ビジネスにおいては、場所が大切となることがあります。顧客の訪問を受ける業種は特に、立地の良さこそ大きな武器。しかし、事務所を借りる際には、注意しなければならないポイントが多くあります。
事務所を借りるときは、所有者と「賃貸借契約」を結びます。賃貸借契約には法律上のルールが多く、契約書をよく検討しないと借主に不利な契約を結ばされる危険があります。起業直後のベンチャーだと、住居を借りた経験はあっても事務所を借りるのは初めてで、オフィス賃貸に特有のルールを知らずミスしてしまうケースがあります。オフィス賃貸の慣習を理解しないと、予想外にコストが嵩むおそれもあります。
今回は、事務所を借りるときの契約の流れ、かかる費用と、オフィスの契約の注意点を、法的な観点から、企業法務に強い弁護士が解説します。
- 事務所を借りるとき、法人契約であるオフィス契約に特有の流れを知っておく
- 事務所を借りるときにかかる多様な費用を知り、その費用ごとに減額交渉をする
- 自社のビジネスに合ったオフィスか、そもそも事務所が必要なのかを検討する
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事務所を借りるときの契約の流れ
まず、事務所を借りるときの流れについて解説します。
事務所を借りるのは賃貸借契約、すなわち、賃貸人と賃借人の合意による契約が必要です。そのため、その合意形成のプロセスには、法律上、注意すべきポイントがあります。住居の賃貸とは異なる点もあるため、よく理解してください。
不動産会社に相談し、オフィスを選定します。立地、事業用利用の可否、間取りや電力、ネット回線など、オフィス利用に適した目線でのアドバイスが必要なため、事務所物件を扱う実績ある会社がお勧めです。
契約する前に、必ず賃貸条件を交渉します。審査にも影響するため、審査前にする必要があります。次章「事務所を借りるときにかかる費用」を参考に、減額交渉をします。オフィス物件では空室が多い時期だと賃料の減額交渉に応じてもらえるケースもあります。
移転の場合は、現在のオフィスの解約予告期限も注意してください。
オフィス賃貸は、法人契約となるため、法人の信用力を審査されます。商業登記簿謄本、会社概要(会社のホームページなど)、印鑑証明書のほか、決算書の提出を求められるケースが多いです。オフィス物件だと、契約前に所有者(オーナー)との面談がある例も少なくありません。
契約を締結し、入居します。ビジネス利用だと、1日でも遅れると機会損失となりますから、鍵の引渡し日、入居日、事務所の利用開始日を、細かく確認しておいてください。
事務所の賃貸借契約のポイントについて、次の解説をご覧ください。
事務所を借りるときにかかる費用
次に、事務所を借りるときにかかる費用について解説します。
借りる事務所を選ぶ際は、どのような費用がかかるか知るとともに、自社が割ける予算を検討し、経済的に適したオフィスか検討する必要があります。事務所にかかる費用だけでなく、広告費や人件費など、ビジネスにかかる他の費用との兼ね合いも調べならず、遅くとも事務所を借りる前には、事業計画書の綿密な検討を要します。
権利金
事務所として物件を借りるとき、権利金が発生することがあります。権利金は、賃貸借契約において特別に合意すると発生する金銭であり、その物件を使用する権利を得るために必要となることがあります。敷金や保証金などとは違って、賃貸借が終了しても返還する必要のないものと定められるのが通例です。
事務所の権利金は、賃料のような使用収益の対価ではなく、物件から生じる利益の対価です。そのため、立地が良いなど、価値の高い物件の賃貸借では、一定の権利金を払うよう求められることがあります。
礼金
礼金とは、謝礼の意味合いを持つ金銭であり、事務所を借りるときにも発生することのある金銭です。
住宅が不足した時代に、貸してくれた謝礼を払うのが慣行となったことから始まります。礼金は、権利金と同じく、賃貸借契約が終了しても返還されないのが原則です。事務所を借りるときの礼金は、賃料の1ヶ月分などと定めるのが目安となります。
保証金
事務所の賃貸では、保証金がかかるケースが多いです。オフィス賃貸の「保証金」は、住居賃貸の「敷金」に似た性質で、賃借人の負う債務を担保するための金銭です。
ただし、保証金のルールは、敷金と違って法律に定めがありません。住居賃貸なら借主保護のための借地借家法の定めがありますが、事務所賃貸の場合、保証金のルールは契約で自由に決められます。そのため、不利な点がないか契約書をよくチェックしましょう。
手付金
事務所を借りるのに手付金が生じることがあります。手付金は「申込金」ともいい、契約を交わすまでの間に、他社に借りられてしまわないよう物件を押さえるための費用です。不動産売買ではよくありますが、賃貸でも設定される例があります。
オフィス賃貸の場合には、手付金は「保証金の10%〜20%程度」が目安となります。手付金を払った後で本契約に進んだ場合は、保証金の一部に充当されるのが通例です。なお、手付金を支払う際には、解約の期限と、解約した際の返還額を必ず確認してください。
仲介手数料
仲介手数料は、不動産仲介会社に対して報酬として支払う金銭のこと。賃貸人との契約をつなげてくれた仲介会社に対する報酬であり、事務所を借りるときにも生じます。事務所の賃貸借では、仲介手数料は賃料に応じて決めるのが通例です。
宅地建物取引業法46条で、仲介手数料の上限は、貸主・借主から受け取る合計額が、賃料の1ヶ月分(+消費税)とされます。
賃料の前払い
事務所を借りる際に、最初にまとめて数ヶ月分の賃料を支払う内容となっている例が多いです。住居の賃貸でいう前家賃と同じ趣旨です。その他に、火災保険の加入が必須となっており、保険料は借主負担なのが通例です。
内装費
事務所を借りると、内装費がかかります。どのようなオフィスにするかにより、かかる金額は変わりますが、自社のビジネスに合った内装にする必要があります。華美で贅沢なオフィスは採算が合わない一方、顧客の訪問を受ける会社では、あまりに貧相な事務所だと信用が低下します。
内装と関連して、退去時の原状回復義務についても事務所を借りる前に検討します。
原状回復義務は「元の状態に戻すべき」義務であり、オフィスの現況によって退去時にかかる原状回復費は異なります。飲食店のように大幅な改装が必要なケースや、居抜きで借りる場合などには、どの状態まで回復させればよいか、契約書で確認します。
事務所を借りるときの注意点
次に、事務所を借りるときに、会社(特に経営者)が注意すべきポイントを解説します。
ここまでは、事務所を借りる費用面を中心に解説しましたが、オフィス利用だと、費用のみならず注意すべきポイントは多いもの。自社の事業にふさわしい物件でないと、事務所選びの失敗がビジネス上のリスクにつながります。注意点を把握し、事業計画に支障のないようにしてください。
自社の事業に合った立地を選ぶ
事業に最適な立地こそ、成功の鍵といっても過言ではありません。
まず、競合他社の少ないエリアに事務所を定めるのが定石です。ただ、ベンチャー、スタートアップの場合、同業の多い地域でコミュニティを形成するほうが成長を促進できるメリットもあります。エリアを決めたら、次の観点から具体的に検討を進めてください。
- 最寄り駅の乗降客数
- 最寄り駅からの徒歩距離
- 大通りに面しているかどうか
- 路面か、空中階か
- 戸建てか、テナントか
- ビルの規模、他の入居テナントの種類など
いずれも、自社の事業の性質、顧客ニーズを基準に考えましょう。
予算の範囲内で選ぶため、優先順位をつけて取捨選択すべきです。一等地ほど高い信用性をアピールできる一方、賃料は自ずと高くなります。他に必要な費用を捻出できず、事業に影響が及ぶのを避けるには、適正な賃料を知る必要があります。
必要十分な広さの事務所を選ぶ
立地のみならず、事務所の広さもポイントです。広すぎる事務所だと、使っていないスペース分の賃料が無駄になりますが、狭すぎると作業効率が落ちてしまいます。将来の拡大の可能性も踏まえて判断しなければなりません。何度も移転をすると、引っ越しの回数だけ初期費用や内装費がかかり、かえって損してしまいます。
必要十分な広さの事務所を選ぶには、従業員数、デスクやOA機器の数などをもとに、図面を作成しましょう。今後雇用する予定があるなら、事業計画と合わせて検討するようにしてください。
内見してよく検討する
条件に見合った物件が見つかったら、必ず内覧し、現地を確認しましょう。図面上では発見できない大きなトラブルが見つかることもあります。物件によってケースバイケースですが、内覧の際にチェックすべきポイントは、例えば次の点です。
- エントランス
印象や雰囲気が自社のイメージに合うか、管理が不十分ではないか、汚くはないか - オフィス室内
照明は十分か、空調は適切か、柱の位置は内装がしやすいか、高額の内装費がかからないか、使用可能な電力量が足りているか - 共用部分
水回りが綺麗か、他のテナントのマナーが良いか - 周辺の環境
ランチ場所があるか、コンビニや銀行、郵便局が近くにあるか、ネット回線が利用可能か
以上のことは、事業の遂行を阻害するおそれがあり、必ず契約前に確認すべきです。自社の事業に沿って、オフィス利用を開始した後でどのような支障が生じるのか、想像しながら確認を進めるのが大切です。
そもそも事務所を借りる必要がある?
最後に、事務所を借りる必要があるか、検討しましょう。自社の事業に見合った場所でなければ、コストを掛けすぎてビジネスの採算が合わなくなるおそれがあります。
起業直後は、どこで働くか、ある程度自由に決められます。ベンチャー企業の多くは、事務所を借りて、オフィスで働くことを選ぶでしょうが、現代では、必ずしもオフィスは必須ではなく、自宅で起業して、SOHO利用する手もあります。自宅で起業するのには次のメリットがあります。
- 通勤時間、交通費が不要
- オフィスにかかる賃料が不要
- 家賃・光熱費の一部を経費にできる
- 生活の隙間時間を仕事に充てられる
初期費用を押さえるのは、起業成功の大切なポイントであり、オフィスにかける費用も少ないに越したことはありません。
一方、生活と仕事を区分できず、モチベーション維持が難しかったり、家族がいる場合に自宅で仕事がしづらかったりといった点がデメリットです。そもそも法人登記が不可でSOHO利用が許されなかったり、騒音問題や近隣トラブルの原因となったりする弊害もあります。住居として借りたのに、目的外の利用が発覚すると、即座に退去させられるリスクもあります。
まとめ
今回は、オフィス賃貸で、気をつけるべきポイントを解説しました。
起業直後こそ、事務所を借りるときには注意を要します。初めての経験で、オフィス賃貸特有のルールが不安なときは、弁護士のアドバイスを受けて進めるのが有益です。
- 事務所を借りるとき、法人契約であるオフィス契約に特有の流れを知っておく
- 事務所を借りるときにかかる多様な費用を知り、その費用ごとに減額交渉をする
- 自社のビジネスに合ったオフィスか、そもそも事務所が必要なのかを検討する
\お気軽に問い合わせください/