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債権執行とは?債権差し押さえの手続きの流れと費用、必要書類を解説

「裁判で勝訴したが支払われない」という場合、速やかに強制執行に移る必要があります。債権執行は、債権を対象として差し押さえ、換価し、請求債権を満足させる手続き。給与債権や預金債権など、回収可能性の高い債権の存在する債務者への執行では、真っ先に選択されます。

債権執行は、給料や預貯金など、個人の生活にも、法人の経営にも不可欠な金銭の流れを止めることができます。そのためプレッシャーが非常に大きく、債務の未払いを解決する方法としてよく活用されます。しかし一方で、債権執行を奏功させるには、裁判所の手続きの流れをよく知り、必要書類を速やかに準備しなければなりません。

また、第三債務者の協力を得られない、差し押さえた債権の換価が困難であるなど、債権執行に向かないケースもあります。

今回は、債権執行の法律知識について、手続きの流れと費用、必要書類などを、企業法務に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 債権執行によって、給料や預貯金など、生活や経営に不可欠な債権を差し押さえられる
  • 債権執行では差押禁止債権が存在し、給料は原則として4分の1までしか差し押さえられない
  • 債権差押命令の1週間後には、被差押債権を直接取り立てることができる

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債権執行とは

債権執行とは、強制執行の種類のうち、債務者が第三債務者に対して有する債権(被差押債権)を対象として、差し押さえをし、換価して、請求債権を満足させる手続きです。被差押債権は、直接取り立てたり、転付命令を申し立てたりといった方法によって金銭化され、請求債権に弁済に充当されます。

債権とは契約に基づく請求権のこと。社会には多種多様な「債権」があり、その多くは財産的な価値を有します。そのため、債権執行は、強制執行の中でも最もよく利用されます。債権執行が活用される典型例は、銀行など金融機関の預金の差し押さえです。その他、貸金債権、給料債権など、財産的価値のある権利は全て債権執行の対象となる債権です。

債権執行は、不動産執行、動産執行など、他の執行方法とは異なり、第三債務者が必ず関与します。

そのため、債権執行によって債権回収を図る場合、第三債務者の協力が不可欠です。第三債務者側としても「債務を誰に弁済するか」を誤ると、二重払いの危険があるため、債権執行の手続きに利害関係を有し、慎重に判断をすることでしょう。

債権執行のメリット・デメリット

次に、債権執行のメリット、デメリットを解説します。

債権回収を成功させるには、債権回収の特徴をよく知り、有効な場面で活用する必要があります。

債権執行のメリット

債権執行のメリットは、比較的容易な手続きであり、スピーディに債権回収できる点です。具体的には、差押命令の送達後1週間が経過すると、第三債務者に対して直接取立てできるようになります。直接取り立てることができるため、他の強制執行の手段のように、差し押さえ後の競売などの手続きは不要です。

債権執行のデメリット

債権執行のデメリットは、債権の存在を債権者側で調査しなければならない点です。債権の存在は、登記による公示の浸透した不動産よりも調査しづらいです。債務者が、誰に対し、どのような債権を有するかといった情報を、債権が未払いとなった後で入手するのは容易ではありません。

また、対象となる債権が特定できても、他の債権者が既に担保を設定していたり、差し押さえられていたりすると、債権執行が空振りに終わってしまいます。

債権執行の対象となる債権

債権執行の対象となる債権には、例えば次のものがあります。

【金銭債権】

  • 金融機関に対する預金債権
  • 取引先に対する売掛債権
  • 貸金返還請求権
  • 就労先に対する給与債権
  • 委任契約に基づく報酬請求権

【非金銭債権】

  • 電話加入権
  • 特許権、著作権、商標権などの知的財産権
  • ゴルフ会員権

財産的価値のある権利で、換価できるならば、全て債権執行の対象とすることができます。

債権執行の対象とならない債権(差押禁止債権)

一方で、債権執行の対象とならない債権もあります。それが、差押禁止債権です(民事執行法152条)。

  • 給料などの4分の3に相当する部分
    →4分の1までは差し押さえることができる
  • (給料などが44万円を超える場合)33万円
    →33万円を超える部分について差し押さえることができる
  • (養育費、婚姻費用などの債権の回収の場合)給料などの2分の1に相当する部分
    →家族に関する債権の回収では、債権者の生活を守る必要があるため、2分の1までは差し押さえることができる
  • 年金、生活保護費、児童手当など
    いずれも債務者の生活を支える重要な費用のため、国民年金法律、厚生年金保険法、生活保護法、児童手当法といった特別法に、差し押さえが禁止されると定められている

法律によって差し押さえが禁止される債権が存在するのは、その債権が、人の生活にとって欠くことのできないものだからです。たとえ債権の未払いを解消する必要があるとしても、生計の維持は当然に必要であり、債権執行によって生活が立ち行かなくなるのではいけません。

なお、公的年金や生活保護費といえど、預貯金に入れられると差し押さえの対象となってしまいます。この不都合を回避するため、取り立て完了までの間なら、差押禁止債権の範囲を変更する申し立てができます。

★ 民事執行法152条(差押禁止債権)

民事執行法152条(差押禁止債権)

1. 次に掲げる債権については、その支払期に受けるべき給付の四分の三に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は、差し押さえてはならない。
一 債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権
二 給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権

2. 退職手当及びその性質を有する給与に係る債権については、その給付の四分の三に相当する部分は、差し押さえてはならない。

3. 債権者が前条第一項各号に掲げる義務に係る金銭債権(金銭の支払を目的とする債権をいう。以下同じ。)を請求する場合における前二項の規定の適用については、前二項中「四分の三」とあるのは、「二分の一」とする。

民事執行法153条(差押禁止債権の範囲の変更)

1. 執行裁判所は、申立てにより、債務者及び債権者の生活の状況その他の事情を考慮して、差押命令の全部若しくは一部を取り消し、又は前条の規定により差し押さえてはならない債権の部分について差押命令を発することができる。

2. 事情の変更があつたときは、執行裁判所は、申立てにより、前項の規定により差押命令が取り消された債権を差し押さえ、又は同項の規定による差押命令の全部若しくは一部を取り消すことができる。

3. 前二項の申立てがあつたときは、執行裁判所は、その裁判が効力を生ずるまでの間、担保を立てさせ、又は立てさせないで、第三債務者に対し、支払その他の給付の禁止を命ずることができる。

4. 第一項又は第二項の規定による差押命令の取消しの申立てを却下する決定に対しては、執行抗告をすることができる。

5. 第三項の規定による決定に対しては、不服を申し立てることができない。

民事執行法(e-Gov法令検索)

債権執行の手続きの流れ

次に、債権執行の手続きの流れについて解説します。

債権執行の必要書類の準備

債権執行の必要書類には、次の資料があります。

  • 債権差押命令申立書
  • 執行文の付与された債務名義の正本
    債務名義は、執行すべき債権の存在を証明する公的な書類。主な債務名義には、確定判決、仮執行宣言付判決、仮執行宣言付支払督促、和解調書、調停調書、公正証書(執行認諾文言を付したもの)があり、いずれもその末尾に執行文を付与することで執行力を公証する。
  • 債務名義の送達証明書
  • (当事者が法人の場合)資格証明書
  • (弁護士を依頼する場合)委任状
  • 当事者目録
    債権執行の当事者(債権者、債務者、第三債務者)を一覧にした書面。法人の場合、商業登記簿謄本に従い、会社名、本店所在地、代表者名を記載する。
  • 請求債権目録
    債権者が、債務者に対して有する債権(請求債権)を一覧にした書面。債務名義の詳細のほか、元金、損害金、執行費用などの金額を記載する。
  • 差押債権目録
    債権執行において差し押さえ対象とする債権(被差押債権)を特定する書面。どの債権を差し押さえるかが分かるように記載せねばならず、例えば預金債権なら銀行名と支店名を記載する。同じ第三債務者との間に複数の債権が存在するとき、差し押さえ対象とする順序を指定できる。

債権執行の申し立て

以上の資料が収集できたら、債権執行の申し立てを行います。債権執行の申し立ては、債務者の住所地(法人の場合には本店所在地)を管轄する裁判所に対して行います。

債権差押命令の発令

裁判所から債権差押命令が発令され、命令書が第三債務者に送達されると、差し押さえの効力が生じます。つまり、第三債務者への送達日が、債権執行の効力発生日となる点に注意を要します。

差し押さえの効力は主に次の2つ。債務者と、第三債務者のそれぞれに対して効力を有します。差し押さえの効力は、被差押債権の全体に及びます。

差し押さえの効力
  • 債務者による債権の処分が禁止される
    差し押さえの効力が発生すると、債務者は、第三債務者に対する債権を処分できない。その債権の取り立てが禁止なのは当然、第三者に譲渡したり売却したり、第三債務者に対して債務を免除したりするのが禁止される。
  • 第三債務者による弁済が禁止される
    差し押さえの効力が生じた後は、第三債務者から債務者への弁済も禁止される。勝手に弁済され、債務が消滅してしまうと差し押さえが無意味となってしまうため。

給料のように継続的に生じる債権について、発生する度に執行手続きをとる必要があるのが原則。しかし、手続きが複雑となるのを避けるため、継続的給付に係る債権に対する差し押さえの効力は、請求債権と執行費用の額を限度として、差し押さえの後の将来給付にも及ぶこととなっています(民事執行法151条)。

第三債務者に対する陳述の催告

債権執行に特有の手続きが、第三債務者に対する陳述の催告です。この手続きは、債務者と第三債務者との間に差し押さえられる債権が存在するのかどうかを知るために、第三債務者の意見を聞く手続きです。具体的には、被差押債権の有無、金額、弁済の意思などについて、第三債務者に書面で回答を求めることができます。

第三債務者に対する陳述催告の申し立ては、債権執行の申し立てと同時に行います(裁判所の書式では、債権差押命令申立書内における「第三債務者に対する陳述催告の申立て」欄へのチェックで足りる)。これにより、債権者は、債権執行が空振りに終わる危険を回避できます。第三債務者は、故意又は過失で陳述をしなかったり、不実の陳述をしたりすると損害賠償責任を負います。

第三債務者の回答によって、債権者として、債権の取り立てに進むかを判断できます。

債権の換価(取り立て、転付命令)

差し押さえの効力が生じた後は、被差押債権を換価し、請求債権に充当します。主な方法は、取り立てと転付命令の2つですが、その他の方法があります。

取り立て

債権差押命令が第三債務者に送達され、1週間が経過すると、債権者は被差押債権を、第三債務者から直接取り立てられるようになります(取り立てが可能なのは請求債権と執行費用の額を限度とします)。取り立てた金銭は、請求債権に充当されます。

第三債務者が、債権者による通常の取り立てに応じず、協力的でない場合には、取立訴訟を提起します。

なお、取り立てた金額が、請求債権の全額に満たないときは、更に残額を請求できます。

転付命令

転付命令は、債権者の申し立てにより、被差押債権を債権者に転付する方法です。転付命令が発されると、債権者は債務者に代わり、第三債務者に対する債権を行使できるようになります。

取り立てとの違いは、次の2点です。

  • 転付命令では被差押債権を独占して他の債権者を排除できる点
  • 転付命令が発された時点で請求債権は弁済されたことになるため、第三者が無資力であって支払いがなされないという危険は債権者の負担となる点

これらを考慮し、第三債務者からの支払いが確実で、かつ、他の債権者が多く存在するような場面では、取り立てでなく転付命令を選択します。

なお、不当な強制執行逃れを防止するため、譲渡禁止特約が付いた被差押債権も、差し押さえ、転付命令が可能とするのが裁判例です(最高裁昭和45年4月10日判決)。

第三債務者による供託

第三債務者が、被差押債権について供託した場合、裁判所は債権額に応じて配当を実施します。

なお、複数の差し押さえが競合し、二重に差し押さえられた状態となった場面では、第三債務者は一方の債務者のみに弁済はできず、法務局に供託しなければ債務を免れることができません(義務供託)。

その他の方法

民事執行法161条は、その他の債権の換価の方法として、次のものを定めます。

  • 譲渡命令
    被差押債権を、裁判所が定めた価額で支払に代えて債権者に譲渡する命令
  • 売却命令
    取り立てに代えて、裁判所の定める方法によって被差押債権の売却を執行官に命ずる命令
  • 管理命令
    管理人を選任してその債権の管理を命ずる命令

これらの方法は、被差押債権が条件付き、期限付きであったりといった事情で取り立てが困難なときに、債権者の申し立てによって行うことができるものとされています。

債権執行にかかる費用

まず、債権執行をする際には、裁判所に支払う手数料などがかかります。具体的には、申立手数料として、収入印紙を、債権執行1件あたり4000円納付する必要があります(なお、債権者、債務者の人数によって異なります)。また、郵便切手を予納します。

債権執行は、手続きが複雑であり、十分な調査、準備をしなければ空振りに終わる危険もあるため、弁護士に相談するメリットの大きい場面です。そのため、債権執行を弁護士に依頼する際にかかる弁護士費用も、債権者にとって必要な負担となります。債権執行の弁護士費用は、債務名義を取得する裁判などの段階から継続して依頼していた場合には、割引を受けることができる場合があります。

債権執行にかかる弁護士費用に相場は、次の目安を参考にしてください。

【訴訟段階から続けて強制執行を依頼する場合】

  • 着手金 10万円
  • 報酬金 債権額の16%〜

【強制執行のみ依頼する場合】

  • 着手金 10万円〜30万円
  • 報酬金 債権額の16%〜

債権執行で預貯金を差し押さえる際の注意点

最後に、債権執行の中で特に効果が高く、場面を選ばず活用できる、預貯金の差し押さえの注意点を解説します。

企業間の債権回収において、経営に必須となる金融機関の口座を差し押さえ、引き出せなくするインパクトは大きく、有効活用すれば非常に解決力の高い方法だといえます。

預貯金の調査・特定を要する

債権執行において預貯金を対象とする際は、口座の特定がポイントとなります。実務上は、銀行名などの金融機関名だけでなく、その支店名までの特定を要するのがルールです(口座番号、口座名義人などの特定は不要)。そのため債権者は、債権執行の申立前に、口座の所在を調査する必要があります。

債務者が法人の場合には、サイトや会社概要などに取引銀行を公表していることがあります。会社の本店所在地近辺の銀行と取引のあることも多いものです。しかし、口座情報は個人情報なので特定は容易ではありません。手がかりを辿るのも限界があります。そこで、調査の手段として、以下の方法が活用できます。

  • 弁護士会照会
    弁護士が、その職務に必要とする事実関係につき、弁護士会を通じて問い合わせる制度。回答拒否しても制裁はないものの、債務名義を取得した後の強制執行では、全店照会(本店及び全支店における預貯金の有無、支店名などの開示に応じること)に対応する金融機関も少なくない。
  • 財産開示手続
    裁判所に申し立て、債務者の所有する財産を開示させる制度。

弁護士会照会を利用できる点で、債権執行を弁護士に依頼するのには大きなメリットがあります。

預貯金を差し押さえるタイミングを計る

預貯金の差し押さえでは、第三債務者は銀行などの金融機関となります。このとき、第三債務者に差押命令が送達され、差し押さえの効力が生じると、差し押さえた金額について債務者への預貯金の弁済が禁止されます。つまり、債務者は預金を引き出すことができなくなります。

そのため、預金債権に対する債権執行を奏効させるには、タイミングが非常に重要です。返済の滞っている債務者の口座に、潤沢な預金があるとは期待できないでしょうが、少しでも入金のありそうな決済日、給料日、月末や締日といった時期を推測して申し立てを行う必要があります。

取引先に信用不安を感じたときの対策は、次に解説します。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、強制執行の種類のうち、債権執行に関する法律知識を解説しました。

債権執行を成功させるには、債務者の預貯金、給与の支払先(就労先)や、契約関係の存在する取引先など、債権の存在を調査しなければなりません。債権執行の際には、債権者側で、差し押さえの対象とする債権を特定する必要があるからです。

法人間の債権回収では、信用不安が生じ、資金繰りが悪化したらすぐに事前準備に着手すべきです。信頼関係が少しでも残っているうちに、債務者となる企業の取引先、取引銀行など、債権の存在する先を突き止めておくことが、将来の債権執行において役立ちます。債権執行の準備、申立書の作成などには専門的知見を要するため、ぜひ弁護士に相談ください。

この解説のポイント
  • 債権執行によって、給料や預貯金など、生活や経営に不可欠な債権を差し押さえられる
  • 債権執行では差押禁止債権が存在し、給料は原則として4分の1までしか差し押さえられない
  • 債権差押命令の1週間後には、被差押債権を直接取り立てることができる

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