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アプリの著作権の法律知識まとめ│著作権侵害しない・されない対策も解説

アプリには著作権が認められます。ビジネスとしてアプリを企画し、開発すると、制作費や広告費がかかります。酷似したアプリを販売されては売上が減少し、投下資本が回収できませんから、著作権でアプリを保護する必要があります。

ゲームのアプリは、動画、画像、音楽やプログラムなどを構成要素とするため、創作性のある限り、著作権が認められるのは当然です。このとき、自社のアプリの著作権を保護し、侵害されないようにするのはもちろん、開発段階で、他社のアプリの著作権を侵害しないようにするのも同じくらい重要なポイントです。

今回は、アプリの著作権に関する企業の対応について、侵害する側・される側のいずれの立場からも、企業法務に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • アプリを構成する音楽、画像やプログラムは、それぞれ著作権で保護される著作物
  • アプリを開発、制作するとき、職務著作の権利処理をし、権利を確実に取得する
  • アプリの著作権を侵害されたら、警告書を発し、差止請求、損害賠償請求を行う

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アプリの著作権とは

まず、アプリに著作権があるとして、どのような権利が認められているかを解説します。

アプリの著作権の範囲を正確に理解することで、権利侵害から守るのはもちろん、他社の権利を侵害しないよう慎重に行動することができます。著作権法10条は、著作権の認められる著作物を例示しています。

著作権法10条1項

この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。

一 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物

二 音楽の著作物

三 舞踊又は無言劇の著作物

四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物

五 建築の著作物

六 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物

七 映画の著作物

八 写真の著作物

九 プログラムの著作物

著作権法(e-Gov法令検索)

アプリの多くは、著作権で保護されたコンテンツで構成されています。このうち、アプリの著作権の侵害において、主に考慮すべき権利は次のものです。

いずれも、著作権が認められるのは、創作性のある表現に限られ、ごく短い文章やありふれた表現、アイディアそのものが保護されるわけではない点に注意を要します。

アプリ開発では特許権も大切。次の解説も参考にしてください。

言語の著作物

アプリ内には、「言語の著作物」(著作権法10条1項1号)が多く含まれ、著作権で保護されます。

例えば、アプリ内の文章、ゲームアプリにおけるストーリーを語る文章、アプリ内の登場人物のセリフなどのうち、創作性の認められるものは、言語の著作物として著作権の対象となります。

音楽の著作物

アプリ内で流す音楽やBGM、効果音などは「音楽の著作物」(著作権法10条1項2号)に該当し、著作権で保護されます。

画像の著作物

アプリ内のグラフィックや画像、アイコン、景色、登場人物の造形、画面デザイン、特殊なレイアウトなどが「美術の著作物」(著作権法10条1項4号)として著作権で保護される可能性があります。また、アプリ内に表示された写真は、「写真の著作物」(著作権法10条1項8号)に該当します。

映画の著作物

アプリ内で動画や映像、CGなどの演出、アニメーションや視覚効果があるとき、それらに創作性のある限り「映画の著作物」(著作権法10条1項7号)に該当し、著作権で保護されます。ゲーム内の映像が映画の著作物に該当すると認めた裁判例(中古ゲームソフト大阪事件:最高裁平成14年4月25日判決)もあります。

映画の著作物は、保護期間が「公表後70年」と定められるなど、著作権法においても特殊な扱いとなっており、他の著作物とは異なるルールが定められています。

プログラムの著作物

開発されたアプリそのものが、「プログラムの著作物」(著作権法10条1項9号)として保護されます。

アプリの著作権を確実に取得し、保護する方法

次に、アプリの著作権の取得と、法的な保護について解説します。

アプリの著作権を侵害されないよう、身を守るために、まずは権利を確実に取得しなければなりません。著作権は、特許権や商標権とは異なり、登録することなく成立する権利。しかし、ビジネスとして扱うなら、確実な取得のために注意すべきポイントがあります。

ⓒ(マルシーマーク)を表示する

アプリに著作権があることを示すため、ⓒ(マルシーマーク)を付すようにします。このマークには、著作物及び著作権者を明示し、侵害から保護する目的があります。

このマークは、必ず付さないといけないわけではなく、著作権成立の要件でもありません。しかし、マークによる明示で、他社による不正使用、著作権侵害を抑制するといった事実上の効果が期待できます。また、他社から、自身が著作権者だという虚偽の主張をされないよう対策できる重要なものです。

職務著作の権利処理を行う

会社でアプリを開発するなら、職務著作の権利処理をしなければなりません。

アプリの著作権は、製作者に帰属するのが原則で、開発を担当したプログラマ、エンジニアなどの社員の権利となる危険があるからです。

すると、会社がアプリを利用するにも製作者の許諾を要する上、著作者人格権は譲渡できません。アプリの製作者とのトラブルが販売の支障となり、開発にかけたコストを回収できず事業の支障となることが予想されます。

この弊害を回避するため、著作権法は「職務著作」の条件を満たすとき、会社に著作権が帰属することを定めます(法律用語で「原始的帰属」といいます)。職務著作なら、会社に初めから権利が帰属するので、アプリ制作者から個別に譲渡や許諾を求めなくても開発したアプリを会社として利用できます。

職務著作となる条件は、次の通りです。

  • 法人等の発意に基づくこと
    著作物を創作する意思決定を、直接又は間接に法人の判断で行うこと。実際には社員の発案、提案でも、会社の商品として企画、開発している場合は、法人の発意と認められる。
  • 法人等の業務に従事する者が職務上作成するものであること
    社員が、会社の職務として開発を行う必要がある。労働契約を締結し、就労時間内に業務命令で行ったものが職務著作となる一方、時間外に自身の意思で制作したものは職務著作ではない。なお、正社員はもちろん、契約社員やアルバイト、派遣などの非正規社員を含み、雇用形態は問わない。
  • 法人等の名義の下に公表すること
    ただし、プログラムの著作物は対外的な公表を予定しないことが多いため、例外的にこの要件は不要。
  • 作成時の契約や勤務規則等に別段の定めがないこと

なお、個人事業主で、アプリ制作者が自分であれば、アプリの著作権が自身に帰属するのは当然です。

著作権の譲渡を受ける

販売したいアプリの著作権が自社にないときは、権利を取得しなければなりません。具体的には著作権者から譲渡を受けることで権利を取得し、ビジネスを保護する必要があります。

例えば、アプリの制作者が社員ではなく、業務委託の個人事業主のときなどは、職務著作の権利処理ができず、個別に譲渡契約を結ぶ必要があります。この際、メールや口頭の合意でも、著作権の譲渡は成立しますが、証拠化するために著作権譲渡契約書を締結すべきです。

なお、翻案権(著作権法27条)、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(著作権法28条)は、譲渡の対象とすることを明示しない限り、譲渡者に留保されます。そのため次の文例のように、これらの権利が譲渡の対象となることを著作権譲渡契約書に明記する必要があります。

甲は乙に対し、XXアプリの一切の著作権(著作権法27条および28条に定める権利を含む。)を譲渡する。

著作権を譲り受けるのではなく、利用許諾(ライセンス)を受けるケースもあります。

アプリの著作権の保護期間

著作権には保護期間があります。期間が満了すると著作権は消滅し、保護されません。自社のアプリの著作権が消滅すれば、もはや権利の保護を受けられず、逆に、他社のアプリの著作権が消滅していれば、侵害とはなりません。

日本の著作権法は、著作権の保護期間を次のように定めます。

  • 原則の保護期間
    著作者の生存期間と、著作者の死後50年
  • 無名・変名の著作物(周知の変名を除く)
    著作物の公表後50年
    (著作者の死後50年が経過しているときは、その時点まで)
  • 団体名義の著作物
    著作物の公表後50年
    (創作後50年以内に公表されなかった場合は、創作後50年)
  • 映画の著作物
    著作物の公表後70年
    (創作後70年以内に公表されなかった場合は、創作後70年)

ただし、アプリ業界のようにサイクルの早い世界では、権利の保護期間を待たずして、著作権の価値が薄れるケースも多いでしょうから、著作権の保護期間についての反論が重要な場面は限定的です。また、グローバル展開をしたり、海外アプリの日本版を開発したりするケースでは、海外の著作権の保護期間にも配慮を要します。

アプリの著作権を侵害されたときの対応

次に、他社から、自社のアプリの著作権を侵害されたときの対応を解説します。

アプリの著作権侵害を放置しておくと、競合他社に売上を奪われることを意味します。また、アプリのコピーや模倣品、パクリアプリや海賊版が広まると、悪評が立ち、アプリそのものの評価が下がってしまう危険もあり、早急な対処を要します。

著作権侵害を調査し、証拠を集める

自社のアプリの著作権を侵害された疑いがあるとき、まずは調査し、証拠収集をします。

コピーやパクリアプリを発見したら、製造元、販売元を特定する必要があります。ネット上に匿名で出回っているときは、侵害者を特定するのに、プロバイダに対する発信者情報開示請求の手法を活用します。

著作権侵害を立証するため、自社と他社のアプリを比較し、侵害を疑われる箇所を特定します。著作権の侵害と言えるには、類似する部分に創作性が認められる必要があります。また、「依拠」して作られた必要があります。わかりやすくいえば、参照して開発されたことが必要で、そのために次の事情を検討してください。

  • 自社のアプリが他社より先に開発された
  • 自社のアプリの知名度のほうが高い
  • 著作権侵害を疑う他社に、アプリの情報を伝えたことがある
  • 著作権侵害の疑われるアプリの機密情報が漏洩していた

これらの事情は、最終的には裁判で争うため、証拠により証明しなければならず、客観的な資料を収集してください。

弁護士による警告書を送付する

調査、検討の末、著作権侵害と結論付けたら、まず弁護士による警告書を送付します。

すぐ裁判に訴える手もありますが、交渉し、話し合いで解決するほうが手間と費用の節約になります。著作権侵害が一見して明らかな場合など、弁護士による強いプレッシャーをかけて警告すれば、侵害が止むケースもあります。そのため、警告書は、証拠に残るよう、内容証明の方法で、弁護士名義で送付するのが効果的です。

裁判に訴える

警告書を無視されたり、反論されたりして、著作権侵害が継続する場合、裁判に訴える方法に進みます。著作権侵害の責任を追及するための訴訟は、次の通り複数あります。

  • 差止請求
    著作権侵害を差止めることで、権利侵害を停止することができる。既に著作権侵害が現実化し、著しい損害が生じる可能性があるなど緊急性の高いケースでは、仮処分の手続きを利用する。
  • 損害賠償請求
    故意または過失による著作権侵害で、売上減少などの損害を受けたときは、その賠償を請求できる。著作権侵害の損害は証明困難なこともあるため、侵害者の販売額、侵害者の利益、ライセンス料相当額などの損害があったと推定する規定あり(著作権法114条1項〜3項)。
  • 不当利得返還請求
    著作権侵害により侵害者が不当な利得を得ているとき、返還の請求ができる。
  • 名誉回復等の措置請求
    著作権人格権を侵害されたとき、謝罪広告の掲載など、名誉を回復するための措置を請求できる。

状況に応じて、1つないし複数の方法を使い分け、救済と被害回復、合わせて今後の再発防止を図るようにします。

刑事告訴する

著作権侵害には、刑事罰も科されます。具体的には、10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金に処されます(著作権法119条)。アプリの著作権をビジネスとして侵害するケースなど、侵害者が法人のときは、原則として3億円以下の罰金刑が併科される両罰規定の定めもあります。

いずれも、刑事罰を求めるなら捜査機関に刑事告訴し、厳罰を求めるよう伝えます。

他社のアプリの著作権を侵害しないための対策

次に、逆に他社のアプリの著作権を侵害しないために講じるべき対策を解説します。

他社アプリの著作権を否定する

著作権法はあくまで表現を保護する法律で、思想や感情、アイディア、事実の記載などは保護されません。また、ありふれた表現は著作権による保護の範囲外で、創作性が認められなければ著作物とはいえません。

参考とした他社アプリに類似していても、共通部分がごく一般的だったり、どのアプリにも採用されたありふれた機能だったりする場合、アプリの著作権の侵害とはなりません。なお、完全なコピーは複製権侵害となりますが、創作性のある一部を同一にし、これに修正、変更を加えるのも、翻案権侵害であり違法です。

「依拠していない」と反論する

著作権侵害といえるためには、依拠した行為でなければならず、つまり、コピー元の著作物に触れ、これを取り入れて複製行為をしている必要があります。

非常に似たアプリを制作したとして、コピー元のアプリを知らずにしたなら著作権侵害ではありません。アプリの著作権を侵害された側で、依拠しているかを立証するには、その類似の程度や情報漏洩の可能性を指摘するなど、非常に困難な立証を求められるケースもあります。

特許権では、別個に発明しても、同一のものならば特許権侵害となる点が異なります。

権利制限規定に該当する

著作権侵害に該当するような著作物の利用も、例外的に許されるケースがあります。それが、著作権法に定められた権利制限規定に該当する場合です。著作権法に定められた権利制限規定のうち、アプリの著作権で主に問題となるのは次の例です。

  • 私的使用のための複製(著作権法30条)
  • 引用(著作権法32条)
  • 非営利かつ無料の上演、演奏等(著作権法38条)

引用として利用が許されるには、次の条件を満たさなければなりません。

  • 既に公表された著作物であること
  • 公正な慣行に合致すること
  • 引用の目的上、正当な範囲内であること
  • 出所が明示されていること

正当な範囲内の引用とされるには、引用部分とそれ以外に主従関係があり、引用される分量が必要最小限であることが求められます。アプリの著作権では、ゲーム画面内に、他社アプリの映像を登場させる例などがあります。

アプリの著作権侵害について判断した裁判例

次に、アプリの著作権侵害について判断した裁判例を解説します。

アプリの類似性は、裁判でもよく争点となり、ニュース報道される大きな事件もあります。著作権侵害の有無は、微妙な問題で、審級により結論が異なることもしばしばです。ビジネスの予測可能性を高め、リスクを軽減するには、企画段階から専門の弁護士によるアドバイスを受けて進めるべきです。

釣りゲーム事件

DeNAのモバゲータウンで配信されたアプリ「釣りゲータウン2」が、GREEの「釣り★スタ」の著作権を侵害するとして訴えた事案。同心円状の中に魚群が現れるという、魚の引き寄せ画面の類似性が争点となりました。

第一審はGREEの主張を認め、著作権侵害と判断しましたが、控訴審で判断が覆り、抽象的には共通しているが、共通部分は「表現それ自体ではない部分」又は「表現上の創作性がない部分」に過ぎず、具体的表現も異なるとし、著作権侵害を否定しました。裁判所の判示の例は、次の通りです。

「水中のみを描くことや、水中の画像に魚群、釣り糸及び岩陰を描くこと、水中の画像の配色が全体的に青色であることは、ありふれた表現といわざるをえない。」

「水中を真横から水平方向に描き、魚群が動き回る際にも拝啓の画像は静止していることは、アイディアと言うべきものである。」

「三重の同心円を採用することは、弓道、射撃及びダーツ等における同心円を釣りゲームに応用したものというべきものであって、釣りゲームに同心円を採用すること自体は、アイディアの範疇に属するものである。」

東京高裁平成24年8月8日判決

つまり、自社と他社のアプリの共通部分に創作性がなく、著作物とは認められないという意味です。単に見た目が似ているというだけでは著作権侵害にならないため、裁判で勝つには細かな主張に注意を要します。

プロ野球ドリームナイン事件

gloopsが配信する「大熱狂!!プロ野球カード」が、コナミデジタルエンタテインメントの「プロ野球ドリームナイン」の著作権を侵害するとして訴訟提起された事案。一部のカードデザインが著作権侵害かどうかが争点となりました。

知財高裁の判決は、一部のカードに「創作的表現のある部分に同一性がある」とし、著作権侵害を認めましたが、ただし、他のカードについて「表現上の本質的特徴を異にする」として著作権侵害を否定したものもあり、個別のカードごとのケースバイケースの判断をしています。球団から少数しか提供されなかった写真を使用した2枚のカード、背景の炎など、一見ありふれた表現に思える部分にも著作権侵害を認めており、侵害の判断が非常に複雑なのを示す裁判例です。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、アプリの著作権について、まとめて解説しました。

アプリの著作権を保護したい側では、まず、自社がアプリの著作権を適切に保有できているかを確認する必要があります。その上で、著作権侵害を発見したら差止請求、損害賠償請求といった方法を駆使してリスクを抑えます。また、自社のビジネスの支障とならぬよう、他社のアプリの著作権を侵害していないか、開発を開始する前の企画段階でよく検討すべきです。

著作権侵害は、専門的な法律知識を要する分野のため、豊富な経験を有する弁護士に相談ください。

この解説のポイント
  • アプリを構成する音楽、画像やプログラムは、それぞれ著作権で保護される著作物
  • アプリを開発、制作するとき、職務著作の権利処理をし、権利を確実に取得する
  • アプリの著作権を侵害されたら、警告書を発し、差止請求、損害賠償請求を行う

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