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債権執行とは?債権を差し押さえる手続きの流れと費用、必要書類を解説

「勝訴判決を得たのに、相手が支払わない」という場合、債権執行を検討しましょう。

債権執行は、裁判所を通じて債務者が有する債権を差し押さえることで、強制的に回収する手続きです。預金口座や給与といった債権に対する執行は、回収可能性の高い有効な手段です。

給与や預金といった個人の生活、法人の経営に密接に関わる金銭の流れを止められる点で、債権執行のプレッシャーは非常に強いです。成功させるには、裁判所の手続きの流れを理解し、必要書類や証拠を速やかに集めなければなりません。

今回は、債権執行の基本的な仕組みから、実際の手続きの流れ、費用、必要書類から注意点まで、企業法務に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 債権執行では、給与や預貯金など、生活や経営に必須の債権の差押えが可能
  • 差押禁止債権が存在し、給料は4分の1までしか差押えられないのが原則
  • 債権差押命令の1週間後には、被差押債権を直接取り立てることができる

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目次(クリックで移動)

債権執行とは

はじめに、債権執行の基本的な仕組みについて解説します。

債権執行とは、債務者が、第三者に有する債権(被差押債権)を差し押さえ、自らの債権を回収する手続きです。民事執行法に基づく強制執行の一種であり、被差押債権を直接取り立てたり、転付命令を申し立てたりといった方法で換価し、弁済に充当できます。

債権執行が可能になる条件

債権執行が可能になる要件は、次の通りです。

債務名義を取得していること

債権執行は、債務名義があることが前提で、その執行力によって実行されます。債務名義とは、債務者に対して金銭を支払う義務があることを公式に証明する文書で、主に次のものがあります。

  • 確定判決
  • 仮執行宣言付き判決
  • 和解調書
  • 認諾調書
  • 公正証書(強制執行認諾文言付き)

債務者の債権と第三債務者の情報を把握していること

債権執行の対象となるのは、債務者が第三者に有する債権です。その実効性を確保するには、債務者の債権に関する情報を、債権者側で把握しておく必要があります。

  • 債務者の勤務先情報
  • 債務者の口座情報(金融機関名、支店名)
  • 債務者が売掛金を有する取引先の情報

情報が不正確だと、債権執行の申立てができない、または、「空振り」に終わる危険があるので、弁護士や調査会社のサポートを得ることも検討すべきです。

債権執行の対象となる債権・ならない債権

債権とは、契約に基づく請求権のことです。債権執行においては、対象となる債権と、ならない債権(差押禁止債権)があります。

対象となる債権

多様な債権が存在しますが、債権執行の対象となるのは、債務者が第三者に対して持っている債権です。具体的には、次のような債権が対象とされます。

  • 給与債権
    債務者が勤務先の会社から受け取る給料。ただし、4分の3は差押禁止債権とされるので、4分の1まで差押可能。
  • 預金債権
    債務者が銀行などの金融機関に預けた預貯金。口座の残高が差押え対象となる。預金口座の情報(金融機関名、支店名など)を特定する必要がある。
  • 売掛金債権
    債務者が取引先などから受け取る予定の売掛金。個人事業主や法人など、ビジネスに関する強制執行で対象となる。
  • その他の債権
    よく差押えられる上記3つのほか、貸金返還請求権、請負代金、報酬、家賃収入、保険金請求権、退職金債権なども差押えの対象となる。また、非金銭債権として、電話加入権、知的財産権(特許権・著作権・商標権など)、ゴルフ会員権なども対象となる。

財産的価値があり、換価可能であれば全て対象となります。債権は「目に見えない財産」なので債務者の勤務先や口座情報、取引関係などを把握しておくことが債権執行の成否を左右します。

対象とならない債権(差押禁止債権)

債権執行の対象とならない債権を、差押禁止債権と呼びます。差押禁止債権については、民事執行法152条に定めがあります。

  • 公的給付
    年金・生活保護費・児童手当などは、債務者の生活を支える費用で、特別法(国民年金法、厚生年金保険法、生活保護法、児童手当法など)で差押禁止とされる。なお、支払い後は預金債権として差押可能。
  • 労働者の給与
    民事執行法により、手取り額の4分の3は差押禁止(4分の1まで差押可能)。ただし、手取り額が44万円を超える場合、33万円を超える部分は差押可能。
  • 扶養義務等に係る定期金債権(養育費・婚姻費用など)を請求する場合
    保護の必要性が高く、給与手取り額の2分の1まで差押可能。

民事執行法で差押禁止債権とされるものは、生活に不可欠な債権です。たとえ債権回収の必要があっても、生活の維持に必須の債権まで執行されては困窮してしまいます。

他の強制執行との違い(不動産執行・動産執行など)

強制執行には、債権執行の他に、不動産執行、動産執行などがあります。

執行の対象が異なり、債権執行なら債務者が有する債権、不動産執行なら不動産(土地・建物など)、動産執行であれば債務者所有の動産(自動車・家財など)を差押えます。そして、債務者の財産から強制的に債権回収する方法の総称が「強制執行」であり、債権執行はその一手段です。

最優先なのは、最も高価になりやすく、財産隠しをしづらい不動産への執行です。一方で、目に見える財産がなくても、預貯金や給与は存在する場合には、債権執行が活用できます。

債権執行の手続きの流れ

次に、債権執行の手続きの流れについて解説します。

債権執行は、裁判所を通じて、債務者の債権を差し押さえる手続きです。民事執行法に基づく裁判手続きなので、必要書類を準備しなければなりません。

STEP

債務名義を取得する

債権執行を行うには、まず債務名義の取得が必須です。

主な債務名義には、確定判決、和解調書、認諾調書、公正証書(強制執行認諾文言付き)などがあります。債務名義には、執行文と送達証明書が必要です。

訴訟提起して判決を得るには、数カ月〜1年以上の期間がかかります。一方で、公正証書があれば訴訟を経ずに債権執行できますが、作成には相手の協力を要します。

STEP

債権執行の必要書類を準備する

債務執行の必要書類には、次のものがあります。

  • 債権差押命令申立書
  • 債務名義(正本)・執行文・送達証明書
  • 目録(当事者目録・請求債権目録・差押債権目録)
  • 申立手数料(収入印紙)・郵便切手
  • (当事者が法人の場合)資格証明書
  • (弁護士を依頼する場合)委任状
STEP

債権執行の申立て

準備した申立書と書類一式を、管轄の地方裁判所に提出します。

債権執行の申立ての管轄は、原則として債務者の所在地(法人の場合は本店所在地)を管轄する裁判所です。

STEP

債権差押命令の発令

裁判所から債権差押命令が発令されます。

この命令書が第三債務者に送達されると、差押えの効力が生じます。債権に対する差押えの効力は、次の2つです(被差押債権の全体に及びます)。

  • 債務者による処分の禁止
    債務者は、第三債務者に対する債権を処分できない。取立はもちろん、第三者への譲渡や売却、債務免除なども禁止される。
  • 第三債務者による弁済の禁止
    第三債務者から債務者への弁済も禁止される。弁済されて債務が消滅すると、差押えが無意味になってしまうため。

継続的に発生する債権(給与など)は、発生するたびに執行手続を要します。ただし、手続きの煩雑さを避けるため、継続的給付に係る債権に対する差押えの効力は、請求債権と執行費用を限度として、将来給付にも及びます(民事執行法151条)。

STEP

第三債務者に対する陳述の催告

差押命令の送達後、第三債務者は、一定期間内に「陳述書」を裁判所に提出し、債権の有無や金額を回答する必要があります。これは、差押えが可能かどうかについて第三債務者の意見を聞くための手続きです。

第三債務者の回答によって、債権者が取立てに進むかを判断でき、債権執行の空振りを回避できます。第三債務者が故意又は過失で陳述をしなかったり、不実の陳述をしたりすると損害賠償責任を負います。

STEP

債権の回収(取立て・転付命令)

差押えの効力が生じた後、被差押債権を換価し、請求債権に充当します。取立てと転付命令という2つの方法が主ですが、その他の方法もあります。

取り立て

債権差押命令が第三債務者に送達されて1週間経過すると、債権者は被差押債権を、第三債務者から直接取り立てられます(請求債権と執行費用を限度とする)。取り立てた金銭は、請求債権の弁済に充当されます。

第三債務者が、債権者の取立てに応じない場合には、取立訴訟を提起します。

取り立てた金額が請求債権に満たないときは、更に残額を請求できます。

転付命令

転付命令は、債権者の申立てにより、被差押債権を債権者に転付する方法です。発令されると、債権者は債務者に代わり、第三債務者に対する債権を行使できます。取り立てとの違いは、次の2つです。

  • 転付命令では被差押債権を独占して他の債権者を排除できる。
  • 発令時点で請求債権は弁済されたことになるので、第三者が無資力で支払われない危険は債権者が負担する。

以上を考慮し、第三債務者による支払いが確実で、他にも多くの債権者が存在する場面では、取立てでなく転付命令を選択します。

なお、不当な執行逃れ防止のため、譲渡禁止特約付きの債権も、差押え、転付命令が可能であるとするのが裁判例です(最高裁昭和45年4月10日判決)。

第三債務者による供託

第三債務者が被差押債権について供託した場合、裁判所は債権額に応じて配当を実施します。複数の差押えが競合した場面では、第三債務者は一方の債務者のみに弁済できず、供託しなければ債務を免れられません(義務供託)。

その他の方法

民事執行法161条は、その他の債権の換価方法を定めます。

  • 譲渡命令
    被差押債権を、裁判所が定めた価額で債権者に譲渡する。
  • 売却命令
    取り立てに代えて、裁判所の定める方法によって被差押債権の売却を執行官に命ずる。
  • 管理命令
    管理人を選任してその債権の管理を命ずる。

これらの方法は、被差押債権が条件付き、期限付きであるなど、取立て困難な事情があるとき、債権者の申立てによって行うことができます。

債権執行にかかる費用

債権執行を行うには、一定の費用を要します。

裁判所に申し立てる際に申立手数料(収入印紙代)などがかかるほか、弁護士に依頼するには弁護士費用が必要となります。

裁判所に支払う費用

債権執行を行う際、裁判所に支払う申立手数料(収入印紙代)は、債権執行1件につき4,000円です(なお、債権者や債務者の人数によって異なるので、事前に裁判所に確認しましょう)。また、送達に必要となる郵便切手代を予納します。

その他に、債権執行の申立てに必要な書類を、役所や裁判所、公証役場などで取得するための実費がかかります。

債権執行の弁護士費用

債権執行は本人でも申立て可能ですが、弁護士に依頼する際には弁護士費用がかかります。手続きが煩雑な場合や、不誠実な対応が予想される場合は、弁護士への依頼が有益です。

債権執行の弁護士費用の相場は、次の目安を参考にしてください。

【訴訟段階からの継続依頼の場合】

  • 着手金:10万円
  • 報酬金:債権額の16%〜

【強制執行のみ依頼する場合】

  • 着手金:10万円〜30万円
  • 報酬金:債権額の16%〜

債権執行の注意点とよくあるトラブル

最後に、債権執行の注意点と、よくあるトラブルについて解説します。

債権執行は、給与や口座を差し押さえることのできる強力な手段ですが、必ずしも債権回収に成功するとは限らず、リスクやトラブルも存在します。

財産が特定できない場合

債権執行では、差押対象となる債権を特定することが重要です。

例えば、預貯金を差し押さえる場合、実務上、銀行などの金融機関名だけでなく、その支店名まで特定するのがルールです。そのため、債権者は、申立前に調査する必要があります。

債権の所在や第三債務者が不明だと、申立書を記載することができません。債権の調査方法には、次の手段があります。

  • 債務者のサイト
    会社概要などに、取引銀行が記載されていることがあります。
  • 弁護士会照会
    弁護士の職務に必要な事実関係について、弁護士会を通じて問い合わせる制度。債務名義取得後であれば、全店照会(本店及び全支店における預貯金の有無、支店名の開示などを一斉に照会すること)に応じる金融機関も少なくない。
  • 財産開示手続
    裁判所に申し立て、債務者の財産状況を開示させる制度。
  • 第三者からの情報取得手続
    2020年民事執行法改正で新設された制度。第三者(主に勤務先、金融機関、法務局など)に対し、裁判所を通じて債務者の預金や不動産、給与などの情報を照会する。
  • 探偵や調査会社への依頼

弁護士会照会を利用できる点は、債権執行を弁護士に依頼する大きなメリットとなります。

第三債務者が支払いを拒否する場合

差押命令が出ても、第三債務者が正しく対応しないと回収できません。

よくあるのが、第三債務者が債務者への支払いを停止せずに続けたり、陳述書を提出せずに無視してしまったりするトラブルです。また、給与債権の差押えの場合、支払額の計算を誤り、債権者の回収が遅れてしまうこともあります。

給与差押えでは、第三債務者に強制執行の知識がなく、理解が不足していることが原因の場合があります。この場合、弁護士から制度の説明を丁寧に行って、協力を促すことができます。

なお、悪質な第三債務者には、過料(行政罰)の制裁があるほか、損害賠償責任を追及することも検討してください。

債権を差し押さえるタイミングを計る

債権執行の実効性を高めるには、差押えのタイミングも重要です。

例えば、預貯金の差押えでは、預金口座の残高から債権回収を図りますが、口座内の金額が請求債権に満たないと、一部しか回収できません。そのため、債務者の口座残高が増加するタイミング(例:決済日・給料日、月末や締日など)を推測して申し立てる必要があります。

なお、判決で確定した権利の消滅時効は、10年とされます(民法169条)。したがって、勝訴してから10年の間であれば、執行対象となる債権を見つけ次第、いつでも差押えが可能です。

取引先の信用不安」の解説

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、強制執行の種類のうち、債権執行について解説しました。

債権執行は、判決や公正証書などの債務名義に基づき、債務者の有する債権を差し押さえる強力な手段です。預貯金や給与などの債権に対する執行は、目に見える財産がなくても非常に有効です。

ただし、債務者の給与の支払先(就労先)や預貯金口座(金融機関名、支店名など)は、債権者側で特定が必要であり、債権の調査は欠かせません。調査に時間がかかると債権が存在しなくなってしまう危険があるので、資金繰りが悪化したら速やかに準備を進めておく必要があります。

資金繰りの悪化が明らかになったら、将来の債権執行のため、債務者となる企業の取引先や取引銀行などを突き止めておくべきです。債権回収にお悩みの方は、債権執行の選択肢を検討するとともに、弁護士のアドバイスは早めに得ておきましょう。

この解説のポイント
  • 債権執行では、給与や預貯金など、生活や経営に必須の債権の差押えが可能
  • 差押禁止債権が存在し、給料は4分の1までしか差押えられないのが原則
  • 債権差押命令の1週間後には、被差押債権を直接取り立てることができる

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