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立ち退き交渉は非弁行為?弁護士法違反を避けるための管理会社の注意点

不動産を巡る交渉の際は、弁護士法違反、つまり、非弁行為に注意しなければなりません。特に、不動産業者のなかでも管理会社は、居住者やテナントと話し合いする場面が多く、交渉が紛争化すると非弁行為が発生しやすくなります。

賃料の減額、明渡請求や立ち退き交渉など、不動産を巡って多くの法的トラブルが起こります。当事者間の話し合いで円満解決できればよいですが、全ての交渉を不動産会社に委ねるのは非弁行為のおそれも。裁判例にも、不動産会社による立ち退き交渉を、弁護士法違反と判断した判例があります(スルガコーポレーション事件:最高裁平成22年7月20日判決)。

弁護士でない者が法律事務を扱い、弁護士法違反となると「2年以下の懲役又は300万円以下の罰金」の刑罰が科されます。また、荒っぽい手段、強引な手法で立ち退き交渉を進める不動産会社は悪評が立ちやすく、反社会的勢力というイメージが付くなど、企業の社会的評価が低下してしまいます。

今回は、立ち退き交渉など、弁護士法違反の非弁行為を避けるために管理会社が注意すべきポイントを、企業法務に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 不動産を巡る交渉は、トラブルが激化しやすく、非弁行為が発生しやすい
  • 弁護士以外が「法律事務」「法律事件」を扱うのは非弁行為として禁止される違法行為
  • 立ち退き交渉は、非弁行為であると判断した裁判例があり、特に慎重な配慮を要する

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目次(クリックで移動)

非弁行為とは

弁護士法72条は、弁護士でない者が、報酬を得る目的で、訴訟事件その他の法律事務を行うことを禁じています。

非弁行為とは、この弁護士法72条に違反する行為のことです。

弁護士法72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)

弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

弁護士法(e-Gov法令検索)

非弁行為がなぜ禁止されるのか、その理由は、法律事務については、資格を取得した弁護士のみが行うことによって、法秩序を維持し、国民全体の公益を守ることができるからです。

「弁護士」に「非」ざる者がする法律行為という意味であり、非弁行為は違法です。冒頭で解説の通り、非弁行為に該当すると「2年以下の懲役又は300万円以下の罰金」という刑罰が科せられます(弁護士法77条)。

不適切な方法で立ち退き交渉すれば、悪質な不動産会社だと見られ、企業の社会的評価を低下させます。

それだけでなく、非弁行為によって締結した合意内容は、違法行為によって得られた結果であり、無効と判断されるおそれがあります。この場合、自社だけでなく、管理物件の所有者(オーナー)にも大きな不利益を与え、信頼関係を損なったり、損害賠償請求されてしまったりする危険があります。

不動産を巡る交渉が非弁行為となる例

不動産を巡る交渉には、トラブルとなる事例が多く存在します。そのため、不動産業を経営していると、そのまま自社で対応しては非弁行為となってしまう場面がよく起こります。

例えば、次のケースです。

  • 賃料交渉
    (賃料の減額交渉、支払いの猶予、増額交渉)
  • 明渡しの請求
  • 退去交渉
  • 立ち退き交渉

管理業務は、特にトラブルが多いもの。賃貸借を巡って揉め事が生じる場合、まずは管理会社が第一次的な対応をする役目にあります。このとき、最初から弁護士を依頼しないといけないわけではありません。最初の話し合いすら一切行ってはいけないとすれば、話せばすぐに円満に解決する事例すら弁護士に任せることとなり、不動産管理業がスムーズに進みません。

しかし、一定のラインを越えて法律のトラブルについて交渉を行うと、弁護士法に違反し、非弁行為となってしまいます。非弁行為と円満な話し合いとを区別して対応しなければなりません。話し合いがスムーズに進まなくなったら、弁護士違反の可能性を考えて行動する必要があります。

家賃滞納による立ち退き交渉についての解説も参考にしてください。

立ち退き交渉は非弁行為になるか

立ち退き交渉は、弁護士法72条の「法律事件」又は「法律事務」に該当し、非弁行為となります。

不動産を巡る交渉でも特に非弁行為となりやすい立ち退き交渉について、非弁行為の条件に基づき、順に解説します。

「法律事件」「法律事務」とは

「法律事件」について法律上の定義はないものの、「広く法律上の権利義務に関し争いがあり、疑義があり、または新たな権利義務関係を発生させる案件である」と解釈されます(東京高裁昭和39年9月29日判決、札幌高裁昭和46年11月30日判決、広島高裁平成4年3月6日判決)。

訴訟をはじめ法的手続きに発展したケースだけでなく、紛争の可能性があれば「法律事件」に該当します。立ち退き交渉は、賃貸人による明渡しの求めを賃借人が拒んでいる点で、権利義務に関する争いがあるのは明らか。「法律事件」といってよいでしょう。裁判例は、紛争の成熟度合いを争点としますが、立ち退き交渉まで至ればもはや、十分に成熟した紛争です。また、交渉に付随して、合意内容を書面にする行為、証拠を集める行為なども「法律事務」に該当する可能性があります。

「報酬を得る目的」とは

非弁行為といえるには、立ち退き交渉について管理会社が報酬を得る目的でしたことが要件となります。

あらかじめ報酬を約束した場合はもちろん、現金だけでなく物品を提供する場合や、謝礼を期待していた場合もこの条件を満たします。裁判例は「処理の途中あるいは解決後に依頼者が謝礼を持参することが通例であることを知り、これを予期していた場合でも、報酬を得る目的があるというを妨げない」と判断しています(東京高裁昭和50年1月21日判決)。

なお、結果として管理会社が報酬を得なくても、目的があればこの条件を満たします。管理会社とオーナーの関係だと、立ち退き交渉に対応するにあたり、報酬を得る目的はあったといえる場合が多いでしょう。

「業として」とは

非弁行為として禁止されるのは「業として」する行為に限られます。「業として」とは、「反復的に又は反復継続の意思をもって法律事務の取扱等をし、それが業務性を帯びるに至った場合」だと解釈されます(最高裁昭和50年4月4日判決)。

管理会社は、不動産の管理を業務としています。立ち退き交渉を何度か行えば、「業として」行ったとされる可能性は高く、たとえ一度きりでも、反復継続の意思は認められる可能性が高いです。

不動産会社の立ち退き交渉を非弁行為と判断した裁判例

不動産会社による立ち退き交渉を非弁行為であると判断したのが、スルガコーポレーション事件(最高裁平成22年7月20日判決)です。この事案では弁護士法違反の有無が争われ、最高裁が、不動産会社の行為について非弁行為に当たるかどうかの一定の線引きを行ったものといえます。

本事案は、弁護士資格のない不動産会社が、ビルの所有者から委託を受け、ビルの賃借人と交渉し、賃貸借契約を合意解約して明渡しさせるといった合意を取り付けたケース。最高裁は、次の通り判示し、立ち退き交渉を行うにあたり、その時期や金額など、交渉で解決すべき紛議が生じるのはほぼ不可避としました。そのため、立ち退き交渉は、「法律事件」に該当し、弁護士法72条の非弁行為だと判断しました。

立ち退き合意の成否、立ち退きの時期、立ち退き料の額をめぐって交渉において解決しなければならない法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件に係るものであったことは明らかであり、弁護士法72条にいう「その他一般の法律事件」に関するものであったというべきである。そして、被告人らは、報酬を得る目的で、業として、上記のような事件に関し、賃借人らとの間に生ずる法的紛議を解決するための法律事務の委託を受けて、前記のように賃借人らに不安や不快感を与えるような振る舞いもしながら、これを取り扱ったのであり、被告人らの行為につき弁護士法72条違反の罪の成立を認めた原判断は相当である。

スルガコーポレーション事件(最高裁平成22年7月20日判決)

立ち退き交渉が非弁行為とならないための注意点

最後に、立ち退き交渉、賃料交渉、その他の話し合いをするにあたり、非弁行為とならないよう管理会社の注意すべきポイントを解説します。

管理業を円滑に進めようとするほど、非弁行為の可能性は高まります。賃料の回収や契約解除の立ち会いといった場面では、オーナーのためを思って強い態度に出たことが、かえって違法性を有する原因となる例もあり、注意を要します。

賃貸住宅管理業の登録をする

2021年6月15日より施行される賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律によって、賃貸住宅管理業登録制度が開始されました。これによって、賃貸住宅管理戸数(自己所有物件の管理を除く)200戸以上の賃貸住宅管理業者には、登録が義務付けられました。なお、従来の賃貸住宅管理業者登録制度は、これにより廃止されました。

法律に基づく適正な運営は、違法行為を行わない適切な企業であると示し、社会的評価の維持に繋がります。

賃貸住宅管理業法に係る登録申請方法等について(国土交通省)

適法な業務範囲を知る

前章の通り、全ての交渉や通知が、非弁行為となるわけではありません。あくまでも、紛争が顕在化し、弁護士法72条にいう「法律事件」「法律事務」に該当するときに禁止されるのみです。むしろ、不動産会社の行為の多くは、非弁行為とはならず、適法に進められます。

例えば次の行為は、不動産会社が単独でも、非弁行為ではありません。

  • オーナーに代わって賃料を取り立て、受領する
  • 賃料支払を失念した賃借人に、確認を促す
  • 賃料支払を怠った賃借人に、支払いを促す
  • 原状回復について話し合いを行う
  • 退去日、造作の買い取りについて話し合いを行う

ただし、前章の最高裁判例からして「法的紛議が生じることがほぼ不可避」な段階からは弁護士に任せる必要があり、不動産会社が単独で行うと非弁行為として刑罰の対象となります。督促ができるとしても、強引な取り立てまではできません。

権利関係や、請求すべき金額に争いがあるケースのように、賃借人の反論が予測される場合、違法のおそれが強いもの。契約の終了時は、賃貸借関係の清算を要するので、法律問題が発生しやすいタイミングであり、特に注意を要します。原状回復費用や範囲、返還すべき敷金額に争いがあるなら、賃借人との協議は弁護士に依頼すべきです。賃借人にとっても今後利用できないとなれば死活問題であり、立ち退き交渉は、争いの最も激化する場面です。

家賃滞納への正しい対応は、次に解説しています。

弁護士に依頼する

円満な話し合いで、双方納得して解決できればよいですが、争いが生じるなら、弁護士に依頼すべきです。弁護士なら「法律事件」「法律事務」のいずれも扱うことができ、非弁行為にはなりません。特に立ち退き交渉は、事件性が非常に高く、原則として弁護士に依頼すべきケースです。

管理会社の立場で、オーナーから強く依頼されても、立ち退き交渉を自社で対応するのは避けるべきです。弁護士への依頼は、費用が嵩みますが、節約しようと強引な手法を使えば、かえって不利益もあります。善意で対応したのに信頼関係が崩れる事態は避けたいところ。管理会社として、顧客であるオーナーへのサービスを提供したいなら、良い弁護士を紹介することで価値を示すのがお勧めです。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、立ち退き交渉など、不動産を巡る交渉が、非弁行為となるケースについて解説しました。

管理会社では特に、業務遂行にあたり一定の交渉が発生します。非弁行為と判断されないよう慎重に対応しなければ、大きなリスクとなります。非弁行為の代償は大きく、刑罰が科される上に、企業の信用を傷つけるからです。

トラブルが悪化する予兆を感じたら、自社で対応せず弁護士に委ねるのが適切。話し合いを超え、説得による解決を目指していると感じたら危険信号です。不動産会社は法律問題を抱えやすく、日常的に弁護士に相談できるよう、顧問弁護士の依頼を検討ください。

この解説のポイント
  • 不動産を巡る交渉は、トラブルが激化しやすく、非弁行為が発生しやすい
  • 弁護士以外が「法律事務」「法律事件」を扱うのは非弁行為として禁止される違法行為
  • 立ち退き交渉は、非弁行為であると判断した裁判例があり、特に慎重な配慮を要する

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