株式会社の経営において、エンジェル投資家、ベンチャーキャピタル(VC)からの追加出資を受ける場合や、増資を行う場面など、「新たに株式を発行したい」と考えるタイミングが多くあります。
株式会社という仕組みは、株式の発行によって資金調達し、資本を形成します。そのため、株式を発行する方法には法律上のルールがあり、特別な手続きを要します。株式は、経営に関する重要事項を決定する「議決権」を意味するので、その重要性からして、発行には慎重な意思決定が必要です。
一方で、設立間もない企業が急成長を目指して複数回の資金調達を行うケースでは、株式発行も迅速に進める必要があります。必要なタイミングで株式を発行できるよう、新株発行手続のスケジュールを、会社法に従って正確に理解してください。
今回は、株式会社が株式を発行する方法、つまり「新株発行手続」について解説します。
- 株式を発行する方法には複数の手続きがあり、状況に応じて選択すべき
- 株式を発行する方法ごとに、既存株主を保護するためのルールがある
- 新株発行を適時に進めるには、手続きに要するスケジュールを理解する
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新株発行の3つの方法と、4つのルール
新株発行は、株式会社が出資を受け、成長を加速させるのに不可欠な手続きです。
株式会社が資金調達する方法は、大きく分けて「出資」と「借入」の2つがあります。金融機関や投資家からの「借入」も一つの選択肢ですが、株式発行による「出資」の最大のメリットは、「返済する義務がない」という点です。
ただし、メリットの裏返しとして、株式を取得した者(株主)には「議決権」が付与され、会社経営への関与が可能となります。つまり、株主となる相手を選ぶことは、会社の将来に影響を与える重要な決断です。慎重に進めるためにも、株式発行に関する法律上のルールを理解してください。
誰に株式を割り当てるのか
株式を発行するにあたり、「誰に株式を割り当てるのか」という観点から、新株発行の方法は次の3つに分類されます。
- 株主割当
既存の株主に、持株比率に応じて株式を割り当てる方法。株主間の持株比率が維持されるため、公平性が保たれます。 - 第三者割当
特定の第三者に株式を割り当てる方法。例えば、事業会社やVCが引き受ける例があります。持株比率が変動し、株主構成や議決権への影響が生じます。 - 公募発行
一般投資家に対して広く出資を募り、応募者に株式を割り当てる方法。市場を通じて資金を集める手段として利用されます。
株式の発行方法によって、それぞれ手続きが異なります。その理由は、株式発行の方法の違いによって、既存の株主の持分比率に与える影響がそれぞれ異なるからです。
株主割当なら、既存の比率に応じて割り当てる結果、持株の比率には影響しません。なので、株主間の公平性が害される心配はなく、既存の株主の保護は最低限で足ります。これに対し、第三者割当、公募発行の方法は、持分比率に変化が生じます。その変化は、既存株主の議決権を増減させる効果があるため、株主保護のために一定の手続きを遵守しなければなりません。
株式発行の4分類
株式会社が、株式の発行を検討する場合に、その手続きの種類は、大きく4つに分類されます。
具体的には、次の2つの分類により、それぞれ行うべき新株発行手続のルールが異なります。以下の2つの分類の掛け算により4種類(=2×2)の新株発行手続のルールがあります。
- 取締役会設置会社か、取締役会非設置会社か
- 申込割当方式か、総数引受方式か
自社がどのルールに従うべきか検討した上で、適した手続きで実行するようにしてください。
一般に、取締役会設置会社よりも取締役会非設置会社の方が、申込割当方式よりも総数引受方式の方が、必要な手続きが少なく、スピーディに株式を発行でき、小規模なベンチャー、スタートアップの経営に向いています。
ただし、どの方法が適しているかは、会社の組織形態や発行の目的・方法によっても異なるので、専門家である弁護士のアドバイスを受けるのがお勧めです。
申込割当方式と総数引受方式
申込割当方式と総数引受方式には、次のような違いがあります。
申込割当方式とは、株主総会で決定した募集事項を引き受けを行う者に通知し、申込者に対して株式を割り当てる方法で、会社法上の原則的な発行方法とされます。
総数引受方式とは、あらかじめ特定の者が、発行する株式の全てを引き受けるという内容の契約(総数引受契約)を締結することで、申込割当の手続を省略できる方法です。
申込割当方式による手続きだと、最短で進めても2日はかかるのに対して、総数引受方式なら、最短1日で新株発行を進めることができます。
なお、平成27年の会社法改正により、譲渡制限株式を発行する場合には、定款に別段の定めがない限り、総数引受契約書について株主総会(取締役会設置会社の場合は取締役会)の承認が必要とされています。この点も踏まえて、事前の確認を怠らないようにしましょう。
新株発行の具体的なスケジュール
次に、新株発行の具体的なスケジュールについて、弁護士がまとめて解説します。
以下の解説は、あくまで手続きの流れの一例であり、会社の組織構成、新株発行の方法などによって細かい手続きが変わる場合があります。事情に合わせた調整を要するので、実際に株式を発行する際には、顧問弁護士などの専門家のサポートを受けるのがよいでしょう。
募集事項の決定
株式を引き受ける者を決めるには、まず募集事項を決定する必要があります。会社法によって、決定が求められる募集事項は、大まかに以下の通りです。
- 発行する募集株式の種類及び数(会社法199条1項1号)
- 募集株式の払込金額またはその算定方法(同2号)
- 金銭以外の財産を出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額(同3号)
- 募集株式と引換えにする払い込み、財産給付の期日または期間(同4号)
- 増加する資本金及び資本準備金に関する事項(同5号)
募集事項の決定は、原則として株主総会の特別決議によります。ただし、会社の機関設計によっては、募集事項を決定する機関が異なります。
| 機関設計 | 募集事項の決定 |
|---|---|
| 非公開会社 | 株主総会の特別決議 ※ |
| 公開会社 | 取締役会の決議 |
| 譲渡制限付き株式の発行 | 種類株主総会の決議 |
(※ ただし、1年以内の期間を定めて、株主総会の特別決議により、取締役、取締役会に決定を委任できる)
申込割当 or 総数引受契約
会社法の原則的な新株発行方法である「申込割当方式」の場合、募集に対し、株式を引き受けようとする者が、書面に一定事項を記載して申込を行います。株式会社は、申込者の中から割り当てを受ける者を決め、かつ、割り当てる株式数を決めます。
このように、申込者のなかで「誰に何株の株式を割り当てるか」、決める裁量は会社にあります。このことを法律用語で「割当て自由の原則」と呼びます。割当を決めたら、出資の履行をさせるために、払込期日の前日までに、株式会社は申込者に対し、割り当てる募集株式数を通知します。
申込割当方式に対し、総数引受方式だと、申込割当手続きを省略できる代わりに、総数引受契約書を締結しなければなりません(会社法205条1項)。
非公開会社における第三者割当増資は、初めから引受先が決まっている場合が多く、総数引受契約書を取り交わすのに適しています。
出資の履行(払込み)
株式の引受人は、決められた払込期日までに出資の履行を行います。払込期間が定められている場合は、その期間の末日までが期限とされます。
募集株式の引受人は、出資の履行をした日から株主となります。ただし、払込期日までに出資の履行を行わないと、株主となる権利を失います。
登記
新株発行手続を行った場合、登記事項に変更が生じることとなります。
そのため、払込期日から2週間以内に、株式会社の本店所在地を管轄する法務局にて、変更登記の手続を行う必要があります。
新株発行手続で注意すべきポイント
最後に、新株発行手続を行う際に、注意しなければならないポイントを解説します。
持株比率が維持されるか
前章の通り、新株発行において募集事項を決定する権限を持つ機関は、会社が公開会社か、非公開会社かによって異なります。これは「持株比率が維持されるかどうか」という点が、既存の株主にとって重大な関心事だからです。
株式には、会社の経営に関する重要事項を決定する「議決権」が付与されます。そのため、株式の持分比率が下がると、議決権の割合も減少し、経営への影響力が弱まることを意味します。
非公開会社の場合、株主構成が閉鎖的であり、資金調達の際にも、既存株主が持分比率の維持に強い関心を持つ傾向があります。そのため、新株発行を行う場合には、原則として、株主総会の特別決議という高いハードルが課されます。
一方で、公開会社では株主が市場を通じて流動的に入れ替わるため、個々の株主の保護は相対的に緩やかであり、取締役会決議による承認によって新株発行が可能です。
有利発行に対する規制
株主割当以外の方法での新株発行であって、払込金額が、株式の引受人に特に有利な条件の場合を「有利発行」といいます。実務的には、時価を10%以上下回る場合、有利発行だと判断される傾向にあります。
有利発行では、既存株主の持分比率が希薄化するうえ、特定の株主だけが恩恵を受ける可能性があるため、公開会社であっても株主総会の特別決議を要します。
ただし、非上場会社の株式のように市場価格が存在しない場合には、「時価」の判断が困難です。そのため、過去の払込価額や株式の譲渡価格などと比較して、明らかに低い価格設定がなされている場合に、有利発行に該当する可能性があります。トラブルを避けるためにも、より厳しい規制に従って特別決議を経ておくのが安全な対応です。
現物出資の手続き
新株発行に際して、金銭以外の財産を対価として受け取る「現物出資」を行う場合には、以下のような追加の手続きが必要です。
まず、募集事項の決定時に、次の内容を決めておかなければなりません。
- 出資される財産が金銭以外である旨
- その財産の内容及び価額
加えて、発行する株式の対価として、出資された財産が適切かどうか、裁判所が選任した検査役による検査によって確認する手続きが必要です(現物出資の総額が500万円を超えないなど、一定の場合には検査役による検査は不要)。
検査役による検査の結果、価額が不当と判断された場合、裁判所は、これを変更する決定をします。そして、現物出資をした者が、裁判所の決定に不服がある場合、決定後1週間以内であれば、株式引受を取り消すことができます。
まとめ

今回は、株式を発行する方法について、具体的な手続きの流れを解説しました。
株式会社が、新株発行によって資金調達するためには、法律上のルールがあります。株式会社が健全に成長するには、新株を発行して資金調達する手続きが極めて重要です。
万が一手続きに不備があれば、発行された株式が無効となるおそれがあり、将来的に訴訟へと発展する可能性もあります。「新株発行の無効」や「新株発行の不存在」といった訴えを提起されるリスクが生じかねません。そのため、成長スピードを重視する局面においても、株式発行は、慎重かつ正確に進める必要があります。
株式発行の方法や手続きについて不安がある場合、ぜひ一度弁護士に相談してください。
- 株式を発行する方法には複数の手続きがあり、状況に応じて選択すべき
- 株式を発行する方法ごとに、既存株主を保護するためのルールがある
- 新株発行を適時に進めるには、手続きに要するスケジュールを理解する
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