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社員が拒否しても休職命令・受診命令を強制できますか?

私傷病休職制度を整備している会社において、労働者の疾病の程度、回復可能性や会社の状況などを踏まえて、健康状態の悪化してしまった社員を休職とするかどうかを検討することとなります。

しかし、社員の中には、自分の健康状態を過信していたり、「休職となると、昇進に悪影響なのではないか。」と不安視していたりといった理由で、「休職をしたくない。」「働き続けたい。」と希望する人もいます。

社員が、就労の継続を希望したとき、休職命令や、医師への受診命令を、会社は強制することができるのでしょうか。

そこで今回は、私傷病休職扱いとなることを希望しない社員、拒否する社員に対する、会社側(使用者側)の適切な対応について、弁護士が解説します。

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労働者が休職命令を拒否するケースとは?

労働者の意に反して、会社が休職命令をしなければならないケースとは、すなわち、労働者が休職命令を拒否しているケースです。では、労働者が、休職命令を拒否するケースとはどのような場合でしょうか。

その前提として、「なぜ、社員が休職命令を拒否するのか?」という理由を理解して頂く必要があります。そこで、労働者が休職命令を受けるときのデメリット、リスクなどについて、弁護士が解説します。

解雇に向かう道だから

休職制度は、「解雇の猶予」という意味があります。本来であれば、私傷病によって仕事をすることができない場合、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であれば、解雇されることとなります。

しかし、長期勤続の功労がある場合には、これまでの功績を加味し、一定期間解雇を猶予し、治療に専念してもらう意味を持つのが、休職制度です。

とはいえ、休職制度が「解雇の猶予」だからといって、解雇されないことを意味するわけではありません。むしろ、休職命令を受けることは、解雇の道へ一歩近づくことを意味します。このようなイメージが強いことが、労働者が休職命令を拒否する1つ目の理由です。

将来の昇給・昇進に影響するから

「休職をすると、経歴にキズが付くのではないか。」というイメージを持っている社員が多くいます。

休職は、決して、労働者側の非を責めるための制度ではありませんが、休職期間の間、仕事を離れることは事実であり、昇給・昇進が同期より遅れるなど、事実上の影響があることは否めません。

とはいえ、新卒から定年に至るまでの長期雇用を前提として、勤続年数に応じて一律に給与が上がっていく、という長期雇用・年功序列の慣行は、崩壊に向かっています。休職をしたことだけで、必ずしも将来の昇給、昇進が絶望的なわけではありません。

このことが、労働者が休職命令を拒否する理由の2つ目です。

職場からの長期離脱となるから

休職命令を、労働者が拒否する理由の3つ目は、職場からの長期離脱そのものにあるのではないでしょうか。

長期雇用慣行がなくなり、労働者個人の評価によって給与が決まることとなると、個人のスキルに対する評価が、昇進・昇格に影響することになります。

職場を長期に離れることによって、業務遂行能力が低下したり、新しい技術、知識のキャッチアップが遅れたりといった理由によって評価が下がることがあります。

長期に職場を離脱している期間について勤続年数に算入されないことによって、将来の昇給、生涯賃金や退職金にも影響します。

労働者の意に反する休職命令ができる?

以上の通り、休職命令は本来「解雇猶予の措置」という労働者にとってメリットのある制度ではあり、労働者の非を責める制度ではないものの、実際には事実上のデメリットが多く、労働者から拒否されることがあることを解説しました。

しかし、休職命令は、「業務命令」の一種であることから、原則として、労働者が拒否をしたとしても会社が一方的に命令する権利があります。

就業規則にあらかじめ規定する

休職命令や、医師への受診命令は、業務命令の一種であり、就業規則に定められていなくても、会社側(使用者側)が本来的に有している権利です。

しかし、「どのような場合に」「何か月間の休職命令をすることができるのか」「命令に違反した場合にどのような制裁があるのか」といったことは、就業規則にルールを細かく定めておかなければ、労働契約(雇用契約)の内容とすることができません。

したがって、まずは休職命令、医師への受診命令をすることができる権利と、これに従わなければならない社員の義務について、就業規則にあらかじめ規定しておきましょう。

欠勤・勤怠不良の原因を見極める

労働者が、欠勤・遅刻などの勤怠不良を繰り返すとき、正当な理由がなければ、懲戒処分、普通解雇などの処分を下すことが一般的です。

しかし一方で、傷病による欠勤、勤怠不良の場合には、懲戒解雇・普通解雇などの処分とすることは妥当ではなく、休職命令を下すかどうかを決定することとなります。

そのため、労働者の心身に異常があると考えられるときは、まずは、これに配慮する義務を履行するため、健康状態を把握しなければなりません。健康状態の悪化を見過ごして行われた懲戒解雇・普通解雇は、無効となる可能性があるからです。

労働者が、自身が病気であることに気づいている場合はともかく、特に精神的な疾患(メンタルヘルス)の場合には、労働者自身は病気であることに気づいていないおそれがあります。会社が異変を早期に察知し、医師への受診命令を下すことが必要となります。

注意ポイント

会社が何度医師への受診命令を下してもこれに従わず、勤怠不良のまま就労を続ける社員に対する対処法は、とても難しい問題です。

会社側から見て、疾患にかかっていることが明らかであれば、医師への受診を経ずに休職命令とすることもやむを得ません。また、疾患にかかっていることが明らかとまではいえず、正当な理由なく欠勤を繰り返し、医師への受診命令も拒否し続ける社員に対しては、有効に解雇をすることが可能なケースもあります。

軽易な業務への就労を検討する

労働者の意に反する休職命令について、不合理であるとして労働者側が争った裁判例に、片山組事件(最高裁平成10年4月9日判決)があります。

この裁判例では、職務を限定せずに採用された労働者について、現在の業務の履行が疾病などによって困難な場合であっても、代替労務への就労が可能かどうかを検討しなければ、休職命令が不合理となる場合があるとされています。

なお、職務を限定して雇用されている労働者であっても、経緯な業務への就労が可能かどうかを検討すべきであって、安易な休職命令には慎重にならなければなりません。

主治医や産業医への受診を命じ、医師の意見にしたがって次のような代替手段の検討も可能です。

  • 時差出勤
  • 労働時間短縮・残業禁止
  • 有給休暇の活用
  • 業務軽減・業務変更

この考え方は、「休職開始時」だけでなく「復職時」にも当てはまります。つまり、元の業務に復職できなかったとしても経緯な業務への就労を検討すべきであり、安易な解雇(もしくは当然退職扱い)には慎重になるべきということです。

労働者・医師と協議する

適切な休職命令の活用のためには、労働者とのコミュニケーションはもちろん、医師との協議も重要となります。このとき、労働者の選んだ主治医だけでなく、会社の選んだ医師(産業医など)も交えて意見を聞く必要があります。

そのため、労働者の健康状態を正確に把握するために、会社が労働者に対して、会社の選定した医師の診断を受けるよう命じる権利があることを、休職命令と合わせて就業規則にあらかじめ規定しておかなければなりません。

なお、医師への受診命令は、就業規則にその定めがなくても、客観的な合理性が認められれば、会社の安全配慮義務履行の手段として許されるものとされています(空港グランドサービス・日航事件:東京地裁平成3年4月22日判決)。

会社には、労働者を健康で安全に就労させる義務がありますが、この義務を履行するためには、労働者の健康状態、精神状態を正確に把握する必要があるからです。

休職制度への労働者の理解を求める

さきほど解説した通り、労働者側で休職命令を拒否したがる人がいるとしたら、そこには、「休職制度の対象となると、労働者にとって損失がある。」という思いが根底にあります。

これは、裏を返せば、「休職命令を口実に、会社を辞めさせようとしているのではないか。」という会社に対する不信感とも言い換えられます。

いち早く医師の正しい診断を受けさせて、病気の状態についての正しい認識を持たせるとともに、休職制度がどのような制度であるか、制度趣旨や目的を、労働者に正しく理解してもらうことが大切です。

そのためには、会社側(使用者側)でも、実質的に有効な復職支援プランを示し、将来の計画を万全にすることが、休職命令にこころよく応じてもらい、安心して休んでもらう助けになります。

休職期間中に治癒する可能性がない場合は?

私傷病休職制度が、就業規則などに制度として規定されていた場合であっても、その労働者の疾病の程度が、休職期間中では回復する可能性がなかった場合には、会社はどのように対応したらよいのでしょうか。

一般的な私傷病休職制度は、「何日間休職することができるか」は、これまでの勤続年数によって比例的に決められているため、勤続年数が短い場合には休職可能期間も短く、期間中の治癒が困難な場合もあります。

「休職期間中に、賃金を支払うか、もしくは無給か」は、会社が決めることができますが、休職期間中の賃金を補償している場合に、治癒の見込みがないと会社にとって大きな負担となることから、休職制度を利用せずただちに労働契約(雇用契約)を解消することを認めた裁判例があります(東京地裁平成14年4月24日判決、東京地裁平成18年2月6日判決)。

ただし、いずれも、脳梗塞や高次脳機能障害など、治癒の可能性が低い事案であって、一般的に「治癒しない可能性があれば、休職させずに解雇してよい」というわけではありません。

また、回復の見込みがないことが明らかであっても、休職制度を利用せずに解雇する場合には、そのような取扱いについて、就業規則に定め、労働者に事前に周知しておく必要があります。

「人事労務」は、弁護士にお任せください!

今回は、社員側から拒否されがちな、休職命令、医師への受診命令について、会社側(使用者側)が強制的に命令できるかどうかについて、弁護士が解説しました。

休職命令、医師への受診命令はいずれも、労働契約(雇用契約)に付随する業務命令の一種です。会社が労働者に対して負う安全配慮義務の一環として行うことができます。

しかし、休職命令、医師への受診命令を拒否する労働者に対して、会社が適切に対応するためには、事前の就業規則の準備をはじめ、労働法に関する知識が必須となります。

休職命令などの業務命令を拒否する労働者への対応にお悩みの会社は、ぜひ一度、人事労務に詳しい弁護士にご相談ください。

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