株式会社を経営するにあたっては、「定時株主総会」の手続きを避けて通ることはできません。
「定時株主総会」の大まかな流れを理解するのは当然ですが、この流れをすべて実践することは難しい場合もあります。
例えば、ベンチャー企業や中小企業の場合には、株主総会をできる限り早く行わなければ、資金調達が間に合わずに資金ショートしてしまうなど、意思決定に緊急性を要するケースも多いのではないでしょうか。
意思決定がスピーディに行えることは、ベンチャー企業の非常に重要な武器にもなります。
会社の意思決定のスピードが重視されるとき、「定時株主総会」の手続きを「どこまで省略してもよいのか?」について、法律知識を理解して進めなければなりません。
今回は、定時株主総会の手続きの流れと、省略のポイントについて、企業法務を得意とする弁護士が解説します。
目次
1. 株主総会を開催する流れ
「定時株主総会」の手続きの流れは、大まかには次の通りです。
- 株主総会の招集決定
- 招集通知の発送
- 株主総会の開催
- 議事録の作成
以下、それぞれの手続きについて、弁護士が順に解説していきます。
1.1. 招集決定
招集決定を行う権限は、取締役会設置会社であるかどうかによって変わります。
- 取締役設置会社の場合:取締役会の決議
- 取締役非設置会社の場合:取締役の決定
招集決定では、株主総会の日時、場所、目的事項など、株主総会を開催するにあたって重要となる事項として「会社法298条1項」に定められた事項を決めます。
株主総会に出席しない株主に対して、書面による議決権行使を認める、いわゆる「書面投票制度」を利用することも可能です。
なお、取締役会を設置すべきかどうかは、こちらの記事を参考にしてください。
1.2. 招集通知
「招集通知」とは、「定時株主総会」を招集する旨を記載した通知を、各株主に発送することをいいます。
そして、招集通知の期間は、公開会社では、株主総会開催の「2週間前」までに行うことが必要ですが、後に解説するとおり、ベンチャー企業であれば、短縮し、または省略してゼロにすることも可能なケースがあります。
実際、定款で非常に短期間に設定している会社も少なくありません。
招集通知の方法は、取締役会設置会社の場合は書面ですが、それ以外の場合、メール、口頭など、書面に限られない方法でも可能です。
- 取締役会設置会社の場合:書面に限る。
- 取締役会非設置会社の場合:メール、口頭などでもOK。
- ただし、書面投票制度を採用する場合:書面に限る。
したがって、ベンチャー企業が機動性を重視する場合には、取締役会を設置せず、「書面投票制度」も採用しなければ、招集通知を口頭で行い、当日に株主総会を開催することも可能です。
なお、さらに簡略化して招集通知を省略する2つの方法として「招集手続の省略」「全員出席総会」があります。
1.3. 株主総会
「定時株主総会」の当日は、株主が一同に会して会議を行うのが原則です。
ただし、テレビ会議、Skypeなどの方法で、遠隔地にいる株主を参加させることも可能です。
この場合、遠隔地にいる株主が、どのような方法で株主総会に参加したかについて、議事録に記載しておきます。
1.4. 議事録作成
「定時株主総会」が終了したら、議事録を作成します。
通常は、代表取締役が、会社代表印を押印するのが一般的ですが、法律上は、特に押印についてルールがあるわけではありません。
2. 省略可能な手続きは?
中小企業やベンチャー企業では、会社の意思決定のスピードを重視するためには、「定時株主総会」の流れのうち、どの部分を省略してもよいかについて理解しておく必要があります。
2.1. 招集通知の短縮
「招集通知」は、公開会社の場合、株主総会開催の「2週間前」までに行う必要があります。
これに対し、公開会社でない中小企業、ベンチャー企業などであれば、この期間を短縮することが可能です。
公開会社とは、発行する全部または一部の株式の内容として、株式譲渡について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない会社のことをいいます。
したがって、発行する株式のすべてについて、譲渡に承認が必要である会社だけが、この招集通知の事前発送期間を短縮することができるというわけです。
- 公開会社:株主総会の2週間前までに招集通知
- 非公開会社:株主総会の1週間前までに招集通知
- 取締役会非設置会社かつ定款で定める場合:定款で定めた期間
「招集通知」の発送期間を短縮できるときは、招集決定から株主総会の開催までを、1日の間に行うことも可能となります。
2.2. 招集手続の省略
「招集手続の省略」とは、会社法300条に定められたルールです。
会社法300条によれば、株主全員の同意があれば、招集通知発送の期間を短縮、または省略することができるとされています。
したがって、株主全員が同意すれば、招集決定の当日に株主総会を開催することが可能です。
「招集手続の省略」は、株主数の多い大企業では難しいでしょうが、株主数の限定されている中小企業やベンチャー企業では、積極的に利用すべきです。
2.3. 全員出席総会
「全員出席総会」とは、「招集手続の省略」と、似て非なる考え方です。
株主全員が集まったときに、株主全員が株主総会を実施することに同意した場合、招集手続を行わずに株主総会を開催してよいというものです。
「招集手続の省略」の場合、株主全員が参加しなくても招集手続を省略することに同意さえとれれば適法ですが、「全員出席総会」の場合、株主全員が参加していなければならず、さらにハードルの高いものといえます。
株主数が1人ないし数人といった創業期のベンチャー企業の場合には、「全員出席総会」で株主総会を開催したと考えてよいケースも少なくないでしょう。
2.4. 書面決議
書面で株主全員の意思表示を得ることによって、株主総会における決議自体を省略する方法が、「書面決議」です。
「書面決議」を行う場合には、招集通知に変えて、株主総会の目的事項を記載した提案書を全株主に送付し、株主から同意書の返送を受けるようにします。
全株主からの同意書を得ることができれば、株主総会の決議があったことに代えることが可能となります。
なお、「書面決議」によって株主総会決議を省略した場合であっても、議事録の作成は行わなければならないことに注意が必要です。
3. 定時株主総会のポイント
最後に、「定時株主総会」を開催するにあたって、注意しておくべきポイントを、弁護士がまとめておきます。
「定時株主総会」は、会社法上、「毎事業年度の終了後一定の時期」に招集しなければならないと定められています。
「定時株主総会」は、実務的には、事業年度の終了日から3か月以内に招集されるのが一般的であり、これは、「定時株主総会」における議決権行使の基準日が、「3か月以内」と会社法に定められているからです。
3.1. なぜ開催日が集中するの?
3月決算の会社の「定時株主総会」が、6月の一定期日に集中することはよく知られていることです。
これは、先ほど解説したとおり、多くの会社で、定款上で定められた「定時株主総会」の基準日が事業年度の最終日とされており、会社法において、基準日と権利行使との間が「3か月以内」と定められているからです。
権利行使の基準日とは、この基準日時点で株主だった人が、「定時株主総会」で株主としての権利を行使できる、という意味です。
以前は、「総会屋を避けるため。」という目的もありましたが、現在ではこの必要性は薄れています。
したがって、3月決算ではない会社では、特に株主総会集中日は関係ありません。
3.2. 定時株主総会の報告事項、決議事項
「定時株主総会」の決議事項は、主に2つです。
- 計算書類(貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表)の承認
- 事業報告の内容の報告
報告事項、決議事項を履行するための手続きは、取締役会非設置会社よりも、取締役設置会社のほうが手続きが煩雑になります。
取締役会設置会社の場合、「定時株主総会」の前に行っておかなければならな手続きの順序は、次の通りです。
- 計算書類及び事業報告につき、監査役の監査
- 同じく、取締役会の承認
- 取締役会の承認を受けた計算書類、事業報告及び監査報告を、招集通知に添付
これに対して、取締役会非設置会社は、作成した計算書類、事業報告を、「定時株主総会」に直接提出すればよく、上の3つの手続きは不要とされています。
3.3. 計算書類、事業報告の備置き
会社法では、計算書類、事業報告と、これらの附属明細書を、「定時株主総会」の日の「1週間前(取締役会設置会社の場合には2週間前)から5年間」、会社の本店に備え置かなければならないとされています。
備置き期間は、招集通知の事前通知期間を短縮している会社であっても、短縮できません。
また、取締役会設置会社では、監査役の監査を、備置きよりも前に受けておく必要があります。
したがって、計算書類、事業報告については、「定時株主総会」で承認を受ける前に、次のような準備が必須となります。
- 取締役会設置会社の場合:2週間前までに監査役の監査 → 備置き、招集通知に添付
- 取締役会非設置会社の場合:1週間前までに作成 → 備置き、株主総会へ提出
3.4. 計算書類の公告
「定時株主総会」が終結したら、遅滞なく、貸借対照表を公告する必要があります。これを「決算公告」といいます。
「決算公告」は、すべての株式会社に義務付けられており、違反した場合には、取締役等に対して、「100万円以下の過料」の制裁があります。
4. まとめ
今回は、株主総会、特に、必ず行う必要のある「定時株主総会」について、その手続きの流れと省略のポイントを、弁護士が解説しました。
特に、ベンチャー企業、中小企業の場合には、意思決定のスピードを重視するため、株主総会の準備などにあまり多くの時間が避けない場合が少なくありません。
最低限行わなければならない手続きを理解し、きちんと進めていきましょう。