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ズル休みする社員の対処法は?嘘をついて休む社員を処分できますか?

社員から、突然に欠勤の連絡が来た場合、会社側ではどう対応したらよいでしょうか。家族の不幸や法事、病欠など、もっともらしい理由で欠勤する社員の中には、嘘をついてズル休みする人もいます。ネットで「会社、休み、理由」などと検索すると、ズル休みしたSNS投稿、バレないよう嘘の理由でズル休みする方法を紹介した記事すら見かけます。

ズル休みは許しがたい問題行為です。納期直前や大事な取引先との契約日に嘘をついてズル休みされると、経営に与える影響は甚大ですし、他の社員の士気にも悪影響です。一方で、やる気のない社員ほど、こういった大切な機会にストレスを感じ、嘘をついて逃げる傾向にあります。

社員の欠勤理由を聞き「ズル休みではないか」「嘘の理由ではないか」と感じても、会社としてどう対処すべきか分からず、悩む経営者や人事担当の方も少なくないでしょう。嘘の理由の見抜き方と、その後の処分は、法律上の注意点を守って進めなければなりません。

今回は、ズル休みする社員の嘘を見抜く方法と、その後の対処法について、企業法務に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • ズル休み、社員の嘘を見抜くには、よくある嘘の欠勤理由を知っておくのが有効
  • 診断書を提出させるなど、欠勤理由とされた事情を労働者側に証明させる
  • ズル休みだったことが発覚したら、その悪質さに応じ、懲戒処分、解雇で対処する

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よくある嘘の欠勤理由

ズル休みに対処するにはまず、嘘を見抜く必要があり、そのためには、社員がよく使う嘘の欠勤理由にどのようなものがあるのか、知る必要があります。

社員が、ズル休みをする際によく使う嘘の欠勤理由には、次の例があります。

【嘘の体調不良】

  • 朝起きたら突然頭痛がした
  • 突然光熱が出て動けない
  • 朝から検査に行かなければならなくなった

【嘘の家庭の事情】

  • 身内に不幸があったので休みたい
  • 実家の親が危篤になった
  • 子供が急に熱を出し、看病しなければならない

何かと理由をつけて、休むことそのものが目的となってしまっている社員もいます。

もちろん、これらの欠勤理由の全てが嘘というわけではありません。本当に休まなければならない事情のある社員も多くいます。労働契約は、労使の互いの信頼関係で成り立っていますから、継続的な信頼を損なわないためにも、過度に疑ってかかるのは禁物です。

もっともらしい欠勤理由を申告され、嘘ではないかと感じても、いきなり問い質しては「パワハラ」と言われるおそれもあります。よくある嘘の欠勤理由は、ズル休みを見抜く「アンテナ」を張るために役立てるべきです。実際にそのアンテナにひっかかるような怪しい欠勤があったとき、嘘を発覚させるには、次章のようなテクニックを利用した冷静な対応を要します。

社員の嘘を見抜く方法

欠勤理由が嘘っぽいと感じても、「ズル休みなのでは」と不安でも、いきなり社員を問い正すのは避けるべきです。プライバシーへの過度な干渉は、パワハラという指摘を受けるケースもあります。また、疑心暗鬼になり信頼関係を損なえば、今後の貢献は望めません。

よくある嘘の欠勤理由として紹介した事情は、ズル休みに用いられる典型的な言い訳でありながら、一方で、本当にそのような事情の発生した社員にとって、どうしても欠勤しなければならない事情であるのも明らかです。以下では、従業員に直接確認することなく社員の嘘を見抜くために、会社が注意しておきたい法的なポイントを解説します。

欠勤の申告のタイミングに注意する

まず、当日になって突然に欠勤を申告してくるケースでは、社員が嘘をついている可能性が高いといえます。急な頭痛や発熱は確かにありますが、仕事を休まざるを得ないほどの体調不良は、少なくとも前日には予兆があることが多いものです。また、身内の不幸についても、突然死などでない限りタイミングよく突発的に生じるものではありません。

検査や法事などのように、予想のつくイベントを理由に休むなら、事前に申告することも十分に可能なはずです。このように、欠勤理由によって、当日に突然のタイイングで欠勤の連絡をしてくる社員は、ズル休みしている可能性を大いに疑う必要があります。

欠勤理由の具体性に着目する

欠勤理由の具体性に着目することで、嘘を見抜くことができるケースもあります。

嘘の理由で休もうとすると、「風邪」「体調不良」など、具体性がなくリアリティに欠ける場合、仮病の可能性があります。一方で、やけに具体的に、聞いてもいない欠勤理由を詳細に説明してくる社員も、嘘をついている可能性があります。ズル休みに後ろめたさを感じる社員ほど、嘘がバレないように焦り、欠勤の理由をやたら詳しく説明してくるケースは少なくありません。

電話口でいきなり長々と欠勤理由を申告して場合など、ズル休みの可能性を疑いましょう。

欠勤の頻度を調べる

欠勤の頻度が多すぎるときにも、ズル休みの可能性があります。やけに頻繁に検査や病欠で欠勤する場合、その欠勤の理由が日によって異なっても、全て嘘の可能性があります。

身体の弱い労働者も、中にはいるでしょうが、疲れの回復のために「休日」があります。出社日に限って決まって体調不良となるのでは、労働する能力に欠けるともいえます。社員自身は欠勤理由が正当だと感じていても、「週明けの出勤がつらい」「週末遊んだら朝起きられなかった」といった言い訳は、もはやズル休みと変わりありません。

身内の不幸など、家庭の事情がやたら頻繁に続くケースも、ズル休みではないかという疑いの目を持ち、慎重に対処しましょう。

診断書を提出させる

病欠を理由としたズル休み、つまり「仮病」を見抜く、最も良い方法は、診断書を提出させることです。本当に体調が悪くて欠勤せざるを得ないならば、少しでも早く治すために医師の診断を受けるべきだからであり、会社は診断書の提出を命じることができます。

電話口では深刻な病状を訴えていたのに、診断書の提出を求めてもはぐらかされるケースでは、その欠勤理由は虚偽であったと考えて対応すべきです。医師が虚偽の診断書を作ることは考えづらいため、この方法で仮病によるズル休みは防ぐことができます。

診断書の作成費を労使いずれが負担するか、争点となることもあります。労働者に「欠勤をする権利」があるわけではないため、労働者負担としても問題ありません。

ただ、費用負担を理由として診断書が提出されないよりは、嘘を見抜き、問題社員を排除する必要経費と考えれば、会社が負担しても安いものです。

ただし、診断書を提出させる方法も万能ではありません。

「頭痛」「腹痛」「精神疾患(うつ病・適応障害など)」のように、一見して症状が明らかではなく、労働者自身の症状の訴えに頼らざるを得ないケースは、たとえ診断書が提出されてもなお、ズル休みの可能性が残ります。この場合、他の方法も組み合わせ、総合的に検討します。

SNSをチェックする

社員の嘘を見抜く有効な方法として、欠勤した日のSNSをチェックする方法があります。

最近は、SNSのアカウントを非公開にして、外部から閲覧できないよう設定する人も増えましたが、TwitterやFacebook、インスタグラムなど複数のSNSを利用する人だと、外部から閲覧できるSNSが残っている場合もあります。また、対象の従業員の友人のSNSに、「タグ付け」された画像がアップロードされているケースもあります。

ズル休みに成功して油断し、旅行や遊び、飲み会の写真をアップロードするミスを犯す人は少なくありません。疑わしい社員のSNSをくまなくチェックすれば、病欠中に遊びに行くなどの、ズル休みの動かぬ証拠をつかむことができます。

会社が社員のSNSを監視する適切な方法は、次に解説しています。

同僚や家族に確認する

SNSをチェックする以外にも、同僚や同居している家族に連絡をすることで、ズル休みしていたことが明らかになった例もあります。同僚や家族にも根回しをされていたらお手上げですが、カマをかけて見たら案外成功することもあります。

会社には欠勤連絡を入れながら、仲の良い同僚にはズル休みであると明かしているケースもあるからです。社員の状態を把握する目的であれば、身元保証人や緊急連絡先への確認をしてよい場合もあります。

ズル休みした社員を懲戒処分できるか

さて、ここまで解説してきたズル休みですが、当然ながら、会社内における非常に大きな問題行為と考えることができます。

そこで、会社内で社員の起こした問題行為に対して、「制裁(ペナルティ)」としての意味を持つ懲戒処分を、虚偽の欠勤を繰り返す社員に下すことができるかどうかについて解説します。

虚偽申告は非違行為に当たる

欠勤理由の虚偽申告には以下の2つのパターンがあります。いずれの場合にも非違行為に該当するため、懲戒処分を下すことができる可能性が高いです。

  • 嘘をついて欠勤する場合
    会社と雇用契約を結ぶ労働者には、所定労働時間の間、使用者である会社の指揮命令に服し、職務に専念する契約上の義務があります。虚偽申告によるズル休みや、正当な理由なしに、会社の指揮命令に逆らう行為であり、職務専念義務に違反します。違反の程度が酷ければ、懲戒処分を下すことも可能です。
  • 嘘をついて有給休暇を使う場合
    労働者には、労働基準法に基づいて有給休暇が与えられており、労働者はいつでもどのような理由でもこれを取得できます。しかし、いつでも自由に休まれると会社の業務に支障をきたすこともあるため、会社側には必要に応じて有給休暇の日程を変更させる権利(時季変更権)が認められます。

確かに、有給休暇が残っていれば、労働者は会社を休むことができるわけですが、ズル休みのために虚偽の欠勤理由を申告することは、会社が適正に時季変更権を行使して有給休暇のタイミングを変更する機会を奪うことになるため、その点でも問題行為だと考えられます。

企業秩序を乱したかがポイント

以上のとおり、問題行為であることが明らかな虚偽の欠勤理由(ズル休み)ですが、実際に懲戒処分を下すことが許されるかどうは、欠勤の悪質さと、懲戒処分の重さのバランスによっても異なります。

懲戒処分を下すことは、労働者に大きな不利益をもたらすことになるため、会社による懲戒権の行使は労働契約法15条によって厳しく制限されているからです。

労働契約法15条

使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

労働契約法(e-Gov法令検索)

つまり、①懲戒をすべき合理的な理由があり、②その懲戒処分をすることが社会通念に照らして相当といえる程度でなければ、処分は無効になります。ズル休みは非違行為なので①懲戒をすべき合理的な理由はあるといえますが、加えて、②処分の相当性が認められるかは、従業員のズル休みによって「社内の秩序が乱された」といえるかがポイントになります。

様々な事情を総合的に判断しなければならないため、どの程度の懲戒処分とするのが相当かについては、人事労務に精通した弁護士のアドバイスが有効です。

就業規則の定めが必要

また、懲戒処分は、上記の通り労働者に不利益をもたらすものであるため、労働者側の予測可能性を確保するために、予め処分の種類と処分の事由を規定しておく必要があります。

就業規則に、懲戒処分に関する規定がないのに処分を下すのは違法であり、その懲戒処分は無効です。

ズル休みした社員を解雇できるか

最後に、虚偽の欠勤理由によって会社をズル休みする社員を、解雇することができるかについて解説します。

中でも「懲戒解雇」は、企業秩序の違反に対して会社が下せる処分のうち最も重いため、懲戒解雇が可能なケースは非常に狭く限定されている点に注意しなければなりません。

軽度の懲戒処分が妥当

懲戒処分の種類には、一般に、譴責、戒告といった軽度の懲戒処分から、減給、降格、更には、諭旨解雇、懲戒解雇といった会社を辞めることを前提とした重度の懲戒処分までがあります。

ズル休みは、無断欠勤に類似した職務怠慢行為です。そのため、企業秩序に違反するのは明らかですが、一度のみのズル休みで重度の懲戒処分とするのは妥当ではなく、まずは譴責、戒告、減給など、比較的軽い処分を下すのが適切です。

なお、減給の懲戒処分は、労働者の収入を奪うため、その生活に与える影響が大きくなりすぎないよう、一度に減給できる金額には次の上限があります(労働基準法91条)。

  • 1回の減給
    1日分の平均賃金の半額まで
  • 1ヶ月の減給の総額
    1ヶ月分の賃金の10%まで

上限を超えて減給した場合は、その減給処分は違法となり、上限を超えた減額分の賃金を労働者から請求されるおそれがあるので注意しましょう。

解雇権の制限

通常、一回のズル休みはさほど重大な違法行為とはいえず、戒告や減給が相当とされます。しかし、ズル休みが常習化している場合や、会社に大きな損失を与える目的で嘘をついた場合のように、悪質性の高い場合には、降格や出勤停止などの重い処分や、場合によっては解雇も可能なケースがあります。

重い処分を下す場合ほど、手続きは慎重に行わなければなりません。社員に与える不利益の大きい場合に間違いがあると、紛争化した場合には会社の損失となってしまいますから、ズル休みが事実かどうかを慎重に確認するべきです。

また、最も重い処分である解雇について、会社の解雇権は、他の懲戒権とは別に、厳しく制限されます。

これを「解雇権濫用法理」といい、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」(労働契約法16条)と定められています。

解雇処分は、労働者の収入を完全に奪い、労働者の生活維持を困難にする非常に厳しい処分であるため、処分が許されるケースは、降格や出勤停止よりも非常に限られています。

解雇に値するケースとは?

当然のことながら、ズル休みを一回した程度では、懲戒解雇処分を下すことは許されません。

懲戒解雇処分を下すことが許されるケースとは、虚偽の申告による欠勤や遅刻、早退を繰り返し、再三の注意にもかかわらず改善が見られない、といったような、ごく限られた場合だけです。

そのような悪質な職務怠慢でない限り、ズル休みをした従業員を解雇することはできず、戒告や減給などの比較的軽い処分によって適正に対処するほかありません。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、嘘の理由で会社を欠勤する、いわゆる「ズル休み」の社員への対応を解説しました。ズル休みに、会社として適切に対応するには、社員の嘘を見抜く方法と、使用者としてできる発覚後の対処法を知る必要があります。

ズル休みを繰り返す社員は、会社を休むことへの負い目が全くありません。嘘の欠勤を繰り返すのは「問題社員」であり、適正に対処しないと他の人も真似し始めます、ズル休みの許される職場だと甘く見られると、会社の対応のなさがズル休みを助長しかねません。程度が甚だしいときは、減給や解雇をはじめ、厳しい処分も辞さない構えが必要となります。

ただ、嘘を見抜くには、そのようなズル休みに対応した経験が必要となります。「ズル休みなのではないか」「欠勤理由が嘘なのではないか」と疑問のある方は、ぜひ一度、経験豊富な弁護士に相談ください。

この解説のポイント
  • ズル休み、社員の嘘を見抜くには、よくある嘘の欠勤理由を知っておくのが有効
  • 診断書を提出させるなど、欠勤理由とされた事情を労働者側に証明させる
  • ズル休みだったことが発覚したら、その悪質さに応じ、懲戒処分、解雇で対処する

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