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アプリの特許の法律知識│特許侵害しない対策、特許侵害された時の対応

特許とは、発明を保護するための権利。高度な技術をもとになされるアプリ開発では、特許権を取得し、特許による保護を活用しないと、自社の権利を不当に侵害されるおそれがあります。

逆に、アプリの企画、開発で、他社の特許を侵害すれば、差止請求や損害賠償請求を受ける危険があります。そのため、新規性の高いビジネスほど、特許侵害のリスクを回避するため、事前によく調査すべきです。というのも、特許は(著作権と異なり)、特許があると知らずに侵害したケースも、違法な特許侵害となるからです。

特許侵害されたら速やかに、自社の損失を食い止める対応が必須です。放置していては、特許を取得して勝ち取った競争力を失ってしまいます。また、侵害してしまった側においても、特許権者からの差止、損害賠償を請求されると、アプリ開発にかかったコストが無駄になり、投下資本を回収できなくなります。

今回は、アプリの特許に関する法律知識と、特許侵害されたときの対応、逆に侵害しないための対策を、企業法務に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • アプリに発明が含まれるとき、出願・登録することで特許権による保護を受けられる
  • アプリ開発で特許を侵害しないため、企画段階で十分な調査を要する
  • 他社から特許を侵害されたら、警告書を送付し、差止、損害賠償を訴訟で請求する

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目次(クリックで移動)

アプリの特許とは

特許とは、発明を保護するための権利です。

特許法では、「特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する」(特許法68条)と定められており、発明を、ビジネスのために利用し、その利益を享受する権利ということができます。

特許が企業経営に用いられるとき、重要な財産的価値を持ちます。アプリ開発のように多くの資金をかけてビジネスを開始するとき、その完成物には特許を取得し、他社からの侵害、丸パクリに備える必要があります。

その結果、登録された特許を他社から侵害されたら、差止請求、損害賠償請求といった方法を活用することで、法律で認められた権利を保護する必要があります。特許侵害は、その発明を使用して、製品を製造する場合はもちろんのこと、インターネットを通じて配信することも含みます。そのため、ある特許を利用したアプリを違法にコピーし、販売すれば、そのもととなった特許の侵害に該当し、違法です。

特許侵害は(著作権侵害と異なり)、その特許の存在を知って侵害した場合に限らず、知らずに同じ発明を実施した場合でも、違法な侵害に該当するため注意を要します。

アプリ開発では著作権も重要。次の解説も参考にしてください。

アプリの特許を侵害しないための準備と、事前調査の方法

次に、アプリの特許を侵害しないための事前準備を解説します。

知らずに実施しても違法な特許侵害なので、侵害のおそれあるアプリを開発するなら、事前調査などの準備が大切です。準備が不十分なまま開発に着手するのは大きなリスク。予想外の差止、損害賠償で不利益を被らぬよう、どのような発明が特許として登録されているか調査し、侵害する可能性のある特許を列挙し、特許侵害とならない手当をすべきです。

特許の調べ方

特許の数は膨大なので、ウェブサービスを使用した調査が一般的。特許調査に利用する検索サービスは特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)が簡易です(キーワード検索によって特許、実用新案、意匠、商標などの権利を無料で検索できます)。検索結果から、次の情報を得ることで、特許侵害の可能性を推測できます。

  • 出願日(と、出願後の経過年月)
  • 審査請求の有無
  • 特許番号

試しに、自社が開発を予定するアプリが侵害しそうな特許を、キーワード検索してみてください。

簡易検索でなく、「特許公報」も検索対象に含めた詳細検索を使うのがポイントです。

特許侵害しないための準備

検索結果に表示される発明は4つに分類され、それぞれ特許侵害を避けるための対応方法が異なります。分類ごとに、どう対応したら自社アプリが特許を侵害しないのか、理解する必要があります。

  • 既に特許権の登録が完了している発明
    既に他社が特許を有するなら、無断の実施は特許侵害となる。自社の開発予定のアプリが、特許の構成要件の範囲外となるようアプリの構成を変更する、または特許権の譲渡、実施許諾を受ける手当が必要。
  • 特許権が登録される可能性のある発明
    特許出願すると、18ヶ月経過後に内容が公開され、並行して、出願から3年以内に出願審査請求を行う。そのため、出願日から3年以内の発明は、これから特許権の登録がされる可能性があるため、現在は未登録だったとしても配慮を要する。
  • 特許権が登録される可能性のない発明
    出願から3年経過していれば、もはや特許権の登録がされる可能性はなく、無断で実施可能。
  • 特許権が消滅している発明
    特許権の存続期間が満了した発明、権利者が特許権を放棄した発明など。無断で実施可能。

したがって、自社のアプリが侵害しそうなキーワードで検索し、特許登録番号が付与された発明を侵害しないこと、特許登録されていなくても特許公開番号が付与され、出願日から3年経過しない発明を侵害しないことが大切なポイントです。

侵害しそうな特許を漏らさず検索し、検討するには専門的な知識を要し、経験豊富な弁護士のサポートが有益です。

アプリの構成を変更する

自社の開発予定のアプリが、登録された特許権を侵害する可能性があるとしても、企画段階で気付けたなら、アプリの構成を変更することで特許侵害を回避する方法が有効です。

前章までの調査で判明した、特許の「要約」欄によって発明の概要を知り、「特許請求の範囲」記載の権利を付与された発明の技術的範囲を把握すれば、どのような構成に変更すれば他社の特許侵害とならないかを理解できます。

特許請求の範囲は、請求項ごとに分けて記載され、これら1つずつの要素を構成要件と呼びます。すべての構成要件を満たす発明を実施しないようにすれば、特許侵害には該当しません。

ただし、特許請求の範囲の記載は専門的で、侵害かどうか判断するには、法律や裁判例の知識を踏まえた解釈を要します。

特許の譲渡、実施許諾を受ける

特許は、ビジネスにおいて財産的価値を持ち、譲渡、売買の対象となります。

他社の特許を侵害しそうなアプリを開発するとき、そのアプリの売上・利益が大きいと予想されるまら、特許を譲渡してもらえないか交渉する手も有効です。特許権者がその特許を過小評価するなら、予想される利益に比して小さな対価で譲渡してもらえる可能性もあります。

対価を払って実施を許諾してもらう、特許実施許諾(いわゆるライセンス)を得る解決方法もあります。実施許諾を得られた期間は、その特許を使用してアプリを開発しても、特許侵害にはなりません。

特許の実施許諾で結ぶべきライセンス契約は、次の解説をご覧ください。

アプリが特許侵害だと警告を受けたときの対応

万全に事前準備しても、他社から特許侵害を主張されるケースがあります。まずは特許侵害の警告書が送付され、交渉で解決しない場合は訴訟に発展するでしょう。

差止請求され自社アプリの販売がストップしたり、損害賠償請求により出費を余儀なくされたりといった緊急事態に備え、警告書を受領した際の初動対応を理解してください。

特許権の内容、特許侵害の有無を確認する

まず、特許侵害の警告書を受領したら、特許権の内容を確認します。調査方法は、事前準備における調べ方と同様です。

受領した警告書に、相手が侵害を主張する特許の登録番号が記載されるのが通常です。これを手がかりに、改めて権利者、出願日や存続期間、特許請求の範囲といった基本情報を収集し、自社アプリが他社の特許を侵害するか調査します。

この調査には、技術的な専門知識を要するケースが多く、自社の開発担当者の意見を聞く必要があります。

先使用権を主張する

特許が出願された時点で、その存在を知らずに同内容の発明を先に使用していた者には、先使用権が認められます。

先使用権を有する者には通常実施権が認められます。つまりは、特許権の登録後も、発明の利用を継続でき、特許侵害にもなりません。したがって、特許侵害の警告書に対し「先使用権を有する」という反論が可能です。

自社のアプリが、いつ、どのような経緯で利用されたか(特許出願より前から、特許の存在を知らずに使用されていたか)を調査する必要があります。

先使用を主張するには、開発時の資料や広告、広報PRの内容やパンフレット、ウェブサイト上の記載、新聞や雑誌など、客観的な資料で証明しなければなりません。

特許権の無効を主張する

特許登録をされた発明でも、その発明が特許登録の要件を欠き、無効となることがあります。このとき、特許侵害の主張は制限され、自社における利用を継続することができます。

特許登録には、進歩性、新規性といった要件を充足する必要があります。したがって、特許登録の要件を満たすか検討し、無効の可能性がある場合には、警告書に反論するとともに、特許無効審判を請求します。

アプリの特許を侵害されたときの対応

次に、特許を侵害された側における適切な対応を解説します。

アプリ開発で、投下資本を効率よく回収するには、特許による独占的な利用を確保するのが有効です。汎用性の高い特許なら、他社に実施許諾(ライセンス)して利益を上げることも可能です。

特許を出願し、登録する

特許権は(手続きを要せず権利化される著作権と異なり)、登録手続きが必要。具体的には、特許明細書に発明の詳細を記載し、特許庁に出願し、審査を受けます。

特許の出願から登録までの流れは次の通りです。

STEP
特許出願

特許権の取得のため、必要書類を特許庁に提出する行為。必要書類は、主に次のもの。

  • 願書
  • 特許請求の範囲
  • 特許明細書
  • 必要な図面、要約書
  • 出願手数料(収入印紙)

特許明細書の記載が特許の範囲を確定するので十分な検討を要する。

STEP
出願公開

出願から18ヶ月経過後、出願内容が公開される。公開により特許登録の要件である新規性が失われ、出願後にされた他の発明が特許を取得できなくなる。

STEP
方式審査

出願時の提出書類が、形式要件を満たすかの審査。形式要件に不備があると補正命令が出され、補正しない場合は出願が却下される。

STEP
出願審査請求

出願時から3年以内に、出願審査を請求し、実体審査を受ける。審査官から出願人に拒絶理由通知がなされたときは、出願人は、意見書、手続補正書の提出などによって反論し、発明の効果・作用を説明したり、特許請求の範囲を減縮したりして、特許登録の要件を満たすことを主張する。

STEP
特許登録

以上のプロセスを経て拒絶理由がなくなると、審査官による特許査定、または、審判官による特許審決で、特許をすべき旨が決定される。決定の送達から30日以内に特許料を納付し、特許登録を行う。

特許を受ける権利は、発明者個人に帰属するのが原則。すると、開発したプログラマやエンジニアに権利が帰属しますが、職務発明の制度を利用し、相当の対価によって会社に権利を帰属させる必要があります。会社の費用負担で開発環境を整えているなら、その費用回収のために会社に特許権を帰属させなければなりません。

特許登録する場合でも、できる限り情報管理を徹底し、漏洩のないよう注意を要します。

出願すると発明は公開されるので、全くのコピーが作れなくても、参考にはできます。また、特許権の効力は出願から20年しか続かず、これを過ぎれば保護が失われます。

そのため、新規技術の秘密を守るため、あえて特許登録しない戦略を選択するケースもあります。全くの新規技術だと、参考とされてライバルが出現するだけでも、先行者利益が損なわれる場合もあるからです。

弁護士による警告書を送付する

特許権の侵害を発見したら、弁護士に相談し、警告書を送付します。なお、前章で解説の通り、特許侵害を主張して争った結果、その特許に無効原因があると反論される危険もあるため、改めて自社の特許が登録の要件を確実に満たすか、検討してから行うようにしましょう。

他社のアプリが、自社の特許を侵害するというためには、特許請求の範囲に該当する発明を実施していることを証明しなければなりません。当該アプリを購入し、利用するなどして、侵害行為を特定する必要があります。一見して明白でないときは、調査には、開発担当部署などの協力を要します。

裁判に訴える

警告書を送付しても、特許侵害がストップされないときは、裁判に訴える方法が有効です。特許侵害の責任を追及する訴訟には、次の複数の手続きがあります。

  • 差止請求
    特許侵害をストップさせ、これ以上の損害の拡大を停止できる。既に特許侵害が現実化し、著しい損害が生じる可能性があるなど緊急性の高いケースでは、仮処分の手続きを利用する。
  • 損害賠償請求
    特許侵害による損害は、算出が困難なケースも多く、賠償額の算定規定が設けられる。相手方製品の販売数量や、侵害行為がなければ販売できた自社製品の利益、ライセンス料相当額などにより損害を推定できる(特許法102条1項〜3項)。
  • 不当利得返還請求
    特許権の侵害によって不当な利益を得た相手に対し、その返還を請求できる。
  • 名誉回復等の措置請求
    粗悪品の流通など、特許権者の業務上の信用を害した者に対し、謝罪広告など、信用を回復するための措置を請求できる。

刑事告訴する

特許侵害には、10年以下の懲役又は100万円以下の罰金という刑罰が定められています(特許法196条)。そのため、自社の特許を侵害されたら、被害者として刑事告訴し、処罰を求めることができます。

特許侵害したのが法人なら、実行行為者の処罰だけでなく、法人にも罰金刑が科される、いわゆる両罰規定も定められています(特許法201条)。

アプリの特許侵害について判断した裁判例

次に、アプリの特許侵害について判断した裁判例を解説します。

特許侵害が訴訟に発展すると、アプリの根幹に関わる技術だと事業継続が不可能となるため、ビジネス上のインパクトも大きく、長期化しがちです。また、損害賠償など金銭による解決も、高額化するケースが少なくありません。

LINEのふるふる機能の特許侵害に関する裁判例

本事案は、LINEのふるふる機能(スマホを振って連絡先を交換する機能)が、京都市のIT企業フューチャーアイの特許権を侵害する認定された裁判例(東京地裁令和3年5月19日判決)。

裁判所は、特許権を侵害すると認め、LINEに対し、約1400万円の支払いを命じました。裁判所は、フューチャーアイの特許がGPSデータを用いる点、氏名などを開示せずに端末情報を共有できる点、振動でIDを交換できる点などから、発明が容易でないと判断。LINE側は、既存の技術で容易に発明できるとして特許無効を主張するも、認められませんでした。

クラウド会計ソフトの特許侵害に関する裁判例

本事案は、クラウド会計ソフトを開発するfreee株式会社が、株式会社マネーフォワードを、特許侵害を理由に訴えた事件であり、結果として、裁判所はマネーフォワード側の主張を認め、freeeの請求を棄却(東京地裁平成29年7月27日判決)。

マネーフォワードのMFクラウド会計における勘定項目への自動振分け機能が、freeeが特許取得したアルゴリズムと一致しているかどうかが主な争点となりました。マネーフォワードは、アルゴリズムの開示は企業秘密の漏えいに繋がると主張し、MFクラウド会計ではfreeeのものでは説明のつかない自動仕分結果が出る点を主張しました。

本訴訟の審理にかかった期間は約9ヶ月。本件はfreeeが控訴せず、第1審判決が確定しましたが、控訴されていれば、事業の継続により重大な影響が及ぶ可能性もありました。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、アプリの特許に関する法律知識について、まとめて解説しました。

アプリの特許は、アプリを開発し、特許によって保護すべき立場において重要なのは当然、他社のアプリを侵害しそうな会社のいてもよく配慮しなければなりません。知らずに特許侵害していても、差止、損害賠償の請求によって投下資本を失うおそれがあるため、大きなコストをかける前の企画段階においてよく調査すべきです。

他社の特許侵害を発見したら、黙認せず直ちに警告し、被害拡大を防ぐ必要があります。コピー品が広まれば、特許侵害による不利益はもちろん、自社の信用が低下する危険もあるからです。また、十分調査しても、特許侵害の警告書を受け取ったり、訴訟されたりするなら、速やかな対応を要します。特許法に関する専門的な判断は、ぜひ弁護士に相談ください。

この解説のポイント
  • アプリに発明が含まれるとき、出願・登録することで特許権による保護を受けられる
  • アプリ開発で特許を侵害しないため、企画段階で十分な調査を要する
  • 他社から特許を侵害されたら、警告書を送付し、差止、損害賠償を訴訟で請求する

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