経営が行き詰まり、会社が倒産したときこそ、経営者にとって最大の危機でしょう。
特に、経営者が会社の債務について連帯保証をしている場合、自らも責任を負うことになり、多くのケースでは自己破産を余儀なくされます。経営に失敗し、自己破産を選択した経営者は、その後どのような道を歩むのでしょう。
自己破産した経営者の中には、経営の第一線から退き、慎ましく生活する人もいます。しかし、挫折を糧に立ち上がり、復活して再起する人も少なくありません。複数回の起業の末に大きな成功を収める経営者もいます。成功の陰には、数多くの失敗があるのです。一度は会社を倒産させても、再出発することは可能です。自己破産からの復活を支援する制度も整備されていますが、破産手続き中は会社の代表者になれないなど、一定の制限がある点は注意が必要です。
今回は、企業経営に失敗し、自己破産を経験した経営者が、復活して再起する方法について、企業法務に強い弁護士が解説します。
- 自己破産は取締役の欠格事由ではなく、経営者の再起の支障にはならない
- 現実問題として、借入不可、資格・職業の制限といったハードルはある
- 自己破産からの復活では、別代表、公的融資などを活用する
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自己破産したら経営者になれない?
初めに、自己破産しても経営者として再起が可能な理由を、法的観点から解説します。
会社の倒産と共に、自らも自己破産した経営者の中には、「自己破産すると、再び経営者にはなれないのではないか」と不安を抱く方もいます。しかし、これは誤解です。自己破産から再起する道は残されているので、あきらめる必要はありません。
法人と個人は法律上「別人格」
法律上、法人(会社)と個人(経営者)は、それぞれ独立した「別人格」として扱われます。
たとえ経営者でも、法人の負債について個人が法的責任を負うことはありません。会社の業績が悪化し、債務の返済が困難になって倒産しても、経営者個人の責任は問われないのが原則です。道義的な問題は別として、法的には後ろめたく感じる必要はないのです。
ただし、経営者が会社の連帯保証人になっていたり、個人資産に担保を設定していたりする場合は、例外的に、法人債務について個人としても責任を負います。
「会社が倒産したときの社長の責任」の解説

自己破産は取締役の欠格事由ではない
2005年まで適用されていた旧商法は、自己破産を取締役の欠格事由と定めていました。つまり、「自己破産した経営者は社長に就任できない」という制限がありました。
しかし、2006年に施行された会社法では、自己破産は欠格事由から除外されました。したがって現在は、自己破産を経験していても、取締役や代表取締役として会社の経営に再び携わることが可能です。自己破産から復活して起業し、会社の経営層となれるのです。
自己破産により委任契約は終了するが再任可能
経営者と会社の関係は、法律上「委任契約」の性質があります。つまり、会社は、経営に関する業務を取締役に委任しているということです。委任契約のルールを定める民法では、受任者(取締役)が自己破産した場合には委任者(会社)との委任契約は終了するとされています(民法653条)。
そのため、取締役が自己破産すると、一旦は会社との契約関係が終了し、法人代表者や取締役の地位を失います。
民法653条(委任の終了事由)
委任は、次に掲げる事由によって終了する。
民法(e-Gov法令検索)
一 委任者又は受任者の死亡
二 委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。
三 受任者が後見開始の審判を受けたこと。
しかし、前述の通り、自己破産は現行法において欠格事由から除外されています。そのため、破産手続開始の決定後も、改めて取締役として再任されることができます。その際は、他の取締役と同じく、所定の選任手続きを経る必要があります。
過去の自己破産が、経営者になるのを妨げる理由
次に、自己破産後に起業を目指す人が直面しやすいハードルについて解説します。
自己破産しても、再び経営者や取締役に就任することに問題はありません。しかし、現実的には、過去に自己破産の経験があることが、再び起業する妨げとなるケースも存在します。
融資を受けられず資金調達に制限がある
自己破産すると、いわゆる「ブラックリスト」に登録され、5年〜7年の間、金融機関からの融資を受けられなくなります。これにより、事業に必要な取引にも支障が生じます。
- 事業用ローンの利用
- オフィス機器や車両などのリース契約
- 事業用クレジットカードの作成
- 賃貸物件の契約(保証会社との契約が難しくなる場合)
このように、信用力の低下によって、事業に必要な資金や設備の確保が困難となる結果、再出発に向けた起業活動を制限されることがあります。次章のように、自己資金や公的融資のみで運転資金を確保できない場合、事実上、再出発のハードルとなってしまいます。
自己破産によって制限を受ける資格や職業がある
自己破産をしても経営者にはなれますが、破産手続中は制限を受ける資格や職業があります。信用が重視される業種では、自己破産によって一時的にその信用が損なわれると考えられるからです(顧客の金銭を扱う業務、行政の許認可を要する業務など)。
特に制限されるのは、次のような資格や職業です。
- 金融・保険・不動産関連
- 生命保険募集人、損害保険代理店
- 証券外務員
- 貸金業者、質屋
- 宅地建物取引士(旧:宅地建物取引主任者)、宅建業者
- 士業などの専門職
- 弁護士
- 税理士
- 公認会計士
- 司法書士
- 行政書士
- その他の業種
- 警備業、警備員
- 旅行業務取扱管理者
- 証券金融会社・保険会社・特定目的会社の取締役
※ これに対し、医師や看護師、公務員など、一定の職業については自己破産しても資格制限の対象外となっており、制限を受けない場合もあります。
これらの資格の方は、破産手続開始決定が出た時点で業務を停止せざるを得ません。ただし、免責許可決定が確定し、復権が認められれば制限は解かれ、再び職に就くことができます。したがって、制限は一時的なもので、3ヶ月〜6ヶ月程度での解除が目安となります。
自己破産から復活する方法
次に、自己破産を経験した経営者が再び起業し、復活を果たすために知っておくべき方法について、具体的に解説します。
家族や共同経営者を代表者にする
自己破産直後の大きなハードルは「資金調達の困難さ」です。
信用情報が傷ついた後は、経営者本人が会社の代表になると、融資や信用取引が難航するおそれがあります。この問題を回避する方法が、家族や共同経営者を一時的に代表者に据えることです。
例えば、配偶者や兄弟姉妹といった近しい家族を代表者にすれば、支配権を手放さずに済み、その人物の信用情報に問題がなければ融資や契約を円滑に進められます。そして、期間が経過したら代表者を自身に変更し、経営者として前線に復帰できます。
代表者を別の人にしても、株式を保有しておくことで実質的な支配権を保つことはでき、経営判断に関与することも可能です。
ただし、第三者に名義を預ける行為にはリスクも伴います。
たとえ家族や親しい間柄でも、裏切る可能性は捨てきれません。将来的に意見が対立することもあるでしょうし、夫婦でも離婚するおそれがあります。そして、意見が対立すると、事業の継続に支障をきたす可能性も否めません。
このようなリスクに備えるためには、株主間契約や委任契約などの書面を交わし、権限の範囲を明確にしておくことが重要です。信頼関係だけに頼らず、トラブルを未然に防ぐ準備をしておきましょう。
ビジネスモデルを工夫する
再起を目指して会社を立ち上げる場合、自己破産による制約を踏まえ、抵触しないようなビジネスモデルを選ぶことも重要です。資産を失い、当面は融資も難しいので、初期費用の大きなビジネスや多額の運転資金を必要とする事業は避けるべきです。
例えば、次の事業は、自己破産直後に経営するのは避けた方が良いでしょう。
- 広い店舗や事務所を必要とする事業
- 高額の設備投資や内装工事が必要な業種
- 初期投資がないと成功確率が下がるビジネスモデル
- 大量の仕入れや在庫を前提とした事業
- 初期段階から人件費がかかる労働集約型の事業
- 入金サイクルが遅く、キャッシュフローが悪化しやすい業種
一方、初期投資が少なく、在庫や設備が不要なビジネスなら、自己破産後でも比較的早期に立ち上げ可能です。自己破産直後でも復活しやすい事業は、例えば次の通りです。
- 経営経験や専門知識を活かしたコンサルティング業や顧問業
- オンライン上で完結するデジタルサービスやスモールビジネス
- キャッシュフローが良好な請負型のBtoBサービス
自己破産したとはいえ、経営経験や人脈を活かせば、資金負担の少ない事業から再スタートを切り、復活への一歩を踏み出すことができます。
事業計画を磨き上げる
信用力が低下している自己破産直後でも、優れた事業計画があれば資金調達の可能性は広がります。事業計画書を磨き上げ、継続的な収益性を示すことで、融資を検討する金融機関や投資家に対して将来性をアピールできます。
事業計画書を作成する際は、次のポイントに注意して進めてください。
- 誰が見ても理解できる内容にすること
業界内の慣習や専門用語は極力控え、第三者にも伝わる表現で構成しましょう。 - 根拠のある数値データを示すこと
売上予測、利益計画、資金繰りなどの数値には具体的な裏付けが必要です。 - 過去の経営経験や強みを明示すること
代表者としての経験、実績、熱意を言語化し、信頼感を高めましょう。 - 財務計画を重視すること
自己破産のマイナスイメージを払拭するためには、特に資金繰りや利益構造の透明性を高めることが重要です。
事業計画の質を高めることで、金融機関や支援機関、公的融資などの審査にも良い影響を与え、自己破産後の再起の可能性が大きく広がります。
自己破産した経営者が資金調達する方法
最後に、自己破産後でも活用可能な資金調達の方法について解説します。
自己破産からの復活が可能とはいえ、信用情報に登録される「ブラックリスト」の影響で、5年〜7年程度は金融機関からの融資が受けられません。その結果、会社の設立や事業運営に要する資金の調達には工夫が求められます。
自由財産を活用し、自己資金で起業する
自己破産をしても、全財産を失うわけではありません。
法律上「自由財産」として認められる一定の資産は、手元に残すことができます。これらは、生活の維持や再出発に必要不可欠な財産であり、起業の原資として活用することも可能です。
自己破産しても返済に充当されない自由財産は、次の通りです。
- 新得財産
破産開始決定後に新たに取得した財産 - 差押え禁止財産
生活必需品や食料品など、民事執行法により差押えが禁止された財産 - 99万円以下の現金
- 破産管財人が破産財団から放棄した財産
財産価値が低いもの、換価に適しない財産など - 自由財産の範囲拡張が認められた財産
育児や介護など、特別な事情がある場合に拡張された財産
自由財産は決して潤沢とはいえないので、少額の自己資金で始められるスモールビジネスに挑戦するなどの工夫が必要となります。自己資金で復活するなら、初期費用の少ないビジネスモデルを選択し、最小限のリスクで再出発することが重要です。
再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)
自己破産者にとって民間金融機関が難しい一方、公的融資制度は有力な選択肢となります。中でも、日本政策金融公庫の提供する「再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)」は、過去に廃業歴のある経営者の再起を支援する制度です。
この制度では、審査を通過すれば、次の融資金を得ることができます。
- 国民生活事業
融資限度額7,200万円(うち運転資金は4,800万円) - 中小企業事業
融資限度額7億2,000万円(うち運転資金は2億5,000万円)
再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)の利用条件は、以下の通りです。
新たに開業する方または開業後おおむね7年以内の方で、次の全てに該当する方
新規開業資金(再挑戦支援関連)/ 再挑戦支援資金(日本政策金融公庫)
1. 廃業歴等を有する個人または廃業歴等を有する経営者が営む法人であること
2. 廃業時の負債が新たな事業に影響を与えない程度に整理される見込み等であること
3. 廃業の理由・事情がやむを得ないもの等であること
ただし、制度利用には、担保又は保証人が必要とされるのが基本です。また、約3割の自己資金を要するのが実務です。
新創業融資制度
同じく日本政策金融公庫が運営する「新創業融資制度」も、自己破産後の資金調達手段として検討できます。こちらの制度は、再挑戦支援資金制度(再チャレンジ支援融資)に比べ、融資限度額が低く、利用条件が厳しい代わりに、無担保・無保証人での融資が可能です。
審査を通過すれば、融資限度額3,000万円(うち運転資金は1,500万円)の借入を受けられます。制度の利用条件は、主に次の通りです。
1. 創業の要件
新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を2期終えていない方2. 雇用創出等の要件
「雇用の創出を伴う事業を始める方」、「現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める方」、「産業競争力強化法に定める認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める方」又は「民間金融機関と公庫による協調融資を受けて事業を始める方」等の一定の要件に該当する方(既に事業を始めている場合は、事業開始時に一定の要件に該当した方)
なお、本制度の貸付金残高が1,000万円以内(今回のご融資分も含みます。)の方については、本要件を満たすものとします。3. 自己資金要件
新創業融資制度(日本政策金融公庫)
新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を1期終えていない方は、創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金(事業に使用される予定の資金をいいます。)を確認できる方
ただし、「現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める方」、「産業競争力強化法に定める認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める方」等に該当する場合は、本要件を満たすものとします。
出資を受ける(エクイティファイナンス)
自己資金や融資に頼らず、「出資」の形で第三者から資金を受ける方法もあります。
親族や友人の支援のほか、ベンチャーキャピタル(VC)やエンジェル投資家など、事業の将来性に期待する投資家から資金を得る選択肢もあります。出資は返済不要であり、自己破産歴があっても事業計画の将来性が評価されれば、資金提供を受けられる可能性があります。
一方で、出資を受ける代わりに株式を譲渡することとなるので、経営の重要事項に口出しされる可能性があったり、成長した場合に配当を行う必要があったりといった点が融資との違いです。
クラウドファンディングの活用
近年は、クラウドファンディングによって不特定多数の支援者から少額ずつ資金を集める方法も活用されます。インターネットを通じてアイディアや事業のコンセプトを公開し、共感を得て、リターンと引き換えに資金調達を行う仕組みです。
クラウドファンディングは、自己破産中でも利用可能であり、信用情報への登録が直接の障害とはなりません。スモールビジネスや新しい取り組みに挑戦する際の有力な資金源となります。
まとめ

今回は、倒産と同時に自己破産した経営者が、復活を果たす方法を解説しました。
自己破産をしても、社長や取締役に再び就任したり、新たに起業したりすることは可能です。実際に、有名な経営者の中にも、自己破産を経験した後に再起し、大きな成功を収めた方がいます。
もっとも、自己破産からの再出発は決して容易ではなく、強い意志と挑戦する姿勢が求められます。自己破産によって財産を全て失うので、再び起業して成功を収めるには並々ならぬ努力が必要です。特に、当面は金融機関からの借入が難しくなるため、事業内容を工夫したり、自己資金で立ち上げたりといった方法を取ることとなります。
むしろ、現在の経営状態が悪化している場合、早期に倒産を検討し、スムーズな再出発を図る選択肢もあります。会社の破産手続きを迅速に進め、経営者個人のリスクを最小限に抑えるには、早い段階で弁護士に相談するのが有益です。
- 自己破産は取締役の欠格事由ではなく、経営者の再起の支障にはならない
- 現実問題として、借入不可、資格・職業の制限といったハードルはある
- 自己破産からの復活では、別代表、公的融資などを活用する
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