経営が行き詰まって「会社破産(法人破産)」してしまい、会社経営者(代表者)も「連帯保証人」として責任を負い「個人破産」を同時にせざるをえない状況となったとき、会社経営者は、破産後にどのような道を歩むのでしょうか。
このような会社経営者の中には、失意のうちに「経営を引退」する方もいます。しかし一方で、くやしさをバネに「再起」を図り、「再出発(リスタート)」して再度起業する人も少なくありません。
ひとたび会社破産(法人破産)してしまったとしても、再出発して起業することは可能であり、サポートする制度も用意されています。
今回は、「会社破産(法人破産)」とともに自己破産もした会社経営者が、「再起」「再出発」するために知って起きたい法律知識について、企業法務を得意とする弁護士が解説します。
「会社破産と経営者の対応」の法律知識まとめ
目次
破産しても「社長」になれる!
「会社破産(法人破産)」とともに、自分自身も破産してしまった会社経営者の中には、「自己破産すると、再度社長になることはできない」という不安を抱いている方もいます。しかし、これは誤解です。
実際には、経営していた会社が破産したとしても、また、自己破産をしたとしても、再度起業して会社の社長になることは可能です。再起をする道は多くありますから、あきらめる必要はありません。
「破産すると社長にはなれないのではないか」という誤解を解くため、破産しても再起・再出発が可能な理由について、弁護士が順を追って説明します。
会社と個人は別人格
そもそも、法律上、会社(法人)と会社経営者個人とは、別の人格であることが原則です。
そのため、会社の業績が悪化し、会社の債務が支払い切れなかったとしても、会社経営者(代表者)は個人で責任を負うことはありません。会社を破産させてしまったからといって、経営者個人の責任を過度に問うことはできません。
例外的に、連帯保証人となっていたり、個人資産を担保として提供していたりする場合には、責任を負わざるを得ないことがあります。
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取締役の委任契約は一旦終了する
会社経営者(代表者)は、法的には「取締役」という立場になります。「取締役」と会社との関係は、民法に定められた「委任契約」という種類の契約です。
そして、民法に定められた「委任契約」は、契約当事者の一方が自己破産をしたときには終了することとされています。そのため、社長などの会社代表者や取締役が自己破産をすると、一旦は会社との委任契約が終了し、会社代表者や取締役という立場を失うことになります。
民法の条文は、次のとおりです。
民法653条(委任の終了事由)委任は、次に掲げる事由によって終了する。
一 委任者又は受任者の死亡
二 委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。
三 受任者が後見開始の審判を受けたこと。
このことが「自己破産したら社長になれない」という誤解の原因です。
「自己破産」は取締役の欠格事由ではない
2005年まで適用されていた旧商法では、「自己破産したこと」は、会社の取締役の欠格事由になっていました。つまり、「破産をした経営者は社長になれない」と法律に書いてあったわけです。
しかし、旧商法が「会社法」に変わったことで、「自己破産したこと」は、会社の取締役の欠格事由ではなくなりました。そのため現在では、ひとたび自己破産を経験した人も、再度、社長などの会社の代表者や取締役になることができます。つまり、再出発・再起してあらたな会社を経営することが可能です。
なお、破産手続開始の決定を受けた後、同じ会社の取締役に再度なることも可能ですが、その場合には、取締役の再任の手続きが必要となります。
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自己破産後も一定の財産が残る
会社破産(法人破産)と自己破産のあと、「再出発」「再起」をはかる経営者の中には、「破産をしてしまうとすべての財産を奪われるから、再起は不可能だ」と考える方もいます。
確かに、破産すると、価値のある財産の大部分を失います。そのため、十分な元手で再起業することはできないかもしれません。
しかし、「何もかも失うわけではない」ことを理解しておくべきです。生活に必要な財産や、再出発(リスタート)に必要な財産を手元に残すことがは、自己破産をしたとしても可能です。
このように自己破産をしても手元に残せる財産のことを、法律用語で「自由財産」といいます。「自由財産」には、次のものがあります。
- 新得財産(破産開始決定後にあらたに取得した財産)
- 差押禁止財産(生活必需品、食費など)
- 99万円以下の現金
- 破産管財人が破産財団から放棄した財産
- 自由財産の拡張がなされた財産
この「自由財産」は、その名のとおり破産後も自由に利用することができますから、生活を立て直すとともに、起業資金にあてることができます。
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会社設立が事実上制限されてしまう理由
ここまで解説したとおり、会社破産(法人破産)、自己破産などの破産手続きの最中であっても「取締役」になることができます。法律上は全く問題ありません。また、今までの経営能力が認められれば、他社から「役員になってほしい」と誘われることもあります。
しかし一方で、自分で会社を新しく立上げ、再度社長になるためには、事実上困難な理由が1つあります。
というのも、経営者個人が自己破産をすると、いわゆる「ブラックリスト」に載ってしまうからです。これにより、自己破産後、約5年から10年の間は、金融機関で資金を借りたり、ローンを組んだり、リース契約をしたりできなくなります。
再度の起業に必要となる開業資金、運転資金などが、自己資金では用意できない場合には、自己破産後数年間は借金をすることができないことが、事実上、再出発を制限してしまうことがあります。
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再起のための資金を得る方法
会社破産(法人破産)と自己破産をすると、再度起業する業種、業態や事業計画によっては、「やはり開業資金が不足している」という場合も少なくありません。しかし、自己破産してしまえば、銀行などの金融機関からの借入で補うことはできません。
しかし、破産ですべてを失うわけではなく「自由財産」という一定の財産を残すことができます。
更には、このようなケースでは「公的融資」を利用して起業する方法が考えられます。
「公的融資」の中には、自己破産してブラックリストに載っている経営者に対してもお金を貸してくれる制度も用意されています。そのような制度を利用し、その融資金を元手に起業することができます。
有名な「公的融資」の制度には、日本政策金融公庫による「再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)」「新創業融資制度」があります。資金の借入に保証人を要する場合には、信用保証協会による「再挑戦保障制度」の利用が考えられます。
自由財産と、その範囲の拡張
会社破産(法人破産)をし、同時に会社経営者(代表者)も自己破産をした場合、価値のある財産の大部分は失われることになります。しかし「すべての財産がなくなる」わけではありません。
生活に必要な最低限の財産など、一定の財産は「自由財産」とされ、破産後も手元に残すことができます。自由財産として認められている財産は、次のものです。
- 99万円以下の現金
- 差押え禁止財産
:民事執行法により、差押えをすることが禁止された財産 - 新得財産
:破産開始決定後に取得した財産 - 破産管財人が破産財団から放棄した財産
- 自由財産の範囲が拡張された財産
更には、自由財産だけでは最低限の生活ができないような特殊事情がある場合には、この自由財産について一定の範囲で拡張をしてもらうこともできます。
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再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)
再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)は、日本政策金融公庫が運営する、廃業歴のある経営者が再チャレンジをするのをサポートするための制度です。
日本政策金融公庫の審査を通過すれば、次の融資金を得ることができます。
- 国民生活事業
:融資限度額7200万円(うち運転資金は4800万円) - 中小企業事業
:融資限度額7億2千万円(うち運転資金2億5千万円)
再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)を利用するための条件は、主に次のとおりです。
新たに開業する方または開業後おおむね7年以内の方で、次の全てに該当する方
1. 廃業歴等を有する個人または廃業歴等を有する経営者が営む法人であること
2. 廃業時の負債が新たな事業に影響を与えない程度に整理される見込み等であること
3. 廃業の理由・事情がやむを得ないもの等であること
この制度を利用するためには、多くの場合担保又は保証人が要求されます。また、自己資金の割合について決まった要件はありませんが、実際上、約3割程度必要となるとされています。
新創業融資制度
新創業融資制度もまた、日本政策金融公庫の運営する制度です。こちらの制度は、再挑戦支援資金制度(再チャレンジ支援融資)と比べて融資限度額が低く、利用要件が厳しい代わりに、無担保・無保証で資金を借りることができる制度です。
日本政策金融公庫の審査を通過すれば、融資限度額3000万円の借入をすることができます。
この制度を利用するための要件は、主に次のとおりとされています。
1. 創業の要件
新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を2期終えていない方2. 雇用創出等の要件
「雇用の創出を伴う事業を始める方」、「現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める方」、「産業競争力強化法に定める認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める方」又は「民間金融機関と公庫による協調融資を受けて事業を始める方」等の一定の要件に該当する方(既に事業を始めている場合は、事業開始時に一定の要件に該当した方)
なお、本制度の貸付金残高が1,000万円以内(今回のご融資分も含みます。)の方については、本要件を満たすものとします。3. 自己資金要件
新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を1期終えていない方は、創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金(事業に使用される予定の資金をいいます。)を確認できる方
ただし、「現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める方」、「産業競争力強化法に定める認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める方」等に該当する場合は、本要件を満たすものとします。
「会社破産」は、弁護士にお任せください!
今回は、「会社破産(法人破産)」と同時に自己破産をした方が、破産後に再起をはかり再度起業をこころざすときの方法・手段について、弁護士が解説しました。
一度破産をして財産を失ってしまうと、その後に起業することは並大抵の苦労ではないかもしれません。自己資本でまかなうにせよ公的資金を借りるにせよ、起業をするには少なくない起業資金が必要です。
しかし、会社破産(法人破産)と自己破産を経験してしまった会社経営者であっても、再起・再出発は十分可能です。むしろ、より円滑に再スタートを切るためには、早期の段階で「破産」を選択することも1つの手です。
会社破産(法人破産)、自己破産など、破産の手続きを簡易迅速に終わらせるためには、準備段階から弁護士に相談することが重要です。ぜひ企業法務を得意とする弁護士に、お早めにご相談ください。
「会社破産と経営者の対応」の法律知識まとめ