外部から閲覧できないようにしている人も増えています。しかし、X(旧Twitter)やFacebook、Instagramなど複数のSNSを利用している場合、公開設定のままになっているケースも少なくありません。また、本人の投稿でなくても、友人の投稿写真にタグ付けされていることで、活動状況が分かる場合もあります。
ズル休みが成功したと油断し、旅行や遊び、飲み会といった私的な行動の写真をアップロードしてしまうミスも見受けられます。そのため、疑わしい欠勤理由がある場合、一般に公開された範囲でSNSを確認することで、欠勤理由と矛盾する行動を掴むことができます。
同僚や家族に確認する
最後に、同僚や家族に確認する方法もあります。
同僚や家族に状況を確認することで、ズル休みの実態が明らかになる例もあります。実際、会社には体調不良などの理由で欠勤連絡をしておきながら、親しい同僚にはズル休みであると打ち明けていたケースも少なくありません。
根回しを徹底している人もいますが、あくまで自然な形で状況を確認する中で、思わぬ形で真実が明らかになることもあります。また、社員の安否や健康状態の確認が目的なら、緊急連絡先や身元保証人への連絡に合理性があるケースもあります。
なお、プライバシーには配慮し、労務管理上の必要性を考えて対応すべきです。
ズル休みした社員を懲戒処分できるか
次に、ズル休みした社員に対する制裁について解説します。
懲戒処分は、企業秩序を乱す問題行為を起こした社員に対し、制裁として下す処分です。虚偽の欠勤を繰り返していることが明らかになったら、懲戒処分が可能なケースもあります。
虚偽申告は非違行為に当たる
社員が欠勤理由を虚偽申告するケースには、以下の2つのパターンがあります。
いずれの場合も、企業秩序に反する「非違行為」と評価される可能性が高く、状況によっては懲戒処分を下すことが認められます。
- 嘘をついて欠勤する場合
労働者は、雇用契約に基づき、所定労働時間中は使用者の指揮命令に従い、職務に専念する義務を負います。ズル休みは、正当な理由なく同義務に違反するもので、会社の指揮命令に背く行為と評価されます。 - 嘘をついて有給休暇を使う場合
労働者には、労働基準法に基づいて年次有給休暇を取得する権利があります。有給休暇の理由を会社に伝える必要はないものの、業務の円滑な遂行のために、会社には必要に応じて日程を変更する権利(時季変更権)が認められています。
有給休暇があれば、労働者は会社を休めますが、ズル休みのために虚偽の欠勤理由を申告すると、会社が時季変更権を適正に行使できなくなります。
企業秩序を乱したかがポイント
虚偽の欠勤理由によるズル休みが問題行為なのは明らかですが、実際に懲戒処分を下せるかどうかは、その行為の悪質性と懲戒処分の重さのバランスが問われます。
懲戒処分は、労働者に重大な不利益をもたらすので、企業による懲戒権の行使には厳格な制限があるからです(労働契約法15条)。
労働契約法15条
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
労働契約法(e-Gov法令検索)
この条文の通り、懲戒処分を有効に行うには、①客観的に合理的な理由があること、②社会通念上相当であると認められることが要件となります。ズル休みであることが発覚すれば、①合理的な理由は通常認められますが、問題は②相当性です。
そのズル休みが業務に具体的な支障を生じさせたり、社内の秩序や職場環境に悪影響を与えていたりするかが、処分の妥当性を左右する重要なポイントとなります。
処分が適正かどうかを判断するには、欠勤の頻度や態様、業務への影響の程度、本人の反省の有無、過去の勤務状況などを総合考慮する必要があるので、人事労務に詳しい弁護士に専門的なアドバイスを求めるのが望ましいでしょう。
「人事労務を弁護士に依頼するメリット」の解説

就業規則の定めが必要
懲戒処分は、労働者に重大な不利益となるため、その予測可能性を確保するため、あらかじめ処分の理由と種類を規定しておく必要があります。具体的には、就業規則に、懲戒処分に関する規定を定めておく必要があります。
ズル休みした社員を解雇できるか
最後に、虚偽の欠勤理由でズル休みした社員を解雇できるかについて解説します。
中でも「懲戒解雇」は、企業秩序に重大な違反があった場合に限って認められる、最も重い処分です。そのため、懲戒解雇が可能なケースは非常に限定的であると考えるべきです。
軽度の懲戒処分が妥当なケースが多い
懲戒処分には、譴責・戒告などの軽度なものから、減給・降格・出勤停止、更には諭旨解雇や懲戒解雇といった重度の処分まで、様々な種類があります。
ズル休みは、無断欠勤に類似した職務怠慢行為に該当し、企業秩序に違反するのは明らかです。しかし、初回のズル休みなどの軽度の行為に、いきなり重い処分を下すのは相当ではなく、通常は譴責や戒告(状況に応じて減給)など、比較的軽い懲戒処分が妥当とされます。
なお、減給の懲戒処分は、労働者の収入に直接影響するので、その上限が法律で定められています(労働基準法91条)。
- 1回の減給
1日分の平均賃金の半額まで - 1ヶ月の減給の総額
その月の賃金総額の10%まで
この上限を超えて減給した場合には違法となり、労働者から上限を越えて減額した賃金を請求されるおそれがあります。
解雇には厳しい制限がある
労働者を解雇するには、更に高いハードルが課されています。
具体的には、労働契約法16条の定める「解雇権濫用法理」により、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その解雇は権利濫用として無効になります。
解雇は、労働者の生活手段を完全に奪う重大な処分なので、企業側でも厳格な手続きと慎重な判断が求められます。少なくとも、ズル休みが数度あった程度では、たとえ問題社員といえど、すぐに懲戒解雇に相当するとは考えられません。
解雇が認められるのはどのような場合か
一方で、極めて悪質なケースでは、解雇が有効と認められます。
以下の事情があるケースは、解雇とする余地があります。
- 虚偽の申告による欠勤・遅刻・早退を常習的に繰り返している。
- 度重なる注意や指導にもかかわらず改善がみられない。
- 企業に重大な損害や信用失墜をもたらした。
解雇をはじめとした重い処分を下す場合ほど手続きも慎重に進めなければならず、対象となる社員に弁明の機会を与え、言い分を聞いて事実確認を行うべきです。
ズル休みの対応を誤ると、労務トラブルや訴訟に発展する危険もあります。慎重に対応し、社内だけでは判断が困難な場合には人事労務に詳しい弁護士への相談をお勧めします。
まとめ

今回は、嘘の理由で欠勤する、いわゆる「ズル休み」の社員への対応を解説しました。
企業として適切に対応するために、社員の嘘を見抜く方法と、使用者が取り得る具体的な対処法を正しく理解しておく必要があります。
ズル休みを繰り返す社員の中には、欠勤に負い目がなく、平然と嘘をついて休む人もいます。問題社員を放置すると、周囲にも悪影響を及ぼします。「ズル休みが許される職場」だと甘く見られれば、職場全体の規律が緩み、更なる勤怠トラブルを招いてしまいます。
ズル休みが常習化し、悪質性が高い場合、その程度に応じて減給や解雇といった厳格な措置を検討すべきです。嘘を見抜くには、経験と判断力が必要となります。「ズル休みなのではないか」「欠勤理由が嘘なのではないか」と感じた場合には、ぜひ一度、経験豊富な弁護士に相談してください。
- 社員の嘘やズル休みを見抜くために、よくある嘘の欠勤理由を知っておく
- 診断書の提出を指示して、欠勤理由とされた事情を労働者側に証明させる
- ズル休みが発覚したら、その悪質さに応じて懲戒処分や解雇を行う
\お気軽に問い合わせください/

