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自己株式取得の制限とは?財源規制、売主追加請求についても解説

自己株式の取得とは、会社が、発行済の自社株を買い取ることです。かつては、自社株を買い取ることは禁止されていました。自社株を購入して不当に価値を釣り上げるなどの不正の危険があったためです。しかし、現在は会社法の改正により、一定の条件を満たせば、自己株式を取得できるようになりました。

とはいえ、自己株式取得には、制限があります。無条件、無制限に自己株式の取得を許すと、会社財産を棄損し、債権者に損害を与えるおそれがあるからです。そのため、特定の株主から自己株式を取得するには、財源規制があります。

また、自己株式を取得する際には、会社法に定められた手続きに従い、適切に行わなければなりません。自己株式の取得には、株価上昇に不当な影響を与える危険があります。税務上のリスクも無視できません。これらの点に注意し、法律を遵守して進めなければ、違法な自己株式の取得は、後に無効となるおそれがあります。

今回は、自己株式取得の制限と、財源規制、その際の株主を保護するための売主追加請求について、企業法務に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 自己株式の取得は法改正により柔軟に認められる傾向だが、一定の制限あり
  • 自己株式取得の財源規制は、分配可能額を限度とするが、減資により枠を増やせる
  • 自己株式を取得する手続きは、特定の株主から取得する場合に厳格化されている

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自己株式取得の制限とは

はじめに、自己株式取得の制限について解説します。自己株式取得は、無制限にはできず、一定の制約があります。

自己株式取得とは、株式会社が、自社の株式を、株主から買い取るなどして取得すること。一般には「自社株買い」ともいいいます。自社株を買うと、金庫で大切に保管するというイメージから、「金庫株」と呼ばれることもあります。

かつては、会社が自己株式を取得することは禁止であり、ストックオプションや消却など、ごく限られた場合にしか認められませんでした。しかし、2001年、経済界の強い要請により商法が改正。「金庫株解禁」によって自己株式の取得を機動的に行うことが可能となりました。

自己株式取得が制限される理由

自己株式の取得を実行するときの注意点をよく理解するには、なぜ自己株式取得が制限されるのか、その理由を知っておく必要があります。自己株式取得が、かつて制限されていたのは、次の理由があります。

  • 資本充実の原則、資本維持の原則に反する
    自己株式取得によって出資金を減らすこととなり、会社の債権者を害する
  • 株主平等原則に反する
    特定の株主に対し、他の株主より有利な取得金額で自己株式を取得すると、出資金を不公平に回収させてしまう
  • 不公正な取引を誘発する
    会社支配、株価操縦、インサイダー取引などの不正の手段として、自己株式取得が利用されやすい

自己株式取得のメリット

その後、自己株式の保有は容認され、自己株式の取得も、一定の制限を守れば取得できるようになりました。このような要請が社会からあったのは、自己株式取得は、会社側にとって次のようなメリットがあったからです。

  • 経営基盤を強化できる
    相続や事業承継、組織再編などで分散しがちな株式を取得することで、経営の意思決定を統一できる
  • 事業承継を円滑に進められる
    株式を株主のもとに置くのでなく、会社が所有することで、事業承継しやすくなる
  • 敵対的買収を防衛できる
    大株主が株式を手放すと株価が下がり買収されやすくなるが、自己株式取得が防衛策となる

自己株式取得の財源規制

自己株式を無制限に取得できると、会社に資金的な余裕がないにもかかわらず、自己株式を取得し続けることができてしまいます。無制限の自己株式取得を許した結果は、会社には自己株式しか残らず、その他の資産は流出してしまうことに。これでは資本維持の原則に反し、会社債権者を不当に侵害するおそれがあります。

そのため、自己株式の取得には、財源規制があります。

財源規制は、分配可能額を限度とする

自己株式の取得は、自己株式を取得する日における会社の分配可能額の範囲内でのみ行うことができます。これを、自己株式取得の財源規制といいます。

分配可能額とは、剰余金の額を基準として、一定の項目を加算・減算して算出される金額。したがって、少なくとも剰余金の額を大きく超えて自己株式を取得することはできません。

減資手続により分配可能額を増やすことができる

財源規制が課されていてもなお、分配可能額を超えて自己株式を取得したいと考える場合があります。このとき、減資手続をすれば、分配可能額を増やすことができます。

減資手続とは、具体的には、資本金や資本準備金を、その他資本剰余金に振り返る手続き。これによって剰余金を確保すれば、分配可能額の枠を作ることができます。ただし、減資手続は、会社債権者を害するおそれある手続なので、会社法に定められた次の手続きに従って慎重に進めなければなりません。

  1. 債権者が異議を述べることができる旨を公告
  2. 知れたる債権者へ個別に催告
  3. 債権者の異議申立期間は最低1か月

したがって、債権者の異議申立期間1か月をおく必要があることから、減資手続を行った上で自己株式を取得するためには、一定の時間的余裕をみておかなければなりません。

自己株式を取得する具体的な手続き

次に、自己株式を取得するときの具体的な手続きの流れを解説します。自己株式取得の会社法のルールは「譲渡人をあらかじめ指定するかどうか」で大きく変わるため、2つのケースに分けて手順を説明します。

譲渡人を指定しない方法は、小型の「公開買い付け」にも似ています。この場合、株主平等の原則に違反するおそれが比較的少なく、簡略な手続きで済みます。

一方、あらかじめ譲渡人を指定し、特定の株主から自己株式を取得する場合、その特定の株主のみに出資金の回収チャンスを与えるため、株主平等の原則に反するおそれがあります。あらかじめ譲渡人を指定する場合は、他の株主にも投下資本を回収する機会を与えねばならず、売主追加請求権への配慮を要します。

不特定の株主からの取得手続

譲渡人をあらかじめ指定しない場合、つまり、不特定の株主から自己株式を取得するケースでは、株主平等の原則違反となる可能性は比較的少ないです。そのため、特定の株主から自己株式を取得するケースに比べ、簡略な手続きでよく、要件も緩和されています。

その手続きは、具体的には次の手順で進めます。

株主総会の普通決議

まず、株主総会の決議で、必要事項を決定します。この決議は「普通決議」、つまり、総株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、その過半数の賛成を得ることが条件となります。

株主総会での決議事項は、次の通りです。

  • 取得する株式の数
    (株式の種類と種類ごとの数)
  • 株式取得と引換えに交付する金銭等の内容及びその総額
  • 株式を取得することができる期間
    (1年未満の期間)

株主総会の手続きの流れは、次に解説します。

自己株式取得の都度の決議

株主総会の決議をあらかじめ取得した上で、自己株式の取得を行うごとに、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の決議が必要です。この決議では、次の事項を決定します。

  • 取得する株式の数
    (株式の種類と種類ごとの数)
  • 一株につき交付する金銭等の内容、額
  • 交付する金銭等の総額
  • 申込みの期日

株主への通知(公告)

以上の決議によって決定された株式数、金額、期日を、株主に対して通知します。
(なお、公開会社の場合は、公告による方法でも足ります)

株主からの申込み

通知を受けた株主が、自己株式取得を希望する場合、会社に対し、取得を希望する株式数を明らかにして申込みを行います。

株主からの申込みが、会社が取得を予定する株式数を越えた場合は、各株主から按分して取得することとなります。

特定の株主からの取得手続と、売主追加請求権

特定の株主から自己株式を取得する場合には、その買取額によっては株主平等の原則違反となるおそれが強まります。そのため、特定の株主にだけ投下資本の回収機会を与えることのないよう、他の株主にもそのチャンスを付与する必要があります。与えなければなりません。

これが、売主追加請求権です。したがって、不特定株主からの取得手続きとは、次の点で異なります。

株主総会の特別決議

特定の株主から自己株式を取得するには、株主総会の特別決議が必要となります。つまり、総株主の過半数を有する株主が出席し、その議決権の3分の2以上の賛成を得ることが条件となります。これは、株主間の公平を害しないよう、より厳しい決議要件によってチェックする必要があるからです。

この際、売主となる特定の株主の議決権は、利害関係人であるため制限されます。

この場合、株主間の公平を害しないよう、この株主総会の特別決議では、売主となる株主の議決権は制限されます。

発行済株式総数の過半数を保有する株主が出席し、その議決権の3分の2以上の賛成が必要となる決議のこと

売主追加請求権

売主となる株主に、自分も加えるよう請求できる権利が、売主追加請求権です。このような権利があることを株主に通知し、自己株式の取得を希望する株主は、株主総会決議の前に、売主追加請求権を行使できます。

売主追加請求権が行使された結果、会社が取得を予定する自己株式数を超えた場合、取得を希望した全株主から按分して取得します。他の株主を保護する手続きの結果、当初予定した株主からの自己株式の取得が、希望通りには行えなくなる可能性もあるのです。

売主追加請求権の例外

次の2つのケースは、例外的に、売主追加請求権が認められていません。

  • 市場価格ある株式取得(会社法161条)
    取得する株式が市場価格ある株式であって、取得と引換えに交付する金銭などが市場価格を越えない場合には、他の株主の利益を害するおそれがないため、売主追加請求権が認められていません。
  • 相続人等からの取得(会社法162条)
    株主の相続人その他の一般承継人から、その相続その他の一般承継により取得した自己株式を取得する場合には、他の株主の利益を害するおそれがないため、売主追加請求権が認められていません(ただし、公開会社である場合と、当該相続人その他の一般承継人が議決権を行使した場合には、売主追加請求権が認められます)。

売主追加請求権の排除

以上で解説した売主追加請求権は、定款に記載することによって排除することができます。ただし、定款変更をして新たに売主追加請求権を排除する旨を規定するには、株主全員の同意が必要となります。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、自己株式取得の制限と、必要な手続きについて解説しました。法改正を経るごとに、自己株式取得の制限は緩和される傾向にあるものの、法律に定められた手続きを遵守すべきです。財源規制、分配可能額による制限などは、既存の株主や債権者を保護するために大切なルールです。

一方で、自己株式の取得は、株式会社の経営を安定させ、相続や事業承継、組織再編のタイミングで散逸しがちな株式をまとめるのに有効です。資本充実の原則、資本維持の原則、株主平等の原則といった株式会社の大原則の例外であるために、会社法の定める手続きに従って進める必要があります。

小規模な会社、ベンチャー企業などは、分配可能額が存在しないケースも。このようなケースで自己株式を取得するには減資手続きを要し、十分な時間的余裕が必要です。自己株式の取得をスムーズに進めるため、ぜひ弁護士にご相談ください。

この解説のポイント
  • 自己株式の取得は法改正により柔軟に認められる傾向だが、一定の制限あり
  • 自己株式取得の財源規制は、分配可能額を限度とするが、減資により枠を増やせる
  • 自己株式を取得する手続きは、特定の株主から取得する場合に厳格化されている

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